第126話 二人の絆 ⑯
エレインから三十分遅れてダイタス山の中腹へと降り立ったシリウス、グライプス、王子の三人!
最寄りの死神事務所からも数名、死神を手配し、さらには怪我人の治療要員として天使も二名程呼び出されて、自分達よりも十分程前には中腹に先行させ、エレイン達を探索させていた!
そんな中、シリウス達の前方から人影が複数向かってくる!
「! 前方から何か来る! あれは……」
「子供? いや、あいつらは確か……」
前方から来るは誘拐犯の息子達三人であった!
「待て! 止まれ! お前ら!」
「子供? シリウス、此奴らは?」
「こいつら確か、こないだエレインに絡んできてた奴らだ。 教会にも親達と乗り込んできてたな」
「ええ。 間違いありません!」
「うぅ! こいつら、あの女の仲間達の!」
「おっ! 俺達は何も悪くねえぞ! 親父達がここまでやるなんて思わなかったんだ!」
「そっ! そうだそうだ!」
子供とはいえこの期に及んで自らの行いに反省の色すら見せない…… いや、本当は自分達のしでかしてしまった事の重大さに恐れをなして、自分達の罪を素直に認める事ができない三人にシリウスとグライプスは、怒りを通り越してもはや哀れにも思えてきた。
ただ一人を除いて……
「お前ら…… 彼女は! エレインをどうした!」
「さっさと答えろ! 死にたいのか!」
彼女の危機に感情が爆発して、声を荒げ、相手の一人の胸倉を掴み尋問する王子。
今にもこの場で三人を殴り殺しそうな勢いの怒気をぶつける王子!
そのあまりの迫力に相手は気を失いそうになっている。
残りの二人も、もはや悲鳴の声すら上げられない程であった。
「落ち着け! 王子! それじゃ聞き出せるもんも聞き出せねえ!」
「手を離すのだ! 王子よ!」
「くっ!」
シリウスとグライプスに諭され手を離す王子。
「お前ら、クルーゼはどうした? 彼女はどこにいる?」
「お前らだけでこんな大それた真似できんだろう! 他の仲間共もどうした? 答えろ!」
「! いっ! 犬が喋った!?」
「喋った!?」
「うそ! 犬がっ!?」
「誰が犬だっ! さっさと答えろ! 噛み殺されたいか貴様ら!」
「ひいっ!」
「ひっ!」
「ひいいいいい!」
「ぐの丸っ! お前も黙ってろ!」
「いいかお前ら。 状況次第じゃクルーゼも今回彼女を呼び出したお前ら含む連中もこのままじゃ取り返しのつかない事になるかもしれねえ……」
「下手すりゃ死人が出るかもしれねえ」
「えっ!」
「!」
「そんな!」
「だが急げばまだ何とかなるかもしれねえ! ほんの少しでも自分達のやっちまった事に後悔や反省の念があるんだったらちゃんと答えてくれ! 男だろ! テメェら! ビビってねえで、ちゃんとケジメをつけろ!」
シリウスの言葉に少しだけ落ち着きを取りもどし、彼らに自分達の親達が暴走して人質を使ってエレインを呼び出した事……
自分達も引けなくなってしまった事、隙をついて親達に一撃をくらわせ人質達を解放しようとしていたエレイン、それに恐れをなして自分達だけで逃げてきた事を伝える。
「ちっ! そんな事だろうとは思ってたが!」
「しかしその話だと、どうやら返り討ちにした様だな」
「…… まあ、彼女があんな連中にやられるはずはないけど……」
「…… 本当に最低だな。 君達……」
「……」
「……」
「……」
王子の言葉に返す言葉もない三人の子供達。
「王子! それでお前達、そのクルーゼがいる場所は?」
「あ、ああ…… 場所は……」
場所を聞き出そうとするシリウスだったが彼の通信機に着信が鳴り響く。
「! ちょっと待ってろ…… 俺だ。 どうした?」
「総司令! こちら、子供達を三名! 保護致しました!」
通信先は先行隊の死神達からだった。
どうやらエレインに解放され逃してもらった子供達に先行隊が接触できた様だ。
その知らせを受けるシリウス。
「…… そうか、よかった。 それで、クルーゼはどうした? その感じじゃ一緒じゃないみたいだが……」
「そっ! それが……」
先行隊は子供達から聞いたエレインの危機をシリウスに伝える。
「! なんだと!」
「シリウス殿!?」
「どうした! シリウス!」
シリウスはそのまま王子とグライプスにエレインの危機を伝える!
