第78話 手紙と贈り物 ②

「普段の死神業務において、あくまで基本的なレベルのトラブルだったら『制圧レベル』か『今のままの戦い方』でもお前なら十分だろう……」


「だが今回のこれはまごう事なき戦場! それも最悪レベルだ!」


「戦場は命の奪い合い…… どんなに綺麗事を並べようがこれは事実だ…… ほんの僅かな迷いが死に直結する事もある」


「お前に足りない覚悟は、俗にいう自身の死の覚悟や捨て身の覚悟なんてものじゃねえ」


「そんなもの、それ相応に戦士として修羅場を潜っていれば誰でも身に着くもんだ」


「お前に足りない覚悟は『非情に徹しきる』覚悟と『自身の全ての力を出し切る』覚悟だ」


「俺との訓練時も、常に俺を殺す気でかかってこいと言ってきたし、それとは別に厄介なレベルの案件がお前のとこに来た時、大王様に知らせてもらって、ある程度の件数だが、お前が本気を出さなきゃいけないレベルの実戦も、実は観察させてもらった」



「そこで気付いた事なんだが……」


「お前は攻撃を当てる瞬間…… 僅かに勢いを殺してしまっている事が多かった」


「恐らく無意識化だろう…… 『やりすぎてしまわない』様に自身で抑えてしまっている傾向がある」


「お前がブチキレていた時も…… 間違いなく本気ではあったんだろう…… 相手を仕留める覚悟も十分持っていただろうし、実際そういう経験も多く積んできている……」


「ただし、それはあくまでお前が『自身を確実に保てる領域』で…… だ!」


「お前が『本当の意味』で本気を出せた事は俺の確認したところ、実戦では数回程度しかない。 俺との訓練時には、一度も見た事がないしな」


「出せた時は本当に、ギリギリまで敵に追い詰められ、死に半歩、足を踏み入れている状況になるまで消耗しきっている時に、咄嗟に切り返し、ようやく奥の方に引きこもってる底力を出した時だ」


「だがそんなタイミングで、しかも稀にしかガチの力を引き出せねえんじゃ、大物の敵に出くわした時、お前も! お前の仲間も! 遅かれ早かれ、いつかは詰む!」


「先にも書いた通り、お前の霊力の総量は相当なものだ。 しかも測定数値なんてものは目安程度にしかならねえ」


「俺達は実戦において、数値以上のパワーを発揮するなんてザラだ」


「お前は潜在意識の中で、自分の力の危険性を認識している」


「お前が本当に全ての気を解放したら、相応に周りの地形にも変動を及ぼす位になるかもしれねえ……」


「そしてその状態で繰り出される一撃は相手に絶対的な死を与える!」


「それだけでなく、周りにも影響を与えるだろう……」


「その結果、自分テメェが極限まで追いつめられるまで、迷いにのある魂のこもってねえ情けねえ一撃しか出せなくなってるんだ」


「お前は、良くも悪くも優しすぎだ……」


「まあ、お前のそんなところも俺らは大好きだし、誇りにも思っているけどな!」


「だが戦場においてその行為は、お前自身はおろか、おまえの大切な仲間の死にも直結する……」


「全ての甘さを捨てろ! 達也!」


「ああ! でも何も心を捨てて、ブチ切れて殺人狂になれって言ってるわけじゃねえぞ」


「確かにその場合も、とんでもなく強い力を発揮するだろうが、それは悪い方向で『タガを外しちまった』状態だ」



「確かに強い力だが、それに頼り切る様な奴が最終的に行き着く先は『自身の破滅』だ」



「昔、俺がまだ人間で傭兵だった頃…… 血の雨にまみれながら、そんな連中を腐る程見てきた……」



「そんなもんは本当の強さじゃねえ……」



「俺はお前には、そんな風になってほしくねえしな」




「じゃあ、具体的にどうすればいいかコツを教えてやる!」



「それは……」











「仲間を信じろ!」




「話は多少なりとも聞いている…… お前が信頼している仲間は、互いに大切に想い合ってくれている連中は! お前が多少やり過ぎた位で、どうにかなっちまう様なヤワな連中か? 何のフォローもし合えねえ様なヒヨッた連中か?」


