第97話 エレイン 暴れる!
閻魔の城 管制室――
「各地の戦況はまずまず、といったところみたいですね」
「ええ。 あくまで『今のところ』はですが……」
エレインに話しかけるのは諜報部 第七支部 キール・スタイン司令。
解析班の責任者も兼任している彼であったが、本作戦中では、マクエルと共にエレインの指揮を補佐する閻魔の城の副司令官を務める漢である。
「兵力差は圧倒的ですからね…… 敵兵がどこかのタイミングで増殖されてくるとなると今のうちに削れるだけ削っておかないと」
「そうですね……」
二人がそう話していると部下の男が管制室の敵反応レーダーに異変が起きた事を報告する!
「エレインさん! 正面口付近に敵援軍です!」
「! 数は?」
「およそ五百!」
「? 大した数ではありませんが、何か問題が?」
驕りでも何でもないが自分達は数では劣るものの、一人一人の戦闘力には相応に自信がある……
たかだか五百程度の敵援軍で何をそんなに困惑した顔を……
部下に問うエレイン……
「そ、それが!――」
「! 何ですって!」
「こちらマクエル! エレインさん、エレインさん! 後門の方ですが、何だか面白い事になっていますよ♪」
今度は後門側で敵兵を無双しているマクエルからメインモニタ―で通信が入る!
そこに映し出されていたのは……
何と大量のマクエル! いや、正確にはマクエルに擬態している偽者集団であった!
「!」
「……」
「マクエルさんに、こんなにご親戚の方々がいらっしゃるとは知りませんでしたよ……」
「いや~、私も初耳ですよ~ って、そんなわけないでしょう!」
「ですが、まあ……」
「ぐああああああああ!」
「ぎゃあああああああ!」
エレインと話しながらも片手間で偽者達を無双していくマクエル。
所詮、偽者。
それなりに本物に似せた戦闘スタイルと強さだが、やはり本物とは天と地程の差……
格のちがいを見せつけるマクエル。
「紛い物とはいえ、まさか自分で自分を執刀する機会が訪れるとは……」
「貴重な臨床経験となりそうです……」
「ぎゃあああああああああ!」
次々と偽者達をメスでバラバラにするマクエル……
「うん…… 悪くない♪」
「友達なくすから
「ただでさえ少ないんですから」
「はっは! 冗談ですよ~ …… え? 私、友達少ないんですか?」
「どうやら正面口の方でも……」
「私、友達少なくないんですけど!」
「こちらの方では……」
「エレインさん! 私、友達、いっぱいいますけど!」
「大王様が……」
「友達! 沢山いますけど!」
「しつこい! メンタル弱いな! 意外と! なんでちょっと涙声なんですか! 冗談ですよ! 冗談!」
「冗談でも、そういう事…… え? 大王様?」
「何ですか! その超面白そうな状況!」
「ええ! というわけで、そちらは引き続きお任せします! 正面口は私が対処しますので!」
「それでは!」
「あ、ちょっと! エレインさ……」
「ああ! 切られた! 何か心なしか珍しくウキウキしている様に見えましたが……」
「…… まあ、あえてその理由にはツッコまない様にしておきましょう……」
「私は私で…… こちら側を掃除しないと…… ですね!」
目の前の敵を一閃するマクエル!
「ぎゃあああああああ!」
「行かれるのですか?」
「ええ…… 私がもどるまで、ここの指揮はあなたにお任せします! キール司令!」
「はっ!」
「イステリア様、最高神様! 申し訳ありません! しばし席を外します!」
「わかりました。 なるべく早くもどってきてくださいね」
「気をつけて行ってきなさい」
「はっ!」
正面口――
報告通り、約五百もの閻魔大王の偽者集団が攻め入ってきていた!
「くっ! 怯むな! 全て偽者だ!」
「わっ! わかってはいるが!」
「おのれ! 愚劣な真似を!」
「わかっていてもやりづらいな……」
偽者とはいえ、本物そっくりの閻魔大王……
それにこれだけいると、まずその可能性はほとんどないのだろうが、大王様達が既にやられてしまい、操られているだけで本物が混ざっている可能性も……
そう頭の中でよぎってしまう死神達……
それが結果的に、死神達が攻めきれない状況に陥っていた……
だが、それを問答無用で払拭するかの様に上空からこちらへ、ショートカットして飛んでくるエレイン!
「!」
「エレインさん!」
「お待たせしました……」
偽者集団を確認するエレイン……
「なるほど…… 控えめに言ってメチャメチャ気持ち悪いですね……」
「あの方の顔をここまで並べられると、もはやストレス以外の何物でもないですよ」
…… 大王様…… 酷い言われ様だな……
相変わらず容赦ないなあ、エレインさん……
「ふっ! エレイン君! 僕は本物だよ!」
「いや! 僕が本物だよ!」
次々とエレインに襲い掛かろうとする大王の偽者達!
次の瞬間!
「ぎゃああああああ!」
「ぐはああああああ!」
バキバキバキィと骨を砕かれる音をたてられながら、大きく殴り飛ばされる偽者達!
偽者相手とはいえ、大王の顔に一切の遠慮も情けも迷いもなく殴り飛ばすエレイン!
「エレインさん!」
マジか……
遠慮なし……
ガチで容赦ねえ……
やっぱエレインさんだな……
エレインさん、通常運転……
流石エレインさん!
