第79話 戦力差

 まず、閻魔大王が天界の総戦力について説明を始めた。


「天界の総兵力は、およそ三万。 諜報部、零番隊含む死神事務所、全支部含めた兵力の数がこれだ!」


「一二〇〇年前に比べ、数も! 練度も! 遥かに増している!」


「さらには基本、その強大すぎる力ゆえ、同じ案件に全てのメンバーが事に当たる事はなかった零番隊も! 今回は十名全てのメンバーが各配置につき動いてもらう事になる!」


「加えて、引退している身で非常に申し訳ないが、父上と母上にも! 力を貸していただく事になった!」


「女神イステリア様も前大戦と同様、最高神様の守護をお務めになるが、可能な限り! 今回、お力を貸していただく事となった!」


 カエラと霧島は、改めて経験した事のない程のスケールのでかい話に緊張が走っていた。


 二人の頬から汗が滴り落ちる。


「とんでもない戦力ですね……」


「まさに総力戦…… といったところですね……」


 前大戦を、シリウスとして外から見ていた黒崎も、ここで話に入ってくる。


「ああ…… 前大戦より遥かに戦力が充実しているな」


 冷静に分析して頭の中で色々考えを巡らす黒崎。


「ていうか普通ならどんな化け物が率いてる軍勢でも、これならあっという間に決着が着いてしまいそうな戦力ですよ!」


 想像以上の自軍側の戦力の強大さに、こう発言する霧島。


「まあな。 だが生憎と相手は『普通』じゃねえんだよ…… 『色々な意味』でな」


「! 『色々な意味』とは?」


 カエラがこの言葉に疑問を抱き、黒崎に問い返し、それに黒崎も答える。


「言葉通りの意味だよ」


「正直、これでも足りるかどうか……」


「はっきりいって、どれだけ数を集めようが『まともにやりあったら』やられるのは百%こっちだっていう話だ」


「そんな!」


「それ程までの脅威度レベルですか!」


 信じられないといった様子の霧島とカエラ。


 そして、閻魔大王がその『理由』について説明に入る。


「残念ながら黒崎君の言うとおりだ」


「今回の敵の黒幕には確実に『アレ』が絡んでいるだろう……」


「前大戦の兵力差は天界側が二千…… それに対して、敵は一万前後が『最初』の数だった……」


「最初?」


 そのワードに引っかかった霧島。


 黒崎も説明側にまわる。


「敵は負の感情や悪意がもとになっている瘴気を操る……」


「そして厄介な事に、それらが世界から完全になくなる事は絶対にねえ!」


「世界のどこかしらで、必ず大なり小なり常に発生しているもんだ」


「そして戦いが激化し、例えば、こちらが劣勢を強いられ始めたら、焦りや恐怖感を抱く連中も出てくるだろう……」


「! それってつまり!」


「ああ…… 流石に状況次第だろうし、それを形にするには、ある程度の条件やカラクリが必要なんだろうが……」


「だが逆に言っちまうと、それらの条件が整っちまったら……」


 厳しい表情になってきた黒崎の横で、大王がその続きの言葉を述べる。


「敵の兵力は『無限に生成され続ける』という事さ」


「そんな!」


「それじゃあ、どれだけ敵を倒しても向こうは数は減らないって事ですか!」


「いや、そうでもねえ……」


「瘴気が溜まったらすぐに兵隊が生成されるわけではない。 一定量溜まり、敵が何らかの術や機器を通して、たまった瘴気を兵隊の形にしたり、捕らえた魂とブレンド、改良したりと『生成工程』を挟むわけだ……」


「兵士としてできあがるのに『ある程度の時間』が必要になってくるはずだ!」


 ここでリーズレットが話に入ってきて、その答えを簡単に要約する。


「つまり、敵の次の援軍ができあがるのに、多少のタイムロスがあるって事だね♪」


「そういう事だ! だから常に絶え間なく、エンドレスで敵が増え続けるって事はねえし、こっちが士気を常に高く保っていれば、それはなおさらだ!」


「な、なるほど……」


 とはいえ、それでも…… といった表情の霧島とカエラ。


 あまりの状況下で、流石の二人も不安を覚えてしまっている様子だ。


 だが、黒崎は続ける。


「まあ、それでもかなりの軍勢を相手にする事になる。ましてやアランが敵方にいたって事は兵隊を量産する機器の性能が極めて高いものを完成させているって考えた方がいいだろう……」


 頭の中で状況を分析している黒崎を見て、大王が彼に意見を求める。


「黒崎君…… 勘でも何でもいい。 相手の『初期』の総兵力はどれ位と踏んでいる?」


「そう言われてもなあ…… ガチで只の勘だぞ! 参考になるかどうか……」


「ああ、それで構わない!」


 黒崎の…… そしてシリウスとしての考えは、例え只の勘レベルでも、無視できないと大王は考えているのであった。


 それは彼の、黒崎に対しての信頼の証でもあった。


 それに答える黒崎。


「そうだな…… 勘、というか心構えだが、一二〇〇年経って、こちらの兵力…… 単純な数でって意味でな! 一五倍に増してるんだから、敵もあれからずっと準備してたってなると、最低でも同じ比率位は、増してると覚悟した方がいい……」


