第107話 動く! キース・マドック!
午後六時半頃……
グランゼウス要塞が、ドラゴンに襲われていた時刻……
そして天国エリアで、黒崎チームが追っ手を撃退したのと、ほぼ同時刻……
閻魔の城でも要塞方面と同様に巨大なドラゴンが猛威をふるっていた……
ニセ大王軍団を一掃したエレインが周りの状況をフォローしつつ、ドラゴンを牽制しているがこちらも、要塞方面の霧島恭弥と同じく、敵の数に押され始めた周りの援護の片手間では牽制までが精一杯の状況に陥っていた……
マクエルも反対門方面の守りですぐには来れない状況であった。
「ちっ! たかが少しデカいだけのトカゲの分際で好き勝手に暴れまわって…… 本当に迷惑ですね!」
「こっちはまだまだストレス発散し足りないのに!」
あれだけニセ大王をボコボコにしたにも関わらず、物足りないといった様子のエレイン。
そこに加えて予期せぬ巨大獣の来訪で彼女も少しイラ立っている様子だった。
しかし、そんな中でも二刀流の小型銃剣で戦場を駆け巡りながら、城の犠牲を最小限に抑え込もうとするエレイン!
彼女のおかげで城の正門側は何とか均衡を保つ事ができてはいたが、やはり時間がかかればかかる程に、城の被害が広がっていってしまう!
くっ! メアリーさんも手一杯! このままでは!
…… ん? ……
その時、何かを感じ取るエレイン。
一方、管制室では……
そこで黙って状況を見守る人物が一人……
女神イステリアである。
そして遂に彼女も動く!
「……」
「キール司令。 一瞬、席を外します。 父上の守護を頼みますね!」
「! イステリア様自ら! 了解致しました! お任せ下さい!」
「父上…… 申し訳ございません。 すぐにもどってまいりますので……」
「かまわないよ、イステリア。 気をつけていってきなさい」
「はい!」
父である最高神に一礼した後、彼女は空間移動で屋上に出る!
「やれやれ……
PSリングから自身の巨大な杖を召喚し、右手で持ち構えるイステリア!
そして彼女は自身の気を高め始める!
「はあああああああああ!」
正門前にいるドラゴンの首、両腕、胴体、両足、尻尾の部分に巨大な青い長方形の物質が現れ、その対象の身体をすり抜けている形で水平に固定される!
「お仕置きが必要ですね……」
イステリアが杖をドラゴンに向けてかざすとその先端の部分が光り輝く!
それに呼応するかの様に、長方形の物質も光り輝く!
「さようなら……」
次の瞬間!
ドラゴンの身体が、その物質がはまっている部分に合わせて両断される!
「ギャアアアアアアアアアアアア!」
イステリアが召喚したその物質は空間移動の出入り口に使う物質と同質の物であった。
そこを例えば別の物質や人物が跨いだ状態等で空間を閉じようとすると、そこにある存在は押しのけられ、消滅する。
つまり! タイミングを合わせれば何でも切断可能な最強の刃物となるのである!
見事なまでにバラバラにされ、絶命したドラゴン……
女神の一柱としての実力をまざまざと見せつけたイステリアであった。
「おお! 流石はイステリア様!」
「おおおおおおおおおおおおおおお!」
「おおおおおおおおおおおおおおお!」
一気に大歓声が上がり、同時に士気も上がる死神達!
軽く手を振る事で皆に応えた後、父が心配な彼女は急いで管制室へともどる。
だが、今始末されたドラゴンも実はただの捨て駒に過ぎなかった……
そして、敵軍の物量的配置は全て『あの男』の計算通りによるものであった……
エレインやマクエル含む、手練れを一時的に封じ、否応なくイステリアを引っ張り出す事で最高神の最強の守護者を一瞬でも引き離す事が狙いだったのだ!
そして遂にその毒牙が最高神に向けられる!
凄まじいスピードで突如、死角から管制室に障壁と窓を突き破ってくる人影が一人!
『真なる選別者』の一人! キース・マドックである!
「! 貴様は! させるかぁぁぁ!」
すぐさま銃を構え正確無比な射撃で早撃ちするキール・スタイン司令!
それを動きを一瞬止められながらも躱すキース! だが、構わず最高神の首を狙う!
が! その一瞬の隙を狙い、素早く後方から右腕の関節をきめた形でキースの頭を左手で掴み、身体ごと抑え込む事に成功するキール!
「そこまでだ!」
「! 良い動きだね♪ けど、ざ~んねんでした♪」
なんと! 抑え込んでいたキース・マドックがそのまま消滅してしまった!
