第125話 二人の絆 ⑮

 午前九時 ダイタス山 中腹


 ロープウェイで登ってきたエレインは、そこから誘拐犯の一味の男と接触。


 その男が案内役となり、人気のない奥地の方へとエレインを誘導する。


「きたか……」


「エレ姉!」

「お姉ちゃん!」

「エレインお姉ちゃん!」


 そこにいたのは先日教会でエレインとアメリアに絡んできた男達、案内役を含め四人とそれ以前にエレインに返り討ちにされた彼らの息子達であった。


 親達は一人は鉄パイプ、もう二人はナイフを持っている。


 そして彼らは手紙に同封されていた写真の通りに教会の小さな子供達三人を縄で縛っている状態であった。


「! あなた達! もう大丈夫よ!」


 縄で縛られてはいるがパッと見たところ大きな怪我はない。


 よかった……


 後はこの子達を無事に帰すだけ。


 その為には…… もうこいつらを殺すしかない……


 生かしておいたら今回の様に何度でも同じ事を繰り返す……


 ここで終わらせる!


 決意を固めるエレイン。


「おっと! 動くなよ!」


「少しでも変な気を起こしたらこいつらの命はねえぞ!」


「とっ! 父ちゃん! もういいよ…… いくらなんでもやりすぎだよ! 流石にやばいって……」


「そっ! そうだよ! こんな誘拐だなんて!」


「こんなのバレたら俺ら捕まっちまうよ!」


「うるせえ! お前らは黙ってろ!」


「ひっ!」

「うっ!」

「ご! ごめんなさい!」


 これはれっきとした紛う事なき犯罪!


 子供とはいえ、流石に自分達のしでかしている事への事の重大さに気づかないはずもなく、今更になってビクビクと怯えている始末。


 だが、父親達はそんな自分の息子達の事など意にも返さない。


 というより、明らかに様子がおかしい。


 目は血走り、身体の周囲にはうっすらと黒い霧の様な物が見える。


 そもそもまともな状態ならこんな大それた事を普通はしないはずだ。


 ましてや彼女の後ろには閻魔一族と死神総司令が付いているのだから尚更である。


 そしてそんな彼らの違和感をエレインも感じ取っていた。


 何? こいつら? 目が普通じゃない!


 ただ単にブチ切れているだけじゃない。


 明らかに正気じゃない! 一体何が!?


 それにあの黒い…… 霧?


 上手く言えないけどメチャメチャ嫌な感じがする!


 とにかく! 早くあの子達をここから解放しないと!


「お前らの事なんか、もうどうでもいいんだよ!」


「なめられたまま引き下がれるか!」


「お前らはそいつらが逃げない様に見張ってればいいんだよ!」


「そっ! そんな!」

「どうしちゃったんだよ! 親父!」

「父さんも!」


「うるせえ! それ以上ガタガタ言うならお前らから黙らせるぞ!」


 息子達と言い合いをする親達。


 子供とは思えない超人的なスピードの持ち主であるエレインにはこれ以上ないチャンスであった!


 馬鹿ね! しかもたった三人! いける! 


 一瞬で距離を詰めて一人は後頭部、そして残り二人も首と顎に一撃ずつ入れ、卒倒させるエレイン。


 少し前の彼女ならこの段階で迷わず相手の頸動脈をナイフで切っていたであろう。


 だが流石に子供達の前ではその様な光景を見せたくはないという気持ちがあったのか、子供達を逃すまではまだ意識を絶つ位の一撃を入れるのに留めていたのであった。


 そして彼女は相手方の息子達をポケットに忍ばせたナイフを見せて一睨みする!


「邪魔よ! 今すぐこの場から消えるかここで私に殺されるか三秒以内に選びなさい!」


 息子達はただの腰抜け。 るのは後回しで構わない!


 とにかくこの子達の縄を切らないと!」


「うっ! うわあああああああ!」

「もう付き合ってらんねえよおお!」

「待って! おいてかないでええ!」


 親達も見捨てて一目散へと逃げていく犯人の息子達。


 よし! 今のうちに!


 邪魔者が消えて子供達の縄を素早く切り終わるエレイン!


「エレインお姉ちゃん!」

「こわかったよおお!」

「お姉ちゃ〜〜〜ん!」


「うわあああああん!」

「うわあああああん!」

「うわあああああん!」


「よく頑張ったわね! あなた達! もう大丈夫よ! さ! 早くここから……」


「! エレインお姉ちゃん! 後ろ!」


「え?」


 後ろを振り返ろうとするエレイン!


 その瞬間!


 先程急所に一撃入れ、すぐには起き上がれるはずがないにも関わらず、倒したはずの男の一人が起き上がり鉄パイプでエレインの顔を殴り飛ばしてしまう!


 鮮血と共に吹き飛ぶエレイン!


「エレインお姉ちゃん!」

「エレ姉!」

「お姉ちゃん!」



  …… そんな…… 絶対に暫くは目が覚めない場所にくらわしたのに……


 やっぱりこいつら…… 何かおかしい……


 やば…… 意識が…… 


 だけど…… まだ! 



「このガキ! ふざけた真似を もう許さねえ!」


「お前ら! さっさと起きやがれ!」


 その男の声により残り二人の男達も起き上がる!


「…… 逃げ…… なさい……   あなた達!」


おびただしい程の血を頭から流しながらも立ち上がるエレイン!


「! エレインお姉ちゃん!」

「やだよ! お姉ちゃん一人だけなんておいてけないよ!」

「一緒に逃げようよ!」



「…… 邪魔だって言ってんのよ!」


「!」

「!」

「!」


 気力を振り絞って大声を上げるエレイン!


「あんた達がいたら、かえってやりづらい! あんた達は…… 大人達でも呼んできなさい!」


「あんた達にしか! できない事よ!」


「私は強い! 負けない!」


「だから…… 本当に…… 私を助けたいと思ってくれているのなら!」


「行きなさい!」


「!」

「!」

「!」


「 …… わっ! わかった! エレインお姉ちゃん!」

「すぐに大人の人達連れてくるから!」

「だから死なないで!」


「! …… 当たり前でしょう。 こんな雑魚共…… 下手したらあなた達が助けを呼ぶよりも早く私が倒しちゃいますよ」


「行って!」


「うん!」

「うん!」

「わかった!」


 エレインを助ける為、急いで大人達を連れてくる為にこの場を走り去っていく子供達!



 よし…… これでいい……


 最初から助けなんて頼ってないし期待してもいない! だけど、こうでも言わないとあの子達は私を気にしてここから離れないから……


 悔しいけど…… 目が霞んできて……  気を抜くと意識が飛びそう…… 雑魚相手でも…… これはもう無理ね……


 せめて…… 私の命に変えても…… あの子達を逃す時間を稼ぐ!






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