第110話 あの方の居場所……

 ぬかった…… 嫌な予感の正体はこれだったのか……


 しかもこれは…… 正直…… 助かる気がしませんね……


 地上の皆を巻き込まなかったのは不幸中の幸いですが……


 しかし…… 奴と闘ってから一太刀も浴びていないのに…… 一体どこから……


「いつの間に毒に侵されたのか不思議に思っているって表情かおだね♪」


「言っておくけど、よくあるパターンでナイフに毒が塗られているとかそういう類の物ではないよ♪」


「そもそも君が侵された毒は…… 僕自身なんだからさ♪」


「!」


「正確に言うと、毒物…… に限らずウイルスや細菌の類もだけど、長年あらゆる場所でそれらを入手しては『僕の瘴気と体内でブレンドしては蓄積してきた』って感じかな♪」


「僕自身は『災厄』の思念体…… そもそも身体の大部分が他の雑兵共とは比べ物にならない規模の瘴気で構成されているのだから、イチイチ抗体の類なんか僕には必要ないんだよ♪」


「だからいくら毒を盛っても力を増す事はあっても自滅する事もないしね♪」


「瘴気を纏った状態の攻撃で見えない毒を撒き散らす事もできるし、逆に君が攻撃の際、瘴気を強く解放、纏った状態の僕に触れるだけで侵されてしまう事もある」


「他にも返り血とかなんかでもね♪ 例えば…… さっき僕の首を斬り飛ばした時に君の頬や手に着いた僕の血とかからもね♪」



「…… そういう…… ごふっ! …… ! ことですか!」


 ぐっ…… 意識がっ……


「あは♪ 随分キツそうだねえ! 無理もないか。 僕の毒物は超強力だからね♪ はたして後、何分持つかな♪」



 …… 動け…… まだ…… 


 震えてほとんど力も入らなくなっていた左手だが、それでも必死に自身の通信機に内蔵されている一つの機能を起動させるボタンを押すエレイン!


 すると通信機を中心に、二人の周りに半径五十メートルの隔離結界が展開される!


「! はは♪ 健気だねえ! せめて周囲に感染しない様に僕を閉じ込めようって気かい! こんなショボい結界、後でいくらでも壊せるのに」


「無駄な努力、ご苦労様♪」


 ゆっくりと彼女に近づいていくキース!


 そして膝をついている彼女の前に辿り着くとその顔を容赦なく蹴り飛ばす!


「ぐっ!」


 仰向けで倒れる彼女に今度は左手に狙いを定め、そのまま勢いよく自身の足を振り下ろす!


「!!! あああああああああああっ!」


 左手の骨を粉々に砕かれ絶叫するエレイン!


「良い声で鳴くねえ♪ さっきまでの勢いはどこに行ったのやら♪」


「正直まともに闘い続けてたら僕じゃあ君にはとても敵わなかっただろうね♪」


「どんな気分だい? 自分より強さで劣る敵にこんな形で嬲られる気分は♪」


「ちなみに僕は最っ高の気分だよ!」


 そう言って今度はエレインの腹部を思いっきり蹴り飛ばすキース!


「ぐふぁっ!」


 更に大きく吐血するエレイン!


「あらら♪ 内臓が破裂しちゃったかな? ごめんごめん♪ どうも手加減てのが苦手でさ~♪」


「まだ死なないでよね~♪ もっとギリギリまで僕を楽しませてよ♪」


 エレインの髪を左手で掴み、これでもかという位に狂気に満ちた笑顔で彼女を自身の顔の前まで持ち上げる。


 だが、ここまでボロボロの状態であるにも関わらず、キースに向かってエレインは気丈にも血の唾をペッとその右頬に吐きつける!



「…… へえ……」


 笑顔の裏に怒りを滲ませるキース……


「…… 少し…… 色男になり…… ましたよ」


「あは♪ それはどうも!」


 エレインの顔面を地に向かって容赦なく叩きつけるキース!


 ますます血塗れになっていくエレイン……


 しかしそれでも…… 意識が途絶えそうになりながらも、彼女は心が折れず、地に伏したその顔をずらしながらも、鋭い目つきでキースを睨みつける!


 彼女の闘志は少しも衰えてはいなかった。




 …… こいつ…… ここまでされて、まだ心が折れないってのか……


 気に入らないね…… 死にかけのくせに……


 どうしてまだそんな眼ができる!


 段々とイラ立ちをつのらせるキース。



「つまらないね…… もっと怯えなよ! 恐怖に打ちひしがれなよ!」


 またも彼女の顔を思いっきり蹴り飛ばすキース!


 もはやエレインの顔は真っ赤に染め上がりすぎて、表情が確認しづらい位にまでなっていった……



「あ~あ…… 興覚めだよ。 もう殺しちゃおっかな……」



「! …… なんだと……」


 後方へ吹き飛ばされたエレインであったが…… 何と今度はゆっくりと立ち上がって見せたのだ!


 普通ならとっくに息絶えているはずの傷を負いながらも……


 血まみれになりながらも…… 何度血反吐を吐きながらも…… それでも起き上がってきては睨みつける彼女のその不屈の精神力は追い詰めている筈のキースに一種の恐怖という感情を覚えこませる!




 イカレてんのか! この女!

 どうしてその傷で起き上がってこれる!

 どうしてまだ生きている!

 どうしてまだそんな眼をしていられる!




 エレインの眼はまだ死んではいない……


 ふらつき、いつ倒れてもおかしくない身体で、それでも真っすぐに眼前の敵を捕らえ続けるエレイン!


 圧倒的優位に立ちながらも彼女のその気迫にキースの左頬に汗が滴る……



「…… わからないね…… どうしてそこまでムキになるのか……」


「いっそもう諦めて、素直にくたばった方が君にとっては遥かに楽だろうに……」





「…… この城は…… 大王あの方が帰ってくるべき大切な居場所……」


「あの方の居場所は…… 死んでも守り抜く……」


「あの方の…… 脅威も全て排除…… 少なくとも……」


「今…… この場であなたを…… 野放しにするわけには……」


「死んでも…… できませんね……」




「…… はは…… はははは! 何を言うかと思えば!」


「大した忠誠心だね! そんなになってまでまだ大王に尽くそうとするなんて♪」


「まさかとは思うけど彼に惚れちゃってるのかな? かつては『神速』の勇名で謳われていた君も、なんだかんだでやっぱりただの女の子なんだねえ♪」



「それとも……」



「かつての罪滅ぼしのつもりなのかな?」


「!」


「僕らの情報網を舐めないでもらいたいな♪」


「……」


 エレインの背負ってしまったもの……


 それは大王と彼女が初めて出会った頃にまで遡る……

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