第48話 真実を知り……
時はもどり、再び現代、会議室へ
「―― と、いうわけだ……」
語られた一二〇〇年前の戦いの内容が、あまりにも想像の範疇を超えるレベルであったため、会議室にいる司令達は皆、言葉を失っていた……
それは黒崎も同様であった。
なんてこった……
想像の遥か上、いや圧倒的に上をいってやがる……
…… そういう事だったのか……
こりゃ確かに迂闊に口外はできないわな。
黒崎も含め、察しの良い者達はその理由に気付くのであった。
そしてそんな中、閻魔兄妹が口を開く……
「いやはや…… かつての大戦で伏せられていた真実が、よもやその様な事だったとは……」
「まとめると、一人の死神による、浄化の滝に張られている浄化結界の操作不備、そこから漏れ出した瘴気…… いや、悪意の意思の集合体に身体を乗っ取られ、大戦を起こすまでの長い間、それは、ひそかに力を蓄え続けた……」
「そして機が熟したと判断して、大戦を引き起こし、結果、女神アルテミス殿とその付き人の雷帝を含む、大勢の命や魂が犠牲になった…… と」
「その通りだ」
「…… なるほどね。 確かにこれは『全部』は公表できないわけだね」
「ああ。 何せ天界の治安を守るべき死神の立場にある者が、自身の体調管理もできず、結界の操作不備を起こした事で、そのような隙を生み、結果、治安維持に関わる者達だけでなく、守るべき死者の魂達まで危険に巻き込み、犠牲者を出してしまった」
「そしてそれは、その死神だけのせいじゃない。 彼がその様な状態であった事を見抜けなったのか、それとも知った上で当時の彼の上司や仲間が、人材不足を理由にか知らないけど、浄化結界の操作という、一切の気の緩みが許されない仕事をさせてしまった事……」
「それはつまり、当時の各司令は勿論、『天界の上位管理者的立場である、我ら閻魔一族や、女神殿達の管理責任』、そして『単純だけど絶対にあってはならない過失』だったというわけだね」
「これが露見されれば、生き残った者達や、次代の死神や天使達にしめしがつかない上、この事実がもし、死者の魂達にも知れたら、天界の信用はガタ落ち…… おそらく暴動とか事件の類も今よりも、もっと増えていただろうね」
「そういう事だ。 そこで我ら女神とお前達の父親でもある先代閻魔大王と協議の結果、この大戦は表面上の事実と結果だけを後世に伝え、内側の真実には限られた者にだけ伝え、情報規制をかけたというわけだ」
「そしてその大戦を教訓に、死神達の人材補強や司令
「といっても、まだまだ全然手が足りず、皆には苦労をかけているがな」
「女神殿……」
「それをいうなら先代の父、そして我ら閻魔一族全体の責任でもありますよ。
「既に起こしてしまった失敗は、なかった事にはできない…… ならば過去の失敗から何を学び、何に活かすか…… そして
「だったら僕らも気合を入れないとね! 兄上!」
「その通りだ。 流石我が妹! よくわかってるじゃないか♪」
「それ程でも~♪」
「お前ら……」
「ふ…… いつの間にか、ここまで成長していようとはな……」
「皆! 今まで過去の内側の真実を伏せていた事! 深くお詫びする! そして天界の管理責任者の一人でもある私から、改めて皆に頼む!」
「今回の事件を解決する為に…… どうか力を貸してほしい!」
そう言うと、女神アルセルシアは皆に向かって頭を下げた。
「なっ!」
黒崎は驚きを隠せない!
黒崎だけではない。 他の者達もだ。
天界の最高権力者の一人であるあの女神アルセルシアが頭を下げている。
立場の優劣等関係ない……
これが彼女なりのけじめなのだ。
だが、流石に皆には動揺が走るが……
「め! 女神様?」
「お! おやめください! 女神様! 我ら等に頭を下げるなど!」
「そうですよ! どうか頭をお上げください!」
「天界の治安を守るのは我らの務め! 元よりそのつもりであります!」
「どうかこれからも、我らをお導き下さい!」
頭を上げる様に必死に女神に懇願する一同!
