第50話 実践

「それでは黒崎さん、よく見ていてください」


 霧島が黒崎にPSリングの使い方に説明に入る。


「まず武装が収納されている空間を出したい方向に手をかざします。 かざす方向、そして、指輪を向けていれば、つけている手が平手でも握っている形でも何でもかまいません」


「そしてそのまま、指輪に対して気をこめます」


「それと同時に合言葉を言います。 でないとただ気を念じただけで収納空間が出たり消えたりしてしまったら、戦闘時、普通に気を込めて攻防のやり取りをする時に、邪魔になってしまいますからね」


「なるほど」


「合言葉は、どの武装も共通で『召喚』です」


「『召喚』…… うん。 まんまだな。 別にいいけど」


「あ、そこはツッコまないで下さい。 割と皆、そう思っているので……」


「そ、そうか……」


 やっぱり気にしてたんだ…… ちょっと恥ずかしいな。


 一度、咳払いをし、霧島は説明を続ける。


「そして武装をしまう時は、同じく指輪に気をこめて『武装解除』の合言葉を言います」


「これだけです」


「それだけか!」


 思ってた以上に簡単そうで拍子抜けの黒崎。


「ええ。 基本的な気のコントロールができてさえいれば、誰でも出し入れは可能です」


「では次に、実際に僕のをお出しして見せますね」


「召喚!」


 霧島は右手を自身の右側に出し、言葉を発した。


 すると霧島の発した言葉と同時に、青黒い丸い空間の様なものが発生し、霧島はその空間に右腕を入れる。


そして『それ』を取り出すと同時に、収納空間は消えてしまう。


「! これが…… 霧島の武器!」


 霧島が取り出したのは、まさに死神を彷彿とさせる巨大な黒い鎌であった。


「黒崎さん。 これが、有事の際に使っている僕の武器です」


「そして…… 武装解除!」


 霧島の言葉と共に、またもや空間が発生し、まるで引き寄せられるかの様に霧島の鎌は収納されていった。


「おお……」


「一連の流れはこんな感じですね」


「それでは黒崎さん。 とりあえず、ここまでやってみましょうか」


「わかった……って指輪、これ二つあるけど…… 後、はめる指とか決まっているのか?」


「え~っと、二つあるって事は恐らく……」


「ああ、黒崎君。 君の場合は片手に一つずつ、はめる指はどれでも構わないよ!」


 閻魔大王が説明の捕捉に入る。


「! わかりました!」


 黒崎は指輪と、それからペンダントも身に着け、先程の霧島を真似てみる事にした。


「召喚!」


 黒崎の両手の前方に収納空間が現れる。


 そこに両腕を突っ込む黒崎。


 すると黒崎は自身の両腕に、何かが勝手に装着されるのを感じた。


「! なるほど…… これが彼の……」


「ああ。 下手な剣や銃の類より、こっちの方が彼も慣れているだろう」


「確かに、にわか仕込みで、一から剣術等を覚えている暇はないですからね」


 閻魔大王達の言葉に納得といった感じのエレインとメアリー。


 収納空間から両腕を出した黒崎が身に着けていた物、それは……


装甲手袋ガントレット…… なるほど。 生前鍛えた喧嘩や徒手空拳の類を、そのまま活かすというわけですか」


 黒崎の両腕に銀色の装飾が施された、武器でありながら、美しさすら感じる装甲手袋を身に着けていた。


 比較的細身の装甲手袋で、とくにわずらわしさ等感じない様だ。


 強い力を秘めている上に、ほとんど重さを感じない!


 着けているだけで、感覚的にだが武器の性能を実感する黒崎。


 こいつは確かに凄い! 


 使いこなす事ができれば、確かな戦力になるかもしれない。


 黒崎はそう感じていた。


「こいつはありがたい! ステゴロの方は得意分野だからな」


「黒崎さん。 一応しまう所も!」


「ああ。 武装解除!」


 ここも問題なくクリアする黒崎。


「うん。 ここまでは問題なさそうですね!」


「ああ。 一応気の扱い方を練習していたおかげで助かったぜ」


 武装の出し入れを覚えたところで、閻魔大王が次のステップへと黒崎を進ませる。


「うん! それでは黒崎君! 霧島君も! もう一度、武装を出して、とりあえず五分! 手合わせしてみてくれ! 霧島君は様子見ながらでね!」


「わかりました」


「やれやれ…… こっちは初心者なんだ。 マジで手加減頼むぜ」


「はい! では…… どこからでもどうぞ! 黒崎さん」


「じゃあ…… いくぜ!」



 こうして二人の模擬戦が始まった!



