第127話 二人の絆 ⑰
「…… ここは? ……」
どこかのベッドで全身を包帯で巻かれて目を覚ました王子。
「! エレイン……」
ベッドの横の椅子に座りながら王子の身体に顔をうずめて眠っているエレイン。
王子は辺りを見回し、段々と状況を理解できてくる……
そうか…… ここは閻魔の城の医務室……
他の者達は今席を外しているのか。
…… あの時、無我夢中で崖に落ちていく彼女に飛び込んで……
はは、僕らしくないというか…… まさかあそこまで必死になるなんてね……
それにしてもいつから……
ずっとそばにいてくれていたのか?
…… 彼女の怪我は大丈夫だろうか?
全く…… 自分だって酷い目に遭っただろうに……
他人の看病等せずにゆっくり寝ていればいいものを……
優しい瞳で彼女を見て、その髪を掻き分け、寝顔を見る王子。
左目に眼帯、額にも包帯を巻かれているエレイン。
…… 酷い怪我だ。 だが、優秀な治療士ならこの位の傷なら後も残さず癒す事はできるだろう…… 身体の方は…… 何だかんだ無理はしてるだろうが、寝たきりじゃない位には回復しているのか?
とりあえずは大丈夫そうか……
安堵する王子。 ホッとして無意識に彼女の頭を撫でてしまっている。
そこで彼女が起きてくる。
「……ん …… うん……」
「うぅん…… ん? …… !」
! やばっ! 起きた!
思わず撫でていた手を引っ込める王子。
「や……やあ、目が覚めたみたいだね」
「…… あなた……」
やばい…… 勝手に触っていたのバレたかな?
「よかったああああ! 心配したんだから!」
思わず王子の胸に抱きつくエレイン。
「!!!
まあ、王子の肋骨は折れているのだが……
突然かつ、あまりの激痛に悶える王子!
「え!? え!? なに! どうしたの!? だっ! 大丈夫!? だっ! 誰かあ〜! 誰か早くきて〜! 王子が! 王子が!」
普段の彼女からは想像できない程にテンパっているエレイン。
「しっ! しっかりしなさいよ! あなた! ダメ! 死なないで!」
グラングランと思いっきり王子の身体を揺らしながら声をかけるエレイン。
「〜〜だっ! 大丈っ! ちょっ! 待っ! 死ぬ!」
わかった! わかったから! 頼むから今は揺らさないで!!!!!
数分後……
エレインの声とコールスイッチでシリウス、グライプス、閻魔夫妻、そしてハニエルが病室に入ってきていた。
「王子! 目が覚めたんすね! 良かった!」
シリウスに声をかけられる王子。
「ええ…… と言っても、たった今殺されそうになりましたけど……」
「ごっ! ごめんなさい!」
「はは! 冗談だよ。 冗談!」
いや、実際マジで死ぬかと思ったが……
「ふっ まあそんなヤワな鍛え方はしていないがな」
「もう! あなたったら!」
「全く無茶をしおってからに! 我がいなかったら死んでたぞ! 王子!」
「ええ! 本当に! でも無事でよかった!」
王子の生還に安堵する一同。
「何となくは状況を把握していますが詳細を教えていただいても?」
「ええ。 それは勿論。 ただお身体は大丈夫なんすか? ハニエル、どうなんだ?」
「本当はまだ暫く寝ていてもらいたいのであまり長時間の会話は……」
「大丈夫。 無理はしませんし、辛かったらちゃんと言いますので!」
「と言いましても……」
「…… はあ…… 言っても聞かなそうだな…… 悪いな、ハニエル。 なるべく手短にするからよ」
「ただ本当にキツそうなら無理矢理にでも寝かしますからね。 王子!」
「はは。 ありがとうございます。 シリウス殿」
「大王様、ミリアさんも…… 宜しいでしょうか?」
「構わん」
「お願いするわ」
「ありがとうございます。 それじゃあ……」
「まず王子…… 王子が目を覚ますまでに、あれから五日程経っています」
「! そんなに……」
「ええ。 あの後王子がクルーゼを助けに崖へと飛び込んだ時、ぐの丸もすぐ様飛び込んで二人に追いつき抱えた状態で障壁を張りながら崖下に落ちたんですよ」
「かなりの高さだったが、障壁のおかげで助かったんですよ。 なんで二人共! ぐの丸にはちゃんと礼を言っとけよ!」
「そうだったんですか…… 神獣殿! 本当に…… ありがとうございました!」
「ありがとう! 本当にごめんなさい!」
「そう思うなら王子、いきなりあんな
無茶はもうせぬ事だ。 エレインには悪いし
