第163話 決着! 姉妹喧嘩! そして……

 天界最強の女神同士による秘奥の衝突……


 互いの一撃の先は空間をも大きく切り裂き、その巨大な斬撃痕は両者の技の破壊力、その凄まじさを物語っていた――


 普通なら空間が破られてもすぐに閉じるものだが、大きく裂けたその斬り口は、技に込められた強大過ぎる力の残滓でしばらくの間閉じそうにない程であった……


 そして……


 技を繰り出す際に両者が相手に向かって踏み込んだ為、互いの位置が逆転――


 両者は互いに背を向けた状態で立っていた……


 そしてその両者の決着を冷静な眼差しで見届けた黒崎――







 …… 相討ち…… いや……






「ぐっ!!! ぐうううっ!!!」


 アルセルシアの身体が、やや左半身寄りに大きな十字状に切り裂かれ、そこから大量の鮮血が勢いよく飛び散った!


 左目も縦に斬られ、その瞼の上からも激しい出血をこぼすアルセルシア!


 堪らず彼女は膝をつく!


「がはっ!! はあ…… はあ…… 流石は姉者…… 見事な…… 一撃だった……」


「それはこちらの台詞ですよ…… アルセルシア」


「まさかここまでの域にまで到達していたとは……」


「イステリアもそうですが本当に……」


「自慢の妹ですよ…… 貴方達は……」


「この勝負……」


 そう言いかけた次の瞬間!


 ビキッ! ビキビシビシ!


 バキィィィィィィン!


 アルテミスのその身の丈を上回る程の巨大な大剣が真っ二つに砕き折れ、そしてその剣先は地に落ちる!











「貴方の…… 勝ちです!」



 すると今度はアルテミスの左肩の内側から斜めに走る様に、その切り裂かれた身体から鮮血が噴き出す!


「!!!っ ぐっ!!!!!」


「我が神剣をも砕くに至りましたか…… 本当に…… 大したものです…… ぐっ!!」


 ここで流石のアルテミスも、アルセルシア同様に膝をつく!


 妹同様、おびただしい程の出血である!



「はは…… 何とか意地は見せれたか…… そして……」


「ええ…… どうやら『来た』みたいですね」


 そう言って二人の視線の行き着く先――


 そこに立つは黒崎修二であった。


「地に伏したこの様な姿で久々の邂逅を果たすのは、少々気恥ずかしいですね……」


「できればもう少しまともなタイミングで現れてほしかったのですが……」


「いやいや! そこは別に狙って出てきたわけじゃねえから勘弁してくれよ!」


「ふふ…… !! ぐううううう!!!!」


 大量の血を床にぼとぼとと垂らし、痛みに耐えながらも彼の方へと向き、立ち上がるアルテミス!



