第124話 二人の絆 ⑭
二日後…… 時刻は朝の七時……
教会の郵便受けをチェックするエレイン。
中身は付近の娯楽施設、飲食店のチラシ…… それから……
差出人が王子名義、あて先はエレイン宛ての封書が入っていた。
「? 何よあいつ…… わざわざ手紙?」
その場で封筒を開き、中身を確認するエレイン。
その中身に彼女は驚愕する!
「! そんなっ!」
天国エリア 二十一番エリアにあるダイタス山、その中腹の休憩ポイント……
午前九時 そこに一人で来い…… 誰かに相談したり連れてきたりしたらお前らの大事な家族が死ぬことになる……
さらに一枚、写真が同封されている。
そこに映し出されていたのは教会の子供達の中でも一番年少組の二人の男の子と一人の女の子…… その子ら三人が縄に縛られている内容だった。
「……」
あの子達…… さっき近くを散歩に行くって……
なるほど…… 私以外にこの手紙を見させない為にわざわざ王子の名を騙って私宛てにってとこか。
「? エレ姉、どうしたの?」
「!」
思考を巡らすのに集中していて声をかけられるまで後ろから子共達が近づいてきたのに気づかなかったエレイン。
慌ててその脅迫状を後ろに隠すエレイン。
だがここで動揺して万が一この事がバレると捕まっている子達が危ない!
エレインは何事もない様に平静を装い、目の前の子共達に返事を返す。
「何でもないわよ。 ポスト確認してただけ。 チラシしか入ってなかったけどね」
「さあ! 皆、中に入るわよ」
「は~い!」
「は~い!」
子供達と一緒に教会の中へと入っていったエレインはそのまま台所の方へと周りに見つからない様に入っていく。
そして二本…… ポケットにサッと果物ナイフを忍び込ませる!
普通に稽古用の剣を持って行っても捨てさせられるだけ……
最悪の場合…… あの子達を守る為、必要だったら、私は相手を殺す……
小さいとはいえ一瞬で急所を斬ればこれで十分! ぎりぎりまで相手に悟られずに殺れる!
こうしてエレインは外へ出ようと玄関口へと向かう。
「あれ? エレ姉、またお外行くの?」
「なになにお出かけ~?」
教会内で無邪気に走り回ってる子供達に、また声をかけられるエレイン。
「…… ちょっと買物よ」
「ぼくもいく~」
「わたしも~」
「アイスアイス~」
「余計な物は買わないわよ! アイスも昨日買ったでしょ! すぐにもどるから皆でアメリアさんのお手伝いでもしてて」
「う~~」
「わかった~」
「エレ姉、はやく帰ってきてね~」
「…… うん。 じゃあ行ってくるね」
子供達を振り切って外へと出たエレイン。
さて…… 後は……
しばらく歩いて教会と距離をとるエレイン。
教会からは三匹中、二匹の狼がエレインに着かず離れずでついてきている。
残る一匹は教会の守護の為、残っている様だ。
神獣グライプスの命により教会の保護とエレインの護衛を任されている狼達。
エレインが何と言おうとこれまでも彼らは決して彼女から離れる事はなかった。
彼女が指定された場所へ向かうには彼らも振り切らねばならなかったのだ。
十分程歩き、一旦最寄りの住宅街まで行き、タイミングを見計らって急に走り出し建物の死角に入るエレイン!
「!」
「!」
突然の行動に慌てて彼女を追う狼達!
彼女の走っていった死角の方へと飛び込む狼達だったが彼女の姿はそこには見えなかった!
次の瞬間!
頭上から二匹の脳天に一撃を入れ意識を絶つエレイン!
「キャウン!」
「グルっ!」
「…… 殴ってごめんなさい……」
申し訳なさそうな表情をしつつ、二匹をなるべく人目のつかない物陰の方へと運び、寝かすエレイン。
指定の場所はそこまで遠くない…… 近くのバスですぐだし、中腹までのロープウェイもあったはず! 周りに気付かれる前に急がないと!
待ってて! 必ず私が助ける!
午前八時 閻魔の城 中庭――
「…… おかしい……」
「? どうした? ぐの丸?」
「我が同胞達からの定期連絡がこん…… 我の思念に応答しない者が二匹……」
「どうやら一時間程前にエレインが買物に出たとの事で教会の守護とエレインの護衛と二手に分かれ見張っていたとの事だが……」
「エレインに付かせた二匹の同胞達から一切の連絡が途絶えた…… 教会に残った同胞にも連絡がないそうだ」
「なんだと!」
「我が同胞が何の理由もなしに我の呼びかけに
「つまり『何か』が起こったという事だ!」
「少し待っておれ!」
「同胞よ! 無事なら返事をするがいい!」
グライプスは眷属達に思念波ではあるが、これでもかという位の大声で語りかける!
もし何らかの理由で意識を失っているだけなら声の大きさに驚き飛び起きる、逆にこれでも反応がないとなると瀕死の重傷、もしくは既にこと切れている可能性があるが彼はこれで反応が返ってくる事に賭けたのだ!
かなり強めに思念を飛ばしたせいか、そのはずみでグライプスの霊圧が解放され、辺りを一瞬だが吹き飛ばしかけてしまったが……
「うおっ! ビックリしたぁ! そういう事するなら先に言えっての!」
教会 そして付近の住宅地――
「! キャウン!!!?」
「! ガゥっ!!!!?」
「バォウっ!!!!!?」
教会居残り担当の狼ごと驚かしてしまったが、先程エレインによって気絶させられた狼達もあまりの声のボリュームにビックリして目を覚まし、飛び起きた!
そしてすぐ様、返事を返す狼達!
