第118話 二人の絆 ⑧

 シリウスはエレインの年齢離れしたその戦闘力に疑問を抱き、アメリアに質問をする。


「アメリアさん。 俺は当時ガキだったからそっち方面はあまり詳しくはないんすけどクルーゼ家、いやローズマン家ってのは代々の有名な手練れを輩出してる武家かなんかなんすか?」


「え? ええ。 そうですねえ…… クルーゼ家は商人の家系で、ローズマン家は確かにそれなりには名の知れた家ではありますが、そこまで言う程とは…… というのも彼女の祖父のダリオン氏は輝かしい武勇をいくつも持っていたみたいで、その背中を見て育った息子、即ちエレインの父親であるトリアム氏も必死に頑張って相応に強くなって諜報部に入れた程ですが、流石にダリオン氏に比べればそこまで突出した力はなかったとの事……」


「ローズマン家全体としても、お二人以外は武をかじってもいなかったみたいですので武家ではなかったと思うけど……」


「そうっすか……」


 エレインの太刀筋…… メチャメチャ勢いに任せた荒い部分が多いが、それでも基本的な部分はしっかりと抑えてある…… ただの喧嘩殺法じゃねえとこをみると、恐らく何かあった時の為に必要最低限は父親が仕込んでたってとこか……


 とはいえそれ以上にまるで獲物を前にした殺気満々の猛獣かの様な猛々しい剣……


 軽く仕込んだだけでは絶対に身につかないであろう『効率的に相手を完全に破壊できる方法を知っている』かの様なプロ顔負けの実戦用の太刀筋……


 仕込まれたものではないとすると、彼女がそれを『実際に振るえてしまっている』って事は……



 …… 生き抜く為…… つまり……




 相当な地獄を味わってきたって事か……




 …… ちっ! 本当に…… 何やってんだろうな…… 天界俺らは……


 天界の現状に改めて憤りを感じるシリウス。


 そして王子とエレインの闘いが始まって約1時間とちょっと……


 片方が一本取ると、すぐ様もう片方が一本取り返す!


 そんな互角の攻防が延々と続いていた。



「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……」

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……」



「本っ当〜にしつこい!」

「こっちのセリフです!」



 …… ここらが潮時か……



「うらあああああああああああ!」

「やああああああああああああ!」


「そこまで!」


「!」

「!」


 大きな声で二人を制止するシリウス。


「はいはい! そこまで~! 今日はもうお終いで~す!」


 手をパンパンと叩いて、二人に終了を強く促すシリウス。


「は? 何言ってるんですか? まだこのクソ王子をシメてませんよ!」


「僕も、もう少し彼女には上には上がいると教えて差し上げて、少しは女性らしくお淑やかにさせてあげたいんですけど!」


「なんですって!」

「なんですか!」


 まだまだ全然怒りが収まっておらず狂犬の様に互いを威嚇するエレインと王子。


「はいはい! だからそこまでだっつーの! 安心しろ、クルーゼ! この勝負は別に期限はねえ! お互い納得するまでやってみな!」


「! …… まあ、そういう事なら……」


「それって彼女しか得しないと思うんだけどなあ……」


「なんです? 『もう参りましたからイジメないで下さい。 お願いします! この通りです! エレイン姉様』って遠回しに言ってます?」


 ブチっ!


「どこをどう聞けば! そう聞こえるのかなあ!」


「なんです! やりますか!」


「望むところです!」


「はいはい、もういいからお前ら! その下りは!」



「すっ……」

「すげえええええええええええええ!」

「金髪のお兄ちゃん超つよーーーーーーい♪」

「エレ姉とおんなじ位つよい人はじめてみたーーーーー!」

「エレインお姉ちゃんもかっこよかったーーーーーー!」


「!」

「!」


 いつの間にかギャラリーが増えている事に驚くエレインと王子。


 二人共、あまりにも集中していたのか全く気付いていなかったのだ。


 あっという間に自分達よりも小さな子供達に取り囲まれる二人。


「あなた達! いつの間に!」


「そうか…… この子達がここに住んでいる……」


「ええ…… うちの子達です」



 子供達の様子を伺うシリウス達……



「ふふ、何だか……」


「ええ……」


「ボロボロですが…… 二人共……」


「少しは良い面構つらがまえになりましたね」


「ふふ、 そうね!」


 子供特有の凄まじい程の勢いで質問攻めにあうエレインと王子だったが困惑しながらも先程までよりも少しすっきりしたかの様な、それでいて時折不器用ながらも笑みをこぼした表情も見せている。



「というわけでお宅の出番だ! 頼んだぜ!ハニエル!」


「りょっ! 了解しました!」


 つか、めっちゃ二人共怪我してんじゃん!



