第86話 現れる! 黒き巨塔!

「さて、それではエレイン君! 準備はいいかい?」


 通信機で閻魔の城、管制室にいるエレインに、ある確認をとる大王。


「はっ! いつでもいけます!」


「うむ。 では頼んだ!」


「はっ!」


 エレインが閻魔の城全域に放送をかける!


「総員! 備えよ! 繰り返す! 総員! 備えよ!」


「閻魔の城! 要塞モード起動!」


 閻魔の城とその周辺に大きな地響きが鳴り響く!


 城の高度が真下に当たる地面から押し上げられる形でどんどん上がっていく!


 さらに周辺の地面から強力な数々の武装を携えた城壁が次々と出現してきたのだ!


 気付けば閻魔の城、いや要塞と化したこの砦は、元の五倍近くの総面積を有する形で姿を変えて出現していた!


「おお!」


「ついに実戦で!」


 周りの戦士達も興奮を隠せないでいた!



 *     *     *



 第五七番治療施設――


 モニターで、その姿を変えた閻魔の城を見守る霧島とカエラ、そして黒崎……


「あれが話に聞いた!」


「ええ…… 閻魔の城の戦闘形態!」


「その戦闘能力はグランゼウス要塞に匹敵、いや! それ以上との事です!」


「ただし、こちらはエネルギー消費が激しく全ての機能をフル稼働させると最長で七十二時間…… フルパワーで稼働させ続けるなら四十八時間とちょっとといった感じで、普段は通常モードにしているのですが……」


「ああ。 俺も久し振りに見たが…… あれなら例えどんな敵でも、そう簡単には墜とされねえ!」


「俺らは俺らの役割を果たすぞ!」


「はい!」

「ええ!」



 *     *     *



 閻魔の城 屋上――


「ふふ、久しぶりに見ると壮観だねえ♪」


 戦いの気配に煽られ、リーズレットも少し興奮気味だ。


「ああ、 そうだね。 だが、ゆっくり鑑賞している時間はない!」


「そうだな…… では我らは行くとするか」


「姉様! アルテミス姉様と対峙するまで、少しでも! 体力を温存した方がいいです!」


「私が送ります!」


「そうか、助かる」


 相手はかつての天界最強の騎士…… そして、その背後にいる元凶……


 空間移動能力は非常に有効な能力だが、かなりの霊力を消費する。


 別に一度でも使ったらバテバテになるというわけではないが、相手が相手……


 本命にぶつかるまでは無駄な体力消費は避けるべきだと、イステリアの判断であった。


 そして周りの者達も優先順位を決めた上で、その事は理解しているのである。


「それではエレイン君、マクエル君も! ここの事は任せた!」


「ええ! お任せ下さい!」


「武運を!」


「マクエル、頼んだよ♪」


「総長こそ、こういう時こそ、バンバン活躍してくださいよ!」


「ふふ、わかってるよ♪」


「それでは皆様! いきますよ!」



「はあああああ!」



 イステリアが霊力を高め、その場の空間に一つのゲートを出現させた!


 そして、アルセルシア、大王、リーズレットの三人は、その門へと足を踏み入れるのであった。






 例の鉱山跡…… その入り口の少し手前にて降り立った三人。


 敵が流出しない様に、門はすぐにイステリア側から消されていた。


 軽く辺りを見渡しながら、ゆっくりと歩を進める三人。


 すると入り口の見張りをしていた異形の怪物達が三人に気付いた!



「おい! あれ……」


「? …… ! あいつらは!」


「敵襲だ! 全員来い!」



 あっという間に三人を囲む怪物達!


 ざっと見て、百人以上はいる!


 だが相手が相手だけに中々踏み込めない怪物達……


 そんな中、勇敢…… いや、無謀にも、業を煮やしたのが一人……



「くっ! かかれ! 一斉にだ!」


「! おっ! おおおおおお!!!!!!」


「死ねええええええ!!!!!!」



 一斉に飛びかかる敵の群れ達…… 


 だったのだが……











「邪魔だ」




 剣も抜かずに、一睨ひとにらみするついでかの様に、本人にとっては何てことはない、周りの者達からすれば、強力極まりない霊圧を解き放ち、飛びかかってきた怪物達を断末魔の一声すら残させずに! 一瞬で! 塵一つ残さず吹き飛ばし、消滅させるのであった!


