第135話 真名

 閻魔の城 中層屋外エリア――


 遂に閻魔大王がキース・マドックと対峙する!


 巻き込まない様にエレインとマクエルがいる場所に青白い炎を障壁がわりに展開済みの閻魔大王。


 そして彼はゆっくりとキースのもとへと近付いていく。



「裁きの時間…… だと!」


「調子に乗るなよ…… 閻魔大王!」


 先程斬り飛ばされた脚を再生し終えたキース。


 さらに大王がエレインの治療をしていた隙をついて彼の背後、その死角にこっそりと瘴気を飛ばして攻撃の機会を窺う!


 そして大王を攻撃しようとその瘴気は一瞬で! キースのコピー二体分として形成されると同紙に大王の背に向かって攻撃を仕掛ける!



 …… 筈だったが気付いたら大王は剣を抜いた状態でコピー体二人の間を既に駆け抜け、斬撃を放った後であった……


「ぐはあああ!」

「がはあああ!」


「! なっ!」


「無駄だよ」


「僕に騙し討ちの類は通用しない」


 本物の方へと向き直す閻魔大王!


「!!!!」


 くっ! 何て奴だ! 完全に殺気を消した上でコピーを作ったつもりなのに!


 エレイン神速といい、『あの時』の王子が、よもやここまで厄介な存在として成長するとは!


 やはり力をつける前に、どこかで確実に始末するべきだったか!


「! ほう。 君の正体も含めて、まさかとは思っていたが、かつての一連の事件…… 黒幕はやはり君だったか」


「! 心をっ! 大王の『眼』か!」


「手間が省けて丁度いい。 あの時の借りも含めて諸々、今…… この場で返させてもらおう」


「くっ! 調子に乗るなあ!」


 小細工はもう通用しない!


 観念して正面から突進して切りかかるキース!


 彼のナイフが大王の身体に触れようとしたその時!


 キースのナイフとそれを持っている右手が超高熱を帯びている大王の身体によって焼失してしまう!


「ぐああああああ!」


 そのまま大王は左の拳でキースの顔面を殴り、後方の壁まで吹き飛ばす!


「がはあっ!」


「もう少し真面目に闘ってくれないか? この程度では僕の気が収まらない」


「それとも、まさかそれで精一杯かい?」


「くっ!」


 距離をとりながら、なんとか逃げるチャンスを見出そうとするキース!


「誰が逃げる事を許可した?」


「ぎゃあああああああ!」


 キースの両脚を斬り飛ばす大王!


 それはあまりにも速すぎて、もはやひとりでにキースの身体がなくなっていき、その都度キースが自身の身体を再生しているかの様な光景であった!


 だが今回は、ただ単に斬り飛ばしただけでは済ませなかった!


「! 再生できないだと!?」 


 なんと! キースは自身の両脚を再生できないでいた!


「ああ、 ご自慢の再生能力だっけ? そんなもの…… 吹き飛ばした箇所の傷口をついでにエンドレスで燃やし続ければ死ぬまで再生と焼失を繰り返すだけだよ」


災厄オリジナルならともかく、劣化コピー体の君ならこれで十分だよ」


「さて困ったねえ。 早く何とかしないと、ずーーっと激痛に苛まれてしまうねえ……」


「ぐああああああああ!」


「ぐっ…… うぅ…… お…… のれええええええええ!」


 そのあまりの痛みに、激しい憎悪を大王に向けるキース!


「やれやれ……」


 パチンと指を鳴らす大王。


 するとキースの両脚の傷口を覆っている炎が消えていく。


 あまりにも不甲斐ないキースに対して拍子抜けしたのか、大王は自ら炎を消してしまったのである!


「どうした? せっかく炎を消してあげたんだ。 さっさと再生したらどうだい?」


「くっ! この…… 化け物がっ!」


「ふっ 君に言われたくはないがね」


「再生能力が弱ってきてるね…… もっとしっかりしたまえ」


 そう言って今度は左手で彼の顔を掴み上げ、その顔面を燃やしていく!