そして頭を上げる女神アルセルシア。
「すまない…… 皆の心遣い、感謝する!」
「共に力を合わせ、この苦難を乗り越えようぞ!」
「はい!」
皆の士気が一気に高まっていった。
女神アルセルシア…… 天界のトップの一人、か。
なるほど。 いろんな意味で規格外すら通り越してやがる……
全く…… 大した人だ。
「黒崎。 君も力を貸してくれるかな?」
アルセルシアは黒崎の方に顔を向ける。
「! ふう。やれやれ…… 何だがもう、どこからツッコんでいいのかわからない位、キャパオーバーの情報量と事態ですけど……」
「解決屋のプライドにかけて! せいぜい足を引っ張らない様に努めますよ!」
「上出来な答えだ! 期待させてもらうぞ!」
真実を打ち明け、皆の士気も高まったところで、話は続いていく。
リーズレットがアルセルシアに問う。
「だけど、
「ああ。 間違いない…… 雷帝レオンバルトだ!」
「やっぱり。 じゃあ、魂は滅びてなかったって事?」
「わからん…… だが、あの時、姉者は我らを巻き込まぬよう、咄嗟に空間を創り移動、恐らくは自身の闘気を爆発させる事で相討ちにもっていったのではと思っていたが……」
「その隣で、既に死んで魂だけの状態であった彼がその爆発に巻き込まれれば、まず一〇〇パーセント消滅してしまうはずだが……」
「…… だが、あれは間違いなく彼だ!」
アルセルシアがそう言い切った事で、大王とエレインも腑に落ちた様子だった。
「そうですか…… まさか天界最強だった女神アルテミス殿に仕える守護者殿も敵にまわってしまうとは……」
「どおりで見覚えがないわけだ」
「ええ。 何せ一二〇〇年前の世代でも零番隊以上に秘匿にされていた存在…… いわば切り札中の切り札…… いや、鬼札といったところの方なのでしょう」
「ああ。 元々彼は決まった役職に付いていたわけでもなかったというのもあるが、どうしても解決するのに犠牲が多数出てしまう案件に限って、姉者の命に従い、裏で力を貸してくれていたのだ。 天界のデータベースにも載せていない」
「故にその存在を知るのは、我ら女神と父である最高神様、先代閻魔大王と、当時の零番隊の総長と副長位だったからな」
「その零番隊も十名中、戦死者二名、重傷者四名が出て、しばらくの間は活動停止、再開後も間もなく世代交代していったが」
「なるほどね。 それでまた秘密裏の部隊にもどっていって、僕らの代になっていったってわけか」
「そういう事だ」
「ところで
「ん?」
「僕は彼と
「…… ああ。 かまわん。 彼が正気かどうか…… 今、彼の魂がどういう状態なのかはわからんが、下手に遠慮していたら確実にお前がやられる。 それに、そういうのは彼が最も嫌う行為の一つだからな……」
「思い切りぶつかって…… その誇り高き魂を解放してやってくれ……」
「…… うん。 わかったよ……」
「ちなみに
「また難しい質問を!」
「ん〜…… 正直全くわからん! あくまで一二〇〇年前、最期に見た彼と、極神流一刀術を極め、私の元を去った時のお前とを比べたら……」
「彼の方が上だろうな」
「なっ! それ程までの!」
エレインが激しく驚く!
「ただ、お前は…… というか大王もそうだが、私の元を離れた後も独自に研鑽を積んで、他の武術も取り入れ、二人共、自身の剣として改良、昇華させ、それぞれの、一つの剣の完成形に至った」
「いや、まだまだ満足せずに日々研鑽中かな? 武の世界に終わりなどないからな」
「いやいや、私はもう十分ですよ〜
「よく言うよ。 兄上。 半年位前に手合わせした時も、更に磨きがかかってたみたいだったし」
「いやいや、君にはもう敵わんよ」
「ふう。 まあ、そういう事にしておくよ」
「で、
「ああ。 私の元を去ってリーズは五〇年、大王は一〇〇年位だが……」
「その間にお前がどこまで腕を上げたかは、はっきりとはわからんから、あくまで私の想像だが……」
「それを込みで入れると、恐らくお前の方がかなり上をいっているだろう」
「だが奴も一二〇〇年もの間遊んでただけとも思えん…… だから……」
「ガチで全くわからん! すまんな! はっはっは!」
女神アルセルシアは結局わからんと笑いながら言う。
「はは!何それ
「だったら僕も、決戦の時に少しでも備えておこうかな」
「ああ。 そうするといい」
「女神殿、いやアルセルシア殿…… もう一つ。 アルテミス殿についてだが……」
「ああ。彼が存在する…… そして、敵が空間を操っている事を考えると、姉者も必ず向こうにいる……」
「考えたくはないが…… もう『後戻りができない状態』なのだろう……」
「そして恐らくだが『そうするしか姉者の魂を救えない』だろうな……」
「その時は『それ』は私がやる…… 同じ女神として! そして何よりも姉者の妹として!」
「
「ああ!」
そうして各々が覚悟を決めていく中、会議は最終的なまとめに入っていく。
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