「おお! うぬら無事だったか! 心配したぞ! して! 何があった?」
報告を受けるグライプス。
「…… なんだと!」
「どうした!?」
「エレインが同胞達を気絶させ振り切り、一人どこかへと消えたと!」
「何だって!」
「なんでそんな事を…… まさか……」
クルーゼに因縁のある奴が呼び出した?
けど狼達をわざわざ気絶させて…… 連中もクルーゼの強さは知っているし、ペンダントの効果もあれから何度か発揮した機会があったと聞いたし…… だとすると……
…… こりゃあ、マジでヤベエかもな!
「嫌な予感がする! 急いで同胞達に彼女の匂いを追わせて……」
「今の話は本当ですか!?」
たまたま中庭に足を運んだ王子が今の会話を聞いてしまっていたのだ!
「! 王子!」
「シリウス殿! 神獣殿!」
「…… 彼女は俺達でどうにかする。 王子は……」
「自分も行きます!」
「ダメだ! 上手く言えねえが…… 何か嫌な予感がする…… 王子に何かあったら天界中が大問題になる! ここは俺らだけの方が動きやすい!」
「シリウス殿!」
絶対に引かないといった様相の王子……
ちっ! 言っても聞かねえか! 無理もねえが……
こりゃ無理やりにでもついてくるぞ!
しかし…… ああ! くそ! 時間が惜しい! ったく、どいつもこいつもこれだからガキ共は!
「落ち着け! お前達!」
「! 大王様!」
「父上?!」
王子の後方に大王夫妻も現れてきた。
「いきなり神獣殿の霊圧が大きくなったから何事かあったのかと思いここへとやってきたのだが……」
「ああ、さっき大声を出した時に霊圧が少し爆発してしまったか。 強めに思念を送ったからな。 騒がせてすまないな。 大王よ」
「いえ。 それよりシリウス…… 大まかでかまわんから事情を説明してくれ」
「! じつは……」
時間がないので掻い摘んで説明するシリウス。
「…… というわけです」
「なるほどな……」
「父上! お願いします! 僕もシリウス殿達と一緒に……」
「ならん!」
「!」
「お前はまだ未熟な上に次期大王候補! 閻魔一族だぞ! 少しは自分の立場を自重しろ! それにお前などが行ってもかえってシリウス達の邪魔にしかならん!」
「どうしてもと言うなら……」
「お前を我が一族から追放! その上で! この私を倒してから行くがいい!」
「あなた?!」
そう言うと大王は自身の霊圧を解放する!
その凄まじさは中庭だけでなくその周辺のエリアを吹き飛ばしかねない程のパワーだ。
それでも相当に抑えているが、かなり高位の死神でも、ただ目の前に立っているだけで失神しかねない程の霊圧である!
「くううううううううっ! ちっ! 父上!」
「あなた!」
「……」
「……」
「…… わかりました……」
「はああああああああああああああああ!」
覚悟を決めた王子!
どう足掻いても敵うはずがない相手……
しかも一族から追い出すと言われても彼はここで引くわけにはいかなかった。
王子は今の自分が持てる全ての力と、その覚悟を解放する!
この年齢にしては確かにずば抜けている程の霊圧!
しかし如何せん、まだ十歳。
文字通り親と子…… 大の大人と小さな子供程の差…… いや、それ以上だった。
しかし王子は一歩も引かない…… 決意と覚悟を秘めた漢の目をしている……
大王はそれをじっと見定める……
そして大王は霊圧を解除する。
「…… 好きにしろ」
「! 父上!?」
「シリウス。 お前達の足を引っ張ったり、その子の救出の邪魔になる様なら、いつでもこの馬鹿息子を見捨ててもらってかまわん。 だから連れて行ってやってはくれぬか?」
「全ての責任は私が持つ」
「父上!」
「大王様…… わかりました」
ったく…… この人も何だかんだで親馬鹿なんだよなあ…… 素直じゃないね、まったく……
「シリウス。 同胞から連絡が入った。 彼女の匂いはどうやらダイタス山の方へと入っていったみたいだ」
「ダイタス山って…… あの二十一番エリアのか!」
「よし! 最寄りの支部の死神達にも応援に行かせよう! 王子! ぐの丸! 俺らも急ぐぞ!」
「はい!」
「おう!」
「大王様、ミリアさん、俺らはこれで!」
「うむ。 引き留めてすまなかった。 よろしく頼む!」
「気をつけてね!」
「はい!」
大王夫妻の所から走り去っていくシリウスとグライプス。
「…… 父上…… ありがとうございます」
「お叱りは帰ってからちゃんと受けます! いってきます!」
「ふん……」
「気をつけて行ってくるのよ!」
「はい! いってきます! 母上!」
二人の横を走り抜け、シリウス達の後を追う王子であった。
「…… あなた、最初からあの子の好きにさせるつもりだったの?」
「あいつの覚悟次第で、だったがな。 今はまだ半端者…… 自身が置かれている立場も考えれば、あまり軽はずみな行動はとらせるわけにはいかんし、人命がかかっているかもしれん上にシリウス達の足手まといにもなる可能性が高い」
「あの程度で怖気づく様なら今回シリウス達に同行する資格はない」
「二人の邪魔にしかならんからな……」
「だから試した。 それだけの事だ」
「あなたったら…… もう少し優しいやり方してあげたらいいのに!」
「あれ位、厳しくも何ともない。 あんな甘ったれた奴には、あれ位で丁度いい」
「と、思っていたが……」
「思っていたよりは成長している様だな」
「もう! 素直じゃないんだから!」
こうして大王達にも自身の覚悟を示した王子はシリウス達と共にエレインのいるダイタス山へと向かうのであった。
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