「なっ!」
まさか!
「こっちが本物だよ~♪」
反対側の窓からもう一人! それを突き破ってきたのは本物のキース・マドック!
「しまった!」
「最高神!
「させる訳ないでしょう…… クズが!」
同じく窓を突き破ってその右足の飛び蹴りで、ベキベキベキィ! と、キースのアバラを砕きながら、そのまま管制室の壁とその先の通路の壁をも突き破り、キースを最高神から引き離したのはエレイン・クルーゼであった!
「がはあああっ!」
そのまま空中でキースの髪を即座に掴み銃口をガっと額に当てる!
「死ね!」
躊躇なく額を撃ち抜いたエレインの猛攻はまだ終わらない!
そのまま縦に一回転しながら踵落としを入れる事で床に叩きつける!
あまりの衝撃に床も一枚貫通して、下のフロアに叩きつけられるキース・マドックの身体!
さらにそこに横たわった彼の身体に、二つ程手榴弾が落とされ、轟音と共に大爆発が発生する!
着地するエレイン……
「……」
「父上! ご無事ですか!」
ここでイステリアが管制室にもどってきた!
「ああ、何ともないよ。 皆のおかげだ。 イステリアもありがとう!」
「キール君もありがとう」
「そんな! ありがたき御言葉! 身に余る思いです!」
「父上…… どうか危ない真似はこれっきりにして下さい!」
「まさか『ご自身を囮に使う』だなんて!」
「はは! 皆が頑張っているのに私だけ何もしない訳にはいかないのでな」
「お前も気付いていただろうが、あのドラゴンが現れてから、『かつて感じた気配に限りなく似た気配』を感じたのでな……」
「ええ…… 完璧に気配を隠していたので他の者達は気付かなかったみたいですが……」
「うむ。 我々ですら捉えきれない程に完璧に…… な」
「だが我々は前大戦でそれに似た気配を肌で感じた経験があったからこそ、気配をはっきりと感じずとも、違和感程度は感じる事ができた……」
「だからお前の思念波を使って、何人かに奴をおびき出すための芝居を打ってもらったわけだが……」
「だからといって父上! もうこんな作戦は勘弁して下さい!」
「少しは最高神としてご自愛下さい!」
「わかったわかった! もう無茶はしないよ!」
「本当ですわよ! 全く!」
少し泣きそうになっているイステリア……
女神三姉妹の中でも、有事の際は父である最高神の守護を任されている存在。
余談だが少しファザコンの気質がある彼女にとっては気が気でなかった作戦なのだが、父親にゴリ押しされてしまったのだ。
まあ、実際キースを炙り出すには現状この手しかなかったのだが……
そしてキール司令はエレインに状況の確認の為、通信を入れる!
「どうですか、エレイン殿! 奴は仕留める事ができましたか?」
冷静に爆煙の中の先を見据えるエレインだったが……
「…… 残念ながら、そう簡単にはいかなかったみたいですね……」
「他も手一杯…… ここは私が始末をつけます…… キール司令、引き続き、全体の指揮をお任せします」
「! エレイン殿! しかし!」
キース・マドックは『真なる選別者』の中でも最も不気味で異質な存在……
いくらエレイン殿でも、たった一人であの化け物とは!
…… だが何をやらかすか読み切れない部分がある故、イステリア様をまた最高神様から離すのは極めて危険!
他も確かに手一杯…… くそっ!
ここは彼女に頼るしかないか……
「…… いや…… わかりました……」
「なるべく早く戦況を優位に持ち込み! 援軍を送りますので!」
「どうかそれまで、持ちこたえて下さい!」
「ええ。 よろしくお願いします! といっても、その前に片付けるつもりですが……」
「くく…… 清々しい位に、君は容赦がないねえ…… 今のは相当に痛かったよ……」
信じられない事に! あれだけの攻撃を受けたのにも関わらず、そこまで効いていないかの様にゆっくりと立ち上がるキース・マドック!
「アバラをへし折られ、頭を撃ち抜かれ、ついでに爆撃を受けても無事だなんて、随分と変わった方ですね…… 控えめに言って気持ち悪いですよ」
「はは! きつい性格してるなあ~♪ 流石の僕も傷ついちゃうかも~♪」
「それにしても……」
「
「常識外れのそのスピードと脚力……」
「かつて『神速』の名をほしいままにしていたのは伊達じゃないみたいだねえ……」
「古い呼び名を…… 私には過ぎたものですよ」
不気味な気配の男 キース・マドック!
対するは『神速』のエレイン!
今後の閻魔の城の戦況を、左右しかねない二人の激闘が今、始まろうとしていた!
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