第73話 見届け隊!♡ ②

 ここは屋上…… 


 シリウスと京子が話しているバルコニーを見渡せるということで、リーズレットはこの場所を選び、盗聴用の小型端末を設置して、自身の通信端末と接続、スピーカーモードにして、京子の周辺の音を拾える態勢を整えていた。


 双眼鏡も二つだけ用意していたので、一つはリーズレット、足りない分は後から来るとの事らしい……



 そして……






「…… 待ったか?」


「いや…… 大丈夫だ」


「そか……」


 シリウスと京子のやり取りが聞こえてくる。


「く~~~っ! い! いよいよ始まりましたね!」


「あ~~っ! どうなるのかなあ!」


「京子! 女としての意地を見せるのですよ!」



「…… あれだけ文句言ってたくせに三人共ノリノリだよね」


「そ! そんな事ありませんよ!」


「そうですよ! これも仲間として、二人の行く末を見守り、しいては皆さんの監視をする為ですよ! 私によこしまな気持ちはありません!」


「私は愛弟子を応援しているだけです。 何も悪くありませんよ」


「はいはい♪ そういう事にしておくよ」


「それはそうとリーズレット様……」


 そう霧島が言いかけた時、後ろから馴染みのある声がした。












「いや~! 九十年振りの愛の再会! これは見物だねえ!」


「ええ。 二人には何としても幸せになってもらいたいところですね!」


「ふふ! 面白くなってきたじゃないか! あ、私は双眼鏡はいらんぞ。 眼には自信があるからな!」


 何と! 閻魔大王、エレイン、挙句の果てには、女神アルセルシアもギャラリーとして参戦していたのだ!



