第165話 家族の触れ合い…… そして……
シリウス・アダマストとして、一つのけじめをつけたシリウス。
それはどこか憑き物の一つが落ちたかの様に、少しすっきりした表情を浮かべる。
それを見てアルテミスもどこか安堵したかの様な表情である……
「わかったよアルテミス! この件についてはこれで終いだ!」
「ええ。そうして下さい」
「…… シリウス…… こちらへ……」
「? ああ……」
シリウスを自身の前まで招き入れた彼女は、シリウスの頬をその両手で包み込む様に触れる。
「もっとよく顔を見せて下さい」
「! おいおい! やめろって! こんなとこで!」
「ふふ…… いいじゃないですか」
成長した我が子も同然の彼を前にして、今まで押さえつけていた想いが溢れてしまったアルテミス……
せめて今だけは…… 僅かな…… そして最期となるであろうこの一時だけは、元女神と総司令、敵同士という互いの立場を忘れて、何も考えずにただの親子として触れ合いたい……
自身の感情に素直に従うアルテミス……
対してシリウスの方は、いきなりの不意打ちもあってか照れ臭そうではあるがそれでも、この想いはアルテミスと同じものであった。
「本当に…… あの
「顔は黒崎だからあの時と全然ちげえけどな」
「根幹の心…… 貴方という魂の本質は同じです。 私にとってはどちらも貴方ですよ」
「アルテミス……」
「ふふ、やはり子の温もりはいいものですね」
「もう大人だけどな」
「親にとって子はいくつになっても子なのですよ」
「僅かな間しか貴方と触れ合えなかった私が親と称する資格があるのかわかりませんが、せめて今だけは私も
「出会い、一緒にいた時間の長さなんて関係ねえ…… 大事なのは心の繋がりだ」
「家族にだって色々な形がある…… 俺に言わせりゃ血の繋がりなんかも絶対なんかじゃねえ……」
「ましてや親と子を名乗るのに資格なんて必要ねえし、互いが納得してるなら我儘でもなんでもねえよ」
「! ふふ、そうですね」
「そう言ってもらえると助かります」
その言葉にアルテミスも自身の心が救われたかの様な気持ちになる。
そしてシリウスはそんなアルテミスを優しく抱きしめる――
「! やれやれ、困った子ですね。 私の血であなたの服が無駄に血塗れになりますよ」
「構わねえよ。 無駄でもねえ…… なんて事ない『ただの親子の抱擁』だ」
「それにどうせ『この後』汚れるしな」
「…… それもそうですね」
アルテミスは優しくシリウスの背中に右手をまわし、二回程手で彼を
「そういえば…… どうやらレオンとは会えなかったみたいですね」
「! ああ、割と早い段階でリーズとぶつかったみたいで俺は別ルートから来たしな」
「つかあいつと鉢合わせしてたら、俺なんかじゃここに辿り着けてた自信ねえよ!」
「まあ、でも…… それでも…… 会ってみたかったがな……」
「多分会えると思いますよ…… どういう状況かは、いまいちよくわかりませんが彼の気配は完全には消えてはいない」
「そして剣神と一緒にこちらに向かって、すぐ近くまで来ているみたいですしね」
「ああ、やっぱりそうか…… 何となくそんな感じはしてたが……」
「流石! 愛し合ってる仲は違うねえ♪ 見事なまでに通じ合ってる」
「少しは進展したのかよ?」
「マセた事を言わないでください。 子供のくせに」
「いや、もう大人だから!」
「息子としては、二人の恋路がちゃんと成就してくれてるかは気になるんだよ!」
「それに関しては私も気になるな」
「アルセルシアまで!」
「それ! 私も混ぜろ~~~!」
ここである程度傷が塞がったアルセルシアが二人に突っ込みながら豪快に抱きしめる!
