第137話 危険な漢……

 イステリアの空間移動で、彼女と共に城の屋上へと移動してきた閻魔大王。


 そして大きく息を吸い込み、敵味方全ての戦場にいる者達へパフォーマンスをする!



「聞けええええええ! 皆の者!」


「! 大王様だ!」

「やっぱり!」

「大王様が帰ってこられてたんだ!」

「おおおおおおおお!!!! 大王様~~~~~~!!!」


 一気に士気が上がる天界軍!


 逆に敵軍は超大物の登場で極端に士気が下がってきていた!


「皆! 先程! 『真なる選別者』の一人! キース・マドックはこの私の炎で木っ端微塵に葬り去った!」


「! おおおおおおおおおおお!!!!!」

「流石大王様~~~~~~~~~~!!!」

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」


「そっ! そんな馬鹿な!!!!」

「あのキース様がっ!!!!!」

「しっ! 信じられない! あの方がやられるなんて!」



「あまりにも歯応えがなくて拍子抜けだったよ!」


「私は暫くこの城に残って破損の激しい外壁を我が炎で補強しつつ、ついでにこの城付近の残党どもの始末にまわろうと思う」


「私の城で好き勝手やってくれたんだ……」


「覚悟はできているのだろう!?」


 ここで城を覆いつくす程の強力な霊圧で敵軍を威嚇し、睨みを利かせる閻魔大王!


「!!!!! うぅうっ!!!!!」

「こっ! 殺される!!!!!!!」


「だが私もそれなりに忙しい…… 君達雑魚共に時間を取られるのも癪だからね……」


「そこで! せめてもの情けとして五分だけ猶予をやろう!」


「キースの様に嬲り殺されたくなかったら、少しでも遠くに逃げる事をお勧めするよ」


「逆に私の首を獲りたい命知らずな者がいるのなら……」






















「かかってくるがいい!」


「何十万人でも! まとめて! 一瞬で! あっけなく塵にしてやろう!」


 周辺一帯に強烈な殺気を放ち、さらに敵軍を牽制する閻魔大王!


 効果は抜群であった。



「うっ! うああああああああああああ!!!!!」

「いっ! 一旦退けえええええええええ!!!!!」

「態勢を立て直すんだあああああああああああ!」

「ガラン様とイリア様に連絡しろ! 指示を仰ぐんだ~~~~!」



 大王の脅しに一目散に撤退を始める敵の大軍!


 その様子を十分程見て、城に攻めてきていた敵軍が一定距離まで離れた頃合いを見計らうと、大王とイステリアが気を練り始める!





「はあああああああああああああああ!」

「はあああああああああああああああ!」



「かあああああああああああああああ!」

「やあああああああああああああああ!」


 そして二人は協力して大王と女神のタッグによる超強固な炎と気でできた巨大な結界を城とその周辺を覆いつくす様に張るのであった!



「! なるほど…… そういう事ね♪」


 それを見て二人の思惑を理解したのは先代大王の妻 ミリア・アルゼウム。


「! これは!」


「炎と…… それに信じられない程に強力な結界の重ね掛け!?」


「なるほど…… どうやら…… 少しは休めそうですね……」


 さらにもう一人、その結界の意味を理解したのは霧島とカエラの上司、メアリー司令であった。


 額から血を流し、左腕を負傷しながらも懸命に周りの仲間達と連携、信じられない程の数の敵兵を討伐しながらも負傷した仲間をカバーしながら、必死で正面口を守り切った彼女もまた、かなりのダメージを負っていた。


 左腕を抑えながら、一旦壁に寄りかかり、座り込むメアリー。


「!! メアリー司令!!」

「大丈夫ですか!?」


「大…… 丈夫です。 それよりも! 今のうちに軽症者は重症者達の手当てを! 私もすぐに向かいます!」


「はっ! はい!」

「了解しました!」


 この機に城中で負傷兵の搬送や治療にまわる死神と治療士達!


