第90話 零番隊 大暴れ! ①

 天国 空域エリアの一角――


 諜報部専用 中型戦闘艦 ガリアス五号機 


 その甲板エリア――


 携帯通信機で、同じくガリアス六号機に搭乗している、ある人物と話している女性が一人……


 零番隊メンバーの一人 セシリア・ハーレントである。


 通信先の漢は彼女の幼馴染であると同時に、同じく零番隊 ケイン・マグナスであった。



「くう~~~~~! 流石は恭弥先輩にサアラの姉御! しびれるぜ~!」


「やれやれ…… 先代達もそうですが、引退しても尚、規格外ですねえ」


「普通、アレを跳ね返しますかね?」


「僕達若手へのハードル上げすぎでしょう……」


「室長やエレインさんの対応力も、流石としか言い様がないですねえ」


「あたしらも負けてらんねえな!」


「ええ! 先輩達が頑張ってるんです! 若手も続かないと!」


 先程の閻魔の城とグランゼウス要塞を襲った敵の主砲を跳ね返した面々の話題で盛り上がっている二人。


 二人は特に、霧島夫妻から入隊当初、戦術的指南や模擬戦等を積極的に受けていたのもあるが、それ以外にも何かと世話になってた時期もあり、彼等の事を非常にリスペクトしていて、慕っているのである。



「セシリア殿! ポイントに着きました!」


 通信に割り込むのは ガリアス五号機艦長兼第八支部司令 バルクス・アーウィン氏。


「あいよ! じゃあな、ケイン! お互い気張るとしようぜ!」


「ええ、そちらも気を付けて!」


「この戦…… 敵が無限に湧いてきます! 最初から飛ばしすぎない様に注意して下さい!」


「ああ、わかってるよ!」


 通信を切るセシリア。


「さて、と……」


「よっと!」


 セシリアはそのまま、目標のポイントへと飛び降りる!



「…… あいつか……」


 狙いは味方が苦戦していると報告があった巨人型の強化兵である!


 態勢を変え、風を切りながら頭から突っ込んでいくセシリア!


 右手で自身の背中の鞘に収まる大剣を掴み、抜く準備をしつつ、左手で印を結び始める。



「雷遁! 瞬撃特化の術!」


 忍術の一種でリーズレット直伝、セシリアの得意技の一つである!


 自身の運動神経に直接電気信号を送る事によって身体能力を大幅に向上させるパワーアップ術だ!


 消耗が激しいのと身体にかかる負担が強いので長時間の連続使用ができず、使いどころを見極める必要があるが、セシリアはこの術を完全にマスターしていた。


 凄まじい雷光をバチバチと火花を迸らせながら纏いつつ、そのままターゲットへと突っ込むセシリア! 




「おらああああああああああ!」


 自身の身の丈程の大剣を抜き、そのまま巨人兵を頭から一刀両断するセシリア!



「ぎゃあああああああああ!」


 巨人兵を仕留めてもまだ止まらないセシリア!



「はああああああああ!」


 そのまま着地と同時に、敵兵の比較的強い気の持ち主の強化兵数十人を、一瞬で選別し目にも映らない速度でバラバラに切り伏せるセシリア!



「ぐああああああ!」

「ぎゃあああああ!」

「がああああああ!」


 瘴気でできた敵兵は断末魔をあげ、消えていく!



「す…… 凄い……」


「あれが若手最強格の一人……」


「零番隊…… セシリア・ハーレント!」



「厄介そうなのは今ので一旦片付けたか……」


 術を解くセシリア。


「バルクス司令! この後どうすりゃいい!」


「ここで雑魚共もまとめて殲滅か? それとも劣勢なポイントに援護か?」


 通信で指示を仰ぐセシリア。


「ポイント一三九にて、大型の強化兵が数体! 苦戦している様です!」


「そちらへ向かいましょう! セシリアさん! もう少し高度を下げますので飛び乗って下さい!」


「あいよ!」


「ん?」



「…… 悪い、司令…… またお客さんだ……」



 セシリアの背後から突如空間の穴が開き、またもや巨人兵…… それも先程の個体よりも強い気を発している!