「そうでなくとも、少しはお主を大切に想ってくれている奴等の気持ちも考えろ」
「まあ、我からの一応の説教はこれぐらいで良いとして、『漢』としては大したものだった。 見事だったぞ。 王子よ」
「神獣殿…… ありがとうございます……」
「それとエレイン…… お主も助け出せてよかった。 すまなかったな。 駆けつけるのが遅くなって」
「ううん! それよりも私のせいで大怪我を……」
「って、あれ!? ぐの丸! 怪我は!? 酷い大怪我だったのに!」
「ん? ああ、我は女神から生を授かりし神獣。 身体中に神の気が巡っている故、多少の怪我ならほっといてもそのうち治る。 さらにハニエルにも治療してもらった。 我の回復力ならあの程度は怪我のうちに入らん」
「本当にチートだな! お前は! 骨折も治ってるし流石としか言い様がねえよ。 ありがとな。 ぐの丸!」
「ふっ 当然の事をしたまでだ」
「…… 本当に? もう痛くない?」
「ああ」
「…… 良かった…… 本当に……」
「ありがとう…… ぐの丸……」
「うむ」
「それと…… 狼さん達にも酷い事しちゃって…… それもごめんなさい」
「まあ、それは我から謝っておいたがお主も傷が癒えたら一言謝罪してやるといい。 といっても怒ってはいなかったがな」
「寧ろ守れずにすまなかったとヘコんでおったぞ。 一応他の事務所の死神にも数名、教会の守護に当たらせているが、知らない連中をぞろぞろ連れても子供達が不安になりそうだからな。彼らも教会の守護に当たらせているから今は顔を出せんが今度また遊んでやってくれ」
「というか不意打ちとはいえあっさり気絶させられるとは! 遊びついでに鍛え直してやってくれると助かる!」
「そうなんだ。 あの子達のそばにいてくれてるんだ…… うん! わかった。 今度ちゃんと謝ってくる! 後、お礼も! 鍛え直すのはちょっと…… あまり怪我させたくないし……」
「遠慮せずともいいのだが…… まあ、いい」
「とにかく…… もう大丈夫だ。 今はゆっくり休むが良い」
「うん。 ありがとう」
「それと…… 大王様! ミリア様も! 王子を巻き込んで本当にごめんなさい! 大切な息子さんを」
「んもう! だからそんなに謝らないでって言ってるでしょ! エレインちゃん! あなただって大変だったんだから!」
「怖かったわよね! ごめんなさいね! もう大丈夫だから!」
そう言ってミリアはエレインを優しく抱きしめる。
そして大王も片膝をつき、エレインと目線の高さを合わせながら、こう告げる。
「その通りだ。 もう十分過ぎる程に謝罪は受けたし、飛び込んだのは息子が自分で勝手に判断して起こした行動、そして負った怪我だ。 君に非はない。 先程も言ったが、そんなヤワな鍛え方はしていないからな」
「それでも悪いと思ってくれているのなら、今後も、あの愚息と仲良くしてやってくれ」
「この拗らせ馬鹿息子も中々本音でぶつかれる相手がまだまだいないからな。 君の様に全力で向き合ってくれる子がそばにいてくれると助かる」
普段より少し穏和な表情でエレインに語りかける大王。
「ちょっと父上!」
「大王様…… ミリア様……」
「うぅ…… ありがとうございます……」
思わず涙が溢れるエレイン。
「ああ! もう! 泣かないの! せっかく可愛い顔してるんだから台無しよ!」
「本当に…… よく頑張ったわね」
彼女の涙をハンカチで拭い、また抱きしめるミリア。
「ありがとう……ございます」
本当に…… 彼女を助けられてよかった……
彼女を見て心の底からホッとする王子。
「それでシリウス殿、犯人達のその後は?」
「ああ、それなんですが…… 俺もあの後、追いついて連中を締め上げたんですが……」
「奴等、自分達の犯してしまった罪と事の重大さにようやく気付いたんですが、まあ、極刑、地獄行きは免れないでしょうね」
「ただ精神的にも、まだ不安定で死神病院の精神科に入院。 事情聴取もまだまだ残っているので、地獄に送るのはそれが諸々済んでからですね」
「ちなみに息子達の方は年齢的なもの、さらに今回の件に関してだけは全員親達に半ば脅されて付き合わされていたっていうのもあるんで、親達と違って魂にはしないで生きたまま地獄で暫くの間、強制労働…… まだ確定ではないですが、それでも百年は堅いっすかねぇ」