「!!っ がっ! うあぁ〜〜〜!!!」


 この…… 調子に…… のるなあああああ!


 力を振り絞り、自身の背から二本の鋭利な腕を出し大王の首元目指して斬りかかろうとするキース!


 が! やはり無情にもそれすら斬り飛ばされ失敗に終わる!


「!!」


「そうそう、その調子…… なんだ。 やればできるじゃないか」


「君の罪は重い…… そう簡単にくたばってくれるなよ……」


 ふざけるな! こんなの…… 勝てるわけがない!


 どうなってる!? 何故ここまで制限なく無尽蔵に力が増大していく!?


 下手したら女神級!?


 いや! 『今』の奴はそれ以上なんじゃ!!


 混乱しているキース・マドックであったが、ここで大王の胸元が、他の部分よりやけに強く、というより暴走したバーナーの火花の様に激しい光を放っている事に気付く!



 ! 奴の胸元が特に強く光っている!?


 あれは…… まさか!










 くく…… そういう事か…… 前大戦で先代も使っていたと『災厄あの方』が言っていたが……


 超極秘情報だったみたいだが…… 僕らの情報網を甘く見ないでもらいたいね!











「はあ…… はあ…… くく、どう…… した! そっちこそ…… もう終わりかい?」


「君の怒りはそんなもんかい?」


「憎いんだろう! この僕が! エレイン彼女を薄汚いボロ雑巾の様に蹂躙したこの僕を!」


「こいよ! ほら早く! その憎しみをもっと僕にぶつけてみろよ!」


「貴様……」


 露骨に大王を煽り始めたキース!


 すると大王の胸元の光はさらに強くなっていく!





 一方、マクエルとエレイン……



「う…… がはぁ! はあ、はあ……」


「! エレインさん! 気が付きましたか!」


 まだ予断を許さない状況だが、意識は取り戻したエレイン!


「…… ここは…… これは一体……」


 ! あれは…… 大王様!?


 そうだ…… 私はキースにやられて…… 


 だけどなに!? あの人が放っているこの異常な霊圧は!?


 …… !!! まさか! あれが……


『大王の印』の能力ちから!?


 絶大な力を引き出せる代わりに、憎悪含めた激情に駆られ、大王としての本分を失う…… 即ち、心が修羅に堕ちてしまうと、その身の五感、もしくは魂が消失してしまうという……


 初めて見ましたが、あの様子……


 尋常ではない! 恐らく、まずい状況になっている!


 何とかしないと!



「ぐううっ!」


「! エレインさん! まだ動かないで! そんな身体で動いたら本当に死にますよ!」


「それどころじゃありません!」


「!」





 なにやってるのよ! あの人は! 


 ここらが…… 私の死に場所だと思っていたのに!


 死を覚悟したのに……


 これじゃあ…… おちおち…… 死んでもいられないじゃない!



「大王様! 聞こえますか!? ぐぅ!!」


 ダメだ! 炎が遮って声が上手く届かない!


 こうなったら…… どこに…… あった!


 エレインは辺りを見回し、自身と共に回収された銃剣の片方を、力が上手く入らず、震えながらも、まだ無事な右手の方で必死に掴み、残る力の全てを振り絞り、立ち上がる!


「! エレインさん! 何を!?」


 そしてエレインは、片手で自身の高速最強の突き技…… 終撃殺の構えをとる!



「はああああああああああああ!」


 凄まじい衝撃音と共に突きを繰り出すエレイン!


「ぐうううっ!!!!!!!!」


 自身の右手の骨ごとではあるが、彼女は満身創痍の身でありながらも、大王の青の炎を突破する!


「なっ! あの炎を…… 砕いたですって!?」


「う! ごふぅっ! ごほっ! がはあ!」


 だが、元々この技は自身の身体に返ってくる反動が強い上に、今のエレインの身体では尚更無事ではすまなかった!


