第123話 二人の絆 ⑬

 王子とエレインがお互いの胸の内を語り合った夜から三日……


 結局グライプスは翌朝まで周囲に結界を張り警戒していたが特に何も起こらず……


 ただ今後も念の為、警戒しつつ過去の事件を含めて、もう一度調べてみる事にしたシリウスとグライプス。


 エレインの両親の事件の事もあり、普通なら流石にもう手を出してこない様な状況ではあるが、それでもまた面倒な輩が絶対に現れないとも現段階では言い切れないので念の為護衛兼門番を置く事とした。


 グライプスは天界唯一の神獣…… 天界の動物や獣は皆、彼の仲間であり部下でもある。


 その中でも天界の狼達は全て彼の眷属でもある。


 グライプスは常に狼達を三匹教会へと配置させ、それを毎日ローテーションで見張らせる事としたのであった……



 閻魔の城――



 この日は王子が、このあいだとはまた別の支部の死神達と模擬試合に明け暮れていた。


 だが、王子の雰囲気は明らかに以前とは違っていた……


 自身と相手の剣に向き合う姿勢が真剣なものへと変わっていたのだ。



「はああっ!」

「ぐあっ!」


 相手の死神の剣を弾く王子。


「はあ、はあ…… ま、参りました!」


「ふう…… ありがとうございました!」


「い! いや~! 流石は王子! まさかこれ程とは! 大変勉強になりました! また機会があれば是非とも! お手合わせをお願いしたいです!」


「! ええ! 是非とも! その時はよろしくお願いします!」


 互いの健闘を称え、感謝し合う王子と死神。



「ほう」

「あらあら♡」


「ふっ どうやら少しはマシになったみたいだな……」

「良い表情かおしてるわ♪ これもシリウスのおかげかしらね♪」


「いえ、全ては王子が乗り越えた事…… 自分はきっかけを与えたにすぎませんよ」


「このあいだ服とかボロボロにして帰ってきた甲斐があったわね♪ 全部事後報告で済ませてきた時はどうしてくれようかとも思ったけど♡」


「あ…… あははは~…… その節はすいませんでした……」


「ふふ…… 冗談よ冗談! 半分位は♡ あの子の事はあなたに任せるって先に言っちゃってたしね♪」


 って半分かよ! ったく、おっかない人だねえ! 本当に!


「はは…… あ、ありがとうございます」


「まあ、そういじめるなミリアよ。 シリウス、よくやってくれた」


「ああ、いえ。 けど少しは前に進めたみたいですが、跡を継ぐかどうかはまだ決めかねてるみたいですけどね」


「そこは気にせんでいいさ。 まだあの年齢としだ。 無理もないこと…… あいつがちゃんと考え抜いて、後悔のない様に出した答えでさえあるのならば、別に私はかまわんさ」


「ふふ♪ そうね! まだ十歳だもの♪ ゆっくりでいいわ♪」


「ええ。 そうっすね」


 王子の成長を暖かく見守る三人であった。



 さらに二日後……



  アメリアの教会 食卓――



 本日は五日振りにシリウスと王子が、アメリアの教会に稽古をしに足を運び、今は先に皆で軽く昼食をとっていた。


 ちなみに一足先にグライプスもこちらへ着いており、眷属達と食事にありついていた。


 そして……



「……」


 チラっ


「……」


 またチラッと隣に座って食事をしているエレインの様子を伺う王子。


 さっきからずっとこの調子だ。


 それに少し前から気付き、言葉を発するわけでもなく、理由ワケも分からずチラチラ見られている気の短いエレインは、当然の様に爆発する!


「~~~ さっきから何ジロジロ見てるんですか! 私の顔に何かついてますか! それとも喧嘩売ってます?」


「ああ! いやごめん! そんなつもりじゃ!」


「じゃあ何なんですか! さっきから!」


「えーとそれはその…… そう! あれだ! 今日はペンダント着けてないのかなって!」


 そう、王子はあの夜以来、彼女を意識し出して今日五日振りにこの教会へ来たから、少し緊張していたのと時間が経ってから、よくよく考えたら、自分が彼女に対してプレゼントに近い形の事をしてしまった事に後から気付き、少々テンパっていたのであった。


「! ああ…… だって…… その…… きっ! 今日はっ! このままあなたとの稽古もあるし! 傷つけたらあなたに文句言われそうだし!」


「いや、言わないけど…… まっ! まあ! そうだよね!」


「おっ! 終わったら…… ちゃんと着けるし……」


 ちょっと照れ臭そうに顔を赤らめて言うエレイン!


