第94話 雷帝との邂逅 ②

「まあ、普通に考えたらお前の判断が正解だ! さっさと殺ったらどうだ?」


「…… ふう…… 探り合いはそろそろやめにしないかい? こっちは時間がないのだよ」


「そうだね…… 普通なら三人がかりで速攻でカタをつける……」


「如何に貴方でもこの状況下では時間稼ぎすら然程さほどできないだろう……」


「にも関わらず、貴方が平然としていられるのは『僕らがそれをできない状況を既につくっているって事』なのかな?」


「へえ…… わかってんじゃねえか…… 当代……」


「前から思ってたが、頭の方も相当切れるみたいだな……」


「お前さんの言う通りだ!」


「まずアルセルシアの姉御はもう行っていいぜ。 つか行ってくれ」


「あの塔の最上階でアルテミスあいつがあんたを待ってる……」


「いや、あるいはもう一人…… まあ、『あいつ』の場合は辿り着ければ、だがな……」


「まあ、流石に邪魔するつもりもねえし、あいつもまずは姉御とサシでやり合いてえだろうからな……」


「それなりに積もる話もあるだろうから、行ってやってくれや……」


「レオン……」


「ただし姉御だけだ!」


 大王にそう告げるレオンバルト……



「…… それを僕が了承しなかったら?」


「後悔する事になるぜ…… 『あんた』がな!」


「! どういう意味かな?」


「お前ら舐めすぎって事だよ……」


「時間稼ぎも然程…… とか言ってたが生憎俺はちょっとやそっとの不利は根性でどうにかしてきたタイプでな!」


「例え首だけになってでも! 一秒でも長くお前らを足止めするぜ!」


「言っとくがマジだからな…… 俺はやるといったら、それがどんな事でも必ずやる!」



 …… この凄み…… ハッタリではなさそうだ……


 敵ながら何という強き心力しんりょく……



「それにキース・マドック……」


「奴は勝手に動いているから、あくまで多分だが、あいつは最高神おやっさんの首を『直接』狙うぜ!」


「あそこには、あんたの大事な女性もんもいるんじゃねえか?」


「! ふっ…… なるほど…… そういう事か……」


「見くびっているのは君の方なんじゃないか?」


「キース・マドックがどの程度の実力の持ち主かは知らないが、エレイン君彼女は凄まじい程の戦闘力の持ち主だよ」


「それにマクエル君や他の手練れも揃っている……」


「そうそう簡単に殺られるとは思わないが?」


「むしろそのキース君とやらの身の方が圧倒的に心配になる位だよ」


「ハッタリはよせよ。 当代」


「監視システム越しか何かで奴の『眼』を視たんだろ?」


「だったら気付いているはずだ……」


「あれは完全に『タガが外れちまった』奴の眼だ……」


「目的の為なら、それこそ『どんな手』でも使ってくる…… そう…… どんな手でもだ……」


「はっきり言う…… 奴は頭のネジが百本位ぶっ飛んでる様な奴だ」


「あんたらの仲間も調査済み…… 確かにイカれた強さの持ち主達なんだろう……」


「仮に戦闘能力がそいつらの方が上でも……」


「頭のイカれ具合だったら奴の方が遥かに上だぜ!」


「俺なんかとのんびり話してていいのかい?」




 確かに…… 『アレ』は他人の不幸を喜び、自身の快楽、そして目的の為なら手段を選ばないタイプだ……


 彼だけが…… 敵とはいえ確固たる信念と覚悟を感じさせる『真なる選別者』の中でも異質な存在……


 どのような手段をとってくるか読み切れない部分がある……


 それでもエレイン君やマクエル君が殺られる程とは到底思えないが……



 嫌な予感が拭え切れない事も事実……



 あわよくば、このまま三人がかりで彼を短時間で潰せる好機チャンスとも思ったが…… 


 彼のこの覚悟……


 短時間でケリをつけるどころか、その絶対的不利な状況は、かえって彼を熱くし、粘られる恐れが高いか……


 そうなると、むしろこちら側のリスクが高くなる…… それもあらゆる意味で……


 彼はそれを踏まえた上で、駆け引きしているという事か……


 なるほど…… これが雷帝か……


 どうやら思ってた以上に只者ではないな……


 舐めていたのは、こちらの方だったという事か……

 






