第103話 史上最強の姉妹喧嘩!!
そこは漆黒の空間…… 中世の宮殿を彷彿とさせるかの様な、それでいて、まるで延々と広がるかの様な広大な空間……
二人の女神はそこで対峙していた……
「あなた一人ですか? アルセルシア?」
「ああ、当初の予定では閻魔兄妹と三人、もしくは兄の方とで来る予定だったんだが、色々あってな……」
「なるほど…… 剣神はレオンと…… 当代は何か不測の事態の対応…… 恐らく
「相変わらず察しがいいな。 まあ、二人共後から来るとは思うが」
「それより姉者、一応確認だが…… 姉者の中に
「ええ…… 全てあなたの予想通りで合っていると思いますよ…… 我らが今まで行ってきた事も、世界を救いたくばこの私を倒し、奴を滅さなければならないという事も」
「
「ありません。 我らの魂魄は瘴気によって無理矢理、形を成しているにすぎませんし、そうしてから一〇〇〇年以上も経過しています…… この戦がどう転んでも、我らの意志と魂は消滅します」
「我らはもうとっくに、滅んでいるのですよ……」
「これだけは、何があっても変えようがありません」
「ですので情けも遠慮も不要…… 本当に大切なものを守りたいのなら……」
「全力で! 死に物狂いでかかってきなさい!」
決死の覚悟をその表情に纏い、剣を抜くアルテミス……
そして、姉のその想いに応えるかの様に、アルセルシアも剣をとる!
「そうか…… よくわかった……」
「ならば…… これより先は剣で語るとしようか……」
「ええ…… そうしてください」
互いに剣を抜き構える二人の女神……
「はあああああああああああ!」
「ああああああああああああ!」
アルセルシアは黄金色の闘気を…… アルテミスは黄金と漆黒入り交じる闘気を、その身に纏い、それぞれ力を高めていく!
次の瞬間! 互いに渾身の初撃をぶつけ合う!
「ぜあああああああああああ!」
「やあああああああああああ!」
凄まじい衝撃と斬撃音! そして、そのぶつかり合った剣に込められた気は、互いの頭上天高くに、極太の一つの光となり、はじかれた!
その威力は空間をバリィィィィンと大きく突き破り、空の顔を覗かせる!
女神の力があまりに強大なのか、貫かれた事で生じる空間の穴は、普通はすぐに塞がるのだが、穴の周囲にバチバチと二人の闘気の残り香みたいなものがそれを拒み、外界の光が漆黒の空間に差し込んだままの形となっている!
「見事な一撃です…… 腕は
「姉者こそな……」
「やれやれ…… せっかく周りを気遣って広く創った空間だったのですが、早々に壊れてしまいそうですね」
「ふっ 我ら二人が闘っているんだ。 無理もないだろう」
「そうですね」
「でも安心しましたよ、アルセルシア。 何やらこの部屋に来る前に『寄り道』をしていたみたいでしたので、余計な力の消耗を危惧していたのですが……」
「ああ、あれか…… まあ、近くに…… というか、この塔の中に兵隊づくりの機械があるのを感じとってしまえば、極力潰しておかんわけにはいかないだろう」
そう、アルセルシアはこの頂上フロアに来る途中に、複数の気の澱みの発生を感じとり、恐らくそれが敵の援軍を生成する場所であると考え、四つあったその部屋と、そこにある全ての機器の破壊! 更にはそこへ送られてきていた気の流れの発生源を捉え、その場所である管制室にいた敵集団に尋問してきていたのであった。
* * *
数刻前…… 黒き塔の管制室――
「おい! 貴様らの兵隊づくりの機械は先程私が潰したので全部か?」
「ひいいいいいいい! めっ! 女神アルセルシア!」
「なっ! なんで管制室なんかに! あの方のもとに一直線に行くものかと!」
「貴様ら如き潰すのに、姉者との戦闘に支障をきたす程の事等おきるか」
「数秒でも永らえたいなら質問に答えろ」
「機械はあれで全部か?」
「はっ はい! あれで全てです!」
次の瞬間、その男の身体がアルセルシアの右手によりコマ切れにされる!
