第136話 父と子


 辺りの結界や炎が解けていく……


 遂にキース・マドックを打ち破った閻魔大王であったが、気を抜いた途端に突然吐血し、膝を着いてしまう!


「! ごふっ!!」


「大王様!」


「大丈夫ですか!? 大王様!」


 突然の事にエレインを治療中のマクエルも驚く!


「はあ、はあ…… ああ。 大丈夫だ…… 自業自得だからね……」


「まさか…… 先程から使っていた能力の代償ですか?」


「恐らく…… 『大王の印』といってね…… ざっくり言うと、当代に代々継がされる能力の一種で、極めれば女神以上の力を引き出せる反面、使い方を誤ったり負の感情に支配されたりすると自分に跳ね返ってくるのだよ」


「五感のどれかを失ったり…… 最悪の場合…… その場で命そのものを持っていかれる」


「! なっ!!」


「一応、超極秘事項トップシークレットだから内密に頼むよ」


「ええ。 それはわかりましたが…… 本当に大丈夫なんですか?」


「…… とりあえず…… 五感は無事みたいだな…… 寿命も…… 持ってかれたかどうかなんて流石によくわからないが、特に何か変わった様子は感じ取れない」


「単純に能力を最大まで解放して長時間使い続けた事による身体的な負担だと思う。 問題ない」


「そうですか……」


「それよりエレイン彼女は!?」


 自身の口を拭いながらエレインの安否を確認する閻魔大王。


「危険な状態です…… なにせあの状態であんな無茶をしたのですから……」


「! ならば僕も手伝おう!」


「その必要はありません」


「!」


 ここで大王を制止する声と共に、突如として空間にゲートが現れる!


 そこに現れるは女神イステリア、そして最高神であった。


「イステリア様! それに……」


「最高神様!」


「大王。 君はまだやるべき事がある…… 気持ちはわかるが、これ以上の力の消耗は避けるべきだ」


「ここは私に任せてもらおう」


「! 最高神様自ら!?」


「父上! ご無理をなさらず! ここは私が!」


「イステリア…… お前も力の使いどころは見極めたまえ…… お前にはお前にしかできない事をやってほしい…… 各々がそう考えて行動しないと、この戦には勝てん」


「それに…… こんな事しか今の私にはできないからね」


「大丈夫…… 無理はしない。 彼女が危険な域を脱出するまで回復させたら、後はマクエル君達に任せるよ」


 実際問題、最高神の言う通りであった……


 リーズレットが雷帝レオンを、大王がキースを撃退! 圧倒的に兵力の勝る敵軍を天界各地の戦士達が善戦している!


 一見順調にも見えなくもないが、それでも戦況はかなり天界側が厳しい状況に追い込まれているからである……


 元々敵軍との兵力差は天界サイドの六倍…… 


 解決屋チームと女神アルセルシアの活躍で大幅に敵の無限生成を減らす事に成功しているが、それでもこの数の不利は想像以上に堪えるものであった。


 一騎当千の猛者達と治療士達との連携により、今のところ被害は必要最小限に抑える事に成功しているものの、ここから先はさらに厳しくなっていくからだ!


 本来女神アルセルシアはリーズレットと閻魔大王との天界三強でアルテミスとレオン、そして諸悪の根源たる『災厄』と対峙する予定であった。


 まあ、保険として、解決屋チームもそちらに向かってはいるのだが、どう動くかは彼らに一任していて読み切れないところがあるので、ここでは表面上の戦力計算には入れないでおく。


 リーズレットはレオンとぶつかり、共に霊力が感じとれなくなり、最悪の場合、相討ちの可能性があると周りは認識(実際はリーズレットの勝利なのだが相討ちに等しい程に彼女は消耗している為)している。


 大王もエレインを傷つけられた事によるキースへの怒りで、必要以上のパワーを出してしまい消耗が激しい。


 加えて閻魔の城は、こちらの要である二大指揮官ことエレインとマクエルだが、エレインに到っては命の危険が高い状態、戦線復帰はまず不可能。


 マクエル級の治療士でなければ対処できない程である。


 そしてマクエルは『手段問わずその気になって戦闘のみに専念さえできれば』さらに凄まじい力を発揮できなくもないが、彼はエレイン同様全体の指揮、敵の殲滅と状況を把握しながら味方兵の治療、特に重傷者で彼の腕でなければ命を繋げられない者達の救助等も一手に引き受けるという極めて重要な役割を担っている。


