第92話 零番隊 大暴れ! そして……

 天界 ステーションエリア 南部――



「おおおおおおお!」


 長い槍を頭上で回しながら、凄まじい竜巻を巻き起こす黒髪の青年が一人……


 それに巻き込まれる形で複数の飛行型魔獣兵が動きを封じられている!


 そこに一気に闘気を込めた渾身の一撃が炸裂する!



「真空轟翼翔!」



「ぎゃああああああ!」

「ああああああああ!」



 魔獣達は竜巻ごと粉砕されていった……



「ふう……」


「おお! 流石ですな! アイオス殿!」


「いえ、未だ修行中の身…… 精進あるのみです」


 アイオス・ルーベルト…… 


 褐色肌の見た目は二十代中頃、落ち着いた雰囲気のその漢は、零番隊屈指の槍術使いであった。


 会話の相手は第九十八支部司令のロマード・ハイマン氏である。


「はは、ストイックですなあ! 我らも続かないと!」


「恐縮です」


「敵は怯んだ! アイオス殿の引き寄せた流れを無駄にするなあ!」


「おおおおお!」


 全体の指揮をとるロマード司令!


 アイオスのおかげで一気に士気は高まった様だ。


「では! アイオス殿! 我々は向こうを! 貴殿はどうなされます?」


「そうですね…… 一度艦にもどり、空から様子を窺い、手薄な所のフォローにもどります」


「また何かあれば通信を!」


「わかりました! 武運を!」


「そちらも!」


 ロマード司令と別れるアイオス。



「しかし北部エリアも随分派手にやっている様だな…… 先程の一撃もそうだが、また神獣殿が暴れまわっているな……」


「やれやれ…… リリィ殿の苦労が目に浮かぶな」


「っと! こちらも艦にもどるか」


 だが、もどろうとするアイオスに後ろから声をかける漢が現れる……



「ふふ、更に腕を上げましたな…… 全くもって、若いとは素晴らしい」


「! あなたは!」


「お久し振りです…… アイオス殿……」


「カール殿!」


 カール・ライデン氏……


 先の『真なる選別者』達の手によって全滅させられた支部の一つ、第三十六支部……


 その『司令だった漢』である……


 また、アイオスの友人でもあった……



「まさか…… アイオス殿と、こういう形で相まみえる事になろうとは……」


「…… 貴殿は言葉だけでなく、自我もしっかりされている様ですが……」


「ええ。 恐らく個人差はあるのでしょうがある程度、精神力の強い者は多少なりとも自我と以前の姿を保てる様ですな」


「ただ、申し訳ない事に『天界を滅ぼせ』という『魂に刻まれてしまった命令』は自分の意志では抗えなくされている様です……」


「! なんと非道な!」


 唇を噛みしめるアイオス!


「アイオス殿…… 申し訳ない! 私が未熟なばかりに!」


「何を言う! 貴殿のせいなどでは、断じてない!」


「アイオス殿……」




「ありがとう…… アイオス殿…… お相手、願いますでしょうか?」


「最期にあなたと手合わせできて、逝けるなら本望だ……」


「!」


「頼む! アイオス殿!」


「完全な傀儡と成り果てる前に…… 最期は武人として…… 『人』として! 逝かせてほしい!」



「……」


 両目を閉じ、複雑な感情が入り混じり、葛藤しながらも覚悟を決めるアイオス!


 そして再び両目を見開き、カールのその姿を瞳に焼き付ける!



「わかりました!」


「アイオス・ルーベルト! 武人としての義をもって!」


「そして何より! 貴殿の友として!」


「全力をもって貴殿を瘴気の呪縛から解放します!」


「! …… 感謝する! ありがとう…… アイオス殿!」



 互いに武器を構える二人の武人……



「いざ……」



「尋常に……」



「勝負!」

「勝負!」



 片や友を解放する為に!


 片や天界のかたきとなった自身を討たせる為に!



 今! 二人の武人がぶつかり合う!



 こうして天界各地で大きな戦いが勃発!


 死神達が命がけで戦っていくのであった……







 そんな中!




 突如! 凄まじい程の霊圧が天界中を! 


 その空を! 大地を! 震撼させる!



 天国 空域エリア――



 巨人兵をあっさり討伐し、ガリアスに帰艦したセシリアも、この異常事態に驚きを隠せないでいた!


「!」


「なんだあ! この常識外れの馬鹿でけえ気は!」


 あまりの霊圧に煽られ、揺れる空挺ガリアス!


「しっ! 信じられない程の霊圧です!」


「各種メーター! 計測不能です!」


「この気は…… 総長か!」


 これが『実戦での本気』の総長の気か!


「ったく…… どんだけ化け物だよ! 流石にヘコむぜ……」


「しかし、こいつは!」




 地獄エリア――



 セシリアと同じく、突如現れた強大な霊圧の正体が、リーズレットのものだと確信するケイン!



「一つは総長……」


「ですが、もう一つ…… 同じ位の強力極まりない程の気が!」


「こちらは覚えのない気…… という事は敵方……」


「そして、総長クラスの気となると……」



「どうやら『カチ合った』みたいですね!」




 閻魔の城 管制室――



「イステリア様…… これは、まさか……」


 イステリアに確認をするエレイン。


「ええ……」


「どうやらリーズレット彼女がレオンとぶつかった様ですね……」


「! やはり!」



 遂に激突した両雄!



 空間に閉じ込められた閻魔チームがその後どういった経緯で雷帝とぶつかったのか……


 時は少しだけ遡る……

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