「ただ、今回は仲間にしてる連中、かなり練度が高そうなのも揃えてるから過去の失敗から学んで、多少は数より質で攻めてくる方法も覚えてるかもな……」


「だから敵の兵力は十万から十五万ってとこが俺の予想だ」


「まあ、予想というか、正確には、その位は覚悟しておいた方がいいって感じだな」


「十五万……」


「そんなに…… しかもさらに増えるって……」


 あまりの兵力差に愕然とする霧島とカエラ。


「ふむ。 僕の予想も大体そんな感じだね。 確かに心構えの様なものだが……」


「そもそも、こればっかりは探りようがないからねえ!」


「確かにな、向こうは異空間に陣取ってるし……」


「だが、喧嘩は必ずしも数だけじゃねえ!」


「敵が十倍、十五倍いるんだったら、こっちが一人あたり十人でも二十人でもぶっ潰せばいいだけの話だ!」


「そんな単純な!」


「というか喧嘩って……」


「それに…… ようは上手く頭脳ここを使えばいいんだよ!」


自身の人差し指で、頭を指す黒崎。


「ふふ。 その通り♪ いかに不利な状況でも戦略次第で、如何様にもなる♪」


 少し笑みを浮かべながら、そう答えるリーズレット。


「なんだったら、僕と兄上だけで半分以上狩ってあげてもいいけどね♪」


「いや~、ははは……」


「妹よ! 流石にそれはかなりきついな!」


「え~、僕と兄上だったらいけるんじゃない?」


「ふふ。 流石は我が妹! はっきり言ってドン引きする位に頼もしい…… ていうか怖い! この娘、怖い!」


「黒崎君、さっきの話の続きだが、やっぱり妹を第二夫人として真剣に考えては……」


「まだ続いてたのかよ! その話!」



「大王はん……」



 殺気と笑顔を織り交ぜながら、大王にその言葉の真意を問う京子。


「ひっ! や、やだな~ 京子君! 勿論! 第一夫人の座は京子君に!」


 拳を鳴らし始めて、ゆっくりと大王に近づいていく京子。


「じょっ! 冗談ですよ! 冗談!」


「え~、僕は第一じゃないと嫌だよ♪ ていうか! できるなら独り占めしたいし♪」


「妹よ! お願いだから、ここは黙っていてくれ!」


「はいはい! 皆さん! 話しをもどしますよ!」


「エレイン君!」


 エレインが、かなり呆れ気味な様子で手を叩いて、話の続きを促した。


 助かったとばかりに、エレインに感謝の視線を送る大王。


 よほど京子が怖かったのか、若干涙目の大王であった。



「ま、まあ話をもどすが、大事なのは戦略というわけさ!」



「そういう事だ。 つまりあれだ…… 敵が無尽蔵に増えるんだったら……」


「そう! 大元を叩けばいい!」


「その大元がアルテミス様、そしてその背後にいる『黒幕』だ!」


「つまり! 敵の総大将を最速最短で潰せばいい♪」


「そこに至るまで、皆で民衆を守り! 凌いでくれればいい♪」


「そういう事でしょ♪」


「その通りだ」


 リーズレットにそう答えるアルセルシア。


「ちなみに奴らの猛攻を凌ぐといっても兵力差から考えて、いくら我ら女神や先代閻魔、零番隊を擁したとしても、二日目以降はジリ貧になっていくだろう……」


「戦況はどんどん厳しくなっていき、どんなにもっても、三日が限度だろうな」


「それ以上は恐らく無理だ…… 長引けば確実にこちらが全滅する」


「ああ、だからこそ……『最初の一日目』で決着を着けなければいけない!」


「そう、そしてそれができなきゃ、俺らの負けだ」


「ああ。 天界は滅び、最高神様も殺され、その力を吸収、新世界を創造され、さらには下界…… 人間界をも侵略される事になるだろうね」


「まさにあの世もこの世もひっくるめて、全てが終わりだ……」



 その言葉の重み…… そして事の重大さ、深刻さを改めて痛感した霧島とカエラは先程までの不安等に駆られている場合ではないとばかりに気合いを入れなおす。



「…… そんな事させません! 絶対に!」


「ええ! 冗談じゃありません! 絶対に負けられない!」


「お前ら……」



「ふっ ああ! その通りだ! お前ら! 気合い負けすんじゃねえぞ!」


「俺らは絶対に勝つ! 何が何でも! どんな手を使ってもだ!」


「はい!」

「はい!」


「ふふ。 どうやら、改めて覚悟が定まったみたいだね!」


「それでは! 当日の作戦の具体的な流れを説明するよ!」

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