 そんな彼にかかる負担は大きい上に、それら全てを同時にかつ完璧にこなせるのは、彼をおいて他にいない為、代わりがきかない。


 よって彼を城エリアの外や長距離離して他エリアに援軍として向かわせる、戦闘に専念させる事は絶対にできないのである。


 彼が絶妙の立ち位置で周りと連携し、全体の戦況バランスを可能な限りコントロールしているからこそ、ここまで閻魔の城は耐えられていたのだ。


 その彼もエレインの治療に専念する必要がある為、しばらくは戦線復帰は不可能。


 要塞方面も『伝説』こと霧島恭弥、サアラ夫妻を最後の敵兵生成装置に向かわせた為、かなりギリギリの攻防戦を強いられている!


 おまけに敵の主力である『真なる選別者』もまだ残っている状態!


 ここから先は何とかしないとジリ貧である事は明白であった……


 だからこそ、戦力の大きい者は余力の使いどころを見極めなければならないのであった。


 そしてそれは大王も理解していた…… 


 本当なら自分の手で彼女を救いたい!


 だが彼には天界を、世界を守る責任もある……


 ここは最高神の気持ちに甘えるしかなかったのである。



「…… わかりました」


「うむ。 隣、失礼するよ。 マクエル君」


「! はっ! ありがとうございます! お願いします!」


 最高神の手から暖かな光のオーラがマクエルのオーラと重なってエレインを包み始める。



「どうやら片付いた様だな」


「! 先代!」


「父上!」


 ここで正面口が僅かながらに優勢になった為、妻のミリアにそちらの指揮を一旦任せ、こちらに駆けつけてきた先代大王。


「ああ、マクエル。 こちらはいいから彼女に集中してくれ」


「! はい!」


 ゆっくりと息子である当代大王のもとへと歩いていく先代……


「父上……」


 そして彼の前で立ち止まると先代は思いきり息子を殴り飛ばす!


「ぐっ!!!」


「この愚か者があ!!!」


「あれ程の力を解放しおって! 貴様は世界そのものを消滅させるつもりか!」


「何度も言ったはずだ! 己が心を修羅に堕として『印』の能力ちからを行使したらどうなるか!」


「閻魔一族はこの世とあの世を繋ぐ魂の調定者! その使命の重大さを!」


「彼女には悪いがその責務の為には感情を押し殺す…… 最悪! 仲間の命を切り捨てる覚悟も必要になる事だってある!」


「お前のとった行動は閻魔大王失格だ!」


「…… 申し訳ありません。 父上」


「…… 『印』を使った後遺症は?」


「今のところは何も…… 体力は持ってかれ、純粋な反動のダメージはきましたが」


「ふむ…… 『印』の光の色は赤黒く変化はしていたか?」


「? いえ、 良く確かめてはいないですが…… 光の勢いこそバーナーの様な火花を散らしていましたが色の変化は……」 


「そういえば…… 一瞬変わり始めた様な気がしなくもないですが、丁度彼女の声で我に返って気を落ち着けて練り直して…… その時は通常の色だったと思いますが……」


「そうか……」


 心なしかほっとする先代大王。


「どうやら間一髪、命拾いした様だな」


「え?」


「『大王の印』にそれが能力の行使するに値しない心の在り方だと判断されたら、色は赤黒く変化し、その能力の使い手を蝕み始めるという……」


「今の話だと彼女が後少し、割って入ってくるのが遅かったら、下手したらお前はもうここには存在しなかったいなかったかもしれん……」


「彼女にはよく感謝しておく事だな」


「! ええ…… 本当に……」



 …… エレイン…… やはり守られたのは僕の方だったか……


 本当に…… ありがとう……



「……と、ここまでは『先代』から『当代』への説教だ」


「彼女がお前を救ったのと同じ様に、お前もまた彼女を救った」


「『大王』としては失格だが…… 『漢』としてはよくやった……」


「これは『ただの父親』としての独り言だ…… 適当に聞き流せ」


「! 父上……」


「ありがとう…… 父上……」


「ふふ」


「貴方も大概、親馬鹿ですよね。 実は」


 先代の不器用な優しさに笑みをこぼす女神イステリア。


「別に…… ただの独り言ですよ」


「それよりも何故、アルセルシア様達と行動をしていたお前が一人、この城にもどってきた? 状況の説明をしろ!」


「ええ。 ですがその前に…… イステリア様……」


「! そうですね。 少し態勢を立て直してから話をしましょうか」

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