突然のタックルに思わずバランスを崩し倒れそうになるアルテミスとシリウス。
ついでに勢い余ってアルセルシアの頭がアルテミスの頭にぶつかってしまう。
「
「固いことは言いっこなしだ! それに二人だけでずるいぞ!」
「姉妹の抱擁も大事なものだぞ! 姉者!」
「剣での語らいもいいが、もっと妹をかまえ! 私の事も抱きしめろ!」
「! ふふ…… それもそうですね…… 失礼しました。 アルセルシア」
アルセルシアも加わり三人で抱きしめ合う面々。
三人共、とても良い表情をしている――
そしてそのまま先程の話を続行するアルセルシア。
「ふふ。 それはそうとシリウスが気になるのも無理はない」
「なにせ二人共堅物だし、特に姉者はクソ真面目で奥手だし、主と従者の関係もあってか我等といた時は全っっっ然! 進展しなかったからな!」
「バレバレな両片思いを、超〜〜!! スローペースな進展速度で見せつけられた挙句、終いには勝手に二人揃っていなくなられたときたもんだ!」
「視聴者としては、まあ~~!! ホントにがっかりだったよ! 毎週楽しみに読んでた週刊誌の中のお気に入りの作品をいきなり打ち切りにさせられた気分だったよ!」
「
「はは! で? 実際どうなんだよ? 割とマジで俺もそっち方面は気にしてたんだよ」
「二人にこんな責任負わせちまったし、こんな事になっちまったから、せめてそこらへん位は好きにやっててほしかったなって……」
「で?」
「で?」
「で? じゃありません! 言いませんよ! 何で言わなきゃいけないんですか!」
「ケチくせえなあ!」
「だがレオンはガタイが良いからなあ♪ 奴の逞しい身体に抱き寄せられたら、どんな女でも! 堅物な姉者でも! 癒されるんだろうなあ……」
「それは…… でも筋肉質過ぎるのもゴツゴツしすぎて固いし…… まあ、それはそれで悪くないんですけど…… ハッ!!」
「…… イメージですよ! イメージ! あくまで世間一般的な!」
「女神を辞めたとはいえ騎士としての誇りは失っていませんし、そんな事してる場合じゃありませんし、ましてや主と従者の関係でそんなふしだらな!!! ――」
焦っているのか、かなり早口になっているアルテミス…… ついでにちょっと顔も赤くなっている。
その極めてレアなシーンを見逃さずにしっかりと楽しんだ挙句、彼女をイジるシリウスとアルセルシア。
「そうかそうか♪ イメージねえ~♪ 騎士様だもんな~♪」
「うんうん♪ そうだよなあ~♪ 主と従者だもんな~♪ そりゃそうだよな~♪」
こりゃ、やる事ちゃんとやってんな……
いや、マジで安心したわ!
シリウスとアルセルシア、二人して同じ様な答えを導き出す……
出すのだが……
カチン……
気のせいか、何か不吉な音が聞こえた様な気がしなくもないシリウスとアルセルシア……
そして突如アルテミスがゆっくりと抱擁から抜け出し、二人の正面に立つ。
「?」
「?」
そしてアルテミスが右手の手刀を以って右に大きく! 超スピードでそれを振り切る!
そして二人の首目掛けて強烈な剣圧とも呼べる真空の刃が襲い掛かる!
「!!! うおっ!!!」
「!!!っ っぶねえ!!」
間一髪! 咄嗟にしゃがみ込む事で難を逃れた二人!
その鋭い手刀からくる剣圧は、二人の後ろにある崩れた柱の瓦礫の一部を真っ二つにする程であった!
顔が真っ青になるシリウスとアルセルシア。
っ チっ!
そして思わず舌打ちをするアルテミス。
「アァ、スミマセン。 ウッカリ手がスベッテシマイマシタ……」
「嘘つけ!! 何だその白々しいカタコトな喋り方はっ!!」
「そんな手の滑り方があってたまるか!! ガチで死ぬかと思ったわ! 清々しい位に右手の手刀を振り切ってんじゃねえ!!!」
「その後舌打ちしたのも、しっかり聞こえてたからな!!」
「全くだ!! マジでビビったぞ! 姉者! 流石にここまで来てこんなアホな形で死んでは死んでも死に切れん!!!」
「つか姉者が舌打ちしたの初めて聞いたぞ! そんなキャラだったか!?」
「幻聴じゃないですか?」
「それにそれ以上、生温かい目をしつつ冷やかしてくると、
「
「つか斬りかかってから言うなよ! マジでビビったわ!」
「ったく! 相変わらず姉者は冗談が通じないなあ!」
「余計なお世話です。 二人共! そういう所は直した方がいいですよ!」
「お前こそ! 口より先に手を出すその癖、まだ直ってなかったのかよ!」
「手どころか剣圧がとんできたけどな! しかも首に!!」
「マジでやめて! 洒落になってねえから!!」
あまりの暴挙に堪らず大声で訴えるシリウスとアルセルシア!
