第113話 二人の絆 ③

 閻魔の城からシリウスに車で連れられ約一時間とちょっと……


 目的地が見えてきた。


「ここは…… 教会?」


「ええ。 ! って何だ、ありゃあ?」


 何やら教会の前で言い争っている様子が見られる。



「だ~か~ら~! どう責任とってくれるんです! シスターさん!」


「お宅んとこの小娘に、うちの子達が大怪我負わされちまってんですよ!」


「うちの子だってそうだ! 聞けばそちらの子から一方的に因縁吹っかけられたっていう話じゃないか!」


「俺んとこなんか息子が腕折られてんだぞ!」


 大の男が六人、まくし立てる様に一人のシスターを責め立てる。


「申し訳ありません! あの子には私共の方からきつく叱っておきましたので、どうか今回だけは!」


「いや! 子供とはいえ、厳正に処罰するべきだ!」


「息子達は女の子が相手だからって一切手を出さなかったっていうのに、そちらは暴力を振るうのをやめなかったって言うじゃないか!」


「そっ! そんな! あの子はそんな事をする子では!」


「あ? うちの子達が嘘をついているっていうのか!」


「いっ! いえ! その様な! ですがあの子は何の理由もなく人様を傷つける様な子ではないんです! あの子も怪我を負っていますし!」


「最初から怪我してたって息子達は言ってたぞ! 大方、別のとこでも揉めて暴れてたんだろ! これだから『呪われた子供』は!」


「そんな奴を庇うだなんて、この教会も呪いに侵されてるんじゃないのか!?」



「やれやれ…… 子が子なら親も親ですね……」


「! お前は!」


 教会の中から小さな女の子が溜息交じりにそう言って出てくる。


 エレイン・クルーゼである。


「! エレイン! 出てきてはダメよ! あなたは下がっていなさい!」


「いえ、施設長。 これは私が売られた喧嘩です。 私が決着をつけます」


「何やら騒がしいと思ったら、その後私達を玄関から遠ざけられたから、何が起きているのかと思えば……」


「こないだのクズ共の親族、といったところですか」


「あぁんっ!?」

「今なんっつった! このガキ!」


「クズと言ったんですよ。 クズ親の皆さん」


「エレイン!」


 乗り込んできた親達の怒号もシスターのお叱りも無視してエレインは続ける。


「先日も私が留守の際、文句を言いがてら治療費をたかりに来てたみたいですね」


「自分の身内の意見だけを信じて相手側の意見は聞く耳持たず…… おまけに男連中が寄ってたかって大勢で女性のシスター、一人相手に一方的に捲し立てるなんて……」


「だからあんなクズガキ共しか生まれてこないんですよ!」


「なっ! なんだと!」

「なんて態度の悪い! 人様の子をクズ呼ばわりとは!」


「クズにクズと言って何が悪いんですか? それとその言葉はあなた達親にも向けているものですからね。 相当頭が悪そうですけどちゃんと私の言葉、理解できていますか?」


「こいつ!」

「言わせておけば!」


「話があるなら当時者である私に直接すればいいでしょう! 関係ない施設長にこれ以上絡むのはやめて下さい!」


「それとも…… これだけいきがっている割には『呪われた子供』に直接絡む度胸もないのですか? だとしたらつくづく情けない大人達ですね」


「このガキ!」

「っ!」


 エレインの執拗な挑発にたまらず相手方の一人の大男が右手で彼女の胸倉を掴みかかる!


 胸倉を掴まれ、その小さな身体は宙を浮いているが彼女は左手をポケットに入れ、仕込んでいる物を握りしめる!


 その時!


「はい、そこまで~!」


「痛てててててててて!」

「だっ! 誰だ! てめえ!」


「あなたは…… シリウス!」


「ようアメリアさん! なんか面倒な事になってんな!」


 エレインを掴んでいた大男の左手首の方を捻り、握りしめるシリウス。


 その痛みで、たまらずエレインを掴んでいた右手を離す大男!