 不意にそんな表情をされて、またまたテンパる王子が思わず声を荒げる!


「ふっ! 不意打ちとは卑怯だぞ! 君!」


「は? 何の話よ?」


 意味がわからないといった様子のエレイン。


「やれやれ…… 青春だねえ~ 王子♪」


「そっ! そんなんじゃないから!」


「テレるなテレるな♪」


「テレてないです!」


「ふっ 王子もそういうお年頃になったか。 まあわれは、おやつやゲームの方が好みだがな♪」


「お前はお前でブレねえな!」


「ぺんだんと~?」


「あ~! あのきれいなやつだ~!」


「ああ! エレ姉がいつもニマニマしながらつけてるやつだ!」


「え? ニマニマ?」


「! ちょっ! あなた達! 嘘言わないで!」


 慌てて否定するエレインであったが純粋無垢な嘘をつけないお年頃の小さな子供達の言葉は、ある意味彼女にとっては破壊力抜群であった。


「え~? うそじゃないよ~ だっていつもエレ姉、鼻歌歌いながら着けてるぺんだんと触ってはニマニマして、また鼻歌歌ってたりしてるじゃ~ん!」


「寝る時も枕の所でずっとながめてるよね~」


「ね~~~」

「ね~~~」

「ね~~~」


「じっ! じじじ事実無根です!」


 益々顔が赤くなっていくエレイン。


「? じじつむこんってな~に~?」


「あれじゃない? 大根の仲間的な~?」


「ぼく、大根大好きだよ~!」


「あなた達もう黙って! ほら! さっさとご飯済ませて!」


「え~~~」

「え~~~」

「え~~~」


「まったくもう…… あなた達! エレインの言う通り、食器が片付かないからそろそろちゃんと食べちゃいなさい」


「あ、ごめんなさいね王子。 でも大丈夫♪ このあのペンダントすっごく気に入ってるから♡」


 ここで子供達をなだめるのかと思ったが、逆に参戦してきてしまったアメリア。


「昨日も一昨日も、夜中皆が寝静まった後、洗面台の所に行って明かりをつけてはペンダント着けてる自分を鏡で見ては喜んでたから♡」


「ちょっ! なんで知ってるんですかアメリアさん!」


「なんでって…… そりゃ~私の寝室、洗面台から近いし、なんか嬉しそうな感じの声が聞こえてきたから何かしら? と思ってこっそり扉を開けてそっちの方を見てみたら、あなたが鏡とペンダント見ながらニマニマしてるんだもの!」


「ほら! この教会って壁薄いしボロイから音とかよく漏れるじゃない? しかもあなた何気に声のボリューム、そこそこ大きかったし」


「ウソっ!」


「本当よ。 丸聞こえだったわよ。 あなた」


「~~! これだからオンボロな家はっ!」


「嬉しいのはわかるけどエレイン、夜中なんだからちゃんと寝なさい。あなた私が確認しただけでも昨日と一昨日で七回は洗面台の所まで行ったり来たりしてはペンダント愛でてたでしょ」


「何でイチイチ数えてんのよ! とっとと寝てなさいよ! それとその都度、覗き見してくるな!」


「だって見てるこっちがキュンキュンしちゃうし、面白かったから♡」


「信じられない! 最悪すぎる!」


「あ~もう! そうよ! はしゃいでたわよ! 悪い!? だって仕方ないでしょう! あんな綺麗な物預かるだけとはいえ着けたりするの初めてだったんだから!」


「! そ…… そうなんだ……」


「ま、まあ、そんなに気に入ってもらえたんなら、なによりだよ」


「ふっ ふん…… とにかく! 今聞いた話は忘れなさい! いいわね! じゃないと強制的に記憶を消去する事になるわよ!」


 拳を握っては最終手段も辞さないといった様子のエレイン。


「わっ! わかったよ!」





 …… 忘れられるはずないだろう! こんなの!




 またまた騒がしい食卓になったがこの後、軽く食休みしてから、稽古に明け暮れる王子とエレインであった。

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