第108話 キース・マドックの正体!

 グランゼウス要塞 正門前――


「はあああああああああああ!」


 魔女であると同時に、無限流体術免許皆伝の諜報部室長 久藤雫。


 その圧倒的な格闘術によって無数の敵兵を次々と撃破していく!


「ぐああああああああああ!」

「ぎゃあああああああああ!」


 そして目の前に群がっていた最後の一人の胸に掌底を入れ、そのまま捻りを加える!


「はあっ!」


 次の瞬間! 敵は遥か後方へと吹き飛ばされる!


「がっ!」



「ふう…… ったく次から次へと!」


「久藤室長!」


 そんな彼女に通信にて報告を入れる者が一人。


 諜報部 ジーク・スタンバート副室長だ。


「ジーク副室長! どうしたの!」


「たった今! 閻魔の城のキール司令より通信が入りました!」


「例の男…… キース・マドックが閻魔の城にて出現! 最高神様の命を狙うもこれを阻止! 現在はエレイン殿が奴を抑え込んでいるとの事です!」


「! やはりそうきたか…… 開戦時に舐めた態度をとってきたから、できればこっちにきてもらいたかったけど……」


「そしたら私がキースあのクズをバラバラに引き裂いてやったものを……」


 凄まじい怒りをその顔に滾らせる久藤。


 どうやらエレインもそうだが、彼女はキースの開戦時の挑発的な『挨拶』にまだ怒り心頭の様であった。


 もっとも、その後同じく『挨拶』と称して既に倍返し済みなのではあるが……



「くっ、久藤室長! 大丈夫ですか!」


 通信越しに彼女の怒りが伝わったのか慌ててなだめるジーク副室長。


「あらやだ、ごめんなさい。 副室長。 『少しだけ』感情的になってしまったわ♪」


「もう大丈夫よ♪」


「は、はあ…… それならいいのですが……」


 何故か昔から、天界の女性陣は怒ると本当におっかないんだよなあ…… 特に室長とエレイン殿は……


「ジーク副室長?」


「はっ! はい! え~と、大丈夫でしょうか? 閻魔の城は!」


エレインさん彼女が対応しているなら大丈夫だとは思うけど…… マクエル君もいるし……」


「それに本気を出した彼女には正直、私でも勝てるかどうか怪しい位よ……」


「キース・マドックがどれ程の使い手かは知らないけど、それでも彼女が後れを取るところはあまり想像つかないわね」


「そ、そうですか!」


「ええ。 また何かあったら逐一連絡を! 私はもうしばらく敵の数を減らすわ!」


「了解致しました!」




 …… とはいえ…… 何故だろう……



 さっきから、ずっと…… 嫌な予感が拭えない自分がいる……



 エレインさん…… どうか気を付けて……




 閻魔の城 中層階の一角――



 対峙するキース・マドックとエレイン・クルーゼ。



「エレイン・クルーゼ…… 五百年前までは零番隊に所属し、数々の任務をこなし、当時の次期総長、もしくは諜報部全体を統括する室長……」


「九十年前にも空席になった総司令の席等、数々の部署から推薦の話が来ていた程の天界中が認める実力者……」


「にも関わらず、その全てを断り続け、当代が閻魔大王の座を先代から受け継いだ事を機に零番隊を脱隊…… 前線での舞台から離れ、彼を傍で支える為だけに、その秘書、補佐となる道を選び、周りをゴリ押しで納得させ、その座に居続けた、ある意味で君も伝説となっている死神の一人……」


「どう? よく調べられているでしょう♪」


「ほう…… 私なんかの事まで随分細かく遡って調べているみたいですね」


「ストーカーの才能がありますよ…… 気持ち悪くて、とっとと殺したい位にね」


「ふふ♪ 怖い怖い♪」



 傷口が、もう全て再生している……


 銃で撃ち抜いた額も、まともにその身で受けた手榴弾の爆撃も……


 粉々に砕いた筈のアバラも何事もなかったかの様に……


 桁外れの再生能力…… やはりこいつは……



「…… 一つ、確認しておきたい事があるのですが……」


「あなた…… かつての『怪物』…… いえ、『災厄』と言った方がこの場はわかりやすいですか……」


「大体想像はついていますが、『それ』とどういった関係ですか?」


「ふふ♪ 君の…… いや、君達の想像通りだと思うよ♪」



「僕の正体、それは……」




















「かつての『災厄』が生み出した分身であり思念体…… といったところの存在だよ♪」


「やはり……」


「前大戦の後…… 災厄はそのほとんどの力を失ってしまったが為に、長い年数をその傷と力を癒す為に、異空間にて眠りについた……」


「その間、こっちの世界で様子を探りつつ、今回の大戦に使えそうな駒や天界側の戦力含めた情報等調べる為の密偵役として、僅かに残っていた力を使って、僕を生んでこっちの空間に飛ばしたのさ♪」


