第129話 二人の絆 ⑲

 あれから一週間…… 大王の部屋


 そこにいるは大王夫妻、シリウス、グライプスであった。


 シリウスとグライプスは例の事件の事情聴取を報告、夫妻と情報の共有、確認、そして今後の対策を話し合いに来ていたのであった。



「……というわけで、例のエレインを誘拐した奴等から事情聴取を行いましたが連中も肝心な所……『誰に唆されたのか』ってのは、よく覚えていないそうです」


「ただ男だった様な気がするとだけ……」


「それも曖昧な感じで言っていましたが」


「ああ、私の『眼』で視たのだ。 嘘はついていない……本当に覚えていないのだ。『その場にいた筈の全員』がな」


「明らかに外的な要因による記憶の封鎖……強力な暗示の類か」


「加えて我も一瞬だけ崖に飛び込む際に感じ取ったが……」


「ああ…… 連中が纏っていた瘴気…… 尋常じゃなかった…… おまけに完全に正気を失っていた感じだったしな」


「それはつまり…… 主犯が別にいて、そいつが連中を操っていたって事?」


「恐らく…… そして今回の事件だけでなく、他の事件にも関与している可能性があります」


「俺が誘拐犯達と対峙して締め上げた時、一瞬で完全に気配を消されたが、ドス黒い…… 気味の悪い気配を感じました」


「恐らくそいつが黒幕でしょう。 が、残念ながら気配の消し方が完璧な上に、すぐに追いかけられる余裕もありませんでした…… 本当に申し訳ないです」


「いや、その状況では仕方なかろう」


「ええ、あなたはよくやってくれたわ」


「しかしそいつを取り逃したとなれば、また再犯の可能性もあるのでは?」


「いや、そうとも言い切れねえ」


「それはどうして?」


「やり方がイチイチ時間がかかる上にまわりくどすぎる。駒として使った奴等がどの事件も元々は多少性格にクセがある程度の一般人ばかりです」


「そうせざるを得ない…… 例えば表立って事を起こすだけの力がまだない、もしくは何らかの実験、何かの目的に使えそうな優秀な駒候補の探索とか、何かの準備をしてたんじゃないかとも思えるんですよね」


「それに黒幕と思われる奴のあの気配…… 明らかに瘴気…… それも真っ黒なんてもんじゃなかった……」


「まるで闇そのもの……」


「考えすぎかもしれねえが…… もしかしたら……」


「『災厄』の再来……」


「!」

「!」


「ええ。 かもしれない位、ですが……」


「そうだな……実際はどうかわからんが、かつての災厄アレも、元々は瘴気の塊が人に乗り移ったところから始まった……常軌を逸した瘴気をお前が感じ取ったのなら、その可能性もゼロではない」


「流石に本人ではないとは思うが……」


「ええ。 女神様のお話ではアルテミス様が自爆に持ち込んでから、完全に奴の気配も消失したと言っていたわ」


「それでシリウス、再犯の可能性があるとも限らないというのは?」


「ああ。 奴が気配を消したのは俺がその気配に気付いて意識を向けた……それにすぐ気付いたからだろう。 明らかにそのタイミングですぐに消しやがったからな」


「つまり向こうも俺らが自分の存在に気付いて警戒されているのは、もうわかっているはず……」


「薄気味悪い気配だったが、手がつけられねえ程の力は感じなかった……まあ、気を抑えてたんだろうがそれを考慮してもだ」


「真正面からのゴリ押しは通用しねえってわかってるからこそ、こんなまわりくどい真似してたんだろう。 だったら警戒されちまった今となってはすぐに行動は起こせねえだろう。 多分暫くは関与しねえどころか身を隠したりするんじゃねえか?」


「なるほどな。 だが断言はできん」


「ええ。 だから天界中の監視システムと巡回を強化! さらには零番隊の再編も急がせます!」


「と言っても、目ぼしい奴がいないんですがね……」


「それからまだ黒幕の正体が断言できない以上、かつての災厄の再来の可能性なんて、あの大戦の恐怖を蒸し返すのもアレなんで暫くは極秘任務扱いで最高神様おやっさん達と諜報部、それから司令級、それも限られた連中だけに情報を共有していきましょう」


「他の連中には治安維持強化の一貫とでも言っておきましょう」


「そうだな……暫くはそれでいこう。 勿論様子を見て臨機応変に、というところだが」


「女神様達には私から連絡しておく。 だがお前らも落ち着いたら、一度顔を出して直接最高神様あの方達とも相談してみてくれ」


「ええ。 今回の事件の事後処理が完全に終わったら、そうさせてもらいます」


「うむ。 我もその時に同行しよう」


「死に物狂いで手に入れた平和……必ず守り通すぞ!」


「はい!」

「ええ!」

「おう!」




 異空間――



 そこには誘拐犯達をそそのかした男が、黒い霧に包まれた存在と密会していた。



「―― というわけで、ヤバそうな奴が出てきちゃったから逃げてきちゃったよ。 まあ、痕跡は全部消してきたから、ここの事はバレてないと思うけど」


「あれは只者じゃないね。 多分噂の総司令殿かな。 まともにやり合ったら今の僕じゃまだ秒殺されそうだったし、相当頭もキレるみたいだから暫くはここに避難させてもらうよ」


「そうか……致し方ない」


「本当はもっと情報収集がてら、天界の住人達の不満や憎しみといった感情を煽って瘴気を発生、強化させつつ、将来有望な駒も見つけたり、瘴気を利用した暗示や操作の実験とかもしたかったんだけど一旦中止だね。 あーあ、僕ももっと瘴気を吸収して自信を強化しないといけないのになあ」


「まあ、事を急いて失敗しては元も子もないからな……奴等の組織力と団結力は侮れない……こちらの戦力が整うまでは焦らずに、だが確実に力を蓄えていくとするか」


「今は我が表に出ているが、アルテミスの力のせいでほとんどまともに動けん上に、いつまた眠りにつかされるかわからん。 まあそれは奴も同じだが」


「奴が出てきたらお前も動きづらいだろう…… 暫くしたら向こうにもどってまた別人になりすますが良い。 暫く大人しくするにしてもな」


「そうだね。 とりあえずは緊急の入り口もいくつか作ってもらったし、もう少しほとぼりが冷めたらもどらせてもらうよ。 ずっと働き詰めだったから少しは休みたいしね♪」


 そう言うと、なんと男は姿を変える! 


 いや、元の姿にもどったというべきか。


「うむ。 そうするがいい……任せたぞ……我が分身」


「キース・マドックよ」


「OK、ボス♪」

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