第七章 覚醒する黒崎! 決戦の日は近い!

第53話 狙われる黒崎

 あれから一週間。


『真なる選別者』達との戦いに備えて天界各地では戦力配置の見直しや各兵器の確認、一般人の避難ルート、その場所の確保といった、様々な準備が着々と進められていった。


 そしてここ、グランゼウス要塞 訓練室にて、来たるべく決戦に備え、鍛えなおしている二人の若者がいた。




「はあ!」


 巨大な鎌から放たれる強力な三つの斬撃!


 霧島だ。


 そして三撃とも上手く躱しつつ、一気に間合いを詰める男が一人。


 黒崎であった。


 右のストレートを打ち込む殺気を込めて、それをフェイクに左の拳から霧島のリバーを狙う。


「もらい!」


「なんの!」


 それを読んで鎌で黒崎の攻撃を流す様に捌く霧島。


 それと同時に霧島は距離を取りつつ回転しながらもう一撃! 斬撃を飛ばす!


「これはどうですか!」


 先程三つ同時に飛ばした斬撃より早く、強力な一撃が黒崎を襲う!


 その斬撃に対して黒崎は自身の右拳に気を高め、そのエネルギーを瞬時に飛ばす!


「うおらぁ!」


 両者の攻撃が衝突! 相殺された!


 相殺時に生じた爆風が訓練室内を覆う。


 それが収まるのを待つ両者。





「ふう。 結構良い感じじゃないですか! 黒崎さん!」


「ああ。 おかげ様でな。 とりあえず足手まといになるのだけは、何とか避けられそうだ」


 互いの武器を収納して一休みに入る霧島と黒崎。


「いやはや、本当に大したものですよ! たった一週間で、こうまで腕を上げるなんて!」


「訓練中、所々お前さんが的確なアドバイスをくれたおかげだよ! 霧島、お前こういう訓練の教官的なのとか向いてるんじゃねえか?」


「小遣い稼ぎに副業とかしてみたらどうよ!」


「何を言ってるんですか。 僕なんてまだまだですよ!」


 何を言ってるんだといった感じで、返事をする霧島。


「そうか? 実際かなり向いてると思うけどなぁ」


 事実、黒崎が短期間で力を増してきているのは彼の戦闘センスが優れているというのもあるが、霧島から、改めて気のコントロール、瞬時の部分的な気の高め方、気を放出させ続け、スタミナをつけさせる訓練法、武術の世界においての身のこなしや参考程度に型をいくつか教え込まれる等、霧島の黒崎に対しての鍛え方は非常に効率的なものであった。


 それにしっかりついてきた黒崎のセンスも相当なものではあるのだが。




「それで、予定通り、今日の訓練はこれで終わりか?」


 今日のこの後の予定について黒崎は確認をする。


「ええ。 今日はカエラさんの退院日でもあるので向こうの警備の確認がてら、顔でも出して情報交換といきましょう」


「まあ、その前にシャワーを浴びて、軽く食事を済ませてから向かいましょうか」


「わかった。 じゃあそうしようか」


 こうして二人は訓練室を後にするのだった。






    *     *     *

 



 


 とある薄暗い空間……


 身支度を整え、一人の男がその出口へと向かって歩いている……


『真なる選別者』が一人、アラン・カーレントである。


 そこへ横から声をかける二つの影があった……


「行くのか?」


「…… ああ」


「本当にあんた一人だけで行く気かい?」


「有能な人材はスカウトするに越したことはないからな。 あまり大人数でぞろぞろ行っても目立って、すぐに敵を呼ばれるだけだろう。 それに……」


「監視カメラの映像で確認した。 『奴』もどうやらそこに向かっているらしい……」


「黒崎修二か……」


「こだわるねえ…… たかが人間如きにあんたがそこまでムキになる理由はわからんが……」


「よせ、イリア。 我々の間で詮索は無用…… そういうルールのはずだ」


「わかってるよ。 ガラン」


「黒崎修二…… ここ数日で奴の霊圧が『通常ではありえない速さ』で増してきている…… それにあの闘気…… やはり間違いない!」


「奴こそ、私の探していた男だ!」


「奴とは私一人で決着をつける!」


「後日の『計画』に心置きなく、しっかりと専念するためにもな!」


「まあ、あんたの実力は理解しているけどよ」


「向こうの穴が新しく創った出口かい?」


 イリアはアランが向かっている方向にある空間の出口を指して、そう尋ねる。


 そしてそれに、ガランが答える。


「ああ。 例の鉱山跡の廃ビル付近の出口には零番隊と諜報部の連中が張っている」


「特にその隊を仕切っているのは『あの二人』だからな…… 今、一戦交えるのは非常にまずい」


「例の『伝説の死神夫婦』ってやつかい?  何でそんなヤベエ奴らが出張ってきてんだよ! とっくに引退した連中だろ!」


「彼らは表向きは引退しているが、籍は零番隊に残し、非常に危険レベルの高い有事の際のみ、剣神が彼らを使うのだという……」


「言ってみれば零番隊の中の鬼札ワイルドカードといったところか」


「昔、その片割れと他支部との合同訓練の時にやりあった事があったが、常識離れした戦闘能力で、当時はまるで歯が立たなかったのを覚えているよ」


「人間だった頃は凄腕の傭兵だったみたいだが、確かに見事なまでの戦術眼だった……」


「女の方も天界の死神の中でも五本の指には入る実力者だって話だからねえ!」


「ったく! 厄介な化け物共が出て来やがったな」


「決戦の日を迎える前での衝突は避けたいところだ」


「それで別口を創ったってわけか」


「そういう事だ」


「ま、アルテミスに感謝するんだな!」


そう、アランに声をかける大きな人影がもう一つ、後ろの方からやってきた。


 雷帝レオンバルトだ。


「雷帝……」


「ああ。 あの方には感謝の心でいっぱいだ。 こんな私を導き、さらにはこのようなわがままを聞いてくれたのだからな」


「あの方は好きにしろと仰って下さったが、雷帝よ…… お前はいいのか?」


「…… これに関してはお前らの問題だ。 お前らがケリをつければいいんじゃねえか?」


「俺も口出しするつもりはねえよ…… どういう結果になろうがな……」


「そうか…… 感謝する」


「お前達も…… この大事な時期にすまないと思っている…… だからこの借りは、来たるべく決戦の日に、その働きをもって返させてもらう!」


「へっ 上等だ!」


「武運を」


「はっ! とっとと用事すまして帰ってきな! 決着祝いに一杯位はおごってやるからよ!」


「ふっ では行ってくる」


 三人の激励を受けアランは少し嬉しそうに笑みをうかべた。


 そして空間の出口を通り、外へと向かっていったのだった。


「そういや、キースの奴はどこ行ったんだ?」


「さあなあ。 どっかで遊んでんじゃねえの?」


「また勝手なことを……」


「ちっ! 本当にいけ好かない野郎だね!」


「まあ奴も計画の事は弁えているから心配はないだろ」


「だといいがな……」




 グランゼウス要塞での緊急会議から一週間……


 状況は新たな局面を迎えようとしていた……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る