「ったく、おたくら揃いもそろって大の大人が何、子供相手にムキになって手をあげようとしてんだ……」


「つか、ガキ共の喧嘩にいちいち親が口挟んでくんじゃねえよ! みっともねえ!」


「これ以上騒ぐようなら…… 出るとこ出る事になるぜ……」


「うるせえ! てめえには関係…… ん? シリウス? ……」


「おっ おい…… シリウスって、もしかして……」



「そう。 その方は天界治安部を統括、全死神事務所の総司令を務めているシリウス・アダマスト殿だ」


「あまり彼を怒らせない方が身の為だと思うよ」


 その名を聞いて段々と顔色が青くなっていく男連中に王子が追い打ちをかける。


「あぁ! なんだこのガキは…… ! 」


「! まっ! まさかあなた様は!」


 さらに顔が青くなるどころか、段々と恐怖で震えてくる男達。


「ま、そういう事だ。 こちらもある程度は事情は把握しているつもりだ」


「こっちの子もかなり怪我を負わされているし、今回は痛み分けにしておくんだな」


「それともこの子の怪我がお宅らの子共達の仕業じゃないってんなら付近の監視カメラとか目撃者を調べたり、どうしてもってんなら諜報部を使ってガチで調べてやってもいいぜ」


「その時の結果次第ではお宅らの立場が相当危うい事になるが、それでも問題ねえなら今回の件、俺が間に入って事実関係をはっきりさせて、非がある方に相応の処置を下してやるよ」