 まるで自分の道を妨げる者は、例外なく始末するといった感じの圧倒的な存在感である……


「ふふ♪ キレッキレだねえ♪ 師匠せんせい♪」


「流石ですね」


「ふっ、少し睨んだだけだがな」


「攫ってきた魂にしろ、その情報を元に一から作り出された存在にしろ、ああなってしまったからには、もう元には戻らない……」


「一刻も早く、滅する事が奴らにとっての唯一の救いだ」


「わかってると思うが、一切の情けは不要だぞ」


「ええ!」

「もちろん!」


 二人に改めて、必要な覚悟を伝えた後、アルセルシア達は、鉱山跡の中から感じる気の方向へと足を進める。








 数分程、歩いた後、異空間へと繋がる門が置かれていた……



「これか……」


「さて…… どうする?」


 二人の意見を求めるアルセルシア。


「罠の可能性も多分にある…… というか明らかにそうだね……」


「門の前の見張りが少ない上に、いくらなんでも雑魚過ぎたからね♪」


「まあ、入らないわけにもいかないんだけど♪」


「かといって、いきなり三人同時に入るのは論外だな」

 

「なら、まずは僕が入るよ♪」


「! いや、リーズレット、ここは僕が……」


「師匠はアルテミス殿をお任せするからそれまでに何かあっても困る……」


「かといって、兄上は当代閻魔大王…… 同じく、倒れてもらうわけにはいかないんだよ♪」


「ある程度は自分の立場を自重して♪」


「兄上の代わりなんて、誰にも務まらないんだから♪」


「消去法で考えて、ここは僕一択だよ♪」


「しかし……」


「兄上…… 僕を心配してくれるのは、もちろん嬉しいけど、今は大局を視るのを優先して……」


 兄の気遣いに感謝しつつ、真剣な眼差しで大王に訴えるリーズレット。




「…… わかったよ、リーズレット」


「気をつけろよ、リーズ」


「わかってるよ、師匠♪」


「二人共、僕が合図するまでは入らないで! もし五分以内に僕から何の応答もなかったら、別ルートか他の手段を頼むよ♪」


「うむ!」

「ああ!」


 空間をまたぐ、つまり門を通っている最中に門を消されると、それを跨いでいる物質は両断されてしまう……


 念の為、自身に障壁をかけるリーズレット。


 その上で、一応出た先ですぐに敵が待ち構えて、仕掛けてくる可能性も考慮に入れ、いつでも抜ける様に刀に手をかけた状態で、素早く中へと入っていく!



 門の先へと出たリーズレット……


 出先で敵は待ち伏せていない…… むしろ不気味な程に静かすぎる位だ……



「へえ…… 中はこうなってるのか」


 まるで中世の時代に出てきそうな、宮殿の様な豪華な造りの城内……


 広いホールか何かに出てしまった……


 闇や瘴気を連想させるかの様に、全ての壁や床等を紫がかった黒い色彩で辺りを包みこんでいた。


 辺りを見渡し、周辺の気配を探るリーズレット。


 最奥の方向に何か感じ取れるが、すぐ近くには敵の気配はなし……


 見渡す限り、わかりやすい感じで仕掛けられてるトラップもない……


 門越しでもすぐ近くにいる兄上達の気配は感じとれる…… それ以上離れた皆の気配は流石に無理か……


 通信機を出し、操作するリーズレット……


 兄上達に繋がらない…… 空間を跨ぐと、どんなに近くに相手がいても通信は届かない、か……


 まあ、大方予想通りか……



「二人共~! 聞こえる~?」


 目線は辺りを警戒し、身体の向きもそのままを維持し、背にある門に向かって大きめの声を発するリーズレット。


「! ああ、聞こえてるぞ! リーズレット!」


「そっちはどうなってる!」


 声は届く、と…… 偽者でもないね♪


「罠らしい物は、わかりやすくは置いてないね! けど入る分にはとりあえず大丈夫そうだよ!」


「ただ念の為、障壁を掛けて素早く中へ入った方がいい!」


「なるほど…… わかった!」


「それでは行くとするか!」




 中へと飛び込み、リーズレットと合流した大王とアルセルシア。




「で、どうする?……」


「人っ子一人いないな…… まあ、ここでじっとしているわけにもいかんだろ」


「最奥に二つの気を感じる…… とりあえず辺りを警戒しつつ、そちらを目指すとするか」


「そうですね」


「了解♪」


 こうして三人は辺りを警戒しつつ、この空間の最奥へと進んでいくのであった。



 そして……




「…… 来ましたか」


 そこには元女神アルテミスと雷帝レオンバルトと思しき姿があった……









「…… 何のつもりだ?」


「? 何の話だ?」


 途端に不機嫌そうな表情かおをするアルセルシア。


 彼女の言葉の意味を問い返すレオンバルトだったが……


「貴様ら如きが姉者達の姿形を気取るな…… 目障りだ!」


 次の瞬間! アルテミスとレオン…… いや、その二人に化けていた両者の両腕がとんだ!


