第164話 親と子の対話……
「本当に…… すまねえ…… 俺が余計な事しちまったばっかりに……」
「俺が余計な事をしなけりゃあ…… あんたも! レオンも! ここまで苦しまなかった筈だ!」
「あの時、俺がガキじゃなかったら! あんたの力になれる位の強さがあの時の俺にあったなら! こんな事にはならなかった!」
「あんたらだけじゃねえ! 結果としてその事で世界そのものが今危機に瀕している!」
「謝ってすむ問題じゃねえのはわかってる! それでも!」
「すまなかった…… 本当に……」
「シリウス……」
まさかこいつがここまで気にしていたとは……
いや、無理もないか…… 誰もそんな事は微塵も思っていない筈だが『結果だけ』を見れば『シリウスのせい』でこの事態を招く一端にもなってしまっているのだから……
別にお前のせいではない…… あの様な存在が生まれてしまった事に前大戦が近付くまで気付かなかった……
そしてその結果、あの大戦を招いてしまった世界の管理者たる、我等女神と治安部の
当時子供だったお前に、その様な責は一切無いというのに……
それでも…… これがこいつなりのけじめというわけか……
さて、どうする…… 姉者……
事の成り行きを見守ろうとするアルセルシア……
そしてアルテミスが、その口を開く……
「ふう…… やれやれ…… 何を言うのかと思えば……」
「頭を上げなさい。 シリウス……」
「……」
「上げなさい!」
「!」
ここでようやく頭を上げるシリウス……
そんな彼に対しアルテミスはというと……
「何を勘違いしているのです?」
「…… へ?」
何を一人勝手に妄想して、それを爆発させてるんだと言わんばかりに、呆れ返ったかの様にジト目でシリウスに言葉を投げ返すアルテミス。
シリウスも流石に予想外の返しに…… というより彼女の見せる、予想外に引かれているその表情に困惑を隠せないでいた。
そんな彼の様子を無視してアルテミスは続ける――
「貴方のせいで私とレオンが? しかもそれが原因で世界が滅びそうになってる?」
「全く…… どんな妄想ですか。 そんなわけないでしょう。 自惚れないで下さい」
「イタイ…… イタイですねぇ! そうやって悲劇のヒーロー気取るのは…… 下界の言葉で…… 何でしたっけ? ああ、そうそう厨二病ってやつですか?」
「転生して一度年齢がリセットされたからといっても、下界の尺度でいえば貴方ももう成人しているでしょうに……」
「だったらそういうのはちょっと…… サムイですね。 正直ドン引きです」
「!? はああああああああああ!!?」
「ぶっ! ぶははははははは!!!!
姉者がっ! 姉者がっ! あの姉者がイタイとかサムイとか! それになんだあの表情! 自分のキャラにない事を必死にやってる! やばい! 笑い過ぎて傷口がっ! やばい! 傷が痛い! 腹も痛い! ひ~! 勘弁してくれ!
堪らず叫ぶシリウスに大爆笑のアルセルシア!
「いやいやいやいや!!!! そんなわけ――」
「黙りなさい。 この厨二病が」
「誰が厨二病だ! 誰がっ!」
「はあ…… いいですか…… まず貴方からいただいたあの御守りですが――」
「あれは確かにそれなりの力を宿していましたが、それでもかつての戦い、その結果に影響を及ぼす程の力等ありませんでしたよ」
「そもそもあの御守りは『災厄』との戦いの途中で壊れてしまいましたから、最後のやりとりでの影響等微塵もありませんよ」
「姉者……」
姉の優しい『嘘』に気付いていたアルセルシアだったが、彼女の意を汲みここは何も言わないでいる事を選ぶ。
「それから自分に力があったらですって?」
「それこそ自惚れないで下さい。 あの時の貴方はまだ年端もいかない子供…… そんな力等、持っていなくて当たり前ですし、寧ろ個人的には心身共に成熟していない子供の貴方があの時点で必要以上の力等、宿していいものとも思いません」
「本来なら貴方達の様な未来ある子供や若者達、そして民衆を守るのはあくまで我等女神や治安部です…… その為に我等の様な大人がいるのですよ」
「私とレオンの結果は、ただ単純に私の力が及ばなかったが故の結果に過ぎません。 つまりは私の責任です」
「断じて! 貴方のせいなんかでは一つも…… いえ、一ミリたりとも! 絶対にありえません!」
「それどころか貴方はあの時ちゃんと『我等と一緒』に戦って、そして一度世界を救ったのですよ」
「力になれなかった? 俺のせい? 馬鹿を言わないで下さい!」
「逆ですよ」
「貴方はこれ以上ない程に力になってくれました」
「貴方のおかげで、あの『災厄』を一時的にでも退ける事ができたのです」
「我等女神や閻魔一族、諜報部でも苦戦していた事件の真相にあなたが知恵を貸してくれて! 力を貸してくれて! 事件の真相に近付いてくれたから! 私達は前大戦を凌げたのですよ」
「貴方も含めた! 皆で! 勝ち取った勝利だったのです」
「逆に言うと、もしあの時、貴方の力がなければ十分に戦力と戦略を準備する事も叶わず一二〇〇年前の時点で我等は世界と共に滅んでいたでしょうね…… 天界も…… そして下界も……」
「あの御守りも…… まさか貴方が私に贈り物をしてくれるなんて…… 正直大変嬉しく思いましたよ……」
「その結果、気持ちが高揚し、寧ろいつもの何十倍もの力を私は発揮する事ができました」
「見当違いな妄想で自分を無駄に責めるより、ちゃんと自分の成し得た事を誇りなさい!」
「アルテミス……」
やれやれ…… 親馬鹿なのは知っていたが、よもやここまで拗らせていようとはな……
まあ、皆で掴んだ勝利というのは本当だがな……
全く…… 本当に大した姉だと思うよ……
悪にこそ堕ちたアラン達だったが、それでも絶対の忠義を姉者に捧げ続けてきた彼等の気持ちも、今ならよくわかる気がする……
きっと彼等を自身の側に引き入れた時も、その罪と一切の責任を自分が引き受けるから思う様にやってみろとでも言ってきたんだろうな……
姉者は私とイステリアの事を自慢の妹と言ってくれたが……
それはこっちの台詞だ――
自慢の…… 世界一の姉だよ―― 姉者は……
感慨深そうにアルテミス、そして黒崎を見つめるアルセルシア――
そして黒崎もまた、アルテミスの気持ちをしっかりと受け止める事とする……
「…… ふう…… わかったよ。 アルテミス……」
「ありがとな……」
「事実を言ったまでです…… 礼など必要ありませんよ」
「そうかよ……」
「そうですよ……」
「はは……」
「ふふ……」
「ははははははははは!!!」
「ふふ…… ふふふふ! はは!!!」
二人して笑い合う黒崎とアルテミス――
黒崎にとっては、けじめと謝罪のつもりの筈が、どうやらアルテミスの方が一枚上手だったみたいで逆に自身が救われてしまった気分になってしまっていた。
いくつかの嘘にも当然気付いている黒崎であったが、ここでそれをつっこむのは、もはや彼女にとって失礼な行為――
黒崎は彼女の優しさを受け入れ、そして前を向く事を選ぶのであった――
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