「なんなんですか! このカオスな面子は!」


 リーズレットに問う霧島。


「いや~ シリウスが絡んでる事だから、一応兄上にも報告したら、何かノリ気になっちゃってさあ♪」


「いや~、そんな話を聞いたら居ても立っても居られなくなってねえ!」


「閻魔の城にいたから、すぐに駆け付けるためには空間移動しかなかったからね!」


「急いで師匠せんせいに連絡して、空間移動でエレイン君とも一緒にこうして馳せ参じたというわけさ!」


「あ! 安心してくれたまえ! ちゃんと不足分の双眼鏡を持ってきたよ!」


 そう言うと、ノリノリで大きなかばんから双眼鏡を取り出す閻魔大王。


「マジですか! 大王様! 助かります!」


「流石大王様ですね!」


「ちょっと皆さん! あまり悪ノリしないで下さい!」


「そう言っているわりには、しっかり双眼鏡受け取ってるよね! カエラ君♪」


「こ、これはですね! その……」


 大王の言葉に反論できないカエラ。


「ちょっと皆さん静かにして下さい! うるさくて聞こえないでしょ!」


「エレインさんまで……」


「はは! 京子とエレインさんは付き合いが長く、仲も良いですからねえ」


「しっ! 静かに!」


 真剣に二人の様子を伺うエレイン。






「京子…… お前は何も悪くねえ」



「む! 今度はシリウスさんのターンですね! 男としてどう返すか!」


 …… 気のせいか…… いや、気のせいではない……


 いつもより興奮気味のエレインである。


「ドっ! ドキドキしますね!」


「~~ 黒崎さん!」


 霧島とカエラも同様であった。


「皆! こんな状況で今更だが、真面目に聞き遂げよう!」


 本当にこんな状況だが、大王がシリウス達を心配しているのは事実……


 一旦この場をキッチリと真面目に締める。


 まあ、実際は全然締まらないのであったが……






「それに俺にとっては…… お前以上の治療士なんて存在しねえよ」


「昔も今もな……」



「おお~~~~!」


「かっ! 格好良いじゃないですか! シリウスさん! 流石です! 半分は黒崎さんだと思うとアレですけど……」


「ふふ! 言う様になったじゃないか! シリウス!」


「京子…… そこまで思い悩んでいたんですね……」


「あなただったら、いずれ私のもとにも辿り着く治療士になれますよ」


 優しい眼差しで京子を見守るマクエル。


 引き続き、二人を見守る一同……






「ふざけんなやああああ!」


「うわあああああああああ!」


 京子が大泣きし始め、その身をシリウスに寄せる。



「!」

「!」

「!」

「!」

「!」

「!」

「!」


「…… ぐす! 京子さん…… って霧島君?」


 涙がこぼれるカエラ。


 だが、隣を見たら号泣レベルで大泣きしている霧島の姿があった。


「うう…… ぐぅっ…… あっ! うぅ~! ぐすっ! あぅ!」


「って、泣きすぎでしょ! 霧島君!」


「だって! ぐすっ…… あっ すいません、カエラさん。 ハンカチ持ってませんかね?」


「乙女か! てか私が借りたい位ですよ! 普通男性が渡すものでしょ! そういうのは!」


 一方で、閻魔チームやマクエル、アルセルシアの反応は……


「彼女も無理をして気丈に振舞っていたんですね……」


「京子君……」


「やっと全部吐き出したか…… 世話の焼ける娘だね♪」


「さて、どうする? シリウス……」


 こちらはようやく一つの問題が解決しそうで、一安心といった様子だった。






「…… この馬鹿!」


「知っとったわ! あんたなら、どうせそう言うやろうなって!」


 次の瞬間、京子のビンタがシリウスに炸裂する!



「! ビンタだ!」


「痛~~~~っ 痛そう!」


「清々しい位に、フルスイングだったねえ! 痛そう……」


 思わずこっちまでその威力が伝わってくるといった感じの霧島とカエラ、そして大王。



「九十年ほったらかしだったんだ…… 当然の報いだな」


 アルセルシアは冷静に見守っている……






「足らんわ! 歯あ食いしばれ!」


 京子がもう一度、シリウスの胸ぐらを掴んだ!


 そして……



「!」

「!」

「!」

「!」

「!」

「!」


 キスだ……

 キスだ!

 キスですね!

 キスしたあああああああああ!

 うおおおおおおお! 京子さん!



 このての場面に、免疫が少ないメンバーはこれでもかという位に興奮していた!


 ただ一人、急に不機嫌になる者もいたが……



「はあ? …… ちょっと…… ここまでやるなんて聞いてないんだけど……」


「まあまあ、妹よ! 今日だけは落ち着きたまえ!」


「う~~~~ だけどぉ!」


「今日だけは! 京子に花を持たせるつもりだったんでしょ?」


「~~~~~っ」


「ああ! 見てください! シリウスさんが京子さんを、だっ! だっ! だっ! 抱き寄せています!」


「ほっ! 本当だ! それとカエラさん鼻血出てますよ」


「残念ながらティッシュを持ってません! 霧島君持ってませんか?」


「持ってないです」


「カエラさん、使ってください」


「! ありがとうございます! エレインさん!」


 あまりにも興奮して鼻血が出ているカエラは、エレインからもらったティッシュを鼻に詰める。


 そして、また双眼鏡を手に取り、再び二人をのぞ…… 見届けている。


 正直かなりヤバい絵面である……


「京子さん…… 良かった…… 本当に……」


 涙を流すエレイン。


「ああ…… 本当にその通りだな…… エレイン君……」


「京子…… 良かったですね……」


「ま、上手くまとまって何よりだ」


「よくない!」


 各々、色々な気持ちを抱きながら、二人を見守っていく。


「そうですね…… あ! 二人でベンチ座りましたよ!」



 そして、場面は前話の冒頭のところに追いつき、今に至るのであった。



「こう言ってはなんですが…… 泣きべそかいてる京子さん……」



「めちゃめちゃ可愛いですね!」


「女性の私でもドキっとしちゃいますよ!」


 普段見せない京子のレアな表情に興奮気味のカエラ!


 そしてもう一人…… 普段のクールな性格が崩壊している人物が一人……


「確かに! 可愛い…… いや! 超可愛い!」


「くっ! 写真を撮りたい位ですが! 通信機に付いてる撮影モードでズームにしても、距離がありすぎて上手く撮れません!」


「ええい! もどかしい! こんな事なら、ちゃんとしたカメラを持ってくるべきでした!」


「私とした事が! 一生の不覚!」


「エレインさん……」


 あれ…… エレインさんって、こんなキャラでしたっけ?