「どうする……」


 凄みを利かせるシリウス。


「うっ!」

「そっそれは!」

「ま、まあ私達も少々言い過ぎましたかな!」

「そっ! そうですな! 所詮は子供達の喧嘩! じゃれあいみたいなものでしょうし!」

「今回の件はお互い水に流すとしましょうか!」

「そうしましょう! うん! そうしましょう!」

「そっそれでは皆さん、私達はこれで……」



「あ~ ちょっと待った…… お前さん達に一つ言い忘れてた事があったわ」


「!」

「!」

「!」

「!」

「!」

「!」


 あまりにも分が悪すぎると判断し、急いで逃げ帰ろうとした男達であったが、そんな彼らをシリウスは止め、警告をする……


「なっ、なんでしょう……」


「いや、この教会なんだけど、実は俺にとっては実家みてーなもんでね……」


「最近忙しくて全然顔を出せちゃいねーし、今この教会が預かってる子供達とも俺はほとんど直接的な面識はねー……」


「だが実家で預かってるここの連中は、俺にとっては兄弟みてーなもんだ」


「もし万が一…… 俺の目を盗んで、この子らに妙な真似するのは勿論、この教会に嫌がらせの類や因縁を今後吹っかけたりしてきてみろ…… そん時は……」











「潰すぞ…… お前ら全員…… それも徹底的にな……」


「ひっ!」

「!」

「はわわわ!」



「ま、そういう感じなんで、よろしく頼むよ♪」


「お子さん達にも! よく言って聞かせておいて下さいね♪」


「はっはいいいいいいいいいいいいいい!」

「しっ! 失礼しましたあああああああ!」

「おっおい! 置いてかないでくれええええ!」


 シリウスの警告が効いて、男達は一目散に逃げていった……



「やれやれ…… ま、こんだけ言っときゃ、とりあえずはもう大丈夫だろ」


「シリウス! ありがとうね! もう! こんなに立派になって!」


「はは。 お久しぶりっす、アメリアさん! なんだか大変だったみたいですね」


「そうよ! それとあなた! 通信や手紙だけでなく、たまには直接顔を見せにきなさいよ!」


「いや~、すんません。 俺もそうしたいとこなんすけど、中々時間がとれなくて!」


「ふふ! 冗談よ、冗談! いえ、冗談でもないのだけれど、あなたが忙しいのはわかっているわ」


「そう言ってもらえると助かりますよ」


「あ、そうそう、シリウス。 いい加減、彼女はできた?」


「久しぶりに帰ってきて早々に、何言ってんすか! できてないすよ! そんなん作る暇もないし!」


「だってあなた滅多に帰ってこないんだからそういう事は毎回チェックしたくなるじゃない!」


「あんまり仕事にかまけてばかりいるとあなた一生独身よ!」


「ほっといて下さいよ! それより今の連中……」


 久しぶりの顔を合わせての再会を喜ぶ二人であったが、早々に切り上げ、話題は今追い払った男連中の話になる。


「ええ。 こないだあなたが通信で教えてくれた件の事で…… 全く! エレインこの子ったら何も教えてくれないんだもの!」


「ほら! エレイン! あなたからもちゃんとお礼を言いなさい!」


「…… 別に」


「助けてくれなんて誰も頼んでないし……」


「それにあんな連中、私一人でもどうにかなったし……」


「エレイン! なんて事言うの!」


「…… そのポケットに仕込んでいる物を使ってか?」


「!」


「! エレイン! ちょっとそれ出してみなさい!」

「! ちょっ!」


 アメリアはエレインの左ポケットの中にある物を無理矢理出させる!


「これは!」


 出てきたのは少し長めの果物ナイフだった……


 慌ててナイフを取り上げるアメリア!


 あの時シリウスが間に入ってこなかったら、大惨事になっていた事だろう……


「エレイン! あなた何てものを!」

「もう! うるさいな!」

「エレイン!」

「お兄さんも! 随分と余計なお節介が好きなんですね!」


「…… でもまあ…… 一応礼は言っておきます……」


「ありがと……」


 ムスッとした顔だが、一応筋を通したいのか礼を言うエレイン。



 へえ…… 一応、筋は通すのか……


 まあ、こんな不機嫌そうに礼を言われるとは思わなかったがな。


「いいって事よ…… だけどあんま、アメリアさんを困らせんなよ」


「ふん! わかってますよ! それじゃ……」


「あっ! こらエレイン!」


 アメリアの小言から逃れる様にさっさと奥の方へと走って姿を消すエレイン。




 …… というか僕の事は完全無視か!


 エレインにスルーされた事に若干イラ立ちを感じる王子。


 実際は無視したというより眼中になく、素で気付いてもらえなかっただけなのだが……


「もう本当にあの子ったら…… ごめんなさいね、シリウス! あの子、素直じゃなくて!」


「でも本当はとっても良い子なのよ。 許してあげてね!」


「はは、気にしてませんよ」


「ありがとう! って、ああ! そうだったわ! 王子様!」


「お見苦しい所をお見せしたばかりか挨拶まで遅れてしまって! 本当に申し訳ございません!」


「私、この教会の施設長を務めていますアメリア・ジーンと申します。 以後お見知りおきを!」


「ああ! いえ! どうかそんなかしこまらないで下さい! 王子といってもまだまだ若輩者ですし! 何やら立て込んでいたみたいですし!」


「えっと…… アメリアさんとシリウスさんはお知り合いだったんですか?」


「ええ。 というかこの子もこの教会ここ出身なんですよ」


「! それじゃあ、シリウスさんが大戦時に身を寄せていた教会っていうのは、ここの事だったんですね!」


「ええ。 その頃からアメリアさんはここの施設長を務めていて、色々面倒みてもらってたんすよ」


「そうだったんですね……」


「アメリアさん…… シリウス殿には、僕も日頃から大変お世話になっておりますので……」


「ここが彼にとって大切な場所で、ここの方々が彼にとって家族や兄弟の様な存在なのでしたら、僕にとってもここは大切な場所です」


「どうか僕に対しても楽になさって下さい。 お願いします!」


「ああ! 王子様、そんな…… いえ、そうですか……」


「それではお言葉に甘えさせていただきましょうかね……」


「王子…… お心遣い感謝いたしますわ…… 何もない所ですけど、どうかゆっくりとお寛ぎ下さいね」


「! はい!」


 ここまで言って来てくれているのを無下にするのは逆に失礼…… そして王子の立場や心情も何となく察した上で、彼の心遣いに応える事にしたアメリアであった。


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