第76話 決戦前の晩餐
フロアを移動し、レストランへと足を踏み入れる一同。
だったのだが……
「やあ♪」
「全く、女神を待たすとは
ガクゥッ とうなだれる一同。
全く悪びれる事なく、席については勝手に酒を飲んでいるリーズレットとアルセルシア。
「って、おい!」
「何しとんのや! おのれら!」
お仕置きタイムを無事バックレた二人に
「ははは! まあ、とにかくだ! 皆好きな席についてくれ!」
大王の声に従い、各々好きな席につく面々。
ウエイトレス達が皆にワインを注がれたグラスを配っていく。
グラスを手に取る面々。
「では!」
「今日は色々…… うん…… 本当に色々あって僕もまだ頭にこぶが残っているが……」
「自業自得や!」
「オッホン! とにかく!」
「黒崎君、京子君、霧島君にカエラ君は特に! 今日は厳しい戦いだったみたいだが、よく全員! 無事に乗り越えてくれた!」
「リーズレットにマクエル君も彼らのフォロー、ご苦労だった!」
「そして…… シリウス君との再会も祝して……」
「乾杯!」
「乾杯~!」
互いの生還を祝い、お酒を楽しむ霧島達。
食事も運ばれ、皆、その料理を口に運ぶ。
たまに席を自由に移動しながら、各々談笑しては心の底から楽しんでいる様子だった。
そして、レストラン内にBARが併設されており、そこのカウンターで黒崎は閻魔大王と酒を酌み交わしていた。
京子の方はエレイン達と楽しそうに騒いでいる。
「改めまして…… お帰り。 黒崎君。 そして…… アランとの決着も着いたみたいだし、京子君の事も含め、これでようやく九十年前の決着が着いたというわけだ」
「ああ…… ようやっとって感じだな……」
「思えば彼も理不尽な事件に巻き込まれ、大切な人を失ったが故の被害者であった……」
「叶う事なら、彼もちゃんと罪を償わせ、きちんとした形でやり直させたいとも思っていたが……」
「まあ、どのみち不可能だったな…… 言ってみれば奴は無理矢理延命してた様なものだったし、奴の時間は、ほとんど残っていなかっただろう……」
「魂の消滅は免れなかった……」
「それに…… 何だかんだキッチリ決着を着けれて、奴は満足そうな顔して逝ってったぜ」
「やってた事は到底許される事ではないが、それでも奴は己の信念を最期まで貫き通して逝ったんだ……」
「悔いはないだろうし、これでようやく、フィリアさんも安心してくれたんじゃねえかな……」
「ああ…… そうだね…… そうだと信じたいな……」
「輪廻の輪からは外れてしまったが…… どんな次元でも…… 我らの知らない、理解できないところでも何でも構わない……」
「何らかの形で、今度こそ…… 二人には幸せになってもらいたいと強く願うよ」
「魂魄だって極限まで突き詰めれば素粒子だ…… 例え姿形、意志はなくとも、輪廻から外れちまっても…… 天界の空で見守っていると俺は思うぜ……」
「…… そうでも思わねえとやってられねえよ……」
「黒崎君…… ああ…… そうだな……」
黒崎はグラスを飲み干し、バーテンダーにおかわりを要求する。
「それはそうと…… もう『準備』は整ったのか?」
「ああ、ほぼね。 それについては後で皆も交えて話させてもらうよ」
「…… だったら…… そろそろ、あんたも決着をつけた方がいいんじゃないか?」
「見た所、全然進展してなさそうだが」
エレインとの事をつっつく黒崎。
「これは痛い所をつかれたなあ」
「でも…… 確かにいい加減、はっきりさせようとは思っているよ」
「ただし…… この戦いを互いに無事、生き残れる事ができたらね……」
「戦いにおいて、不幸の可能性は常についてまわる……」
「それに今回の戦い…… 殺られてしまったら、魂も無事とは限らない……」
