第80話 武運を!

「まず例の鉱山跡の敵が敷いてアジトにしているであろう空間……」


「そこから時折! 強い霊圧を複数感じる事がある!」


「恐らくアルテミス彼女や雷帝がいる可能性が高い!」


「だが! ダミーや罠の可能性もあるから、まずは少数精鋭!」


「僕にリーズレット、師匠せんせいの三人だけで先行して、その空間に乗り込む!」


「そこで彼らがいればそのまま無力化…… ダミーなら次の手に移る!」


 かなりのリスクを伴うが現状判明している敵の潜伏場所……


 そして相手が相手だけに、迂闊に数で攻め入っても危険。


 罠だったら尚の事だ。


 例え罠でも、少数で如何様にも対応できる実力を持ち合わせているこの三人で、まずは先行すると閻魔大王達の考えであった。


「お三方だけで! …… いや、でも出方としてはそれがベストですか……」


 とはいえ、こちらの大将格達にリスクの高い先行隊を任せる事に複雑な心境の霧島。


 その霧島に答えるかの様に、女神アルセルシアが説明を補足する。


「ああ、その空間が陽動にしろ本命にしろ、はっきりとわかるまでは大人数で乗り込むのは逆にリスクが高い」


「かといって本命だった場合、こっちの最高戦力じゃないと対処できんだろう……」


「援軍呼ぶにしても、まずはそこからだ」


「そうですね…… 流石にこの面子なら心配ないでしょうけど、どうかお気を付けて!」


「うむ!」


「ああ! ありがとう!」


「ふふ、そっちは頼んだよ♪」


「で、ダミーだった場合だが……」


 自分達がハズレをを引き当ててしまった場合の対処法や指揮系統等を説明、また、他にも良い意見がないかと新たな提案を皆から求める閻魔大王。


「――という流れになるかと思うんだが、どうかな?」


「大王様。 ちょっと聞きたいんだが……」


 ここで黒崎が閻魔大王に可能ならばとある作戦を提案する。














「――ってのはどうだ?」


「なるほど…… それはいいね! 流石は黒崎君!」


「ですが、今から間に合いますでしょうか?」


 エレインが言葉を挟む。


 僅か四日以内に『それ』を準備する事が可能なのかどうか……


「そこなんだよなあ! どうだ? マクエル?」


「そう…… ですねえ……」


 しばし考え込むマクエル……





「…… わかりました! 技術・開発部には私から話を通しておきます! 黒崎さんの言う通り、『先程手に入れた物』も参考になるでしょうし……」


「まあ、いざとなったら私もそっち方面の知識も多少はありますから、手伝わせていただきますよ」


「完成次第、連絡させていただきます」


「よろしく頼む!」


「それから民衆の避難勧告や誘導はどれ位進んでいるんだ?」


「ああ、それなんだが、エレイン君」


「はい。 そちらは八割方、進んでいます。 明日、明後日には全ての民衆が避難を完了するかと」


 グランゼウス要塞の会議後から、全ての作戦準備と並行して閻魔大王とエレインを中心に、睡眠時間を削って急ピッチで民衆の避難勧告と誘導を行っていたのだ。


 また、霊力の消費が多いから多用はできなかったものの、アルセルシアもまた、空間移動で援護してくれていたのだった。


 この短期間で、それらを完璧にこなしてみせたのは、流石としか言い様がない三人の手腕。


 そしてそれにつき従う、部下達との見事なまでの連携の成せる業でもあった。


 それから、決戦当日の各々の役割と動きを確認していく面々。



 そして……



「よし! じゃあ後は、細かいところは随時通信で、てことで各自備えるだけだな!」


「うむ! そうだね! 皆! 質問等はもう大丈夫かな?」


 閻魔大王の最終確認に一同は、もう大丈夫との事で返答するのであった。


「よし! 決まりだね! それじゃあ……」




「黒崎君…… 次に直接会うのは戦場だ…… 互いに武運を!」


「ええ。 そっちこそ! 『例の誓い』を忘れんなよ!」


「?」


 互いの武運を祈り、握手を交わす閻魔大王と黒崎……


 誓い? なんの事? と、いった顔のエレインであったが、薄々その意味に勘付いている者達も……



「…… 霧島君」


「はい、カエラさん」


「なんだかloveの匂いがしますね……」


「ええ。 loveの匂いがします……」


「今のってもしかして…… ! そういう事ですか!」


「え! やっぱり! ついに! ようやく?」


 小声でヒソヒソとやり取りをするカエラと霧島。


「? 何をコソコソしてるんですか? 二人共?」


「いえいえ!」


「何でもないですよ! エレインさん!」


「ね~~~~~!」

「ね~~~~~!」


「…… なんだかわかりませんし、何故だかちょっとイラッともきますが……」


「とにかく! お二人も武運を祈ります! 互いに生きて! また再会しましょう!」


「ええ! もちろんです!」


「エレインさんも! どうか武運を!」


 そう互いを鼓舞し合い、三人もここで握手を交わしていくのであった。




「じゃあ、またね♪ 修二♪」


 黒崎の前に歩み寄るリーズレット。


「全部片付いたら、久々に君とも手合わせしてもらうとするから、そのつもりで♪」


「僕の許可なく、勝手にくたばったりなんかしたらタダじゃ済まさないよ♪」


「おっかねえなあ! だが、まあ…… 一応覚えておくよ」


「ちなみに僕が勝ったら、そのまま僕と結婚してもらうよ♪ そのかわり君が勝ったら僕が激しく! 愛をもって、その夜は君を抱いてあげるよ♪」


「それどう転んでも、お前しか得しねえじゃねえか!」


「またまた~ テレちゃって~♪」


「テレてねえよ!」


「あ~、その、なんだ……」


「お前さんの方こそ…… 気張っていきな!」


「言っとくが、めちゃめちゃ強えぜ…… 

レオンは」


「ふふ、それは楽しみだ♪」


「互いに武運を♪」


「ああ、またな!」


 互いに手を握り交わす黒崎とリーズレットであった。




「京子…… 自分がこうと決めた道…… 後悔のない様に、しっかりと頑張りなさい」


「師匠…… 師匠こそ! ちゃんと無事に帰ってこんと承知せえへんで!」


「ええ、もちろん!」


 師弟…… それも絶大な信頼関係を築いている二人は、互いを信じて笑顔で再会を約束する。




 そして…… アルセルシアと黒崎……


 互いに向かい合い、各々一言だけ……







「ふっ 『またな』 修二!」


「ああ、『またな』 アルセルシア!」


 先程のフロアで、言いたい事は全て言った二人……


 もはや言葉は不要……


 互いを信じて…… 握手だけを交わす黒崎とアルセルシア。




 皆、それぞれの武運と無事を祈り、再会を約束するのであった。








「それでは皆! 武運を祈る!」


 アルセルシアの開いた空間の穴の前に立つ閻魔大王、エレインにリーズレット、マクエルにアルセルシアの五人。


「ああ! 互いに気張るとしようぜ!」


 黒崎達に見送られながら、大王達は遮断結界を解き、空間の中へと入っていき、帰路に就くのだった……




 決戦まで後、四日……




 こうして、激動の一日を終え、それぞれが最後の準備をしていく事になるのであった……

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