 普段見せないエレインの姿に、困惑気味のカエラ。


 そして、かつて無い位に、悔しそうな表情を見せるエレイン。


 普段から良くしてもらっているエレインは京子の事になると少し…… いや、大分性格が変わるみたいだ。






「は~~~~ …… あかん…… 恥ずい位泣きじゃくってもうたわ……」


「顔ぐしゃぐしゃやあ! ウチ!」


「気にすんな。 別にどんな顔でもお前は良い女だから安心しろ」


「ひぁっ!」


 ~~~~っ こ、この男は無自覚でこんなセリフを何気なく出しおってからに!


 昔からそうや! この男は! いきなり不意打ちをかましてきおる!


 さっきは感情たかぶってたからアレやけど、九十年振りやと何か…… ちょっとした事でもドキドキするというか…… なんかあせるんやけども!


「ん? 京子…… ちょっとお前動くな」


「ええっ!」


 そう言うとシリウスは、京子の顔に近づいていく。



 えええええええ~~~~~~~~っ!


 なっ! なっ! なんや! こいつ! 

 

 こんな積極的な奴やったか? 


 いや! ええんやけども! ええんやけども! 全然ええんやけども! 


 むしろウエルカムなんやけども! 


 けど我に返ってると、その…… ブランクあってか、何かヤバイ!


 昔はどっちかっていうと、ウチが攻めてる位やったのに!


 シリウスの顔が! 顔が近づいてくる!


 待って! 待って! 一旦落ち着かせて!


 あか~~~~~~~~~ん!


 思わず目を閉じてしまう京子。


 そんな京子の気持ちとは裏腹に、シリウスは京子の左肩に何かついているのに気づき、それを手にとり確認する。


 一方の京子はというと……



 …… あれ? 中々来ぉへんな……


 ビビりつつも、目をつぶって唇を前につき出し、受け入れOKの京子だったが……


「お前、肩にこんなのがついてたぞ」



「…… は? 肩?」


「…… これは…… 盗聴器? …… ! まさか!」


 何が起きているのか、段々理解してきたシリウス。


「おい! 京子、これ…… ん? 京子?」


「……」


「おい! 京子!」


「……」


 シリウスの目には、ワナワナと怒りに震える、憤怒の表情をした京子であった。



「なんやそれ…… まぎらわしい真似しおってからに…… 昔からあんたは…… あんたは!」


「ん? おい京子、どうした…… 何か心なしか凄え怒っている様に見えるんだが……」


「キレとるんや!」


 大きく右腕を振りかぶる京子!


 そして、渾身のビンタ第二弾をもらうシリウス!


「っ~~~~~っ 痛えな! いきなり何しやがる!」


「やかましい! そういうとこやで! このド天然が!」


「なにがだよ!」


「うっさい! このボケ!」



 一方、覗きチーム…… もとい二人を見届けている者達は……



「あ~~~~! やっぱり我慢できない!」


 遂に我慢できなくなったか、リーズレットの感情が爆発する!


 それと同時に、イラ立ちと共に霊圧も発してしまった。


「? 総長!」


「ああ! 待ちたまえ妹よ! 落ち着いて! 今ここで騒ぐと…… ああ!」



「! そこか! 逃がさん!」


「やばっ バレた!」


「こっ! こっちにきますよ!」


 焦る霧島とカエラ!


「あっ! 待てや! シリウス! 話はまだ…… って、きゃああ!」


 京子を抱えて気を解放して、一気に屋上へ飛び上がるシリウス。


 全く本人に自覚はないが、お姫様抱っこの状態になっている。


 たまらず赤面して焦る京子。


「シっ シっ シっ シリウス! な、なんやねん! いきなり!」


 屋上へとたどり着く、シリウスと京子。


 京子はもう色々、キャパオーバーで気を失いそうになっている……






「…… てめえら…… ここで何してやがる……」


 凄まじい程の殺気を漂わせるシリウス……


 だが、それにも関わらず、一同はこう思っていた……







 …… 何をしている?


 いや、こっちのセリフなんですけど……



 なんでお姫様抱っこで登場?……



 怒ってんのかイチャイチャしてんのかどっちだよ!



「? 何だお前ら、その何ともいい様のない表情は?」


 シリウスのド天然振りに、もはや一人残らず呆れている様子だ。



「…… よくわからんが…… とにかく!」


「お前らにはお仕置きが必要だな……」



 この後、覗き見していた者達は相応の報いを受ける事になるのであった……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る