第133話 裁きの時間!

 ここにはいない筈の…… 


 だが最も頼りに…… そして信頼しているその漢が駆けつけてくれた事による安堵の気持ちが彼女から大粒の涙を流させる。


 だが、彼女は必死に首を横に振り、そんな大王を拒み始める!


「ダメ…… 離…… れて! 毒…… がっ!」


 ! …… そういう事か…… 


 何故、彼女程の使い手がここまでやられているのか大王はすぐに理解した。


 それでも彼は彼女を離さない……


「悪いが、いくら君の頼みでも、そいつは聞けないな……」


「大丈夫だ」


「僕に毒は通用しない」


「そして君も助ける! だが! その為に、今からとんでもない激痛が君の身体を襲う!」


「常人ならまず耐えられない…… だが、それでも僕は君なら必ず! 乗り越えられると確信している!」


「後でいくらでも僕を殴ってくれて構わない…… だからどうか! 耐えてくれ!」


「!」


 何をするつもりかはわからない……


 だが、エレインはなんの迷いも疑いもせずにコクンと頷く。


 彼を信じているから……


 そして大王は、なんと自身の右手を彼女の腹部に差し込んでしまう!


「ぐうぅぅ!」


「すまない……」


 助ける為とはいえ、彼女の身体を傷つけてしまう事に自身も辛そうな表情かおをする大王。


 そして自身の身体から金色の炎と、先程の青白い炎を入り混じるかの様に同時に放ち、そしてそれを使って自身の身体ごと彼女の身体を包み始める!


「!! ああああああああああああ!!!」


 青白い炎は別として、金色の炎は通常の炎と同様に物質を燃やしてしまう性質がある!


 彼女の服と身体が大きく燃え上がってしまう!


 当然、苦しみ出すエレイン!


 だがそんな彼女を目の当たりにしても大王は炎を収めるつもりはない!


「頑張るんだ! エレイン君! 僕がついてる!」


「うああああああああああああああ!!」

「はああああああああああああああ!!」


 エレインを救う為、二つの異なる炎を同時にコントロールする大王!


 そしてそんな二人の後ろで、自身の身体の再生が終わったキースが立ち上がる!


「くっ! いきなり現れてきて、やってくれるじゃないか!」


「何でここに大王がっ! しかもそんなゴミクズ相手に何をやろうとしているのか……」


「僕に仲間を殺される位ならいっそ自分で…… って感じでもなさそうだねえ……」


「何をするつもりかは知らないけど……」


「僕が黙って見過ごすと思ってるの?」



「一歩でも……」


「?」


「一歩でも僕の許可なく動いたら……」


「楽には殺さないよ……」


「!!! ふっ 何を言うかと思えば!」


 ハッタリだ! 奴は背を向け、両手も塞がっている! 完全な無防備状態だ!


 むしろ今なら女神級の大物を容易く狩れる千載一遇のチャンスじゃないか!


 このチャンス…… 逃す手はない!


 ない筈なのに……


 なんだ……


 なんなんだ!? 奴のこの重圧プレッシャーは!!


 ビビる必要はない! 奴は今、動けないのだから!


 なのに…… 何故! 足が前に出ない!!


 完全な無防備にも関わらず大王の重圧により、顔中から大量の汗が吹き出し、さらには極度の緊張のせいか過呼吸にもなってきているキース!


 そしてそんな彼は、背中にドッと何かがぶつかる音と手応えを感じてしまう。


 ! 壁!? 何でこんな所にいきなり……


 いや…… ちがう! 


 僕が無意識にここまで下がっていた!?


 まさか…… この僕が!


 背中を向けている相手に気押されたというのか!?


 恐れているというのか! この漢を!


 ふざけるな! ありえない!!



 キースが葛藤している次の瞬間! 


 彼は急に身体のバランスを失い、倒れ込んでしまう!


「ぐっ! 何? …… ! なっ!?」


 気付けば自身の左脚を斬り落とされている事に気付くキース!


 バカな! どうなってる!?


 奴はあそこから一歩も動いていない筈!