 霧島に対して、正面から突っ込んでいく黒崎。


黒崎の右ストレートを鎌を使って敢えて正面から受け止める霧島。


ガードした鎌に凄まじい衝撃音が鳴り響くが、踏ん張る霧島。


「! なるほど! 中々……」


 霧島は黒崎がどこまでやれるか、そして武器の扱いに慣れさせる為、ほとんど防御と回避に専念しつつ、時折攻撃を仕掛け、黒崎の回避能力や判断能力も観察している。


 そして、時にアドバイスを織り交ぜつつ、黒崎のなるべく好きに五分間、攻めさせていた。


 そして、そうこうしているうちに、あっという間に五分が過ぎるのであった。






「はあ、はあ、はあ…… だめだ! 全然歯が立たねえな!」



 くそっ! 予想はしてたが、まさかここまで差があるとは……


 単純なパワーやスピードだけじゃねえ!


 霧島の奴! 俺の動き、いや、まるで心の内まで見透かす様に攻撃を読み、さばいてやがった!


 かなり攻撃にフェイントとか入れてたんだがな…… ひとつ残らずさばかれるとは……

 

 カエラと同等、いや、下手したらそれ以上か!




「……」


「ん? 霧島? どした? そんな怖い顔して」


「あ、いえ……」


 悔しがる黒崎に対して、霧島は内心驚いていた。



 まさかここまでやるとは……


 黒崎さんの格闘センスが光るものがあるのは知っていましたが、所詮は人間の身体能力。


 それを補う様に、黒崎さんは右の拳に殺気を込めながら既に左の膝蹴りを放っていたり上と思ったら下、右と思ったら左の、それも死角から急所を目掛けて攻撃が飛んでくる。


 攻撃時の殺気を感じたかと思って対処しようとしたら、殺気を隠していた別方向から攻撃が来る! それも連続で!


 前にカエラさんが言ってましたが、相当修羅場慣れしていますね。


 まあ、それでも僕はそれを何とか読みつつ、致命的なレベルのスピード差で対処していましたが……


 だけどそれでも、あまり場慣れしていない新人の死神よりはスピードがある。



 ただの人間が……


 いや、それよりも……


 カエラさんと戦った時、そもそもこんなにスピードがあったか?


 しかも…… 戦いが進むにつれて、黒崎さんのスピードが、少しずつ速くなっていったような……


 黒崎さんの攻撃時に被せる疑似の殺気のフェイントが、僕の思考に追いついてきて、そう感じていたのか?


 …… いや、そんな感じでは……


 単純に! スピードそのものが、速くなっていた様な……


 たった五分の模擬戦の中で、身体能力そのものが上がっていくなんて、いくら何でも絶対にありえない!


 …… 気のせいなのか?



 霧島が考えを巡らしている中、閻魔大王が次の指示を出す。


「ふむ! 良い感じだね! そしたら黒崎君! 今度はパワーストーン…… 正式にはには霊石れいせきと言うのだが、それを握りしめた状態で、そこに気を込めて『解放』と叫びたまえ!」


「! わかりました」


 閻魔大王の指示に従い、黒崎は霊石に向かって気を込めながら言葉を発する!


「解放!」


 黒崎の言葉と共に、訓練室そのものが大きく揺れる程の、凄まじいまでの霊圧が彼の周りを包みこむ!


「! なっ!」


「これは!」


 霧島とメアリーが度肝を抜かれる。



 あれ? 嘘でしょ? これ結構ガチで凄くない?


 待って待って!


 全然気を抜けなくなってきたんですけど!


 気を引き締めなおす霧島。


「ほう。 よくできてるじゃないか。 こんなものが開発されていたとは」


 女神アルセルシアだ。


「ええ。 ですがまだ試作品の段階です。 あまりに強大な力の持ち主が使うと、霊石の方が砕けてしまうのと、まだあれ一つしかないのが難点ですが……」


「だったらいっそ、今の彼位の気の持ち主に託した方が良いと思ってね」


「うん。 そうだね。 多分僕達が使ったらすぐに霊石が砕けて、意味ないだろうし」


 アルセルシア達が見守り続ける中、閻魔大王が次の指示を出す!


「黒崎君! これでもう一度! 霧島君に仕掛けてみて、さっきまでとの違いを感じてくれ! 霧島君も! 『本気』で! さばいてくれ!」



「! わかりました!」


「! 簡単に言ってくれる!」


 普段以上の力……


 根こそぎ体力が持っていかれそうな気分だ!


「ぐっ…… それじゃあ、いくぜ! 霧島!」


「はい! 黒崎さん!」


 こうして、二人の模擬戦はさらに続いていく!




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