「まあな…… 殺られて魂魄がでた瞬間に直接攻撃を加えられたり、捉えられ、改造されたりしたら、まず助からないだろうからな」
「ああ。 もし、僕がこの戦いで帰らぬ人になってしまったら、彼女の負担になってしまうだろ?」
「これまでの京子君の姿を見てきたからね」
「……」
「ああ! すまん、すまん! そういう意味ではないんだ! 君はちゃんと帰ってきてくれたし、京子君も幸せそうだ! そして互いにこの大戦を乗り越えると誓っている!」
「それも一つの正解だ。 帰る場所が…… 自分を待ってくれている人の為に何が何でも生きて帰る! その想いは時として強い力を発揮したりもするだろうしね」
「だが僕は、そこまで勇気は持てない……」
「想いを告げるだけ告げて、帰ってこれなかったら…… その時彼女は…… と、思うとね……」
「だから僕は君とは逆の道を行くよ!」
「何が何でもこの戦いに勝って! 彼女のもとに帰る事ができたら、その時こそ! 彼女に想いを伝える資格を得ることができるんだ! とね!」
「やれやれ…… 大分
黒崎のもとに新しいお酒が来た。
口に運ぶ黒崎。
「けど、それも一つの戦い方だ…… 健闘を祈るよ……」
「ふっ…… ありがとう」
「ま、今回の状況を考えるとそうかもだが、正直今まで何やってたんだって話だがな!」
「さっさとくっつけ! もどかしい! ってずっと思ってたのも本音だが」
少し笑みをこぼしながら、呆れる様に物を言う黒崎。
「それを言わないでよ~! 黒崎君!」
「まあ…… 『彼女の方にも問題はある』か……」
京子やカエラと楽しそうに談笑しているエレインを見る黒崎。
「…… 僕は気にしてないんだけどね……」
「勿論、過去も大事だとは思うし変えられない……」
「だが、過去を経験してこそ、今の自分が成り立つものだ」
「そして今の彼女は僕にとって、かけがえのない存在になっている……」
「過去も大事だが、生きているのは
「
「それについては同感だ」
「だが、彼女は昔の自分を許せない……」
「だから、あんたをそんな目で見ない様にしている…… 多分本人も自覚してない無意識のうちに、だろうが……」
「自分なんかが…… なんて思ってるんだろうな……」
「あんたを『今の立場で支える』のも生き甲斐になってしまっているみたいだし」
「それを失い、あんたのそばにいられなくなる事の方が、彼女は怖いんだろうな……」
「ったく揃いも揃ってビビりどもが!」
「はは! 耳が痛いねえ~!」
「…… まあ、彼女に今以上の居場所を…… そして自分だって、幸せになっていいんだ! ってガツンとわからせてやるんだな」
「ああ! 勿論そのつもりだ!」
「それはそうと…… 黒崎君……」
「? なんです?」
グラスの酒を口に運ぶ黒崎。
「無事京子君ともヨリを戻したところで! さらに我が妹を第二夫人にするという選択肢はないかな!」
「ぶっ! ゲホッゲホ! いきなり何言ってやがる!」
あまりの提案に思わず酒を吹き出す黒崎。
「いや~、今でこそ少数派だが、天界は一夫多妻制も認められているし、法的には問題ない!」
「そして我が妹ながら容姿端麗! 胸もデカい! それもかなりデカい! 腕も立つから、一家のボディーガードにも打って付け! これ程の好物件はないよ~!」
「今あえて触れなかった! それ以上のクレイジーな部分が全てをダメにしているから、未だ売れ残っているんだろ!」
「そんな事言わずに! 是非! 是非とも! もらってやってはくれまいか!」
「いやいや! だから俺はその気は……」
「頼むよ~! もう毎回毎回! 定期的に剣の稽古と称して死合いレベルのものに付き合わされるこっちの身にもなってくれよ!」
黒崎の肩をがっしりと掴み、割とマジで懇願する閻魔大王!
