第88話 『伝説』の死神夫婦!
遂に大戦が始まった!
派手な『挨拶』を丁重に跳ね返した天界の猛者達。
それを皮切りに、黒い聖天の塔から飛行型の魔獣と化した怪物達が、閻魔の城とグランゼウス要塞、他の拠点や民衆の避難区域に繋がるポイント等を一斉に攻めだした!
それに加えて、天界中の複数箇所から空間の『
こちらが敷いた陣の後ろや左翼、右翼の両サイドをとる形で奇襲をかけてきた!
「なっ!」
「そんな所から!」
「くっ! ひるむなあ! 上手く連携をとって奴等を迎撃しろ!」
「はっ! はい! っ! ぐあああ!」
「くっ!」
「ちい!」
まさかこれ程の数の門が、複数同時にいきなり出てくるとは皆も思わなかった為、開戦早々不意を突かれ、陣形を崩される各地の死神達!
特に閻魔の城とグランゼウス要塞は先程の敵の主砲の一撃目の影響で、障壁を張るエネルギーがまだ充電されておらず、兵器と兵力のみで一時的に凌がなければならない状況であった。
閻魔の城 管制室――
「エレインさん! 天界中に敵勢力、複数の門の顕現と共に大多数出現! とんでもない数です!」
「うろたえない! 数は明確に報告しなさい!」
「はっ! はい! その数…… 現段階で、およそ十七万! その内、十万程が東西南北あらゆる方角から閻魔の城に接近中!」
「門の数は現段階では五十七箇所!」
「あの黒い塔からも飛行型魔獣が多数接近中です!」
「なるほど…… 少し多いですが、大体大王様と黒崎さんの予想通りの数ですね」
「落ち着いて! 門の数は異常ですが、それでも想定していた事!」
「各隊と連携、陣形を立て直し、敵を各個撃破!」
「間違っても現段階で直接、門の中に乗り込んで元を絶とうとしない様に! 門ごと消滅させられ、殺される可能性が高い上に別の場所に新たな門を作られるだけです!」
「各所にも通信にて伝達! 現状では防衛に務めなさい!」
「イエス・マム!」
閻魔の城にて、エレインの指示が飛び交う中、グランゼウス要塞でも久藤の指示のもと同様の対処が行われていた。
「……」
「室長? どうなさいました?」
何か一人で考え込む久藤。
部下の一人がそれに気付き、彼女に声をかける。
「いえ、何でもないわ」
「は、はあ……」
…… 多少は想定していたけど、まさか一度にあれ程の数の門を一斉に出すとは……
そんな芸当…… おそらく女神様や、下手したら全盛期の最高神様でも、できるかどうか……
一二〇〇年前……
かつての災厄時、その猛威を振るった根源は元々一人の一般兵レベルの死神に取り憑き、時間をかけて強化、周りを眷属化し、傀儡兵を作り、例の大戦を引き起こした……
時間をかけたとはいえ、元々は大して力の強くない死神に憑いて、女神二人と互角以上の戦いを繰り広げたと聞く……
そして今回媒体にしているのが、かつての天界最強にして最高の騎士なら、この程度の事は、むしろできて当たり前という事か……
結局、最後はアルセルシア様達頼みというのは心苦しいわね……
あの方達でどうにも出来なければ天界どころか世界そのものが終わりというわけか……
全く…… 自分達の無力さが情けないわね!
…… いや…… あるいはもう一人……
何かをしでかしてくれそうな漢が一人……
思えば『彼』は昔からどんな危機的状況も引っくり返してきた……
断片的とはいえ、総司令時代の力も取りもどしたと聞くし、精々期待させてもらいとするわ。
弱気になってるなんて私らしくなかったわね!
「各隊、一旦下がりつつ、まずは陣形の立て直しを優先しなさい! 後衛は援護射撃! 上手く連携して敵を牽制! 前衛は下がりながらも敵の戦力、陣形の分析を怠らない! その後、各隊と連携して各個撃破せよ!」
「冷静に対処すれば勝てない敵ではないはずよ! 落ち着いて連携をとりなさい!」
「いっ! イエス・マム!」
的確に指示をとばす久藤!
とはいえ、こちらは閻魔の城側に比べて少々まだ敵に精神的に気圧されている状況であった。
中々陣形を立て直せず、劣勢を強いられるグランゼウス要塞……
だがここで! あの漢が更に発破をかける!
その漢はすうーっと大きく息を吸い込む。
「落ち着けぇぇぇ! てめえら!」
「!」
「なっ なんだ?」
要塞敷地内・外に信じられない程にバカでかい大声がこだまする!
それは通信機を最大音量にするわけでもなく純粋に! 地声で! 生物がこれ程までに大きな声を発する事ができるのか! そう感じずにはいられない程の魂と気合いのこもった発破であった!
「な! なんだあああ! 今の大声は!」
「屋上からだ!」
あまりの大声に味方はおろか敵兵ですら、
そして皆は驚愕する!
「ああ! あっ! あの人は!」
「霧島っ! 霧島恭弥さんだあああああ!」
そこら中から大歓声が上がる!
「あの伝説の!」
「サアラさんもいるぞ!」
事前に隣で耳を塞いでいたサアラ。
その横で恭弥は続ける!