 そして大王とイステリアも、マクエル達の所へともどってきた。





「これで暫くは時間が稼げます。 今のうちに治療士達と連携して負傷者の手当てと、それから回復薬等で霊力の補充もしていきましょう!」


「ええ。 それにしても大分、大袈裟にハッタリ込みで煽ってましたねえ…… まあ、あれぐらい言わないと効果がないのですが……」


 そう言ってジト目で大王に視線を送るイステリア。


「やれやれ…… 戦略とはいえ、本当にシリウス誰かさんに似てきましたねえ…… 良くも悪くもですが」


「子供の頃から見てきた者の一人としては、もう少し素直な良い子に育ってほしかったという気持ちもあるので少々複雑ですが……」


「はは! まあ、これも一種の成長という事で♪」


「はあ…… まあ、いいでしょう…… おかげで少し状況を整理できますし、じき各通信機器も復旧するでしょうし」


そう溜息交じりに言うイステリア。


「それで、大王。 姉様達はどうなったの? 何故、貴方だけもどってきたの?」


「ええ。 といっても恐らく皆様方が想像している以上の事は僕も知らないのですが――」


 ここで僅かな時だが一息入れつつ、お互い状況を確認する閻魔大王達。


 だが彼らはすぐに気付くことになる……


 彼らの知らないところでもう一人……


 途轍もない力を持った敵が現れる事を!









 とある異空間――



 そこには一人の漢が赤黒いソファに足を組んで座っており、一冊の本を読んでいた……


 本のタイトルは『慈愛の女神』――


 前大戦で散った女神アルテミスとその大戦に焦点をあてたフィクション小説である。


 ちなみに一昔前に天国エリアの映画館で上映もされた人気作品であった。


 内容はかなり…… アルテミスが神格化され、それでいて可愛くされたりもしていて、もはや彼女のファンの為の作品でもあるかの様な作品であった。


 大分脚色されているラブコメ要素もある作品になってしまっているのだが……


 そしてその漢は、自身の周囲五十メートルの空間に張られていた巨大な鎖が全て消えたのも確認する。


「拘束結界が消えたか…… はっ! どうやらキースのクソ野郎がおっ死んだ様だな」


「ザマ―ねえぜ! 前々からいけ好かねえ奴だったから、くたばってくれて清々したぜ」


「にしても、さっきの馬鹿でかい霊圧……」


「くく…… 中々骨のある奴が揃っているみてーじゃねえか!」


「丁度読み終わったし…… つか、随分笑える内容だったな」


「まあ普通に作品としてはよくできてるし、こんな事なら映画の方もチェックしとくべきだったか」


アルテミスとレオンあいつらにも読ましてやって、リアクションを楽しみながらイジッてやったりしてーとこだが……」


「まあ時間切れか……」


 そう言うと漢は小説を赤黒い炎で一瞬で燃やしつつ、立ち上がる。


「にしても他の連中はともかく、まさかレオンの野郎がやられるなんてな……」


「噂の剣神あたりか? 俺と女神以外で奴とまともに張り合える奴がいたなんてな……」


「大したもんじゃねえか…… 俺の『後釜』はよ!」


「だがよくわからん事にもなっているみてーだな…… 微かだが、レオンの気配もまだ残ってる」


「しかも相手と行動を共にしている?」


「…… 敵に寝返る漢でもねーし、となると……」


「多分アルテミスのとこに向かうつもりか」


「漢だねえ。 ま、奴のそういうところは嫌いじゃねーが……」


「レオンを倒した剣神…… 相手してもらいてーとこだが、そういう事なら俺が奴らにちょっかい出すのは野暮ってもんか……」


「まあ、精々頑張んな。 後悔のねえ様にな」


「さてと……」


「そんじゃま、そろそろ行くとするかね」


 漢は右手に巨大な炎を纏い始める。


「おううううううららああああああああ!!!!」


 そしてそれを前方の空間に放ち、大穴を開ける!


 バリィィィィィィィィンと大きな音をあげそこにできた大穴から外へと出る謎の漢。



 外界の日差しがその漢を照らす……


 人で言ったら見た目は二十代中頃位……


 背中まで流れる白髪のウルフヘアーにサイドと前髪に一部赤のメッシュがあるその漢は赤いコートを羽織って周囲の様子を見渡している。 



「あん? 出たはいいけど、どの辺だ? ここは?」


「地獄…… いや、天国エリアのどっかか?」


「まあ、いい……」


「さて…… どいつから狩ってやろうかね」


 自分の獲物になりうるに相応しい位の大物の気配を探っていく謎の漢……


 そうして漢はすぐに最初のターゲットの気配を捉える!


「! ほう…… まあまあ歯応えがありそうなのが一人…… 近くにいるな」


「これクラスの霊圧だと司令級じゃ収まらねえな…… 閻魔一族でもなさそうだし…… て事は零番隊あたりか?」


「面白え…… とりあえず肩慣らしに遊んでもらおうかね!」


 正体不明の謎の漢!


 獲物に向かって危険な漢が動き出す!

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