第120話 二人の絆 ⑩
「今更だけど…… 本当に大した強さだな、君は。 正直プロの死神の、それも相応の立ち位置の使い手相手でも、ここまで苦労した事はなかったよ」
「それはこちらのセリフです…… こないだみたいに返り討ちにした同い年位の連中が大人連中かそれに近いのをぞろぞろ連れてきては絡んできたり普段からされてますし、中には死神候補生みたいなのが混ざってるのもザラですが、そいつら全員分よりあなた一人を相手にする方がよっぽど骨が折れます」
「英才教育って言ってましたけど、生まれによっては別に珍しい事ではありません。 それでそこそこ同世代よりは秀でる事も含めて……」
「ただあなたの場合は、そこそこなんてレベルではありません……」
「その剣ダコも含めて、あなたが
「はは、 まあ、実際、鬼教官共にこれでもかという位にシゴかれているからね。 それこそ脱走の隙すら与えてもらえない程にね」
「それでも大したものですよ」
「それはどうも」
「君の剣は生前に父上殿から?」
「ええ。 といっても、父は祖父に比べたらそこまで大した使い手ではなかったらしいですが、一応、護身用だと言って基本だけですが一通り……」
「いや、それだけにしてはいくらなんでも強すぎないか?」
「そうですかね? まあ、実際は絡まれていく中で、その日その日を生きて次の日に繋げる為に、返り討ちにしてったら、何か勝手に腕っぷしが上がっていったっていうか……」
「まあ、私の場合はそのせいか相手をねじ伏せる為なら手段を選ばないやり方っていうか…… 相手を制するより二度と歯向かわない様に破壊するやり方に長けてきて、父から教わった剣技はオマケ程度になってきてますけどね……」
「そうだったのか……」
「…… 苦労してきたんだね…… 君も……」
「まあ、否定はしないですけど……」
二人共ジュースを飲み終わり、エレインが空いた王子のコップを受け取りお盆に回収、一旦、地に置く……
そして少しの沈黙の後、エレインはここで王子に対してずっと疑問に思っていた事を質問する……
「…… 一つ聞いてもいいですか?」
「何だい?」
「あなたは…… 次期大王にはなりたくないのですか?」
「! …… それは…… そうだね……」
「正直なりたくはないね……」
「それはなぜですか?」
「…… 君は今の天界をどう思う? 今の天界に住まう人々…… それらをとりまく現状とか何でもいい……」
「…… それ…… 私に聞きます?」
「はは…… まあ、ちょっと無神経だったかな? けど今更だろう?」
「ふっ…… 確かに」
「…… はっきり言って大嫌いですよ。 当然でしょう。 毎日の様にくだらない連中に絡まれたりしてたし、それを潰しても、またそいつらがくだらない連中を引き連れてやってくるし……」
「くだらないデタラメを広めてはそれを鵜呑みにして自分達がやっている事を正当化しようとする連中もいますし、最初から期待してはいないですが、明らかに人目に付く場所で絡まれても、我関せずを決め込んでる連中がほとんどだし……」
「潰した奴の親が何らかの威権者だったら、それがどんなにまちがった事でも周りはそいつに従う様になるし……」
「そんな連中が我がもの顔でのさばっている世の中を憎まないはずがないでしょう…… 私の両親も、そんな世の中に殺されたといっても過言ではないですしね」
「父はかつての大戦で、そこまで活躍こそしなかったものの、その命をかけ、仲間と共に天界を守ったというのに、まさかその守られた連中といってもいい位の連中に恩を仇で返され、殺されるなんてね……」
「自分で言うのはなんですが、実際ひどい話だとは思いますよ」
「そうだね…… 改めて聞くと、本当にひどい話だ……」
「僕も今の天界をとりまく状況は大嫌いだよ。 それこそ虫唾が走る位にね……」
「……」
「今、君が述べた様に、天界にはくだらない人間が溢れすぎている…… 天界だけじゃない! 下界の死んで魂となって来る連中、その中の地獄行きを言い渡されてる奴等も正直救い様がない程の愚かな者も多いし、そんな連中! さっさと魂を滅すればいいのにってさえ思ってしまう自分がいるよ……」
「だけど大王になったら天界の治安や死者の魂の判決、天界と下界の魂の循環のバランス…… 世界の平和と治安を守る為にやる事は山積みだ……」
「だが毎日の様に僕は思ってしまう…… 君に絡んできた者達も含めて『こんなくだらない連中がのさばっている世界に、その身を賭して守る価値なんてあるのだろうか』とね」
「いざ有事となったら、そんな連中も守らなければならない事態だってあるかもしれない……」
「だが正直思うよ…… 二百年前の大戦で父上達が…… 女神様が…… そしてシリウス殿が命懸けでこの世界を守ってくれたにも関わらず、多くの者がその勝ち取った平和の尊さをまるで理解していない!」
「せっかく手に入れた平和も! 人はその尊さを忘れ、慣れて、そして罪を犯す……」
「そう考えると、何だか全部馬鹿馬鹿しく思えてきてね……」
「おまけに僕の事を、一個人としてではなく次期大王としておべっかを使ってくる者達も多い…… それも明らかに自らの出世欲の為にね……」
「…… あなた……」
「それに大王の座を引き継ぐ事はその身に『大王の
「大王の印?」
「なんですか? それ?」
聞いた事もないそのワード…… 無理もない…… 『これ』は天界でも一般には知られていない秘中の秘……
最高神と女神の二人、閻魔一族…… そしてシリウスとグライプスしか知りえない事だ……
「…… ここから先は他言無用で頼む…… それができるなら話そう……」
「どうする?」
「! …… わかりました…… 続けてください……」
「…… わかった」
短い付き合いだが、二人は互いを信頼していた……
王子は彼女を信じて話を続ける……
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