「しっかりしろ! てめえら!」
「この程度の事で、いちいち気圧されてんじゃねえ!」
「敵がどこから! どんなタイミングで! どれだけこようが関係ねえ!」
「熱く! だけども
「相手の動くをよく見極めろ!」
「
「背中を預けた仲間を信じろ!」
「周りと連携しつつ、迅速に態勢を立て直せ!」
「そんでもって、てめえらの魂のこもった一撃を思いの丈ごと、ぶちかましてやれ!」
「そうすりゃあ、絶対! 勝てる!」
「絶対だ!」
「俺たちは強い!」
「俺らに喧嘩売ってきた事! 連中に死ぬ程後悔させてやれえ!」
「!」
「おおおおおおおおおおおおお!!!」
「恭弥さんの言う通りだ!」
「一度態勢を立て直せ!」
「前衛の歩兵部隊は一旦下がれ!」
「後衛部隊も! 下がりながら前衛を援護しろ!」
「第三、第四機甲師団! 大型の敵を駆除しつつ! 敵前衛部隊も牽制しろ!」
「あくまで牽制だ! 歩兵部隊が下がって態勢を立て直すまで味方を巻きこまん様に牽制に留めるんだ!」
「おう!」
恭弥の魂と気合いのこもった言葉に一気に士気が高まる仲間達!
「ふふ、流石ね」
通信で恭弥と話す久藤。
「こういうもんはこん位、大袈裟に言った方が良いんだよ!」
「特に戦力差が大きい時とかはな」
「気持ちで負けてたら勝てる勝負も負けちまう!」
「本当に勝って事実にしちまえば、ハッタリでも虚勢でもなくなっちまうしな!」
「頭がキレる分、あんたも柄にもなく弱気になってんじゃねえかと思ってよ!」
「! …… ふふ、誰が!」
やれやれ…… 見透かされてしまったわね。
本来ならこれは指揮官である私がやらなければいけなかった事……
私もまだまだね……
そして本当に頼りになる人達ね。
「そんな事は微塵もなかったけど…… 一応感謝はしておくわ♪」
「ありがとう…… 恭弥」
「いいって事よ! こっから先は頼むぜ! 大将!」
「ええ! もちろんよ!」
通信を切る久藤。
「ふう、やれやれ…… とりあえずは何とかなりそうだな」
「あなた♡ 格好良かったわよ♡」
「だろ~♡」
…… みたいな馬鹿なやり取りをまたやってそうだけど……
あの夫婦も、それさえなければ言う事なしなんだけど……
久藤の読みは当たっていた……
そして、再度屋上――
塔からだけでなく、付近の門からも出てきた敵兵の飛行魔獣先発隊が、百匹前後の大軍で二人を空中から取り囲む!
「おうおう、団体さんがお出ましだぜ。 サアラ!」
「ふふ、それじゃあ、たっぷりもてなしてあげないとね!」
複数の
そして、死神の鎌を二刀流で構えるサアラ。
「はん! 『伝説』だか何だか知らねえが、たった二人で粋がってんじゃねえ!」
「やっちまええええ!」
一斉に襲い掛かる魔獣達!
だが、凄まじい超スピードによって、いとも簡単に、敵は一瞬でバラバラに返り討ちにされてしまう!
「なっ!」
「今…… 何を?」
「な…… 何も見えなかったぞ……」
動きを捉えるどころか、目ですら二人の動きを追えてない魔獣達。
「おいおい! 何の冗談だ? ったく、だらしねえ」
「まさかとは思うけど…… 今ので襲い掛かってきたつもり?」
「その程度でよく私達に喧嘩売る気になったわね~」
「うっ! うるさい! おい! お前ら! 全員で! 一気にかかるぞ!」
「おっ! おおう!」
「うらあああああああ!」
しかし…… 結果は同じであった。
あっという間に、目の前の敵を全滅させた恭弥とサアラ。
「歯応えがないわねえ~」
「まだ戦は始まったばかりだ。 これから忙しくなるぜ」
「そうね。 頑張らないと!」
「サアラ…… やっぱりあの門は直接叩けねえよな?」
「それができれば、少しは楽できるのでしょうけど、恐らく無理ね」
「門は通常の物質で、できていないわ」
「あの手の類のものは術者が自分で解くか、もしくは本人を倒さないと消えないはずよ」
「それに迂闊に近づいても相当慎重に調べないと、入った瞬間、門ごと消されて殺されるだけだわ」
「だよなあ…… くそ! やっぱ地道にやるしかねえか!」
「ったく! 面倒くせえ~!」
「まあ、仕方ねえか……」
「よし! サアラ! とりあえずお前は空中からくる敵を仕留めてくれ!」
「俺はここから地上の連中を援護する!」
「空挺部隊がもう少し態勢を立て直し、余裕がありそうだったら臨機応変で俺と地上に直接下りて不利になってる所をまわるぞ!」
「了解よ! あなた!」
「
武装の形態変化を行う恭弥。
そしてそこから長距離射撃を行い地上部隊を援護する!
剣腕や統率力、カリスマ性のみならず、射撃の腕も超一級品である、彼から繰り出されるその正確無比な射撃は、味方陣営の態勢をどんどん立て直し、逆に敵軍は翻弄されていく。
「なっ! あんな距離から! ぐあっ!」
「ばっ! 化け物めっ!」
「オメーラに言われたくねえよ!」
「とっとと態勢を立て直せ! お前ら!」
「はっ! はい!」
巻き返しを図る死神達!
戦はまだ始まったばかりだ!
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