彼の苦労が垣間見られる。
「やっぱりそれが本音か!」
「もう、本当に! 本当に大変なんだよ! マジでさ! 少しはアレの性格を落ち着かせる為にも、ここは一つ! 君に押し付け…… 嫁に行かせれば、少しは女性らしさを身に着けてくれると思うんだよね!」
「ふざけんな! それ、俺があいつの剣に毎回付き合う羽目になるって事だよな!」
「大丈夫! 君も相当に強いから、恐らくはそう簡単には大惨事にはならない…… 様な気もしないでもない!」
「メチャメチャ不安過ぎる答え方だな!」
「お願い!」
「嫌だ!」
「僕と君との仲じゃないか!」
「それとこれとは話が別だ!」
「なになに~♪ やっぱり僕と結婚したくなった~♪ しょうがないな~ 修二は♪」
「! いつの間に!」
ここで、話題に上がっていたリーズレットも参戦する。
どうやら彼らの会話を、しっかり聞いていたみたいだ。
そしてそのまま勢いに任せ、黒崎の唇を奪いに行く。
「ん~~~~~♪」
「っ! だあ〜〜! 待て待て!」
彼女の唇が黒崎の唇に触れようとした瞬間!
ガシッと後ろから彼女の髪を掴む者が現れた。
京子であった。
「ちょお、待てや! リーズ! お前何しようとしてんねん!」
「痛たたっ! ちょっと邪魔しないでよ! あんまり態度悪いと第二夫人にとして認めてあげないよ!」
「ふっ ふっ ふっ 夫人て! そんな! まだ気が早いっていうか……」
顔を真っ赤にして両手で頬を覆う京子。
「ん? てか、何でウチが第二やねん!」
またまた懲りずに京子の反感を買うリーズレット。
「ったく! いくつになっても騒がしい連中だな!」
「うるさいぞ! 向こうでやれ!」
しっしっと京子とリーズレットを遠くへと追いやる者が一人……
女神アルセルシアであった。
「よう、シリウス。 私とも一杯付き合え」
「ああ」
大王とは反対側の席にて、黒崎の隣に座るアルセルシア。
シリウスにとってアルテミスが母親代わりなら、アルセルシアは叔母代わりの様な存在だった。
シリウスとして考えれば、九十年振りの邂逅を果たし、今、ようやく落ち着いて話ができる様になったといったところだ。
「…… いよいよだな……」
「ああ…… 姉者との決戦の時だ……」
「女神として…… 何より姉者の妹として! 私が姉者を解放する……」
「姉者の息子として…… お前も行くだろ?」
「ああ…… 勿論だ」
「うむ。 だが知っての通り、姉者の強さはそれこそ桁違いだ……」
「まずは私達、先行隊が乗り込み、姉者を無力化する」
「お前はその後に、あの阿保姉者に言いたい事を言いまくってやれ!」
「もしくは…… 我々先行隊が敗れた際には…… 後の事はお前に託す」
「それは私からの最初で最後の依頼だ」
「解決屋 黒崎修二として、シリウス・アダマストとしての想いを姉者に届け、ついでにガツンと一発かましてこい!」
「報酬は言い値でかまわん! 後でイステリアかエレインにでも請求しろ」
「…… ああ。 その依頼、確かに承った……」
アルセルシアの覚悟をしっかりと受け取る黒崎。
「まあ、あんたがくたばるところなんて、それこそ全く想像できんが……」
「まあ、ピンチになったら助けに行ってやるよ」
「ふん! 全く! 相変わらず生意気な奴だなあ!」
黒崎の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわすアルセルシア。
「! やめろっての!」
嫌がり、振り払う黒崎だったが、それでもまんざらでもなさそうだ。
彼も久しぶりにアルセルシアと話せて、何だかんだで嬉しいのである。
「ったく! 髪がぐしゃぐしゃじゃねえか!」
「はは! 悪い悪い!」
「まあ、長い事、顔出してなかったからな……」
「全部片付いたら…… また晩酌位はいつでも付き合ってやるよ」
「! ふっ それは楽しみだ……」
「ならば精々、私も気張らんとな!」
そう言って嬉しそうに立ち上がるアルセルシア。
「よし! 大王!」
「! ええ。 そろそろ始めましょうか」
「皆!
「マスター、ウエイトレスの皆も、遅くまで貸し切ってすまなかった。 助かったよ」
「素敵な料理も含めて、本当にありがとう」
「どれも非常に美味しかったよ」
「そんな! 光栄であります!」
「こちらこそ! ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
「また、いつでもお越し下さい」
「うむ! ありがとう!」
「皆! 次は屋上に移動してくれ! 決戦に向けて! 最後の打ち合わせをする!」
「! はい!」
こうして、一同は屋上へと移動するのであった。
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