まさかあの世に来てまで仕事をするとは…… こうなりゃとことんやってやる！

第60話 帰還…… そして語られる

「総司令って！　どういう事ですか！」

「シリウス……　さん？」

「……　(シリウス！)」

　あまりの事態に混乱している三人。

　霧島の質問に対し、リーズレットがこう答える。

「言葉通りの意味さ。　彼の名前はシリウス・アダマスト」

「今は空席になっている、全司令を含む全ての死神、死神事務所を統括していた、天界の治安維持部の最高責任者……」

「彼はかつて、それを務めていた男さ」

「そして……」

「僕の旦那さんさ♪」

「え～～～～～～～～～～！」

「え～～～～～～～～～～！　！　痛たたたた！　はあ！」

　カエラと霧島が大声を上げる！

　そして、またもや自らのリアクションによって、無駄にダメージを負う霧島。

「ちげえよ！」

「あれ？　ちがったっけ？　じゃあ、婚約者……」

「それもちげえよ！」

「じゃ、彼氏……」

「だから、ちげえっつの！」

「んもう！　何、シリウス？　照れてるの？　あ、わかった！　下界で流行ってるっていう……　あ、そうそう！　ツン斬りだ！」

「それを言うならツンデレな！　別に流行ってなかったとも思うし！」

「つうか、俺はお前とそんな関係になった事は、ただの一度たりともない！」

「勝手に真実を捻じ曲げるな！」

「つれないな～　僕はいつでも、そういう関係になってあげてもいいのに♪」

「中々ないと思うよ。　こんな美女とお付き合いできるなんて」

「いや、遠慮しておく」

「自分で言うのもなんだけど、ほら！　僕って美人だし！　胸大きいし！　スタイルだって良い！」

「自分で言うな！」

「僕と付き合ったら毎日でも死合って斬り合いし放題だよ♪　斬撃飛ばし放題だよ♪」

「そういうとこが、おっかねえんだよ！」

「誰がお前みてえな戦闘（バトル）ジャンキーなんかと付き合うか！　命がいくつあっても足らんわ！」

「え～、絶対楽しいのに！」

「楽しくない！」

「第一、俺は！」

「俺は？」

　一瞬、京子の方をチラっと見たが、すぐに目線をそらす黒崎……

　京子はずっと下を向いている……

「……　何でもない……」

「……　あ～あ、つまんないなあ！」

　二人のその様子に、リーズレットは少し不満気味だ。

「……　流石にどうしていいか、わかりませんよね……」

　小声でマクエルが、心配そうに京子を見る。

　京子の様子がおかしい事も、霧島は気付いてはいたが、霧島は情報の整理を優先した。

　何となく空気が気まずくなりそうなので、話を進めたかったというのが本音だが……

「かつて存在していたという、総司令という役職……　それに就いてた、伝説的な死神がいたと聞いた事位はありましたが……」

「それが……　その、シリウスさん？」

「でも何故そんな方が黒崎さんの身体に？」

「！　まさか！」

　ここで霧島が推測していた、『その人物』が彼の中で、はっきりとしたのだ！

　そして、リーズレットは答えを述べる。

「その通り」

「それは『黒崎修二の前世が、シリウス・アダマスト』だからさ」

「やはり、そういう……」

「え～～～～～～～～～！」

　カエラがまたも驚きの声を上げた！

「うわ！　びっくりし……　痛たたたたた！　ああ！　もう！　さっきから、こんなんばっかり！　痛たた！」

「あ！　ごめんなさい！　霧島君！　大丈夫ですか？」

「大丈夫じゃないですよ！　カエラさん！」

「だ、だって〜！」

　霧島のリアクションに、隠れて笑いをこらえるマクエル。

　霧島は、この定期的に襲われる痛みに心底ウンザリしてきている様子だ。

　やってしまったといった感じで、霧島を心配するカエラ。

　そこでマクエルが口を開く。

「総長、それにシリウ……　いえ、黒崎さんでいいんですよね？　とりあえず七十八番治療所の施設にもどりませんか？」

「黒崎さんは、どさくさに紛れて怪我が全部治っているみたいですが、『そろそろ限界』でしょうし、怪我人もちゃんと治療しないとですし」

「霧島君なんかは、リアクションの度に面白……　辛そうにしていますので、ゆっくりできる所までもどりましょう」

　今この人、面白いって言いそうになってたよね！

　ひどい！　マクエルさん！

　霧島の視線に気付いたマクエルは、軽く咳払いをして、ごまかしてから話を続けた。

「詳しい話は、そこで落ち着いてからという事で」

「そうしてくれると助かる……　そういうわけだから、悪いんだが……」

「リーズ、マクエル……　『後の事』は……　頼む……　わ……」

　そう言って黒崎は、意識を失って倒れそうになるが、リーズがその身体を受け止める。

「黒崎さん！」

「シリウス！」

「黒崎さん！」