「あの…… 総司令…… 本当に! 本当に! 大王夫妻から許可をとってあるんですよね!」


「アア、モチロンダヨ(嘘だけどね!)」


「ちょっと! 何でカタコトになってるんですか! え? 嘘でしょ!? 嘘ですよね!?」


「大丈夫! 大丈夫だから! 本当に!」


「はあ…… 胃が痛い…… マジで……」


「今度なんか奢るからさ…… 責任はマジで俺がもつから! 」


「というわけで! 明日からも、もう暫く付き合ってくれるね!?」


「ええええええええええええええ!」


「頼む!」


「はあ…… もう…… わかりましたよ……」


「サンキュー♪ 恩にきるぜ♪」


 こうして一行は教会の中に入り、ハニエルの治療術によって、完璧な治療をほどかれるのであった。




 ―― 教会内 午後六時過ぎ――




「どうです? 二人共…… 中々良い腕してるでしょう! こいつ!」


「確かに…… 凄いですね! ハニエルさん! ありがとうございました!」


「…… どうも……」


「いえいえ! 自分は治療士として当然の事をしたまでですから!」


「ところでシリウス。 あなた今晩はどうするの?」


「? どうするって?」


「久しぶりに帰ってきたんだもの! ウチの子達とも、まだちゃんと話した事ないでしょう! 晩御飯食べていきなさいよ! 王子もぜひ!」


「ええ! いや! 今日のところはこのまま帰るよ!」


「なんでよ!」


「いや、こんな長い時間王子を連れ出しちまったから、一回城に帰らねえと!」


「確かに…… ありがたい申し出ですが、僕達父上にも母上にも何も言わずに出てきてしまいましたからね……」


「ちょっ! 王子!」

「あ……」


 気の緩みからか、うっかり王子から衝撃発言が飛び出す形で、暴露されてしまったシリウス。


「! ちょっと総司令! やっぱり許可とってなかったんじゃないですか!」


「呆れた! あなた黙って連れてきたの!」


「いや~、これはその~ 何と言いますかね~…… って王子! バラさんで下さいよ!」


「はは、すいません。 気が緩んだせいか、つい口が緩んでしまいましたね」


「総司令!」

「シリウス!」


「だー! もう! 大丈夫だよ! 『後で』ちゃんと報告しとくから…… はあ……」


 皆にバレてしまった途端に気が重くなってきたシリウス。


「ふふ、大丈夫ですよ、シリウス殿。 僕も一緒に頭を下げますから。 父上の御怒りが沈静化しなさそうだったら、僕が母上に少し甘えたふりして適当な感じで泣きつけば多少はお叱りも緩和されるでしょう」


 中々に凄い事を言い出している王子……


 何だかシリウスに少し似てきてしまっているかの様だ……


「マジすか! 流石王子! わかってらっしゃる! このシリウス! 一生ついていきますよ♪」


「はは、 ええ! お願いします!」


「調子のいい人ですねえ…」

「全くです」

「ふふ、仲が良くて何よりです」


「というわけでアメリアさん。 せっかくのお誘いですが、今日のところはおいとまさせていただきます」


「ですがシリウス殿が育った教会…… 子供の頃の彼の話も聞きたいですし! 今後もできれば懇意にしていただきたいと思っておりますので、また今度! ぜひ晩御飯をご一緒させて下さい!」


「ええ! いつでも大歓迎ですわ! というか晩御飯だけと言わずに、ご都合が着く時はお泊りにでもいらして! ね! 王子♪」


「本当ですか! それはありがたいです! ぜひ今度お願いします!」


「ええ! ぜひ! シリウス! あなたもよ!」


「へいへい……」



 二人が帰ると聞いて、少しだけ物足りないといった表情を影で漏らすエレイン……


 そんな彼女に向け、言葉を送る王子。











「たまに泊まれるのは本当にありがたいからアメリアさんには感謝で胸が一杯だ……」


「なにせ『暫く』は通い詰めになると思うから、毎回往復するのも正直シリウス殿に悪いと思っていましたので……」



「決着はキチンとつけないと…… ですよね!」


「! あ……」


「ふ、ふん! 望むところです!」


 先程のエレインの表情は消え、逆に生き生きとした目に変わっていた。


 そしてそれは王子も同じであった。



「ん! ……」


 顔はそっぽを向きながらも、少し照れ臭そうに、それでも王子に向けてサッと左手を突き出すエレイン……


「! ったく…… 素直じゃないね……」


 彼女の左手を自身の左手で握り返し、握手する王子とエレイン……


 こうしてシリウスと王子はハニエルを自宅まで送っていき、その後に城へと帰っていったのである。



 …… もちろんシリウスは、こってりと大王夫妻に叱られたが王子のフォローと元々はシリウスに一任していた手前、今回は説教『だけ』で済まされ五体満足で解放され、事なきを得られたのであった。


その上で、今後はアメリアに迷惑をかけないのを条件に、彼女の厚意に甘える形で教会でもある程度の無茶も許可が下りたのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る