第52話 そして、各々がやれる事を

「黒崎君。 君は……」


「いや、いいすよ。 大王様」


「! 黒崎君!」


 黒崎が敵に狙われる理由…… その理由を閻魔大王の口から語られようとしたその時、黒崎は自らそれを制止した。


「ぶっちゃけ今、キャパオーバーでそれどころじゃないし……」


「それに…… 俺もそこまで馬鹿じゃないのでね。 今までの状況を考えてみると『何となく予想はついちゃってるんですよ』…… ま、あってるかはわからない上、あくまで輪郭の部分しか想像がつかないですが、多分『そういう事』なんでしょう?」


「黒崎君……」

「へえ……」

「……」


「ま、今は俺が皆の足を引っ張らない様になるのが先ですし、それに……」


「これは本当に、ただの勘ですが、『近いうちにはっきりわかる』…… そんな時がくる気がするんですよね……」


「なんで今は、とりあえずその事はいいっす」


「ちゃんと筋通して、伝えようとしてくれただけで、今は十分ですよ」


「ま、やっぱり聞きたくなったら、その時はお願いするかもですが……」


「黒崎君…… ああ。 わかった!」


 昨日の一件も、黒崎なりに整理がついたみたいだ。


 そして、今自分がやれる事は何なのかも。


「ふふ。 君はやっぱり面白いなあ…… 何だか僕もたぎってきちゃったよ……」


「どうだい? 師匠せんせい。 久々に手合わせを願いたいんですけど……」


「そろそろ師匠せんせいに本気で挑戦し、超えるだけの力と資格を得たと思っているんだけど……」


 これまでの流れで、リーズレットの闘志にも火が付き始めたみたいだ。


 師の元を離れて五〇年…… 自分がどこまでやれる様になったのか試してみたいと、うずうずしているといった感じの様子だ。


 女神アルセルシアの目をじっと見つめるリーズレット。


 その視線をアルセルシアも真っ向から捉えている。


 両者の間に緊張が走る……


 その緊張は、黒崎や霧島にも伝わってきている!



 おいおい! 勘弁してくれよ!


 こんな化け物共がやりあったら、マジで収集つかなくなんぞ!




 そして、アルセルシアが答える。


「ふっ。 お前は本当に頼もしい位に元気だな」


「だが、昨日からの徹夜作業含め、ここ数日の情報収集等の激務で寝不足のお前とやりあっても面白くなさそうだ」


「それに私もお前も『一度火がついたら抑えがきかなくなるタイプ』だ…… 決戦前に必要な戦力を二つも使い物にならなくするわけにもいかんだろ」


「諸々片付いて、暇ができたら、その挑戦受けてやるよ」


「本当♪ 絶対だよ!」


 笑顔で納得するリーズレット。 


 そして…… 


「だからさ、師匠せんせい……」


「ん?」


「例え相手が『かつての最強』だろうと…… 絶対に倒して帰ってこようね!」


「! お前もな。 さっきも言ったが、彼は手強いぞ」


「ふ、望むところさ!」


 リーズレットなりの師匠に対する激励でもあったのだろう。


 まあ、戦いたかったのは本当なのだが……


 二人は笑みをこぼし、師弟の約束を交わすのであった。


「やれやれ、この二人は」


「まあ、ほとんど病気ですね。 これは」


 黒崎や霧島達が、ほっとしたのとは対照的に閻魔大王とエレインは、特に驚いている様子もなかった。


 閻魔大王とエレインも、リーズレットの性格には慣れて、理解しているからだ。


 といっても、流石に呆れ顔ではあるが。


 そして閻魔大王はエレインに声をかける。


「エレイン君も… 今まで詳細を伝えられず、申し訳なかった」


「いえ。 内容が内容だけに当然の判断かと…… 先日も言いましたが、何があっても私はあなたを支える…… ただ、それだけの話ですよ……」


「エレイン君……」


「お~♪ 流石『姉上♪』 良い事言う!」


「リーズレット様…… って誰が姉上ですか! 誰が!」


「うん、うん。 で、式はいつ上げるんだ?」


「アルセルシア様まで!」


「そんなんじゃありません!」


「はっはっは! そう照れる事はないじゃないか! エレイン君!」


「……」


 何も発せず、ただただ無言で大王を睨みつけるエレイン。



「…… ごめんなさい」



 そして、謝る閻魔大王であった。


 …… 無言の圧って一番怖えんだよなあ……


 この二人もどうなるのかね……


 まあ、頑張れ。 大王様。


 二人のやり取りも見届けつつ、体力を消耗して座り込んでいた黒崎も、ようやく立ち上がれるだけには回復したのか、霧島の手を借りつつ、立ち上がる黒崎。


「やれやれ…… 随分と拗らせてるなあ。 全然進展してないじゃないか」


「本当だよ! エレインさんも、もっと素直になればいいのに……」


「真面目過ぎるというか、頭が固いのは相変わらずか……」


 二人のじれったさに女神アルセルシアとリーズレットも困ったものだといった表情をうかべていた。


 まあ、それはさておき、女神アルセルシアが閻魔兄妹とエレインにこの後の指示を出す。


「さて! とりあえずはこんなものか!」


「お前達も交代で休息をとっておけ!」


「と言われましても…… この状況下では我々は休みようが……」


 そう言うエレインの言葉を問答無用で却下する女神アルセルシア。


「だめだ! 決戦の時に持たんぞ! 何、大丈夫だ! この要塞に来る前に、先代大王に話して少し業務に復帰する様に頼んでおいた!」


「父上に!」


「ああ。 いくら非常事態とはいえ、流石に閻魔の仕事を溜めすぎるのもまずいからな!」


「ただ、久々だからエレイン! 書類整理や諸々の事務処理のサポート、すまないがもうしばらくだけ頼む! 先にお前ら兄妹は休んでおけ! しばらくしたら大王はエレインと、リーズレットはマクエルと交代して休ませろ!」