「! そっ! そんな! 彼女が!」
「まずいな……」
「そっ! そんな! 親父達が……」
「信じられない……」
「ほんとに…… どうしちまったんだよ…… 父さん達……」
くそ! 思ってたよりヤバい状況だ! だがこのガキ共をここに置いとくわけにはいかねえし…… 先行隊の奴らが子供達に教えてもらった話によると、今うちらがいる場所の方がクルーゼのいる場所に近い!
…… だったら!
「王子! ぐの丸! お前ら先に行ってろ! 俺達の方が近い! 俺は先行隊にこいつらを預けてから治療士を連れて後を追う! 急げ!」
「はい!」
「応!」
一旦シリウスと別れ、急いでエレインのいる場所へと向かう王子とグライプスであった。
中腹 別エリア
そこには血まみれになって地に伏しているエレインとそれを囲み、気を失いかけてる彼女に容赦なく足蹴にする誘拐犯達がいた!
「はあ、はあ…… ざまあみろ! 調子にのりやがって! 小娘が!」
「しっ、死んじまったか?」
「いや、まだ生きてるみたいだ…… ったく、しぶとい奴だな!」
「おい! そう簡単に、おっ死ぬんじゃねえぞ! もっと楽しませろ!」
もはや完全に正気を失っている誘拐犯達。
彼らを覆う黒い霧はより一層、濃くなってきている……
「ん? この女、ペンダントか? これ? かなり上等そうな物付けてるじゃねえか!」
「ひょっとしたら高値で売れるんじゃねえ?」
誘拐犯の一人が彼女のペンダントを無造作に引き剥がす!
意識を失いかけてたエレインだったがその行為に必死に抵抗する。
「っ! かえ…… せ……」
「あん? なんだ、そんなにこのペンダントが大事か?」
「誰が返してやるかよ!」
そう吐き捨て彼女の腹部を思いっきり蹴り上げる男。
「ぐぶっ!」
だが吐血しながらも地を這いずり、必死に男の足を掴むエレイン……
「はは! そんなにこいつが大事か! 急にしおらしくなりやがって! お笑いだぜ!」
「お願…… い…… かえ…… して……」
「! 待てよ…… いい事思いついたぜ」
そう言うと男はエレインを足から引き剥がし、仲間の一人に彼女を渡す。
そして近くの崖になっている方へと歩を進める。
崖の方へとペンダントをかざす男。
それを見せつけるかの様に他の男が右手でエレインの胸倉を掴み、同じく彼女の身体を崖の上に宙ぶらりんの状態にさせている。
「おいおい、マジかよ。 宝石部分は高値で売れそうなのに」
「まあ、ちと惜しいがこっちの方が面白そうだし、いいだろ?」
「確かに」
「仕方ねえな」
「おい! 小娘! よお〜く見てろよ! 俺らに逆らうと、どんな目に遭うか……」
「まあ、急いでキャッチすれば無くさずに済むかもな!」
「ははははははは!」
「ははははははは!」
「ははははははは!」
「やめ……て…… お願い……それだけは……」
「いいザマだな! …… ほらよ!」
「!!!!っ」
彼女の願いを聞き入れるわけもなく非情にも崖の下にペンダントを落とす誘拐犯の一人。
「ははは! ざんね…… 痛っ! このガキ!」
なんとエレインは迷う事なく自分の胸倉を掴んでいた男の手を噛み、自身の身体を解放させた!
だがそれは彼女自身も崖の下に落ちる事を意味していた!
「嘘だろ! このガキ!」
「いっ! イカれてやがる!」
「てっ! てめーから死にに行くなんて!」
崖の下に落下しながらペンダントを必死に掴み! 胸に抱き寄せ、抱えるエレイン!
これは…… これだけは絶対にダメ!
だって…… これは
それなのに…… 私なんかの為に!
あいつが私を信用して……
あいつが初めて私に……
だからこれは…… これだけは! 絶対に誰にも渡さない!
私が守るの!
いつかあいつに……
ちゃんと私の手で返す日が来るまで……
絶対に…… 死んでも私が守る!
泣きながらもペンダントを握りしめ胸に抱えるエレイン。
真っ逆様へと崖の下に落ちていく……
その時!
「エレイーーーーーーーーン!!!」
「! 王…… 子!?」
猛スピードで走ってきた王子!
そして彼もまた迷わずその崖の下へと身を投じる!
「王子! ちいいいいいいいいい!」
なんという無茶を! 死ぬ気か!
くっ! 間に合え!
王子に続いてグライプスも二人を救出する為に、一か八か! 身を投じる!
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