「お久しぶりです…… シリウス」


「ああ…… お久しぶりだ。 アルテミス……」


 形はどうあれ約一〇〇年…… いや、シリウスにとっては一二〇〇振りとなる二人の邂逅……


 感慨深そうな表情かおで互いを見つめる二人……



「大きくなりましたね、シリウス…… 姿形まで変わっていますが……」


「まあ、それはあんたも絡んでんだろ? それしか考えられねえからな……」


「今、俺がこうしていられんのも、あんたのおかげでもある…… 礼を言うぜ。 アルテミス」


「ふふ…… 礼には及びません……」 


「私はきっかけを作ったに過ぎません…… その後、貴方を想う仲間達、その想いが奇跡を起こし、得られた結果…… それに……」


「子を想うのは親として当然ですよ」


 女神の、そして一人の親の慈愛を感じさせるかの様な笑みをこぼすアルテミス――


「! そうかよ…… それでも……」


「ありがとな…… アルテミス……」


「ふふ…… どういたしまして」



「ふっ…… 全くこのツンデレ親馬鹿が……」


「何か言いましたか? アルセルシア……」


「おっと! 怖い怖い…… 何でもないよ、姉者!」


「全く……」


 シリウスとの再会に嬉しさを隠しきれてない姉を少しイジりつつ、楽な姿勢に座り込むアルセルシア。


 彼女もまた、二人が再会できた事が嬉しそうであった。


 そして……



「それで…… 今は黒崎修二…… でしたか」


「そちらの名で呼んだ方がいいのですか?」


「いや、ここまで来たらどっちでも構わねえよ…… どっちの俺もあんたに用があったからな」


「ほう……」


「アルセルシアからの依頼…… 解決屋 黒崎修二としてシリウス・アダマストの想いをあんたに届け! 一発ブチかましてこい!」


「そういう依頼内容だったからな……」


「なるほど…… そういう事でしたか」


「ですがその前に…… アルセルシア! こちらには気をつかわず結構です。 私と『その後』の戦いに備えてきたのでしょう。 『今のうちに』に自身の回復を急ぎなさい!」


「! 姉者…… ああ…… そう言ってくれるなら、お言葉に甘えさせてもらう」


 姉の言葉に甘え、事前に用意していた女神…… 自分用の小瓶に入った回復薬をPSリングから取り出すアルセルシア。


「やはり持ってきていましたか…… 世界の神たる我等が父が、その力を霊薬へと具現化した神霊薬――」


「効果が強すぎる故に女神以外が服用すると命どころか魂の消滅も免れないという……」


「何だそれ!? そんな物騒なもんがあったのかよ!?」


「ああ、私とイステリアに一つずつ…… 父上の体調に影響が出ない範囲での精一杯だ。 流石にこれ以上は無理をさせられん!」


「そして父上がこれを作られるのも、今回のが最後となるだろうと……」


「そんなに酷いのか…… 最高神おやっさんの身体……」


「父上も、もう年だからな…… 無理しないでくれと言ったんだが半ば強引に渡された…… ったく! 父上もああ見えて言い出したら聞かないからな!」


「イステリアなんか泣きそうになってたぞ!」


「おやっさんもああ見えて、実はこうと決めたら頑固だからなあ」


「そう! そうなんだよ! 少しはこっちの心配もわかってほしいもんなんだが……」


「まあ、父上も貴方達が心配で仕方ないのでしょう。 その気持ち、覚悟、わかって御上げなさい」


「ああ、それはわかってるよ。 姉者」


 そう言って神霊薬を一気に飲み干すアルセルシア……


 だったのだが……



「! 驚きましたね…… これでも全快には程遠いなんて……」


「って、他人事に言うなよ! そもそも姉者の聖なる十字架グランドクロスの威力がイカレ過ぎなんだよ! 更に磨きがかかってたしな!」


「アタシじゃなきゃ、魂魄ごと即死だぞ!」


「まあ、貴方の一撃はそれ以上だったので、ここはおあいこという事で」


「いや、おあいこって!」


「まあ、貴方ならじっとしてれば数分の間でもある程度は回復するでしょう。 今のうちに休んでおきなさい」


「ああ、そうさせてもらうよ」


「ったく、わかっちゃいたがそれでもどっちも規格外すぎんだろ!」


 身体を休めるアルセルシア……


 そして、その横で辺りを見渡す黒崎……


「しっかし…… 派手にやったもんだよなあ…… 空間が原形留めてねえじゃねえか」



 二人の女神が闘う前までここはアルテミスが外界に影響が出ない…… というか自分達が衝突する際の力の余波で外界が消し飛ばない様に、事前にアルテミスが用意していた異空間……


 漆黒の、それでいてどこまでも続いているかの様な中世の宮殿を彷彿とさせる広大な空間であったが、流石に二人の女神の力の衝突には耐えきれず、その姿はほぼ全壊……


 外界に野晒し状態といってもいい状態にまで陥っていた……

 


「まあ、世界最強の女神同士がガチでぶつかり合えば、そりゃこうなるか…… 下手すりゃ世界ごと消し飛ばしかねないからな」


「最後の一撃にしても、正直こっちが腰抜かしそうになったし…… 勘弁してくれって感じだよ! 本当に!」


「ふふ…… そう言う貴方も…… あの刹那の一撃が見えていただけでも大したものですよ」


「ああ…… どうやらちゃんと捉えていたみたいだったしな…… 恐らくこの大戦で、そこら中に発生した闘気や霊力の大きな揺れに、シリウスだった頃の力が更に加速してもどってきたみたいだな」


「ああ…… ちと複雑な気分だがな…… まあ、それでも黒崎の状態じゃあまだ完全ではないけどな……」


「ただ黒崎になってからの経験も、色々な意味で無駄じゃなかったみてーだし、結果的にだが、良い感じで俺にはプラスになってるよ…… まあ、結構しんどい事もあったがな……」


「そうですか……」


「本当に…… 立派になりましたね…… シリウス」


「ああ…… 全くだ」


「へっ…… だとしたら、あんたら含む、こんな俺に執拗に絡んできてくれた物好きな周りの連中のおかげかね」


「ふふ…… いいじゃないですか」


「ああ…… それも含めて、お前がこれまでに培い、そして育んできた力だ」


「ええ…… むしろ誇りなさい!」


「ああ…… わかってるよ」


「しかし話をもどして悪いが、これから『今以上』に派手な事になるだろうからな…… かといって私も姉者もまた異空間を創れる余裕もないしな」


「確かに…… もう少し、もってほしかったですが…… まあ、後は貴方達でなんとかなさい」


「って、丸投げかよ! 任せるって言われてもなあ…… まあ、イステリアにでも任せるしかないか」


「だな…… 空間を創造できるのは女神かおやっさんしかいねえからな……」


「だがその前に…… シリウス・アダマストとして…… 一つ…… けじめをつけさせてもらうぜ……」


「けじめ?」


「……」


「…… すまなかった! アルテミス!」


「あんたを…… いや、あんたとレオンを縛っちまったのは…… 『俺があの時やった御守り』のせいなんだろ?」


「!」

「!」


 そう言ってアルテミスに頭を下げる黒崎…… いや、シリウス――


 彼女を想っての行動が、あくまで結果的にだが彼女を苦しめ、そして世界の危機を招く結果となってしまった事――


 それをシリウスの頃の記憶を取りもどしてから彼はずっと気にしていたのだ。


 頭を下げたまま微動だにしない黒崎……


 そんな彼を、アルテミスはじっと見据える……




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