「先に向かっててくれ…… 五分で追いつく……」




 地獄エリア ポイント二〇七番――



「ばっ…… 馬鹿な……」


「ぐふっ!」


 周辺の大地ごと氷漬けにして敵兵を絶命させていた銀髪の強者が一人……


 先程セシリアと通信していたケイン・マグナスであった。


 自身の闘気を冷気に変換させ、それを剣に纏わせ、無数の高速連撃を叩き込むのが彼の戦闘スタイルである。


 そして周辺の目立つ敵は、既に彼の華麗な技の餌食になっていたのであった……



「皆さん大丈夫ですか!」


「はっはい! ありがとうございます! ケインさん!」


「隊列を立て直すまで援護します!」


「敵は負の概念を糧とし、兵を作ります! 気持ちで負けない様に!」


「大丈夫! 皆で! 勝ちにいきましょう!」


「はい!」


 味方を励まし、援護するケイン! 


 それに応えるかの様に、士気を取りもどす死神達!


 こちらでも激しい戦いが繰り広げられていた……




 天界 地下エリア 緊急避難区域空間 


 入口障壁前―― 



「くっ! なんの!」


「ぐあっ!」


 突然の敵兵の襲来で劣勢を強いられる一人の男性の死神……


「へっ! 脆い連中だな! ちょっと不意をついただけでこのザマか!」


 他にも既に複数人、かなりの傷を負った負傷者も出ている!


「死ねえ!」


 漢にとどめを刺そうとする怪物!


 その時! 


 その怪物の後頭部を右手一本で掴んで、後ろから持ち上げる、短髪赤毛のサングラスをかけた強面こわもての漢が一人……



「誰が脆いってぇ?」


「俺の友人ダチに何舐めた真似してくれてんだテメエ!」


「ぎゃあああっ!」


 そのまま漢は敵を、凄まじい破壊音と共に顔面から地面へ叩きつけ、潰してしまう!




「おお! バゼックさん!」


「よお、カミナス! お前さんもこっちに振られてたんだな!」


「あ、ああ! にしても流石だな! 助かったよ!」



 バゼック・ヴァンドール 


 見た目は四十前半位の、ぱっと見ヤクザ並みにガラの悪いその漢は、零番隊随一の徒手空拳の使い手であり、諜報部室長 久藤雫と同じく無限流体術の皆伝者である!


 ちなみに大の酒豪であった。


 カミナスと呼ばれた青年とは、飲み仲間であり、友人関係でもある。



「良いって事よ! それより油断すんな! 敵はどこから来てもおかしくねえ!」


「全方位に気を張ってろ!」


「わ、わかった!」


「オメエらも大丈夫か!」


「敵が空間を操る事を忘れんな!」


「一旦立て直せ! 負傷者は避難空間へ一度入って中の治療士に治してもらってきな!」


「とっとと連中ぶちのめして、また飲みに行くぞ!」


「おおおおお!」

「おおおおお!」


「カミナス! 立てるか?」


「ああ! 大丈夫だ! ありがとう!」


 敵の不意打ちにより動揺していた死神達の士気が上がる!


 だが、そこへ新たな魔獣型怪物が、よだれをたらしながら大量に押し寄せてくる!


 魔獣…… いや、もはや魔犬と言った方が正しいのかもしれない……


 三つ首の大型の『それ』は有名な地獄の番犬を連想させる……



「! へえ……」


「こりゃあ、連中も面白えもん創りやがる!」


「グルルルルルル!」


「さしずめ、地獄を徘徊するケルベロス気取りってとこか!」


「つっても、ここは地獄エリアじゃねえが……」


零番隊ウチのワン公の方が、よっぽどおっかねえけどな!」


「来いよ! 犬コロ共! 精々オジサンを楽しませてくれよ!」




 各地で大暴れする零番隊の面々!


 上手く仲間達をフォローしつつ、彼らの勢いはまだまだ止まらない!

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