「……」

「……」








 大王とレオン……


 両者の睨み合いが続く中、大王が答えを出す……


「…… ふう…… やはりそう上手くはいかないか……」


「やれやれ…… 行ったり来たりだなあ……」


「まあ、さっきはああ言ったが、愛しの妹にもなるべく恨まれたくはないしね」


「元々は任せるつもりだったし」


「兄上!」


「ただし! 我儘を許すからには! 必ず! 勝ちたまえ! リーズレット!」


「! うん! 勿論♪」


師匠せんせい…… 申し訳ありません…… 自分は一度……」


「ああ、かまわん! レオンがここまで言っている以上…… ハッタリではない!」


「戦闘能力はどうか知らんが確かに『何をやらかすのか、わからん眼』をしている!」



「早めに対処しないと、倒せても! その時既に甚大な被害を被っている可能性が高い!」


「お前は一旦城にもどって様子を見て戦力の見直し、必要に応じてお前が直接動け!」


「お前が抜けるのはかなり痛いが、それでも可能なら後からこちらに合流すればいい!」


「姉者は私に任せろ! 行け!」


「はっ!」


「兄上…… 気を付けて!」


「君もな! リーズレット!」



「では僕は失礼させていただくよ、雷帝殿」


「敵同士…… それも短い時間だったが、貴方程の傑物と話せてよかったよ……」


「俺もだぜ、当代……」


 敵同士…… とはいえ、互いに認め合い、敬意をはらう大王とレオン……


「じゃあな」


「ああ…… さらばだ」


 そう言って閻魔大王は高速で移動し閻魔の城へと向かうのであった。




「では私も、もう行くぞ…… リーズレットも! 後から必ず追いかけてこい!」


「うん! 必ず!」



「レオン……」


「こんな形での再会だったが……」


「それでも…… またお前と会えて嬉しかったよ……」


「俺もだぜ…… 姉御……」


「行ってくれ…… あいつの所に……」


「ああ……」





「…… じゃあな…… レオン……」


「ああ…… じゃあな…… 姉御……」


 レオンとの『最期』の語らいも終わり、決着を着けるべく姉のもとへと向かうアルセルシア……


 霊力の温存を優先し、空間移動をしないで塔へと向かっていった……




「…… 良い漢だね…… 君……」


「僕の知ってる中で、三番目位に良い漢かな♪」


「それは光栄だな」


「ちがう形で出会っていたら、良い友人になれてただろうね……」


「ふっ…… そうかもな……」


「だけど正直、俺は今ワクワクしてるぜ!」


「やっとお前さんと殺りあえる……」


「初めてあの要塞でお前さんを見かけた時…… ああ…… こいつは『俺と同類だ』ってすぐにわかったよ!」


「ただひたすらに強い奴と闘いたい!」


「俺と同じ…… 戦いの中で欲を満たす修羅!」


「根っからの戦闘狂バトルマニアだ! ってな!」


「ふふ♪ 僕もだよ♪」


 ゆっくりと刀を抜くリーズレット……


 レオンバルトも斧槍を構える……


「あの日から…… この時をずっと待ちわびてた……」


「全力で…… 思いっきり! 闘えるこの時を!」



「コオオオ……」


 両手で剣を持ったまま額に構え、自身の気を『遠慮なく』練り始めるリーズレット!




「はああああああああああああああ!」


 そして剣を中段に下ろし、構えると同時に一気に気を解放!


 それだけで! 周辺の岩山をいくつか粉々に吹き飛ばしてしまう程の爆風を発生させる!


 その強力過ぎる霊圧故に、普段は周囲に及ぼす影響を考え、全力を出すことは中々できないでいたリーズレット……


 だが今は、この場には自分達しか存在しない……


 思いっきりれる!


 かつてない程の高揚感を覚えるリーズレット!



「はははは! 思った通り! こりゃ凄えや!」


「じゃあ俺も……」



「オオオオ……」


 リーズレットに続いて、腰を落とし、自身の前に両腕を交差させ気を練り上げるレオンバルト!



「はああああああああああああああ!」


 そこから両腕を開くと同時に、こちらも気を一気に解放する!


 先程のリーズレットと同等の爆風を巻き起こすレオンバルト!


 現時点での互いの闘気は全くの互角!



「! 良いよ! 凄く良い!」


「そうこなくっちゃ!」



「……そういえば……」


「今更だけど、お互いに、ちゃんとは名乗り合ってはいなかったね……」


「改めまして……」



「閻魔大王が妹にして零番隊総長…… リーズレット・アルゼウムだ」


われは元女神の守護者…… そして、盾にして矛…… 雷帝 レオンバルトだ」




「いざ……」








「尋常に……」















「勝負!」

「勝負!」



 両者共に一気に距離を詰め、飛び込む!


 剣神と雷帝……


 武の頂点を極めた達人同士の闘いが、遂に始まった!

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