「ちがうだろう!」


「仲間を信じて! 自分と仲間が生き抜く事だけ考えて! 後は集中して敵を叩け!」


「お前が! お前達が力を合わせて敵を倒さねえと大切なものが守れねえんだぞ!」


「じゃあ守る為にはどうするか?」


「そんなの簡単だ! 思いっ切りやるんだ!」


「なにも一人で、全部完璧にこなして戦えって言ってる訳じゃねえんだ!」


「失敗したら仲間がフォローする!」


「仲間が失敗したら自分がフォローする!」


「そうやって互いを補い合い、理不尽な連中を容赦しねえでぶっ潰せ!」


「お前が何の遠慮もなく『本当の意味で』仲間を信じ、互いに背中を預ける事ができれば! 今言った事ができるはずだ!」


「潜在意識の中にある、その『恐怖』を克服できるはずだ!」


「そうすれば、魂のこもった一撃をぶちかませるし、思いっきりパワーも解放できる!」


「結果、戦場でお前も! お前の守りたいものや大切な人達、仲間達も! 守れる確率が格段に上がるんだ!」


「恐れるな! 達也!」


「お前は強い! お前と…… お前と共に在る仲間を信じろ!」




「まあ、強いといっても、俺からいわせればまだまだだがな!」


「正直他にも指南してやりてえ事は山ほどあるが、それでも今のお前の力をフルに出す事ができれば、この戦いを乗り越える事ができるかもしれねえ……」



「長くなっちまったが、これが終わったら家族全員集めて! 久々にドンチャン騒ぎで飲み明かすとしようぜ!」



「じゃあな、達也。 互いに気張るとしようぜ!」



「…… 高祖父様お爺様…… ん?」


 手紙にしっかり目を通し、恭弥の言葉をしっかりと受け止める霧島。



 だが、手紙にはまだ続きが書いてあった。




「PS: サアラよ。 達ちゃん久しぶり」



「言いたいことは、恭弥にほとんど書いてもらったから私からは二つだけ……」








「全部終わったら沢山抱きしめて、チューしてあげるからね♡ あ! 勿論、恭弥がヤキモチ焼かない程度にね♡」


「後、大丈夫だと思うけど、万が一! 

達っちゃんに彼女ができたら! 必ず! 

私に報告しなさい!」


「達っちゃんに相応しい子か! 私が! 厳正に! 審査してあげるから♡」


「もし! 達ちゃんを惑わす、ふざけた女が付きまとっていたら、私がちゃ〜んとその子をコマ切れにしてあげるからね♡」


「あ! でも私、カエラちゃんだったら悪くないかも〜って思ってるわよ♡」


「というわけで、全部片付いたら達っちゃんの恋愛事情も含めて色々教えてね~♡」


「それじゃね~ 愛してるわ! 達っちゃん♡」





「……」


「? 霧島君?」


「……」


「霧島君ってば! どうしたんですか?」


「はっ! すいません! カエラさん」


「いえね、非常に良い事と参考になる事が書かれているにもかかわらず、要所要所に、それはもう見事なまでに、全てを台無しにしてきてるというか…… 面倒くさいというか……」



「正直イラッとくる内容の手紙でしたね! ったく、本当にあの人達ときたら……」


「一体、何が書かれてたんですか!」


「まあ…… 確かに中々…… その…… 個性的な方々なので…… 色々愉快な事も書かれていたかもしれないですが……」


 言葉に困りながらも一応フォローしようとするカエラ。


「カエラさん…… そんな気を使って言葉をオブラートに包まなくても大丈夫ですよ」


「素直にちょっと…… いや、大分! 『頭のおかしな人達』って言ってくれても」


「べっ! 別にそんな事は思ってませんよ! …… 多分」


 思わず苦笑するカエラ。


 霧島と付き合いがそれなりに長いカエラも霧島夫妻とは昔から何度も面識があり、彼女も結構可愛がられていたりしたのだ。


 なので、夫妻がどう言った人物達なのかも理解している。


「はは。 まあ、でも…… 本当に参考にはなりましたよ!」


「精々僕も! 決戦に備えておきますよ!」


 ありがとう…… おじいちゃん…… おばあちゃん。



「それでカエラさん、そっちの手紙は?」


「ええ。 メアリー司令からでした」


「メアリー司令から?」


「ええ。 実は前から私の武装について色々あの人に相談させてもらって……」


「今の武装も悪くないんですが、戦いが激化していく中、もう少し私自身の戦力を強化できないかと……」


「そこで相談させてもらった結果、メアリー司令も、どうやら同じ事を考えてくれていたみたいで……」


「技術・開発部に話してくれていて『それ』が完成したみたいなんです!」


「手紙によると、霧島君もですけど私の霊力の総量も、かなり多い部類に入るので、同じような型の物で、もう少し破壊力重視に」


「それから、新たに遠距離にもある程度対応できる機能が付いているみたいです!」


「おお! それは凄いですね!」


「ええ。 その代わり、遠距離攻撃をする際には、多少隙ができるから状況を把握して使いどころを見極める様にとの事でした!」


「なるほど…… 要練習という事ですね!」


「そういう事です! 時間はないでしょうが頑張らないと!」


「そしたらカエラさん、一緒に訓練しません? 一人でやるより短時間でも効率的でしょうし」


「いいですね! よろしくお願いします!」


 そう言って手紙の最後の部分に、もう一度目を通すカエラ。



「―― 説明は以上よ。 厳しい状況だけど、お互い頑張りましょう」


「あなたも霧島君も、私にとっては自慢の部下よ……」


「そしてあなた達は、もう十分に一人前…… 思う様にやりなさい」


「私は当日、あなた達とは別行動だけど何も心配していないわ」


「全部片付いたら、私のおごりで飲みにでも連れて行ってあげるわ」


「だから死ぬんじゃないわよ。 これは上官命令!」


「武運を祈るわ…… それじゃあね」



 司令…… 本当に…… ありがとうございます……


 改めて気を引き締めるカエラであった。


「どうやら二人共、有意義な内容の手紙と贈り物だったみたいだね」


 二人の様子を見て、閻魔大王が安心した様に言う。


「はい!」

「はい!」


「彼らの期待にも応えなくてはいけないね……」


「よし! それでは次に! 決戦当日の作戦を説明する!」


「決戦は…… 四日後だ!」


 閻魔大王から、遂に決戦当日の作戦が説明されようとしていた……

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