第93話 雷帝との邂逅 ①

 閻魔チームが異空間に閉じ込められ、空間ごと消滅させられそうになっていた頃……


 意にも介さず、冷静に対処する大王、リーズレット、そして女神アルセルシア。


 剣を抜き大王が動き出す!



「二人共、下がっていてくれ」


「手伝おうか?」


「いや、いい。 二人共それぞれ『先約』がいるんだ……」


「関係のない所での無駄な力の消費は避けた方がいい……」


「それに、ここは僕一人で十分だよ」


「ふっ 本当に頼もしくなったもんだ…… そういう事なら任せるとするか」


「ありがと♪ じゃあここは甘えさせてもらうね♪」


「ああ! 任せてくれ!」




「はああああああああ!」


自身の前に持ってきた、右手で構えたその剣に左手を添えて、炎の闘気を剣に纏わせる大王! 


 彼は両手で剣を握り直し、そこから前方に向かって強力な袈裟斬りを放つ!



「はあああああああああ!」






 廃鉱山――



 異空間の入口があった場所から少し離れた開けた外の一角……


 敵軍の怪物兵達十数名…… その後ろには雷帝 レオンバルトが腕を組んで立っていた……


「はっ! これであいつらも一巻の終わりだな!」


「女神も閻魔も意外とあっけなかったな!」



「…… 馬鹿共が……」


「? レオン殿? 何か?」


「いんや、別に……」


「! 来たか……」


「よっと!」


 何かを察したレオンは巻き込まれまいと天高く飛び上がる!


 次の瞬間!


 ビシッと怪物達の前方の空間に巨大なヒビが発生した!


「! なっ! なんだ!」


「空間にヒビ?」


 そして、そのヒビから巨大な斬撃が空間をぶち破って前方の怪物達を一掃する!



「? ! ぎゃああああああ!」

「ぐああああああああ!」

「あああああああああ!」



 怪物達は消滅し、大王の斬撃により発生した、空間の大きな裂け目からゆっくりと通常空間へと歩を進め、帰還する閻魔チーム。




「ふう…… まあ、こんなところかな」


 剣を鞘に納める大王。


「お見事…… 流石兄上だ♪」


「また腕を上げたな」


「そして……」


「どうやら、あちらが本命の様だな……」


 自分達が異空間へと入っている間に出現している巨大な黒き塔……


 そこに目を向け、大体の状況を把握した三人……


 そして先程上空へ飛び上がった漢が着地するのを待たずに、その気配に声をかけるアルセルシア。


「そうだろう! レオンバルト!」


 ヒュウウウウウっという落下時の風切り音と共にズドオオオオンと派手に着地する雷帝レオンバルト!


 そして土埃の中から姿を見せて、アルセルシアに笑みを浮かべながら返事をするレオンバルト!


「そういうこった!」


「しかし空間ごとぶった斬るとは…… 恐れ入ったぜ!」


「まあ、その位の事は余裕でやってのけるとは思っていたが、実際目の当たりにすると半端ねえなあ!」


「やるじゃねえか! 当代! 既に昔の先代を超えてるんじゃねえか?」


「ふっ あまり買いかぶらないでくれたまえ」



「こうして『直接話をするのは初めて』か……」


「お会いできて光栄だよ。 雷帝殿」


「ああ、こちらこそだ。 当代 閻魔大王!」


「まだ一〇〇〇歳程だったか……」


「全く…… 若いのに大した剣腕だな……」


「久しぶりだな。 レオンバルト」


「グランゼウス要塞での会議以来だね~♪」


「おう! アルセルシアの姉御に剣神も! 元気そうで何よりだな!」


「お前もな…… 姉者もそうだが、敵対関係にはなりたくなかったが……」


 苦笑いをしながらレオンに語り掛けるアルセルシア……


 その言葉に僅かながらも、ばつが悪そうな顔をするレオンバルト……


「…… 悪いな…… こちらも退けねえ理由があってな……」


「だろうな…… まあ、何となく想像はもうついているが……」


「さっきの悪趣味な仕掛けも、お前さん達の仕業じゃなさそうだしな」


「当たり前だろ。 あんなん、俺もアルテミスあいつも趣味じゃねえよ!」


「まあ、この戦、手を抜くつもりもねえから『奴』の好きにやらせたが……」


「少し位は時間を稼いで、そっちの戦力を削った状態でスタート! ついでにほんの少し位は空間脱出の際に体力を消耗してほしかったが……」


「思ってた以上に簡単に脱出されちまったな!」


「まあ、個人的には面白い策ではなかったから、奴に対して、ざまあ! って感じだけどな!」


「その『奴』というのは例の支部を潰しまわった男か?」


「ああ…… 名はキース・マドック」


「その正体は…… もうわかってんだろ?」


「ああ…… といっても、推測だったが…… どうやら合ってるっぽいな」


「その認識でいいと思うぜ」


「やはり、そうか……」


 そしてこのタイミングで二人の会話に、大王が割って入ってくる。


「で? 雷帝殿…… 一応、念の為に聞くが退く気はないのかい?」


「如何に貴方でも、僕ら三人を同時には相手にできないと思うが?」


「兄上!」


 彼と一対一の勝負を望んでいるリーズレットが食って掛かりそうになるが、一旦それを制する閻魔大王……




「どうなんだい?」


「はっ! 愚問だな! 当代!」


「確かにいくら俺でも、あんたら三人同時になんて、とてもじゃねえけど無理に決まってんだろ!」


「で? どうすんだ? このまま三人で俺をボコにするか?」


「必要とあればね……」


「ちょっと兄上!」


「リーズレット! 『大局を視る』…… 先程そういったのは君の方だよ……」


「! そうだけど~~!」



「……」

「……」


 大王と雷帝……


 両者の間で無言の睨み合い、それと同時に探り合いが行われていた……

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