「その間の天界一帯の監視の方は私の眼のもう一つの能力、『千里眼』で連中が不審な動きをしないか見ていてやる」


「! しかしあれはかなり消耗しますよ!」


 彼女を心配する閻魔大王。


「しかたなかろう。 流石にお前らを、同時に休ませられる状況ではないからな。 とりあえず全員一通り仮眠取るまでは私が寝ずに監視してやる」


「その後私は爆睡するから私が起きるまでに今後の作戦をより細かくまとめておけよ!」


師匠せんせい…… ありがとうございます。 お言葉に甘えさせていただきます」


「ありがとうございます!」


「ありがとね~ 師匠せんせい♪」


「それじゃ、黒崎君、僕達はこれで失礼する。 何かあったら随時通信で! それと時間が出来次第、なるべく様子も見に来るから」


「ありがとうございます。 大王様」


「それじゃ、二人共、しっかりね!」


「はい! 司令!」


「そっちの方もよろしく頼んます」


 こうして、皆は挨拶を交わして、閻魔大王達は帰路につき、黒崎と霧島は訓練を再開する前に、カエラに通信で会議で話した事の詳細を伝えた後、食事休憩をはさんでから、また再開するのであった。






     *     *     *





 そこは敵から奪還した死神事務所、第四九支部から北西へと暫く進んだ場所……


 昔、鉱山として発掘現場に使われていた場所にある空きビルの近くであった……


 天界諜報部が偵察中、現在はリーズレットの指示があるまでは深入りはせず、待機いている状態であった。


 そこに彼女からの指示を受けて、その隊を指揮している二人の人物がいた。


 一人は髪の長い、赤毛のガタイの良い男…… 人間の見た目で言ったら三〇代中頃位の顔立ちだ。


 もう一人は銀髪のセミロングの、すらっとした女性…… 人間の見た目的には二〇代後半から三〇代前半位といったところか。


「ふ~、やれやれ…… まさかこんなおっかない場所の偵察を命じられるなんてねえ…… 総長も人が悪いぜ」


「ぼやかないの! 仕方ないでしょ! 私達が一番近くにいたんだから」


「わかってるよ。 はあ~あ…… こりゃ、とっとと一連の事件を解決しねえと、おちおちデートもできねえなあ」


「まあ、二か月前に総長あの人から協力要請がきた時点で、こんな予感はしてたけどね」


「あ~! 何であの時、通信でちまったかな~ 俺!」


「せっかくおまえと、イチャイチャラブラブしてたのに! 良いところだったのに!」


「本当よ! ちょっとは空気よんでほしいわよね! 総長あの人にも!」


「あの、お二人共、任務中ですので、もう少し緊張感を持っていただけると……」


 部下の男が二人に注意する。


「ふっ 何だね君! もしかして羨ましいのか? 俺達のラブラブぶりが!」


「いやだわ♡ あなたったら!」


 照れているのかその女性は相手の男性に対し手を…… というか掌底を入れて吹き飛ばす。


「ぐふ!」


「あの~、大丈夫ですか~?」


「ふっ 大丈夫だ! 全く……可愛いやつめ!」


「口から血が出てますけど……」


「大丈夫!」


「はあ……」


 二人のやり取りに呆れ顔の部下の男。


「大丈夫だよ。 これでもちゃんと警戒はしている。 総長からの指示が入るまで絶対に中には入るな! 現状は待機だ! その代わり、周辺の空き部屋や坑道を当たってる巡回班との連絡は怠るなよ!」


「はっ!」


 打って変わって真面目に支持をとばす赤毛の男。


「しっかし、とんでもない事になってきたな……」


「ええ。 このまま連中の好きにさせるわけにはいかないわね」


「ああ。 全くだ」


「それはそうと『あいつ』は元気にしてるのかね?」


「ふふ。 こないだ大王様から連絡来たけど、ちゃんと頑張ってるみたいよ。 あの子」


「そうか…… 全然顔出してなかったからな~ 今度会うのが楽しみだ!」


「私もよ。 今度会ったら、うんと抱きしめてあげないと!」


「ああ! その為にも精々気張らせてもらおうかね!」


 こうして、各地で各々が来るべき時に備え、着々と準備、対策を用意していくのであった……



     第六章 完

ーーーーーーーーーーーーーーー


     お知らせです⭐︎


いつも御拝読いただきありがとうございます!


皆様に応援していただき、作品を愛していただき、本当に皆様には感謝の言葉しかありません!


今回は一件お知らせです!


近況ノートにもちょこちょこ書いてありましたが、六章が終わったら短期間ですが少し執筆ペースを落とそうと思います。


ちょっと体力的な問題とスケジュール、今後の物語展開をより詳細にまとめたいので、今後、数話分ですが2〜3日に1話ペースに投稿させていただきますm(_ _)m


投稿できる時は翌日にも投稿するかもですが(笑)


疲れてて、休みたくなってもテンション上がって執筆しちゃう自分がいるので(笑)


やっぱり執筆って楽しいですね〜

腰が痛くなりますが(笑)


少しの間だけ充電させていただきます(^^)


といってもカクヨムには毎日お邪魔するので皆様の作品もぜひ、読みに行かせていただきますね!


とりあえず第七章一発目は6月10日の夜までには遅くとも投稿します(^^)


それでは皆様良きカクヨムライフを(^^)




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