 まさか……  あの状態から! あそこから! 僕の脚を斬り落としたというのか!?


 ありえない! 全く見えなかったぞ!


 だけどこの手応え…… 幻術や暗示の類じゃない! 本当に斬り落とされた!


 あの体勢で、僕にも見えない程の超スピードで、しかも二つの炎をコントロールしながら攻撃を繰り出し、瞬時に元の位置までもどったというのか!?



「一歩でも動くなと言った筈だ……」


「前でも後ろでも関係ないんだよ……」


「僕は今すぐにでも君を殺したい位なのだから……」


「!!!!!」


 この…… 化け物がっ!!!


 背を向けたままでも、かつてない程の殺気をキースに向ける閻魔大王。


 そのあまりの重圧にキースは身動き一つとれなくなっていた。


 そしてここでもう一人! 


 エレインの救援に駆けつけた漢が現れる!



「エレインさん! 無事ですか!?」


 敵の大軍を相手に相応の手傷を負いながらも急いで彼女の救援に駆けつけるは零番隊 副長 マクエル・サンダース!


「! やはり! もどっていらしたのですね! 大王様!」


「先程こちらの方に青い炎の様なもので瘴気を纏った敵兵だけ押し除けた後、炎の結界の様な物が展開されたので、もしかしたらと思いましたが!」

「やはりあなた様の能力ちからでしたか!」


「きたか! マクエル君! 話は後だ! 君の力もすぐに借りるがまずは自身に障壁を! キース・マドックは毒使いの様だ!」


「毒!? そういう事ですか!」


 すぐに自身に障壁を張るマクエル!


「! 『再生の天使』までっ!」


 大王に続いてマクエル程の手練れが現れた事に焦りを見せるキース。


 大王はここに来る途中に治療士であるマクエルの手を借りる為に彼の霊圧を探り、一時的にでも彼をこちらへ引っ張って来れる様にと、簡易的に彼のいる城の後門エリア付近の敵を押し戻し、結界を張ってきていたのだ!


 流石に城全域のフォローをしてる余裕はなかったので、他のエリアはまだまだ混戦模様ではあるが……



「はあああああああああああああ!!」

「うあああああああああああああ!!」

「大王様!? 一体何を!?」


 到着したばかりのマクエルには大王が何をしているのか理解できないでいた!


 だが、この漢が彼女をただ傷つけるだけの事は絶対にしない!


 そう、絶対に何か考えがある筈!


 今は大王を信じて見届けるしかない!


 そう思い、大王の邪魔にならない様に、言葉を挟むのをやめるマクエル!


 目を閉じて集中する大王……



 よし……


 負の気配や嫌な感じが消えた! 後は!


 カッと大きく眼を見開く閻魔大王!


「はあああああああああああああ!!」


 そして今度は金色の炎の放出を止めて青白い炎のみ放出していく大王!




「ああああああああああああああ!!!」


「ああああ…… はあ、はあ、 うぅ!!」


 すると先程まで苦しんでいたエレインの顔色が徐々に落ち着いてきている!


 そのタイミングで彼女に自身のコートをかけた大王は続けて青白い炎を彼女に当て続ける。


「マクエル君! 毒は消し去った! 後は怪我の治療だ! 君も手伝ってくれ! 私も続ける!」


「! はっ! はい!」


 マクエルも参戦して大王と二人がかりで治癒のオーラをエレインにかけ続ける!


 暖かな光に包まれるエレイン……


 意識は失っているが、傷がゆっくりと塞がってきている。


「!? バカな! 信じられない!」


「僕の毒をどうやって!?」


 確実に死を待つだけだったエレインを炎に包んだと思ったら、身体中の毒素を消滅させられた事に驚きを隠せないでいるキース!