「もっとも、残り香の力で生まれた僕も大した力を持っていなかった」


「多分生まれたばかりの僕は、死神の一般兵一人にも歯がたたないどころか瞬殺される位の力しかなかったから、僕もしばらくは己の身の安全を確保する為に、最初の百年位は天界の住人たちの負の概念等をちょっとずつ取り入れ、自身の瘴気を高め、僕自身を強化する事に専念したけどね♪」


「当時の諜報部もそれなりに優秀だったから弱いままで下手に動きまわるのは危険極まりなかったし♪」


「まあ、力を蓄え、いざ本格的に探りをいれようとした矢先に、今度はアルテミスと雷帝も目覚めたから、あまり不用意な事は中々できなかったけどね♪」


「ま、それでも隙をついて好き勝手動かさせてもらってたけど♪」


「なるほど…… 大方予想通りですね」


「先程。最高神様とイステリア様から聞いた『かつて感じた気配に限りなく似た気配』…… それに加えて、あまりに狂気的な数々の犯行に、その異常なまでの速さの再生能力……」


「分身か思念体…… もしくは眷属の類のどれかだとは思っていましたが……」


「はは♪ 流石にヒントを出し過ぎていたかなあ~」


「ま、本格的に動き出してからは別に隠してもいなかったけど♪」


「これでわかってくれたかな? 先程の凄まじいまでの攻撃を受けても、僕の身体には何の意味もなさないって事が♪」


「ええ、その様ですね…… 恐らくあなたを倒すには『災厄』に対する同じ手法……」


「即ち身体のどこかにある『コア』を直接破壊しないといけない……」


「そういう事ですね」


「! 貴様……」


「奴の思念体であるあなたも、詰まる所攻略法は同じ…… 劣化コピー版なら、むしろ私一人で十分ですね」


 挑発的な言葉を投げ続け、無駄だとは思うが、あわよくば隙を作ろうとするエレイン。


 キースもそれを理解しているが、それでも流石にイラ立ちが表れ始めていた。


「本当に減らず口を……」


「だが半分正解だ…… 僕の身体の中にはオリジナルの彼と同じく『核』が存在し、そのおかげでこの再生能力が働いている……」


「逆に言えばそれさえ潰せば僕は死ぬ…… だが……」


「もう半分は不正解かな~ 何故なら……」


「君に僕を倒す事など不可能だから♪」


「ふっ ならここで試してみましょうか」


 自身の武装…… 小型の銃剣を二刀抜き、銃口の下の部分に、霊力で剣状の物質を顕現させ、構えるエレイン……


「ふふ♪ 銃剣の二刀流…… 剣の部分は固定の物質ではなく使い手の霊力で威力が左右される出し入れ可能な霊的物質タイプか♪」


「奇遇だね♪ 僕もスピードには自信がある上に獲物も二刀流なんだよね…… 銃の機能はないけど♪」


 キース・マドックも、まるで血の色を連想させる禍々しい紅黒い二刀のナイフを取り出し、そして構える……


「つまらない先入観を与え、隙を作ろうとしても無駄ですよ…… あなた方の中には身体の構造も変化させる個体がいる…… 恐らくあなたも…… 場合によっては二刀どころでは済まないでしょう」


「あは♪ バレてたか! やはり相当に頭が切れるみたいだね……」




「ちょっと…… イラついてきたよ……」


「おや、私もですよ…… もっとも、こちらはちょっとどころではないですがね……」


「もう聞きたい情報は聞きました…… ですので……」



























「もう、とっとと死んでください」


「君がね♪」



 次の瞬間!


 二人が一瞬で間合いを詰め、互いの武器をガキィィンと重ね合う!



「ほう……」

「やっぱり、イカれた速さだね♪」


 そして二人は姿を消す…… 正確には目にも映らないスピードで仕掛け合う!


 互いの姿が映らないまま豪快な衝撃音をまき散らす!


 そして周辺の壁や床も大きく弾け飛びつつ、超高速の攻撃を繰り出し合う二人!


 二人の闘いが遂に始まった!

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