第115話 二人の絆 ⑤
アメリアの口からエレインの背負ってしまった悲劇について語られる……
「彼女のフルネームはエレイン・クルーゼ…… そして祖父の名前はダリオン・ローズマン……」
「かつて天界諜報部 死神事務所 第四支部司令として務めていました」
「二百年前の大戦が本格化する前から大王様達や諜報部の方々は徐々に表に現れ始めていた天界の異変に気付き始め、彼も諜報部としてその異変を調査しておりました」
「ですが当時はまだ敵の戦力は未知数、情報も不足していた事もあり、敵方に不覚をとり、囚われ、そして瘴気にあてられ、その魂も改造され異形の者へと変えられてしまいました……」
「そして、敵方も戦力を集めていたのもあり皮肉にも心を失った彼は自身の息子…… トリアム・ローズマンをも拉致して兵隊に変えようと目論見ました……」
「トリアム氏は父であるダリオン氏と同じ第四支部の死神でした」
「父を救出せんと彼なりに必死に調べ、動いていたみたいですがダリオン氏に逆に囚われ窮地に立たされてしまいました」
「幸い、ダリオン氏含め、敵の動向を探っていた諜報部のうちの第二、第三支部の死神達の手によってトリアム氏は救出されました」
「ただその際に、ダリオン氏は死神達に討伐される結果となってしまったのです……」
「それから時は進み、大戦は本格化…… その後の事はシリウス…… あなたもご存じの通りです」
「…… そうだったんですか……」
「確かにあの大戦は『災厄』が無から瘴気を使って生成した手下達も多かったですが、そいつらを使って天界の住人や死神達を拉致して魂を創り変えられていった連中も多かったと聞きます……」
「特に戦闘職でもある死神を最初からベースにしちまえば出来上がる兵隊もその分手強い…… 諜報部の支部の司令を務めていた程の漢なら尚更そうでしょう……」
「異変に勘付き始めた初期の頃、敵の戦力を計りかねていた時期なら、それ級の漢でも後れをとっても何ら不思議ではない」
「諜報部以外の他支部のエース級の奴も結構やられてたって話だし、彼もそのうちの一人だったって事なんでしょう……」
「そして瘴気に当てられ、改造された魂は死んでも二度と転生できない…… 待っているのは消滅だけです……」
「その通りです……」
「くっ! シリウス殿や父上から大戦時の話は何度か聞いてはいましたが…… やはり何度聞いても!」
「ええ…… 胸が痛い話です……」
「話をもどします…… 大戦が終結し、各地や人々の被害や傷跡を癒し、復興していく為に、天界は約二百年という長い時間を要しました……」
「そしてダリオン氏の息子さんであるトリアム氏は、商人として天界の復興にも尽力し、伴侶にも恵まれ結婚をなされた……」
「とても素敵な奥様だったらしく、お二人は幸せに暮らしていたそうです……」
「ですが、それから十年余り…… 」
「ある噂が彼らの周りで囁かれ始めました……」
「あの家族…… 旦那の方は、かつての大戦で敵に改造された男の息子らしい……」
「本人も誘拐され、魂を改造された!」
「今でもじわじわ瘴気に侵されていて、いつ異形の者として自分達に牙を向けるかわかったものじゃない!」
「そういった心ない噂が彼らの周りで広がっていったのです」
「そんな!」
「…… なるほど…… そういう事か……」
あまりに理不尽な話にショックを隠せないでいる王子。
シリウスは、なんとなくその話の結末が予想できてしまっていた……
「勿論! 彼が瘴気に侵されているという噂は根も葉もないデタラメです!」
「彼も含め、大戦に関わった者達は一人残らず天界の治安部と天使達が連携、責任をもって、身体検査を入念に行いましたから……」
「ただ、それでも…… 二百年たった現在でも…… 人々は未だ恐れているのでしょうね……」
「可能性が僅かでも感じられるなら…… 誰かを追いやらずにはいられない……」
「人はいつでも悪魔になれる……」
「本当に一番恐ろしいのは…… 我々天界に住まう者達、一人一人の心の弱さなのかもしれませんね……」
「アメリアさん……」
「…… 心の弱さ…… か……」
全くもってその通りかもしれねえな……
「ああ! ごめんなさいね! 変な事を言ってしまったわ!」
「いえ、アメリアさんが謝る事じゃないっすよ。 よく話してくださいました」
「くそっ! 父上達は何をやっていたんだ! 天界を預かる身でありながら、その様な愚行を事前に防げずに!」
「…… 天界は広いです…… 元々の住人に加え、下界中の死んだ魂達も毎日の様に大量に押し寄せる…… 残念ですが、あのお二方の目の届かないところも多々あります」
