第55話 怒りの拳

「どうしてここがわかった? 京子は確かに誰にも告げず一人でここへ来たはず……」


「巡回中に、京子さんが体調不良で担当患者を別の方に引き継いだ事を、心配して話していた治療士の方々を見かけましてね……」


「ついさっきまで、全く! 顔色悪くなかった京子さんが体調崩した…… しかも通信は繋がらない……」


「念の為に調べたら、京子さんらしき人が森林公園の方へと歩いていくのを見た方がいたので、嫌な予感がして探していたというわけですよ」


「まさかこんな大物が釣れるとは思わなかったですけどね!」


「なるほどな」


「マシンガン内蔵型のトンファーか…… しかも武装切り替えモードチェンジして側面に刃上の闘気を纏わせ、制圧用から滅殺用に切り替えたか」


「にしても、たった一撃で始末されるとは情けない部下だ…… お前も中々容赦ない様だが」


 先程カエラが攻撃を加えた、人に化けていたアランの部下は変身が解け、息絶えていた。


「こんな事をするのはあなた方位しかいないですからね…… 手加減している余裕もかける情けも持ち合わせてはいませんよ」


 実際今のカエラにそんな余裕は全くない!


 相手は敵の主力の一人で、かつて天界で名を馳せていた程の猛者。


 しかもこちらは気絶している京子を抱えている状況だ!


 いかにカエラといえども、この状況は分が悪すぎる!


 京子に掛けられている拘束具も破壊する暇を敵は与えてくれそうにない……


 本来ならこれ以上ない程の情報源だが……


 何が何でも拘束したいところだが、今は京子の安全確保、そして近くの施設に危害が及ばない様にするのが最優先!


 施設の方は巡回中の死神に念の為、警戒を強め、結界を張っておく様に伝え、さらに二〇分経っても、自分から一切の連絡がなかった場合、メアリー司令に応援要請をかける様にと伝えてある。


 念の為、霧島にもメール済みだ。


 施設の方はとりあえずはこれで大丈夫だろう。


 後はここから京子さんを施設の結界内へ運ぶ事ができれば!


 銃口をアランに向けながらも、何とか隙をつけないか伺っているカエラ……


「お前如きが、しかもそいつを抱えて私に勝てると?」


「思っていますけど何か? 言っときますけど、私、結構強いですよ」


 勿論ハッタリである。


 この状況下では万に一つも勝ち目はない!


 だが、少しでもカエラは交戦の意志がある様に敵に思い込ませる必要があった。




「はあああああああああ!」


 カエラは自身の闘気を全開放する!


「ほう! 思ってたよりは、遥かにやりそうだな……」


「それでも私に勝てる可能性はゼロだが」


「ふん! やってみないとわかりませんよ!」


 そう言うとカエラはアランに向けて銃を発射する!


 ……と見せて銃口をずらし、周辺の地面と木々に乱射し始めた!


辺りを土埃がおおきく覆う!


「ふん。 こんなもの……」


「武装解除!」


「何!」


 カエラは土埃にまぎれ、武器を空間に収納して両手をフリーにして、寝かせていた京子を即座に抱え込むと同時に隠し持っていた閃光弾を懐から出し、ピンを抜く!


 一連の流れを高速で行うカエラ。


 流石の手際だった。


 土埃は、アランなら思い切り払えばすぐに全て消し飛ばせる……


 だがそれはカエラが京子を抱え、閃光弾を出すまでの目くらましに過ぎなかったのだ!


 アランといえども流石に光を払う事はできない!


 辺りが強烈な閃光に包まれる!


「ぐっ! 小癪な真似を!」


 完全にカエラを舐めてかかったアランは対応が遅れる!


 対するカエラは光に乗じて、既に気配を完全に消していた!


「逃がすかぁ!」


 まんまとしてやられたアランは怒りの感情を露わにし、戦力がある施設の方へと逃げ込むであろう二人を、その方向に向かって追いかける!


「ちっ! しっかりと気配まで消しやがって! 面倒な!」


 猛スピードで追いかけるアラン!


 だが肝心のカエラ達は、アランが突進している方向とは違う方向へと移動していた。


 アランが施設へ真っすぐ向かう事は読めていたし、京子を抱えている状況ではすぐに追いつかれると判断したからだ。


 そこでカエラは一旦横にそれ、身を隠し、迂回しながら施設の結界内へ戻ろうと考えていた。


 極力足音や物音を立てない様に、素早くだが慎重に敵から離脱するカエラ。









 しばらく走り、木陰に隠れて、息を整えるカエラ。


「はあ、はあ、はあ、はあ!」 



 奴の気配も姿もない……


 大分奴からは離れられたはず……


 流石にあれを相手に、人一人抱えて逃げ切るのはきつい!