あまりの出来事に震え上がる、残りの敵兵達。
「ひっ! ひいいいいい!」
「偽証は不可能だ…… それと私は気が短い……」
「よく考えて返事をしろ……」
女神には当代閻魔に授ける『心を読み取る眼』の能力がある……
それは天界では広く知られている事だ。
もっとも、相応に消耗するからアルセルシアは使うつもりは全くなく、これはただの脅しにすぎないのだが……
だが彼らには効果てきめんであった。
「もう一度『だけ』聞いてやる……」
「機械はあれで全部か?」
「! こっ ここから東のポイント二十に、もう一つだけあります! はい!」
「! やはりあそこか…… 確かに似た様な妙な気の澱みを感じる……」
とはいえ、姉者との決戦前に、流石にこれ以上余計なところで時間を
その間に、また誰か妙な小細工をされたらかなわんし、これ以上は流石に姉者との決戦にも支障をきたしかねない……
…… イステリアに連絡するか……
アルセルシアは力の温存を優先し、思念波を使わず通信機でイステリアに連絡をとった。
「―― というわけだ。 人選は任せる。 そちらも余裕はないだろうが、誰か何とかして向かわせてくれ」
「もちろんわかっているとは思うが、お前は父上から離れるな! 外へ連れて行くのもだ! 誰か別の適任者を向かわせろ! 急げばそれで敵の増援は止められる!」
「わかりました。 どこも手一杯だとは思いますが、そういう事なら、何とか適任者を向かわせてみます!」
「ああ、よろしく頼む。 それと…… おい! そこの貴様!」
「はっ! はい!」
アルセルシアは通信機をスピーカーモードに切り替えて、生き残りの敵の一人に『もう一つ彼女が気になっていた事』について質問をする。
「私がここに来る直前位に、何か大きな力が生まれ、移動した様な気の流れを感じたが、あれはなんだ?」
「! そっ それはキース様が新たな大型の魔獣を生成して、どこかへ
「! 奴か……」
「場所は? 奴は何を狙っている?」
「そっ そこまでは! 何も仰っていなかったので!」
「ちっ! 使えん奴等だな…… まあいい」
「と、いうわけだ。
「わかりましたわ、姉様!」
「うむ。 では私はもう行く。 イステリア…… そっちも気をつけろよ」
「ええ…… 姉様も…… どうかお気をつけて……」
「アルテミス姉様の事…… よろしくお願いします!」
「ああ、任せておけ!」
通信を切るアルセルシア。
そして……
「ご苦労様だったな。 なんだかんだで参考になったぞ」
「そっ! それは何よりで!」
「ああ、 私も大分サービスしたが、もう数秒どころじゃないから、十分だろ」
「消えろ」
「そっ! そん……」
生かされていた敵が言い終わる前にバラバラにしたアルセルシア。
残り数名いたが、全て断末魔を叫ぶ間も与えず皆殺しにするアルセルシア。
「約束は守ったろ…… それにこれは戦争で、しかもお前らは天界に仇なす悪だ」
「これ以上の情けは不要だ」
世界を守る為ならいくらでも冷酷になれる……
それが神としての責務でもあるかの様に、敵に対して非情に徹するアルセルシア。
「さてと…… 随分と時間をくってしまったな。 急がねば」
こうして、アルセルシアはアルテミスのいる頂上フロアへと向かうのであった。
* * *
「というわけなんだが、あんな機械と周りの雑兵を全て始末した位で、僅か程度でも疲れたりはしないからそこは安心してくれ」
「それはよかった。 負けた時の言い訳にでもされたら困りますからね」
「! ふっ! 言ってくれるな!」
「続きといきましょう」
「ああ」
改めて仕切り直す二人。
次の瞬間、互いの姿が消える!
そこら中から激しい炸裂音にも似た斬撃の音と、それにはじかれ、破壊されていく辺りの柱や壁!
あまりの速度に二人の姿が全く映らず、まるで無人の広大な空間に嵐の様な風圧と斬撃音! それによる空間の惨状が、どんどん広がっていくかの様な光景である!
そしてそれがしばし続いた後、両者は遂に姿を見せる!
「らあああああああああ!」
「はあああああああああ!」
ガキィィンという音と共に互いの剣がぶつかり合い、そのまま剣を押し合い、動きが止まる二人!
「驚きました…… まさかここまで腕を上げていようとは…… 立派になりましたね、アルセルシア」
「私は嬉しく思いますよ……」
「姉者こそ! 一二〇〇年前とは剣もスピードも更に磨きがかかっているな!」
「ふふ…… お互い一二〇〇年分の研鑽の賜物…… という事ですか」
「ガラにもなく楽しくなってきましたよ」
「私もだよ、姉者!」
「姉者を超える事が、私の目標の一つだったからな…… 少なくとも当時のあなたよりは強くなったつもりだ!」
「ええ、その通りです。 あなたは間違いなく、『かつて』の私を超えた…… ですが『今』の私を超えてみないと世界は救えませんよ!」
「上等だ!」
お互いに剣をはじくと同時に、一旦距離をとる二人!
そしてアルセルシアは、再度アルテミスに飛びかかる!
それを迎え撃つかの様にかまえるアルテミス!
互いに天界最高の武人、闘いに興じる二人の顔は、どこか嬉しそうであった。
一二〇〇年ぶりの想いを剣にのせ、語り合う二人の姉妹……
いや、アルセルシアの剣には、ここにはこれなかった妹のイステリアの想いも込もっているのだ!
語り合う『三姉妹』!
「吠え面かかしてやる!」
「ふふ! やってみなさい!」
女神達の激闘は続く!
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