「そんな中でもあの夫妻は、少しでもそういった人々の不幸をなくそうと必死に努力しています…… あの二人のそんな姿も実際に俺は数え切れない位に見てきています……」
「この問題はむしろ天界治安部である死神事務所全体…… 特にそこの総指揮を任されている俺の力が未熟で及ばなかったのが最大の原因です」
「そんな! シリウス殿!」
「いえ、それが事実です」
「ですから王子…… 王子も色々思うところがあると思いますが、どうかご両親の事を悪く言うのだけはやめてやってください…… とまでは流石に虫が良すぎるかもですけど、ただ…… 少しでもいい…… ご両親の苦悩も御理解してやっていただけると、ありがたいっす」
「シリウス殿……」
「…… すいません。 シリウス殿…… 無神経な事を……」
「いいんすよ! 王子のお気持ちも、もっともだし!」
「あ~っと、すいません。 アメリアさん。 話の腰を折っちまって!」
「いえ、いいんですよ。 シリウス……」
「また話をもどしますが、どこかから漏れたのかトリアム氏がかつて敵に囚われ、危険な目にあった事が外部に漏れたのです」
「ただ当時から彼含め、生存した被害者の人権保護の為、情報規制をかけていたので、一体どこから漏れたのか……」
「彼も結婚を機に居住区を変え、奥様と御相談の上、念の為に性も奥様の方のクルーゼを名乗っていましたし……」
「彼の過去を知る古い知人から漏れたのか、
「ただ、それからも奥様からの献身もあって、お二人で頑張ってこられたのですが、お二人共その御心を病み、当時五歳だったエレインを残して首を吊り、自殺なさったのです……」
「! くっ!」
「……」
「しかも第一発見者はエレインだったのです…… 彼女の瞳と心には、未だにご両親のその姿が焼き付いているのでしょう……」
「その後も色々ありましたが、トリアム夫妻はその過去の為、両家の親族から絶縁された状態で、それでも互いの愛を貫き通す道を選んでいた為、親戚方は彼女の面倒をみる事を放棄…… そんな一人残された彼女の話を私達が聞きつけ、半ば強引に彼女を引き取ってこの教会で住まわせているのですよ」
「彼女を引き取って、もう七年になります……」
「最初はそれこそひと言も口をきいてもくれませんでしたが、今では不器用ながらでも私達ともしっかりコミュニケーションをとってくれる様になってきています」
「ああやって周りを遠ざける様な態度ばかりとっていますが彼女はここの子達がいじめられたりしていると率先して助けてくれたり…… まあ…… やりすぎな位に相手方を泣かせたりしてもいるのは、我々も手を焼かされているのですが……」
「何だかんだ人手が足りない時は、何も言わずに小さい子の子守りもしてくれていますし、家事なんかも手伝ってくれて……」
「辛い目にあったからこそ…… 誰よりも人の心の痛みがわかる……」
「だからこそ、私達に少しずつですが心を開いてきてくれてるんだと思います」
「本当はとても優しい子なんです……」
「ただ逆に言うと、先程のもそうなのですが、ああいう心ない者達の言動にもまた、誰よりも過剰に反応、反撃してしまうんでしょうね……」
「私達以外の大人はまるで信じていません。 それどころか……」
「自分なんて、どこでどうなろうが別に構わない……」
「そんな全てを諦め、絶望した様な眼をする事が多いんです……」
「そう…… 自分自身の命すら軽視しているかの様な……」
「だけど! あの子にはもっと自分を大切にしてもらいたい!」
「そう考えているのですけどね……」
「…… なるほどね……」
「……」
アメリアの話を一通り聞いて、しばし考え込むシリウス……
王子も考えてはいるが正直、今の話を聞いて憤りを感じすぎて、冷静に考えがまとめられないでいた……
そんな中、シリウスが口を開く……
「…… そういう事なら……」
「アメリアさん。 ここは一旦、俺に預けてみてくれません?」
「あら? 何か良い方法でもあるの? シリウス?」
「うーん、どうすかね…… ただまあ、試してみる価値はあるかもです」
「…… わかりました。 あなたにお任せします。 シリウス」
「ありがとうございます。 そしたら……」
「さあ! 出番ですよ! 王子!」
「ん? …… ええええええええええええええ! 僕ですか!」
「いや、別に全然構いませんけど、僕なんかに何かできるんですか?」
「ええ。 まあ、とにかく! やるだけやってみましょうや!」
そして王子とアメリアは、シリウスから作戦の説明をされるのであった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます