第91話 零番隊 大暴れ! ②

 天界 ステーションエリア 北部――



「がっ!」


「何だ! 犬コロ?」


「何でこんな所に野良犬が?」


 そこには敵の怪物兵を無双する青白い毛並みの、鋭い目つきの大型犬が立っていた。


「…… ほう…… われを野良犬と申すか……」


「…… 何か言ったか、お前?」


「いや、俺は何も……」


「……」

「……」



「なっ!」


「まさか…… この犬が?」


 次の瞬間!


「がはあ!」


「ぐあっ!」


 怪物兵達の首が、その大型犬の牙によって跳ね飛ばされる!



「痴れ者めが! 誰に向かって舐めた口をきいておる!」


「我こそは! 女神の力により創造されたし天界の守護者にして零番隊が長! 神獣グライプスなるぞ!」


「我を野良犬呼ばわりした事! それと天界に仇なす者共が!」


「死で償うがいい!」


「おのれ! このクソ犬がっ!」


「舐めんなあああ!」


 仲間を殺られ、怒りに身を任せその大型犬に襲い掛かる怪物兵達!


だが、それに待ったを掛けるかのごとく敵を襲う霊子弾が飛び交う!



「ぎゃあ!」


「なっ! なんだ!」


「あっ! あそこだ!」



「もう、しょうがない子ね…… グーちゃん! 嘘はダメよ! 神獣は本当だけど零番隊は総長が長よ!」


 二〇代半ばに見える水色のショートヘアーのその女性は、リーズレットにも負けない程の美しい容姿の女性であった。


 零番隊所属にして、天界最高の銃使いでもある、リリィ・カートレットである。


「誰がグーちゃんだ! 誰が! その呼び方はよせと言ってるだろう! それに我はあんな小娘の下についた覚えはない!」


「奴の方が我をどうしても必要だと頼み込んできたのだ!」


「はいはい、わかったわ。 グーちゃん」


「私達も……」


「頑張りましょう…… ね!」


「ぐわっ!」


 気配を消して二人に襲い掛かろうとする敵兵を簡単に返り討ちにするリリィ。


 続けて敵兵集団を射撃するリリィだったがその弾丸は躱されてしまう!


 いや…… そう見えた……


「ふん! あまいわ!」


 躱したと思い込み、リリィに襲い掛かろうとする敵兵達!


 だが、その敵兵達は次の瞬間、自身の背後を貫かれる!


「がっ! なんっ!」


「ちょっ…… 跳弾…… だと……」


「それに…… 鏡…… か?」


 彼女が展開している直径三〇センチ程度の長方形の鏡の様な物が撃ち抜かれた者の遥か背後、そしてあちこちの空間にに浮遊している。


「あまいのはどちらですか…… 全く」


 霊子弾は火薬式の弾丸と違い、使い手の霊力を弾丸と化し撃ち抜く……


 最大の利点は霊力が尽きない限り、弾切れがおきないのと威力、射程距離もその使い手の霊力次第でいくらでも上がるという事だ。


 だが、通常の物質を発射しているわけではないので跳弾効果はない。


 それをカバーしているのが彼女の周りを広範囲で展開している多数のミラー物質であった。


 これは霊力を反射させる性質を持っている。


 彼女はこれらを使い、戦場を縦横無尽に飛び交う弾薬無制限に近い跳弾使いとして暴れまわっていたのだ!


 もっとも、それを可能にしているのは彼女の才能ともいえる、空間把握能力と相手の心理状態、そして、そこからくる敵の次の動きの予測、正確な射撃能力、高い総霊力が合わさる事で、ようやくできる芸当であった。



そしてグライプスの方にも、懲りずにちょっかいをかける命知らずな敵兵がまた現れる。



「はっ! 神獣だか何だか知らねえが、ただのすばしっこいチビ犬じゃねえか!」


「こんなん、俺様が一捻りしてやる!」


 そこにはかなり大型の…… 十メートルは超えるであろう巨人型の怪物兵が立っている!