「ぎゃあああああ!」


「うっ! 腕がっ! 腕があ~~~~!」


 ダメージによって変化が解け、正体を晒された怪物達。


 そこへ冷酷な表情で敵を威圧しながら、アルセルシアは言葉を投げる。



「一度だけ聞いてやる…… 本物の姉者達はどこだ。 三秒以内に答えろ……」


「まっ! 待っ!」


「知らない! 知らないんだ! 助けっ!」

「そうか……」


 

「ぐあああああ!」

「ぎゃあああああ!」


 知らないと聞くやいなや、彼らの命乞いが終わりきる前に始末を付けたアルセルシア。


 怪物達は一瞬でコマ切れにされていた……



「あ~あ♪ 何て命知らずな……」


「師匠のお怒りを買って当然だ…… 敵とはいえ、彼女らを侮辱する行為にも等しい!」


「だが、これは……」


「うん…… 彼女らの指示にしては品がないね♪」


「ああ、姉者でもレオンでも、この手のやり方は趣味ではないな」


「別の者の知恵と? 該当しそうなのは……」


 「アランの様子を見た時、『真なる選別者』共は彼に限らず、その残虐性にも関わらず元女神殿に対して一定以上の、それも絶対的な力を持つ支配者に対しての恐怖ではなく、心から慕っての忠誠心がある……」


「その可能性も大いに感じとれた……」


「ああ、かつてのガラン・ズールやイリア・セイレスの本質を考えると、彼らの趣味とも考えにくい……」


「と、なると……」


「ああ、多分そうだろうな……」





 三人が思考を巡らしている、その時!




 突如、空間内に大きな地震ともとれる揺れが発生しだした!


「!」

「!」

「!」



「ふん、なるほど…… そう来るか」


「どうやら彼らをるのが引き金トリガーだったってとこかな♪」


「ふむ…… いつの間にか、入り口の霊的気配もなくなってるね……」


「しっかり門も消されてるってわけだ」


「このまま僕達を空間ごと一気に大爆発、もしくは圧縮して潰してしまおうってハラかな?」


「この感じだと恐らく後者だね…… しかも空間そのものに一枚一枚が強力な結界を、見えない形で何重にも張っていて、そう簡単には脱出させないつもりだね♪」


「このままだと僕達三人共、お陀仏だね♪」


「この空間も、もって後、三十秒ってとこかな♪」


「うん、妹よ! サラッと笑顔で怖い事を言う癖、直した方が良いよ! 本当に!」


「にしても…… はあ…… これはまた随分と……」


「ああ……」













「舐められたものだな……」




 一方、その頃、天界各地では……



「! これは!」


「地震?」


「それもかなり大きいぞ!」


 天界全体も大規模な地震に襲われていたのである!


「いや…… これは!」


 次の瞬間!


 突如異空間から真っ黒な瘴気に包まれた、巨大極まりない塔の様な物が具現化された!


 無人になっていたのは幸いだが、同じ座標にあった施設や建物は押し潰される様に消滅してしまった!


 途轍もない…… それでいて圧倒的な存在感を放つ『それ』に天界の戦士達は瞬時に理解した……



「どうやら、あちらが本命みたいですね」


「やはり大王様達は『ハズレ』を引かされたみたいですね」


 閻魔の城 管制室にてモニターを見ながら女神イステリアに声をかけるエレイン。


「ええ。 あの塔の姿…… 禍々しい気と色を発していますが、そっくりです!」


「我らが住まう『聖天の塔』に!」


「間違いありません!」


「あそこにアルテミス姉様がいます!」



*     *     *



 黒き塔の管制室――



 そこには大勢の部下の怪物達と共に、かつて二十八番支所を潰した際に、監視カメラに写っていた正体不明の青年が立っていた。



「ふふ、いよいよだねえ!」


「さあ! 謝肉祭カーニバルの始まりだよ!」


 両手を広げ、歓喜…… いや、禍々しい狂気に満ちた笑顔で叫ぶ青年!




 世界の存亡をかけた戦いが遂に始まる!

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