第117話 二人の絆 ⑦


 こうして教会の外の広場へとやってきたシリウス、アメリア、王子、エレイン。


 そしてシリウスが呼び出した治療士の男の名は彼の飲み仲間でもあるハニエル・サンダース。


 黒い長髪のやせ型で人の見た目的には十代後半位の天使である。


 実年齢は六十三歳と天界ではかなり若手の部類に入る彼だが中々治療士としての腕前は光るものがあって、割と周囲からその将来を期待されている人材だ。


 後に彼は天界でもかなり優秀な部類に入る治療士として天界に貢献する事になるのだがそれ以上に後の世に彼以上の…… というか天界最高の天才治療士の父親となる日がくるとはこの時はまだ誰も予想すらしていなかった……



 そして……



「うし! 二人共準備はいいか?」


「いつでも!」

「いつでも!」


 両者共に、鼻と鼻がくっつきそうな位の勢いで睨み合う!


 それを一旦引き離すシリウスとアメリア。


「離れろ、離れろお前ら! ヤンキーか!」


「エレインもよ!」


 ずるずると首後ろの襟を掴まれ引きずられながらも睨むのをやめない両者。


 お互いの持っている相手への印象は最悪な様だ。


「ったく! 世話の焼ける!」


 二人から下がった場所にもどるシリウスとアメリア。


「そっ! 総司令! ほっ 本当に大王夫妻から許可をとってるんですよね?」


「ふっ 当然だ! (大ウソ)  君は何も心配しなくてもいいからな!」


「…… 本当に?」


「俺が君に嘘をついた事があるかな?」


「割と結構ありますね」


「とにかく! 今回は大丈夫だから!」


 嘘くせえ! この表情かお! 普段総司令が悪だくみしてる時の顔だよ!


 あ~! どうか大事になりません様に! 


「あ~、もうわかりましたよ! 付き合えばいいんでしょ! 付き合えば!」


「流石! 話がわかる♪」


「じゃあそろそろ始めるとするか……」


「それでは二人共、構えて!」


 剣を構える二人……



 ふう…… 最初は彼女がどの程度できるか様子見だな…… いくら腹立つとはいえ本当に女性を大怪我させるわけにはいかないし……



「…… はじめ!」


 様子見を決め込むとした王子に対してエレインは容赦なく真逆の行動をとる!


「やああああああ!」


 一瞬で間合いをつめた彼女は王子に対して高速の四連撃を放つ!


「! なっ!」


 速い! この間合いを一瞬でだと!


 間一髪反応して、全ての斬撃を捌いた王子だったが完全になめてかかってた上での一瞬の出来事で、態勢を崩してしまう王子。


 それを見逃さず左手の剣で王子の剣を下から上へ弾き飛ばしすエレイン!


「はあ!」


 そしてそのまま右手の剣を無防備になった王子の身体に一回転しながら横薙ぎの一撃をその胴に決め、彼を吹き飛ばす!


「ぐあっ!」


「っ~~~~~!」


「! ほう……」


 ガキとは思えねえスピードだな…… こいつは思ってた以上に中々やりやがる。


「はい、私の勝ち。 なんだ、やっぱり大した事ないじゃん!」


ブチっ!


「…… いや、まだだ」


「は? 何言ってんの? 一本とったでしょ!」


 意味がわからないといった様子の彼女に対してシリウスが声をかける。


「お前こそ何言ってんだ…… お前の勝利条件は『王子にまいったと言わせる事』だ。 一本とったとってないは関係ねえんだよ!」


「! はぁ! 何言ってんの! あんた!」


「俺は『最初からそう言った』はずだが? で、王子。 どうなんすか? まさか『この程度でお終い』ってわけじゃないですよね?」


 あえて二人を煽るかの様な言い方をして闘争心を引き出すシリウス。


「あっ! 当たり前です!」


「~~~~! わかったわよ! だったら本当に大怪我すればいいわ!」


 王子は立ち上がり、両者また定位置まで下がっていく。



「両者構え直して……」



 やれやれ…… 所詮は坊ちゃん…… まあ、少しは根性ありそうですが、ああは言いましたが、せめて大怪我だけはさせない様にしてあげますかね……


「はじめ!」

「! え?」


 なんと今度は王子が先程のエレインと同じ様な形で一瞬で間合いをつめる!



 うそ! 速い!


「はあ!」


「ぐっ!」


 高速の二連撃でエレインの二刀を瞬時に弾き飛ばす王子!


 今度は王子が、油断し彼をなめてかかったエレインを追い詰める!


 そのまま王子が彼女の胴を薙ぎ払う!


「はあっ!」


「ぐっ!」


 たまらず両ひざをつくエレイン!


 そして先程の仕返しとばかりに今度は王子がエレインに上から目線で突っかかる!


「いや~、すまないねえ! 大怪我しなかったかな~♪」


 カチン……


「…… いい度胸ですねえ……」


「なるほど思ってたよりはやる様ですね…… では次からはお互い本気でという事でいいですね?」


「もちろんだ…… ガチで相手をしてあげるよ」


 まるで背景にゴゴゴゴゴゴゴ! という圧迫感のある文字が見えるかの様に両者とも静かに、だが完全にブチ切れていた……



「うらあああああああああああ!」

「だああああああああああああ!」


 両者共に今度こそ真剣に真っ向勝負でぶつかり合う!



 ! このガキ! 本当に強い!



 嘘でしょ…… 昨日試合をした死神以上だ! まさかこれ程まで!



 無数の高速連撃を繰り出し合うが、両者全くの互角! 互いに一撃も決められない状況が続いていく!


「すっ すごいわね!」


「なっ! なんて子供達だ! 信じられない!」


「王子はともかく、それに互角に渡り合うなんて! 彼女は一体!」


 あまりの光景に驚きを隠せないでいるアメリアとハニエル。


 そしてシリウスは冷静に二人を見守っていた。

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