思いっきりぶん殴ったな!
ここまでいくと、もはや清々しい!
流石…… そして正しい判断ではあるが、そこまで迷いなく殴れて感心する者、そしてドン引きしている部下達も……
「馬鹿馬鹿しい…… 我々があの方を見間違うわけないでしょう……」
「どさくさ紛れに他の死神達…… 自分達の偽者もまぎれこませているかもしれません」
「皆さん! 『例の確認法』は覚えていますね! 少しでも怪しい者はぶちのめして下さい!」
「万が一にも! 自分が疑われたら、その時は……」
「実力で証明しなさい!」
「自分を信じなさい! 我らは偽者ごときに劣らないという事を! その様な甘い鍛え方はしていないと! 日頃の訓練を思い出しなさい!」
「イっ! イエス・マム!」
閻魔の城 東側――
正面口側と後門側の大きな騒ぎに乗じて、ここでも他の死神に扮して数名の偽者達が潜んでいた……
のだが……
「貴様! 本当に本物か? 『例の証拠』を見せろ!」
「え? ……」
「…… 偽者だな! くたばれ!」
「なっ! 何故! ぎゃああああああ!」
「そいつも偽者だ!」
「くっ! 何故こうも容易くバレる! ぐああああああああ!」
閻魔の城 管制室――
「キール司令! 東側にも複数名、偽者が潜伏! 発見し、討伐されたとの事です!」
「そうか……」
「擬態対策は何とかなりそうだな……」
同じ気でも、霊気と瘴気ではどんなに上手く似せようとしても気配の本質がちがうからしっかり探れば違和感位は掴める……
それに我らは仲間を見間違う程、愚かではない!
それでもわかりづらかったら……
『証拠の提示』を求めればいい……
そこで咄嗟に、それっぽいものを提示しようとしたり、所属や名を名乗ろうとしたり、酷く動揺したりする者……
そいつは百パーセント偽者だ。
疑われたら『無言で偶数歩下がる、加えて敵が周囲にいれば攻撃する!』
歩数はあえて指定しない事、敵がいるいないで行動を変える事で、敵に内容を悟られるのを極力防ぐ為の処置であった。
再び閻魔の城 正面口――
「さて……」
やはりここは武器は使わず、
あのクソ大王……
最近は『真なる選別者』の対処で、比較的真面目にやってくれていますが、それ以前からの仕事中の脱走からのサボり、このあいだなんて書類出しっぱなしで、呑気に黒崎さん達に絡みに風呂入りに行ってたし!
自分一人だけ遊び惚けて!
私だって、たまにはゆっくりしたいのに!
とはいえ、あれでも一応は当代大王……
それに何だかんだで良い所も少し位はあるのですが……
ここぞという時はビシッと必ず決めてくれるし……
軽そうに見えて、あれで責任感は強いし、優しいところもあるのですが……
ですが! この溜まりに溜まったフラストレーションをどうしようかと思っていたところです!
そして今! 目の前に! 大王様の偽者集団が舞い降りた……
これはつまり……
合法的に! あの人(偽者)を手加減抜きでぶちのめせるチャンス!
一瞬目を光らせ、ニヤけるエレイン……
両手の拳をバキバキ鳴らしながら、ゆっくりと偽物達に近づいていく……
「えー、オッホン!」
「偽者とはいえ、あの方をぶちのめすのは非常に心が痛みますが(大ウソ) あの方の名誉の為(というより、ただのストレス発散) 一人残らず! ここで始末させてもらいます!」
そう言い訳して、偽者集団に突っ込むエレイン!
「ぎゃああああああああああああ!」
「ぐあああああああああああああ!」
「鬼だ! 鬼がいる!がああああ!」
「あっ! 悪魔だあああああああ!」
「たっ! 助けてくれえええええ!」
「うわああああああああああああ!」
「ゆっ! 許してえええええええ!」
「……」
「……」
「……」
…… 絶対にこの人だけは敵にまわさない様にしよう……
そう心に誓う死神達……
そして、その様子は比較的近くで敵を討伐しているメアリーの視界にも入っていた。
「やれやれ…… まあ、ある意味適任なんだけど…… まあ、敵の数も減るし、適度にストレス発散していきなさい……」
少し呆れ顔のメアリーであった……
天界 天国エリア 東部――
「! …… この感じは……」
閻魔の城へと向かう閻魔大王が何かを察したのか、その身体にゾクりと悪寒が走った。
「
「エレイン君に何かが?」
「というか、何か怒ってそうな気が……」
「今、彼女に近づくと非常に危険な気がする……」
「
「…… 何かすっっっっごく! 嫌な予感がする!」
「何故だろう…… 普段彼女をそこまで怒らせる様な事はしていないと思うんだが?」
しばし考え込む閻魔大王……
「……」
「……」
「…… うん、ダメだ! 心当たりが多すぎて、どれを指しているのか全くもって見当もつかないな!」
「いや~、はははは…… はあ……」
「なんだろう…… 急に足が重くなってきた……」
「やっぱり、もどんなくても大丈夫なんじゃないかな~」
「まあ、そういうわけにもいかないか……」
「仕方ない…… 急ぎますかね!」
気を取り直して大王は閻魔の城へと急ぐのであった……
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