「僕は当代の大王として複数の異なる特性を持つ炎を操る事ができてね。 彼女が毒やウィルスの類でやられたと知って、荒療治だが彼女を救うにはこれしかないと思った……」


「例えどんなに強力な毒物やウィルスでも超高熱で蒸発させてしまえば消し去る事はできる」


「だから僕は彼女の身体の中に、直接僕の炎を流し込んだというわけさ」


「だが物にもよるが、これクラスの毒物を蒸発させるには三百度以上の高熱が必要だし、そんな炎をまともに流したら毒を消す前に彼女が灰になってしまう」


「だから再生の力を秘めている青の炎も同時に出し、流し続ける事で、常に彼女の身体の細胞を再生させ続けながら毒素のみを蒸発させたというわけさ」


「なっ!!!!」


「後は傷や火傷、怪我を純粋に回復させていけば大丈夫だろう。 とは言っても、これ程のダメージだから時間はかかるし、まだまだ予断は許さない状況ではあるが……」


「並みの精神力なら、その激痛でショック死していただろう……」


「彼女はとても強い人だ」


「腕っぷしだけでなく、その気高き魂と心の在り方もね……」


「全く…… たった一人で無茶な相手と交戦しては、最悪の場合も想定して、周りを巻き込まない場所で戦い、可能な限り足止めをする……」


「もう少し…… 弱くて素直に頼ってもらっても構わないのだがね……」


「本当に…… エレインには敵わないな……」





「…… 彼女は何も聞かずに僕のやる事を信じてくれた……」


「そして僕もまた、そんな彼女の強さを信じた……」


「だから絶対に上手くいくと確信があったんだよ!」


「あまり『僕達』をなめないでもらいたいな!」


「そんな滅茶苦茶なやり方で、僕の毒素が消されたっていうのかい!」


「ああ。 とはいえ、出血も激しかったのもあるし、ここは戦場だ」


「動かせる位に回復させたら、治療区画で本格的な治療と輸血も必要だろう…… マクエル君、すまないがこの後の彼女の事を任せたい」


「先程まで君がいたエリアに出した炎の結界は強めの力で出しておいたから、しばらくの間は大丈夫だ。 頼む!」


「わかりました。 とりあえずまだ動かせる状態ではないですし、まだ油断はできない状態です! もう少し回復させてから、そうさせていただきます!」


「ありがとう」


「君達が巻き添えをくわないように、ここにも結界を張らせてもらうよ」



「大王様…… 大丈夫ですか?」


 マクエルは大王の心境を察して、冷静な『フリ』をしている彼を少しでも落ち着かせようとする……



「僕は大丈夫だよ」


「…… 心中お察しします……」


「ですがどうか! 『御自身を見失わない様』……」


「くれぐれもお願いします……」


「ああ……」



 だが、そう言ってるそばから閻魔の城一帯が……


 いや、天界中が大王の今の感情に呼応するかの様に揺れ始める!


「!」

「!」


 エレインをマクエルに託し、ゆっくりと立ち上がる閻魔大王……


 あのマクエル程の漢が、頬に汗を流し、畏怖の様な感情を抱き、大王の表情かおを直視できないでいた!





 城が…… いや、おそらく天界中が震えている!


 まるで『天界そのものが怯えている』かの様な……


 ああ…… キース・マドック……


 何という愚かな事を……


 自分が何をしでかしてしまったのか、わかっているのですか……


 世の中には何があっても! 


 決して怒らせてはいけない方々が、何人かは本当にいるものです……


 あなたはその内の一人の大切な存在逆鱗に触れてしまったのですよ!


 もはや貴方ごときの命一つだけでは、すまないかもしれませんね……


 下手すれば天界が……


 いや、世界そのものが……


 大王様…… どうか!




















 なんだ、この漢……


 どういう事だ!?


 まだ…… まだ! 上がっていっている!!


 信じられない!!


 奴の気が…… まるで『無制限』に上がっていくだと!?


 何が…… 一体! 何が起こっている!!


 僕は今…… どんな化け物を目の当たりにしている!?


 身体中から汗という汗が吹き出るキース・マドック!




















「待たせたね…… キース君」


 そう言ってキースのいる方へと身体を向ける閻魔大王……




「さあ…… 裁きの時間の始まりだ!!」

 

 大王の眼が金色に輝く!

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