 たたでさえ血が足りていないのに、ぼとぼとと大量の吐血をしてしまうエレイン!


 意識をとりもどしたばかりであったが、すぐに意識が飛びそうになる!


 寧ろ、今生きていられているのが、もはや奇跡そのものな程である!


 だが、危険な状態になりながらも、自身の命もかえりみずに、その痛みに必死に耐え! 大声をもって彼に呼びかける!







































「ユリウスーーーーーーーーーー!!!!」


「がはぁっ! ぐうぅぅっ!!」


 血を吐きながらも大王の、それも真名を叫ぶエレイン!


 そしてその声は、確かに彼に届いた!!



「!!!!! なっ!? エレイン君!?」



「なに…… やってんです…… か」


「全く…… いつまで経っても……」


「世話の…… やける……」


「しっかり…… して下さい…… ちがうでしょう!」


「貴方は…… そんなんじゃ…… ない!」


「怒りや憎悪なんかに…… 支配されてんじゃ…… ないわよ……」


「私の知ってる…… 私の…… ――した貴方は…… そんな程度の漢では…… ない筈です……」


「だからどうか……」


「己を…… 見失わないで……」


 涙を流しながら最後の力を振り絞って訴えた彼女はそのまま力尽き倒れてしまう。


「エレイン君!」

「エレインさん!」


「全く! 貴方という人はなんという無茶を! しっかりして下さい!」


 慌てて治療を再開するマクエル!


 くっ! 私だけでは! 


 早く治療区画へ動かせるまで回復させないと!


 あまりの出来事に半ば放心状態の閻魔大王……


 ドサッとその身体を地に落とされるキース。


 そして大王の胸元の印の闘気がその光と共に落ち着きを取りもどす。


 それは彼女の想いが確かに届いた証拠でもあった……




「流石にそれは反則が過ぎるだろう…… エレイン……」


「本当に…… 敵わないな……」


「だがおかげで目が覚めたよ……」


「くそ! 『大王の印』が!」


 一か八か! 大王の自滅を狙ったキースであったが、それもエレインの想いの力によって阻止される!



「僕としたことが…… 情けない姿を晒してしまったが……」


「もう君の術中にはハマらないよ。 キース・マドック!」


「閻魔大王として…… あくまで正義の名のもとに! 君を滅する!」


「! この炎は!」


 改めて、悪に裁きを下す閻魔大王として正義の心、そして怒りと冷静さの相反する二つの感情をも共存させ、新たに闘気を練り始める閻魔大王はその呪文の詠唱を始める!



「我が閻魔の血に眠りし裁きの力よ……」


「その炎をもって悪しき者を喰らい尽くせ!」



 ! あれは! 先代の最強技!

 

 やはり大王様も極めていらっしゃったか!



「うああああああああああああああ!」


 もはや打つ手なし!


 たまらず逃げ出そうとするキース・マドック!


 そんな彼に極太の渦巻く炎の闘気を纏った剣を向ける大王!



「くらうがいい! 業火による裁きジャッジメント・インフェルノ!」


 大王の剣から解き放たれたそれは。凄まじい程に巨大な炎の龍へと姿を変え、キース・マドックに襲い掛かった!



「ぎゃああああああああああ!!!!」


 一気に炎龍へと飲み込まれ、核ごと全身を焼失していくキース!


 そしてそのまま彼を、大爆音と共に結界と壁ごとぶち破り、そのまま天高くへと突き抜けていく!


 その威力は空間にも大穴を開けてしまい、穴の淵は焼け焦げ、しばらく閉じない程の凄まじさであった!


 文字通り! 塵一つなく! 


 消滅したキース・マドック!



「因果応報…… 君はあまりにも罪を犯し過ぎた」


「さらばだ…… キース・マドック」


 長きにわたり、裏で天界を蝕み続けていた呪いの様な存在の一角を、遂に打ち滅ぼしたのであった!

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