第54話 兄妹弟子
ここは七八番治療院とその併設施設がある場所。
「…… うん! OKや! ばっちり治っとるでえ~ カエラはん!」
「ありがとうございます! 京子さん!」
先日の怪物襲撃の折に右腕を負傷したカエラの傷が遂に完治した様だ。
京子も一安心といった感じだ。
「まあ、でもそこまで長引かんで良かったわ! 結構エグイ怪我やったからな!」
「京子さんのおかげです。 本当にありがとうございました!」
「なんのなんの! けどあまり無理はせんといてな。 大変な時なのはわかっとるけど」
「ええ。 肝にめいじておきます」
「おう! それはそうと、今日修二はんと達也はんが来るんやって?」
「そうなんです。 ここの警備状況の確認と情報交換もかねて。 まだもう少しかかると思いますが」
「そうなんや。 そしたらウチも顔出しとこうかな。 二人が着いたら連絡してえや」
「わかりました! 京子さんはこれから休憩ですか?」
「いや、まだやねん。 もう一件リハビリ治療が入ってんのや。 それ終わってからやな」
「そうなんですか。 お疲れ様です。 適度に休んで下さいね! 自分は少し施設近辺を巡回してきます!」
「おう! そんじゃまたな!」
こうしてカエラと別れた京子は自販機で飲み物を買って水分補給をした後、また担当の病室へと向かおうとしていた。
その時!
京子の視界に、離れた角の影に見覚えのある男の顔が一瞬映った。
「!」
なっ
今のは! そんな!
いや! ありえない!
今更あの人がこんな場所に現れるはずない!
せやけど……
信じられないといった顔の京子だが、いてもたってもいられず、男が映った角の所まで走っていく!
だが、その男はもういない。
辺りを見渡す京子。
その時、京子の通信機からメール着信の音が流れる。
「!」
『今すぐ敷地の裏から出て、直進してすぐにある森林公園に来るがいい。 ただし、誰かに話したら施設内の者達が全員くたばる事になる…… 必ず一人で来るように……』
「『兄弟子より』……」
ウチのアドレスは昔のとはちがう…… ハッキングして、メルアドの情報を盗んだやと! そんな事をするっちゅう事は、やっぱり本物?
兄弟子の監視をかいくぐるのはウチには無理や…… 助けを呼んだら必ずバレる!
「…… 兄弟子!」
一呼吸して覚悟を決める京子。
京子は近くを通りかかった別の治療士に体調不良と偽り、簡単に自分の担当患者の引き継ぎをした後、指定の場所へと向かっていった。
* * *
森林公園…… 入口から奥深くへと人気が少ないエリアへと歩を進めていく京子。
「いるんやろ! 兄弟子! さっさと姿見せんかい!」
「ふっ 相変わらず元気がいいな」
京子から十メートル位離れた正面の位置で、突然目の前に姿を現した男……
『真なる選別者』が一人、アラン・カーレントである。
「! ステルス装置の類か! またけったいな物、作りよってからに……」
「久しぶりだな。 京子」
「ああ。 てっきり兄弟子はもうくたばっとるもんやと思うとったからな…… それがまさか、一連の事件を引き起こしている奴らの主要人物になっているなんて……」
「こないだの緊急会議の内容を教えてもらった時に、それを聞いた時は度肝抜かれたで!」
「で、今更のこのこ何しに来たんや? 皆、あんさんらを血眼になって探しとるで!」
「連中如きに捕まる我らではない」
「別件の用もあるが…… 今日はお前に話があって来たんだ」
「ウチに?」
「ああ……」
「京子。 お前、我らの側につけ」
「…… は? ……」
「何言うてるん、兄弟子。 とうとうボケよったか?」
「ウチがあんたらの殺戮活動に手え貸すわけないやろ!」
「第一ウチは戦闘タイプやないで! おたくらについても役にたつとは思えんけどな」
「そんな事はわかっている」
「だがこの天界を滅ぼし、新世界を創る際には各分野のスペシャリストはなるべく手に入れておきたいというのも本音でね」
「私はお前の考え方はともかく、治療士としての腕前は高く評価しているつもりだ」
「私の部下になれ。 そうすればお前を新世界の住人として認め、命は助けてやる」
「私と共に来い!」
京子は溜息をつきながら悲しく、そして寂しそうな目でアランを見据えてこう答える。
「なあ兄弟子…… あんたいつからそうなったん? 昔はそうやなかったやん……」
「昔から癖のある性格はしとったが、それでも昔のあんたは、あないに優しかったやないか……」
「師匠も悲しんどったで……」
「なのにどうして……」
「…… 目が覚めたというだけの話だよ……」
「それに、あの人には私の気持ちはわからんさ」
「とはいえ、極めて優秀な人だから、いずれ師匠の事も、何が何でも手に入れるつもりだがな」
「ただ、腕ずくで説得するには骨が折れそうだ……」
「まあ、やりようはいくらでもあるさ」
「兄弟子……」
アランも昔は優しかった……
たまに喧嘩もしたけれど、治療士として尊敬もしてた……
長い事、兄妹弟子をやっていた彼女にはわかっていた……
アランは、一度こうと決めたら絶対に自分の意見を曲げない!
例え死んでも……
そしてそれは兄弟子が、もう二度と戻ってきてくれないという事を指しているという事も……
変わり果てた兄弟子の姿を見て、悲しそうな目をしていた京子だが、程なくしてその目は、強い意志を秘めた眼差しへと変わっていた!
尊敬していた、かつての兄弟子との決別の意味を込めた眼差しであった!
「さて、答えを聞こうか」
「ウチがそんな提案飲むわけないやろ……」
「そうか…… かつての妹弟子…… できるなら手荒な事はしたくなかったが……」
そう言うとアランは高速で間合いを詰め、京子の腹部に一撃を入れる!
「ぐっ!」
気絶した京子を、リング状の拘束具の様なものを出し、両手両足を拘束して抱え込むアラン。
「どうしても言う事を聞かないのなら、魂を改造して傀儡となってもらうまで!」
「おい!」
アランの呼びかけでステルス装置を使って事前に忍ばせていた、人に化けた部下が、アランから京子を預かる。
「連れていけ。 私はまだやる事がある」
「はっ!」
部下の男が、京子を抱えてこのエリアから離脱しようとしていた。
その時!
煙幕弾が彼らを襲う!
「!」
「な、何だ! これ…… ぐわぁ!」
煙に乗じて素早く部下の男を一撃で倒し、京子を抱えて距離をとる者が一人!
素早く辺りの煙を払い、吹き飛ばすアラン。
「京子さん! しっかりして下さい!大丈夫ですか!」
カエラである!
「貴様は…… 確か一一七支部の……」
「カエラ・クリスティンです! アラン・カーレントですね! この場であなたを拘束させていただきます!」
自身の武器をアランに向けるカエラ!
「ふん…… 雑魚が」
アランの敵意がカエラに向けられる……
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