　突然黒崎が意識を失った事で、三人に動揺が走る！

「彼なら大丈夫。　力を使い果たして寝てるだけさ。しばらくしたら目を覚ますよ」

「ええ。　何せ今の彼は黒崎修二……　魂のベースは人間のものですからね……　今の彼には過ぎた力……　その反動が来たのですよ」

「そしたら総長……」

「黒崎さんは私が運んでおきますので、総長は三人と、ゆっくり後から来てください。　あまり皆さんに無理をさせないで下さいね」

「え～　僕が修二を運ぶよ！　今なら唇を奪うチャンスだし♪」

　リーズレットも、彼が言ってた様に、『今は黒崎修二』という言葉を尊重し、黒崎修二として扱うことにした。

　どさくさに紛れて下の名前で、勝手に読んではいるが……

「ええ。　『ですので』　彼は私が運んでおきます」

「あなたに彼を任せてしまうと、彼の貞操が極めて危険ですからね」

「ちぇ～　まあいいや！　これからはグイグイ攻めるし♪」

「やれやれ……　あなたという人は……」

　呆れ顔のマクエル。

　そしてリーズレットは京子の様子を伺って、まだ下を向いている事を確認する。

「は～　……　やりづら……」

「わかったよ。　それじゃ、僕らも行こっか」

「三人共、ゆっくり行くけど、辛くなったらペース落とすから遠慮なく言ってね」

「ありがとうございます」

「了解しました！」

「……」

「それじゃ、マクエル、彼を頼むよ。　着いたら連絡入れる」

「ええ。　それでは皆さん、また後程」

　　　　＊　　　　　＊　　　　　＊

　ここは異空間　『真なる選別者』のアジト……

　事の成り行きを、例の監視ロボで確認していた敵のメンバー達。

「アランがやられたか……」

　両眼をつぶり、事実を受け止める雷帝……

「くそ！　だから、あたし達も手ぇ貸そうかって言ったんだ！　あの頑固野郎！」

「彼が自ら選んだ道だ……　後悔はないだろう……」

　ガラン、イリアの両者も、その場でアランの戦いを見届けていた。

「ああ。　奴は最期まで自分の信念を貫き通した上で、逝った……　ならば俺らも、俺らの道を貫き通すだけよ！」

「その通りだ」

「わかってるよ！　……　黒崎修二……　シリウスだか何だか知らねえが『その時』がきたら、このあたしがぶっ潰してやる！」

　アランの消滅をしっかりと受け止め、彼らはより一層、強い決意を固めるのであった！

　　　　＊　　　　　＊　　　　　＊

　ここは黒崎達とアランが戦った戦場より、北西に大きく離れた所に位置する歓楽街……

　そこでサングラスとハンチング帽を被って軽く変装して、人混みに紛れ、飲み物を飲んで呑気に歩いている男がいた。

『真なる選別者』の一人、名前、正体、不明の、例の死神事務所、第二十八支部を壊滅させた大量殺戮者である。

　彼もまた、監視ロボで戦いの詳細を確認していた。

「な～んだ。　アランの奴……　偉そうに息巻いてたと思ったら、あっけなくやられて逝っちゃってさ～」

「ははは！　ダサすぎて笑っちゃうね～！」

「ま、どうでもいいけど♪　それにしてもシリウスか……」

「厄介そうなのが出てきたけど……　まあ、いいさ……」

「謝肉祭（カーニバル）はもうすぐさ！　精々楽しませてもらうよ！」

　狂気……　そうとしか言い様がない……

　タガが外れた……　壊れた人間のような眼をしたその男は、楽しそうに笑みを浮かべながら。禍々しい気を発して、どこかへと消えていった……

　　　　＊　　　　　＊　　　　　＊

　七十八番治療施設の一角……

　黒崎を大部屋に運んで、ベッドに寝かしておいたマクエル。

　霧島とカエラは治療してもらい、さらに一度、二人は治療湯へ入り、出た後にリーズレットに連れられ、マクエル達と合流を果たした。

「ふう！　やっとゆっくりできるね～！」

「お疲れ様でした。　総長。　皆さんも」

「いえ、ありがとうございました」

「お二人が来ていただけなければ、僕らは全滅してたかもしれません」

「本当にありがとうございました」

「いえ、我々が間に合ったのも、皆さんが踏ん張ってくれたおかげです」

「少しは楽になったみたいですが、治療の続きはまた後程という事で」

「ええ。　おかげ様で大分楽になりました」

「本当に助かりました」

「とは言っても、お二人共、まだ無理はしないで下さいね。　数日は治療漬けです」

「はい！」

「わかりました！」

「さて……　ひと段落したところで、

黒崎修二（彼）について詳しく話しておきましょうか……」

「本来なら彼が寝てる間に、勝手に話してしまうのもどうかと思いましたが……　一応、私も当事者の一人なので、そこは問題はないでしょう……」

「話は九〇年前に遡ります……」

　マクエルの口から、九十年前の『ある事件』について語られようとしていた……