「ああ! またその子を怒らせる様な事を!」


 リリィの心配をよそに、またも犬扱いしてグライプスを挑発してしまう敵サイド


「ほう…… チビ犬とは我を指して言っているのだな?」


「あたりめーだろ! 他に誰がいるんだよ!」


「! いけない! 皆さん私の方へと下がって! グーちゃんの前方直線上から離れて!」


「え?」


「早く! 死にますよ!」


「はっ! はい!」


 急いで仲間達を下がらせるリリィ!


「よかろう…… ならばぬしに良いものを見してやろう……」



「はあああああああああああ!」


 強大な気を膨れ上がらせ、金色の闘気を纏いながら、自身を巨大化させるグライプス!


 あまりの事態に、口をぱくぱくとさせ唖然としている敵兵。


「さて…… 誰が『チビ犬』だったかな?」


「弱き小人よ」


「あ…… あ……」


 その姿は、巨人型の五倍はある程の巨大さであった!


「無礼者が! 頭が高いわ!」


「ぎゃあああああ!」


 格の違いを見せつけられ、完全に委縮してしまった目の前の敵に一切の容赦なく踏み潰し、鉄槌をくらわすグライプス!


 それでも彼の怒りは収まらず、敵の位置や味方兵の気配を瞬時に確認はしつつ、自身の最強技を放つ準備を始めてしまう!


 大きく開けた彼の口に、極めて高密度のエネルギーが収束していく!


「グーちゃん!」


「くらうがいい!」


滅びの息吹!バーストブレス



「ああああああああああああ!」


 その超巨大なエネルギー砲は直線状にいた全ての敵を塵一つ残さず消し飛ばした!


 多量の霊力を消費した為、一度元の姿にもどるグライプス。



「ふう…… これを使うと、一気に腹が減る」


「グーちゃん!」


 たまらず彼を叱りつけるリリィ!


「なっ! 何を怒っている! リリィよ!」


「何だじゃありません!」


「いきなりあんな攻撃、相談もなしに撃たないで!」


「私が皆さんを退避させなかったら、どうなってたと思ってるんですか!」


「なんだ、そんな事か」


「そんな事って!」


「我は主ならば迅速に皆を退避させると信じていたからな」


「! グーちゃん……」


「どれ程付き合いが長いと思っている……」


「我は主を信頼している」


「お主の冷静な判断力、状況把握能力、対応能力は天界でも屈指のレベルだ」


「第一、我は相方であるお主に迷惑をかけるつもりはない!」


「グーちゃん……」


 彼が自分の事をそこまで信頼してくれているだなんて!


 喜びに打ちひしがれるリリィだったのだが……


「お主は良い奴だ」


「毎月ちゃんとお小遣いはくれるし、天国中の新作パフェ巡りにも付き合ってくれるし、サウナにも連れてってくれるしな!」


「そこですか! グーちゃん!」


「もうちょっとこう…… なんかあるでしょう!」


「まあ、いいですよ。 それはそれで嬉しいですから!」


「ふっ。 では、さっさとこんな戦は我らの勝利という形で終わらすとしよう!」


「こないだ二十七番地区の店で出た新作スイーツを我はまだ食べてないしな!」


「あ、そういえば、今月分の小遣い全部使いきってしまってたな…… リリィよ! 我は来月分の前借りを所望する!」


「またですか! 太りますよ! 無駄使いもダメ!」


「しかも今月、まだ中日ですからね!」


「お主! 神獣に向かって小遣いを渋るというのか!」


「そもそも神獣にお小遣いってあげないものだと思うんですけど!」



「ぐぬぬぬぬぬ!」

「ぐぬぬぬぬぬ!」



 両者睨み合う中、埒が明かないと諦め、折れるリリィ……



「あ~、もう! じゃあそのスイーツだけ! 奢ってあげます! 一個だけですよ! そのかわり! 後でモフモフさせて下さい!」


「うむ! 交渉成立だ!」


「行くぞ! 皆の者!」


「は? はあ……」





 自分達は一体何を見させられているんだろう……





 そう思わずにはいられず、イマイチ緊張感が走らない死神達だったが……




「声が小さいわ! 噛み殺されたいか! 貴様ら!」


「すっ! すいませんでしたああああ!」


「我に続けええええええ!」


「おっ! おおおおおおおおおお!」



「はあ…… 全く、もう……」


 リリィも日頃から彼の扱いには苦労している様であった……

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