第63話 シリウスとアラン

 アラン失踪から一週間……


 天界の地獄エリアを中心に連爆破事件が発生し始めていた。


 多数の地獄の魂達、それに…… 死神達にも犠牲者が出てしまっている。


 厄介な事にその爆弾は、大規模な範囲の爆発力を持ちながら、魂魄にも直接ダメージを与える代物であった。


 つまり、死者の魂達が爆発に巻き込まれれば魂の消滅……


 生きている者…… 例えば死神等が巻き込まれれば死ぬだけでは済まされず、そのまま魂ごと消滅してしまうという事だった……


 そして、この事件の死神の犠牲者達には、ある共通点が存在した。


 それは、このあいだの地獄の魂達の脱走事件…… 


 そしてフィリア達が消滅させられる事に繋がった事件…… 


 その脱走者達に襲撃され、彼らを抑える事ができなかった者達、そして、ここ最近の類似事件で、同じく力及ばず倒れてしまった死神達……


 魂ごと消されたのは、悪い言い方をすれば所謂いわゆる、『未熟な死神達』がターゲットにされていたのだ。


 そして、アランは地獄行きの魂達に対して、強い反感を持っていた事……


 先週の事件の犠牲者達の中に、彼の友人、そして懇意にしていた女性がいた事…… 


 禁忌とされる魂魄へダメージを与える、高性能爆弾を作れる技術力……


 魂ごと消された死神達と地獄の魂達…… 


 そして、突然の失踪……


 犯人は明らかだった……


 アランは天界中に指名手配され、追われる身となった。


 そんな中でも、上手く天界の包囲網を掻い潜り続けてきたアランだが、それでも天界中の監視システム、その全てから逃れるのは不可能だった……


 爆破事件が起こり始めてさらに十日後……


 そこは地獄エリア三十七番街。


 遂に追い詰められてしまうアラン。


 十名以上からなる死神、そしてマクエルと妹弟子である京子も、無理を言って付いてきていた。


 周りの者達が見守る中、アランと対峙していたのは当時、総司令を務めていたシリウスであった。


 シリウスは周りの者達には包囲する事に留めさせ、一対一でアランを抑え込もうとしていた。


 いかにアランが零番隊に名を連ねる程の手練れといえど、相手はシリウス……


 彼の実力は閻魔一族にも匹敵する。


 それに加え、連日の破壊活動と逃亡生活で体力を消耗していたアランには、勝ち目はなかった。


 アランの剣は既に折られ、勝負は決していた……


「もうよせ、アラン……」


「おのれ、シリウス! どこまでも邪魔を!」


「兄弟子! もうやめぃや! そんなんやったって、フィリアはんもジャックはんも喜ばんで!」


「黙っていろ! 京子!」


「アラン…… もうやめましょう…… はっきり言って今のあなたは、もう見ていられません……」


「…… 師匠にはわかりませんよ」


 シリウスは、なるべくなら彼の命まではとりたくなかった。


 もちろん、彼のした事は到底許される事ではない。


 だが、そんなアランも被害者の一人……


 マクエルの弟子であり、京子の兄弟子でもある。


 今まで彼が不満を抱えながらも、天界の為にどれだけ尽力してきたかも知っている……


 だが、彼は踏み越えてはいけない一線を超えてしまった……


 多くの犠牲者も出ている……


 心を鬼にしなくてはいけない……


「アラン…… これ以上の抵抗はやめろ。 相当の罪には問われるだろう…… 極刑もありえる…… いや、もしかしたら、そう楽には死なせてくれないのかもしれない」


「それでも、これ以上おまえを慕ってくれていた連中に対して、今のお前のそんな姿をいつまでもさらしてんじゃねえ!」


「これが最後だ…… 大人しく投稿しろ…… 少しでも罪を軽くしたいなら……」


「…… もはやこれまでか……」


「だが貴様らの偽善にこれ以上付き合うつもりもない!」


「貴様らの手に墜ちる位なら…… 私は最期まで私の道をいく!」


 アランの身体の中から赤い光が漏れ出した。


「! お前! まさか自分の身体にも!」


「兄弟子!」


「何と愚かなことを!」


「こいつは今までの爆弾とは桁が違うぞ! この区画どころか地獄エリアの半分は消し飛ばせる破壊力だ!」


「最期に貴様ら天界の犬どもを、一人でも多く道連れにしてやる!」


「くっ…… この馬鹿野郎が!」


「マクエル! 限界までパワーを上げて障壁を展開しろ! なるべく広範囲にだ!」


「って、どないするつもりや! シリウス!」


「このままってわけにはいかねえだろう!」


「無理です! いかにあなたでも、この状況をどうすると……」


「やり方次第だ!」


「? …… ! あなた、まさか!」


「考える時間すら与えてくれなさそうだ…… もうこれしか思いつかねえ!」


「後の事は頼んだぞ! マクエル!」


「悪いな、京子…… 元気でな」


「なんや? どういう意味や! シリウス!」


 シリウスは剣を捨て、超スピードでアランに接近して、彼の光の中心地である腹部に、強烈な右の手刀を突き刺す!


そしてそのまま、右手で爆薬を掴むシリウス!


「がはぁ!」


 そのまま彼を抱えて両足に気を集中させ、自身の跳躍力を強化させ、付近のビル伝いに限界まで高く飛び上がっていく!


「あかん! シリウス!」


 …… ダメだ! もう間に合わない! シリウス殿!


「はああああああああああ!」


 マクエルは彼の覚悟に答え、フルパワーで強大な障壁を展開した!


「あなた達も手伝って下さい! 全員! フルパワーで障壁を広く展開!」


「は、はい!」


 マクエルの指示に従い、障壁を展開する部下の死神達!


「京子! 私の後ろにきて伏せて下さい!」


「師匠! けどシリウスが!」


「彼の覚悟を無駄にするつもりですか!」


「! そんな!」


 シリウスは、自身の跳躍の頂上ポイントまできたところで、空いている左手もアランの腹部に突き刺し、両手で爆薬を抑える!


「ぐあぁ!」


「ぐっ! シリウス! 最期の最期まで邪魔を!」


「まあそう言うな…… お前の嫌っている天界の犬…… それも総司令を一人、道連れにできるんだぜ」


「これで少し位は納得してくれよ」


「! ふざ…… けるなあ!」


 アランの身体から発する光が強くなる!


 もはや爆発寸前といったところだ。


 シリウスはその両手に、自身の全ての霊力を結集させる!


「ああああああああああ!」




 少しでも爆発の威力を!





 …… あ~あ…… まさか『あいつら』と似た様な事をする羽目になるとはな……



 魂魄にもダメージを与えるって事は、本当に俺はここまでか……



 まあ、惚れた女と天界の連中が守れたんなら、少しは格好がつくか……




 マクエル…… 後は頼んだ…… 



 京子…… 達者でな……





 次の瞬間!





 その光は大爆発を起こし、その衝撃は周りを襲った!


「くううううう!」


「シリウスううううううううう!」


 凄まじい程の大爆発!


 だが、シリウスが両手に込めた全霊力をかけた障壁で、その威力を最小限に抑え込んだのだ!


 周辺のビル群こそ、ひどく損壊したが、奇跡的に民間人達に軽症者以上の怪我人を出さずに済んだのだった。


 天界治安部に位置する総司令 シリウス・アダマストという最後の犠牲によって、一連の悲しい事件はこうして幕をおろした……


















かに見えた……









 だが、実際にはマクエル達も知らない、この事件の真の結末が存在していたのだった……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る