もっとも、アルテミスは聞く耳持たない姿勢であったが……
「というか姉者は昔、我等三姉妹の中でも、最も騎士道を重んじると共に、女神の名に恥じない慈愛の持ち主だとか言われて、その容姿も相まって慈愛の象徴的なイメージが、前大戦前とかの頃に、周りに浸透してたんだが……」
「知ってたか、シリウス…… 実は姉者が我等の中で、一番短気で凶暴なんだ!」
「ああ、知ってる知ってる! 昔、俺とレオンがちょっと揶揄ったりしようもんなら、その後に稽古と称して、よくボコボコにされてたからな!」
「そうそう! そういうとこあるよなあ! 姉者は!」
「あるある! 全く困ったもんだぜ!」
「煩いですよ! 二人共! 全部自業自得でしょ!」
「ふふ……」
「はは……」
「ふふ……」
「ふははははははは!!!!」
「はははははははは!!!!」
「ふふ…… はははは!!!」
「やれやれ…… なんだが和み過ぎてしまったな」
「まあ、久しぶりだしな…… 皆にはワリ―けど今だけは…… それに……」
「ええ…… どうやら…… ぐっ!!! はあ…… 時間の様ですね……」
「やはり名残惜しいですね…… 正直いつまでも語らっていたい気分ではありますが、そういうわけにもいきません」
「姉者……」
「アルテミス……」
全てを忘れてのあまりにも短い家族の触れ合い……
楽しいひと時…… だがそれも終わりを迎えようとしていた……
三人の表情、そして気持ちが覚悟を迎えるものへ切り替わっていく……
「私を乗り越えなければ話にもなりませんでしたが、見事アルセルシアが私という壁を超えてくれました」
「そして私の力がほとんど消えてしまった以上、もうこれ以上『奴』を押さえつけておく事は不可能です」
「二人共…… 覚悟はいいですね?」
強く…… そして厳しい眼差しを二人に向けて問うアルテミス――
「ああ…… 勿論だ。 姉者」
「任せときな…… 此度の事件を解決するまでが解決屋 黒崎修二としての依頼でもあるしな」
「ふふ。 頼もしいですね…… 二人共、良い覚悟です」
二人の覚悟を見届け、このすぐ後に起こる戦いに備え、一旦距離をとる為に二人に背を向け歩いていくアルテミス――
そんなアルテミスに黒崎が訴える!
「アルテミス!」
「!?」
黒崎の声に歩を止めるアルテミス。
「これまで色々…… 本当に色々あったが……」
「それでも俺はっ! あんたとレオンに出会えて! 本当に良かったと思ってる!!」
「!!」
「アタシもだ! いや! アタシらだけではない! 父上もイステリアも当然! 同じ気持ちの筈だ!!」
「レオンと共に過ごした事も含めて…… そして!」
「姉者が私達の家族で本当に良かった!!」
「!!!っ 二人共……」
二人の方へと身体を向き直すアルテミス。
「全く…… あまり泣かせる様な事を言わないで下さい…… ですが――」
「私も同じ気持ちです」
「貴方達に出会えて…… 本当に良かった……」
「後の事は託します!」
「身体は私でも…… 一切の情けを捨てなさい! さもなくば…… 世界は確実に! 滅んでしまいますよ!」
「アルセルシア! 奴の強さは前大戦の時とは比べ物にならないでしょう!」
「私が母体になってしまっている以上! 奴の単純なパワーやスピード! 火力は恐らく貴方達の想像を遥かに超えています!」
「仲間達の想いを背負い! 道を繋ぎ! ここまで来たのでしょう!」
「ならば…… 見事乗り越えてみなさい!」
「おう!!」
「おう!!」
後は任せろと言わんばかりに力強く返事をするシリウスとアルセルシア!
それを見て全てを委ね、二人を、そして二人の仲間達を信じるアルテミス!
そして……
「ぐっ!!!! ぐぅぅっ! アアアアアアアアアア!!!!!!!」
アルテミスの身体から、どす黒い瘴気が激しく噴き出し、そして彼女の身体を覆い、蝕んでいく!
そう……
遂に『奴』が!! その姿を現す!!
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