「前科もつくから出てきてからも苦労するでしょうが、まあ、今回以前もクルーゼに対する嫌がらせの他、調べてみたら親の利権を利用して随分と好き勝手やってたのがわかったんで、まあしょうがないっすね。 ガキとは言え自業自得っす」
「そうですね……」
「ただ、これでクルーゼに対する嫌がらせは勿論、今回の事件は天界中に大々的に報道しようと考えています」
「そうする事で、こういうタチの悪い事件も再発を極力防げる様に努めていこうと思っているからです」
「勿論、クルーゼが了承してくれたらですが……」
「え? 私?」
「当然だろう? お前さんにとっては、あまりこれ以上騒がれてほしくねえと思うし。 ただ、できれば了承してくれると助かる」
「お前さんの他にも経緯は違うが、俺ら治安部の目の行き届かない所で、似た様な形で虐げられている連中が沢山いるかもしれねえ。 また今は大丈夫でも、後からそういう目に遭う奴も出てくるかもしれねえ……」
「お前さんが知ってる通り、世の中、心ない連中は腐る程いる…… だからこれ以上悲劇を生まない為にも、そういう腐った連中に対しての脅しや牽制、辛い思いをさせられる連中を一人でも多く減らす為にも、できれば協力して欲しい」
「勿論お前さんに迷惑がかからない様に個人情報含め、規制、保護された状態で、報道前にも一度お前さんに目を通してもらって、その内容に納得してもらえたならって話だが……」
「だが何度も言うが強制はできないし、するつもりもない。 お前さんも大分しんどかったと思うしな」
「どうだ? クルーゼ……」
「? 別にいいわよ」
「簡単だな! あっさりすぎない!? 即答かよ! こっちは結構気を使ったつもりなんですけど!」
「だってあんたの言う通りだもの。 そうする事で腐った連中への抑止力になるんだったら願ったり叶ったりだわ」
「だけど今、あなたが言ってくれた様に、アメリアさんや教会の子供達に迷惑はかけたくないから、その辺や私の事も伏せてくれるっていうのは当然お願いするし内容もチェックさせてはもらうわよ」
「ああ! それは勿論だ! お前さんが納得いかない様な内容は出さねえし、俺も監督するからその点は安心してくれ!」
「そう。 だったらそれでお願いするわ」
「OK! ありがとうな! クルーゼ!」
「…… エレイン……」
「ん?」
「エレインでいいわよ…… シリウス……」
「あんたにとって教会の子は家族なんでしょ?」
「だったら他人行儀にクルーゼなんかじゃなくて、エレインって呼べばいいんじゃない?」
「! そうだな…… それじゃあそうさせてもらおうかね」
「今後ともよろしくな。 エレイン!」
「う、うん…… シリウス……」
「というか一応、俺年上なんだからさん付けとかシリウス兄さんとかってないの?」
「は? 何で? 気持ち悪い! シリウスはシリウスでしょ。 シリウスでいいわよ!」
「おまっ! 〜〜! はあ…… わかったよ。 ったく! 生意気な女だな!」
「ふん♪ 余計なお世話よ♪」
ニカッと悪戯っぽい笑顔をシリウスに向けるエレイン。
やれやれ…… 少しは良い表情ができる様になってきたな……
口と態度が生意気過ぎるのは相変わらずだがな!
まあ、今はそれでいいか……
エレインの様子を優しく見守る王子。そして他の面々。
ただ、その中でもこのあいだの王子と同じく、エレインの笑顔にやられてしまった人物がもう一人……
何! 何なのこの子? 凄く可愛い!♡
この笑顔! えっ 何、本当の意味で天使!?
またツンとデレのギャップがヤバすぎる♡
うっかり気を抜くと鼻血出ちゃいそう!
あらやだいけない! どうしよう!
ファンクラブでも作りたくなってきたわ♡
…… ! そうだわ! エレインちゃんがうちの子とくっついてくれれば、私が一生エレインちゃんを愛でる事ができるのでは!?
私って天才!?
私がエレインちゃんのママに……
良い!! 凄く良い!!
目をギラつかせながら王子に近づき、肩を握るミリア。
「! ちょっ! 何ですか!? 母上?」
「ちょっと! マジで頑張んなさいよ! あなた! 頼むわよ! マジで!」
「!? は、はあ?」
何、何の話? つか母上、顔が怖いんですけど……
こうして今回の事件は一応の解決となったのである。
そして余談だが、ミリアのエレイン推し生活も始まるのであった。
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