 今のうちに京子さんを起こし、拘束具も外しておかないと!


 それと皆に連絡を!







 そう思っていた矢先!




「…… え? 」


 後ろから彼女の左肩を、隠れている木ごと貫く刃があった。


「ごふ!」


 吐血しながらも刃を抜き、前方へ飛び転がる様に何とか距離をとるカエラ。


 危なかった! もう少し胸部の方へ刺さってたら……


「! 誰もいない?」


 そこへ、気配と姿を消して二人に近づいていたアランが姿を現す。


 右手には京子を貫いたであろう黒い大剣がカエラの血を吸って抜かれていた。


「いきなり姿を! ステルス装置ですか!」


 カエラは京子の前でステルスを解除したアランの姿を目撃しておらず、途中で追いついたので完全にアランが姿を消せる事は把握していなかったのだ。


「急所は外したか…… まあ、適当に刺したからな」


「でもどうして! 完全にまいたはずなのに!」


「いや、実際見事な手並みだったよ。 だが残念だったな。 その拘束具には発信機もついているのだよ」


「!」


「すまなかったな。 お前を甘くみすぎていた…… まさかここまで頭がまわる奴だったとは」


「だがこいつは返してもらうぞ」


「! 京子さん!」


「くっ! 京子さんから離れなさい!」


 深手を負ったカエラだがすぐに立ち上がり、再び武器を出す。


「お前に勝ち目はないといったはずだ。 その傷なら尚更な」


「お前も使えそうだな…… 連れて帰って我らの傀儡にしてやろう」


「一度殺してからな!」


 アランは素早くカエラの後ろへ回り、首を飛ばそうと剣を振る!


 しかもカエラが痛めた左から切りかかる!


「くっ!」


 肩が上がらず、武器でガードができなかったカエラは咄嗟にしゃがみ込む事で、間一髪その一撃を躱す!


 だがそこにアランはカエラの腹部を蹴り上げ、さらにもう一度、今度はカエラの顔面を容赦なく蹴り飛ばす!


「がっ!」


「ごほ! ごほ! 」


 鼻血を出し、吹き飛ばされる京子。


「良い反応速度だ。 首を刈り取るつもりだったが」


「そこらの未熟な司令クラスより余程良い動きをしているかもな」


「くっ」


 カエラは無事な右手の方で、武器を片方だけ構えアランを銃で攻撃する。


「無駄だ」


 傷つき、ろくな体勢もとれてない状態で撃たれてもアランには当たるはずもなかった。


 簡単に躱しながらもう一度カエラの顔面を蹴り上げるアラン。


「うあ!」


 武器を放してしまうカエラ。


 そしてカエラの腹部をさらに蹴り上げ、彼女を痛ぶる。


「ごふ! ごふ! はあ、はあ……」


 アランはそのままカエラの顔を踏みつける。


 そこで目を覚ます京子。


「ん…… ここは…… ! カエラ!」


「兄弟子! 何しとんねん! カエラは関係ないやろ! 放せや!」


「京、子さん!」


「目が覚めたか。 悪いが無理な相談だ。 こいつは私に楯突いた。 傀儡にする前にその報いは受けさせる」


「これ以上邪魔をされてはかなわんのでな…… まずは動けない様に……」


「その両足から斬り取ろうか」


「! やめ! やめてくれや! 兄弟子!」


「くっ」


「私の邪魔をする者は…… 絶対に許さない!」


 アランが剣を振り下ろそうとする。


 その時!




















「おい」



「俺の仲間に何やってんだ…… お前」


 

アランの後ろをとったその男は、アランが振り向きざまにその重い拳で顔面を殴り飛ばす!


凄まじい勢いで吹き飛ばされたその身体は、先にある大木を貫通し、さらに先の木に身体を叩きつけられる!


「がはあ!」


「…… 黒崎、さん……」


「修二はん!」


「! 黒崎…… 修二ぃ!」


「何してんのかって…… 聞いてんだよ!」 


 猛々しい程の怒号を轟かせ、かつてない程の怒りでアランを睨む黒崎であった。






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いつも拙作をお読みいただいている皆様、ありがとうございます!


現在体力回復の為、ゆっくりペースで執筆させていただいていますが、急なお休みをもらえて、今回は連日で投稿できました(笑)


次回投稿は遅くとも3日後の6月16日の夜までには投稿します!


皆様今後ともよろしくお願いします😊

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