第47話 昔話 完
その一撃は、最高神と女神が住まう天界で最も強固な材質で出来ている塔を半壊し、頂上から地上まで突き破る程の衝撃だった。
凄まじい轟音と共に大きく揺れる塔。
地上に着地するアルテミス。
全てを込めて放った最後の一撃……
流石の彼女も力尽き、膝をついている……
次第に塔の揺れと土埃も収まってきていく……
「はあ、はあ、はあ…… どうですか!」
完全に土埃が収まり、辺りを確認するアルテミス……
殺ったか?
いや、手ごたえはあった……
もし、これでも倒せてなかったら、もう……
一抹の不安がアルテミスを襲う……
「……」
「奴の姿が見えない……」
気配を消して、潜んでいる可能性は?
慎重にかつ念入りに敵の気配を探るアルテミス……
「いない……」
「どうやら、何とかなったようですね……」
「やりましたよ…… レオンバルト……」
「姉様!」
「姉者!」
「! イステリア、アルセルシア……」
「父上も、よくぞご無事で……」
イステリアに肩を貸される形で共に降りてきたアルセルシア。
三姉妹の父である最高神も一緒だ。
「おお…… アルテミス……お前の、いや、お前達のおかげだ」
「全く…… 自分の無力さが恨めしいわ…… お前達をこの様な目にあわせて……」
「本当に、この老いぼれには、過ぎた娘たちだ」
「父上……」
「何を仰いますか。 父上」
「我ら三姉妹は、ただ天界の平和を脅かす災厄を打ち払っただけ……」
「それに…… 子が親を守るのは当然の事ですよ」
慈愛に満ちた優しさと笑顔を父へと向け、そう
「そうですよ! 父上!」
「その通りですわ!」
「お前達……」
「…… ありがとう……」
「私はお前達を誇りに思うよ」
「父上……」
戦いが終わり、ようやくこの家族に笑顔がもどる。
だが、これで全てが終わったわけではない。
塔の外の様子は? 外の敵や懸命に戦ってくれている仲間たちは?
「外の様子は?」
「姉様! 私が!」
「閻魔大王。 こちらは『元凶』を滅ぼしました。そちらの状況はどうですか?」
目を閉じて、思念波を送り、先代閻魔大王と連絡をとるイステリア。
「! 女神イステリア殿! おお! やはりそうでしたか!」
「こちらの敵は先程、一斉に消滅していきました! 現在、通信で各地を確認中ですが、同様の現象が至る所で起きているみたいですので、もしやとは思いましたが!」
「よくぞ! よくぞ『元凶』を打ち払い、天界を守って下さいました! 心より感謝致します!」
「それはこちらの台詞です。 閻魔大王。あなた方が外で懸命に敵の大軍を凌いでくれたからこそですよ」
「本当に…… よくやって下さいました…… ありがとうございます」
「ふふ。 もったいなきお言葉です。 イステリア殿」
「引き続き、そちらは各地の状況把握と混乱の収集をお願いします。 また後程、連絡を入れさせていただきます」
「わかりました。 お任せ下さい」
念話を終え、アルテミス達に説明するイステリア。
「…… そうですか。 よかった」
「外の事は一旦、大王達に任せましょう」
「ええ。 姉上」
「それと、レオンバルトは?」
「……」
三人の言葉なき返事が答えを告げていた。
「…… そうですか……」
「姉者……」
「姉様……」
「…… 本当に、誇り高き漢であった……」
「ええ。 本当に…… 私などについているのが勿体無い位に……」
「アルテミス……」
「いえ、こう言っては彼に失礼ですね」
「せめてその亡骸を丁重に埋葬せねば……」
「ああ。 もちろんだとも。 姉者!」
「私達にもぜひ! 手伝わせて下さい!」
「お前達は力を使い果たしている。 私が頂上まで連れて行こう」
「父上…… それに二人共…… ありがとうございます」
「それでは行くぞ。 三人共」
そう言うと、最高神は自分達の周りに球体上の空間を作り、三姉妹と共に頂上へと飛んで行った。
頂上へ着き、レオンバルトの遺体に歩み寄る四人。
アルテミスは彼の亡骸をそっと抱きしめる。
「レオンバルト…… レオン…… 仇は討ちましたよ…… あなたがその命をもって、力を貸してくれたおかげです……」
「今まで私に仕えてきてくれて…… 本当にありがとう。 レオン……」
「あなたは私の誇りです」
「姉者……」
「姉様……」
「……」
これで全てが終わった……
誰もがそう思っていた……
次の瞬間!
死んだはずのレオンバルトの右の手刀がアルテミスの身体を貫いた!
「…… がは! ごほ、ごほ!」
大きく血を吐き、流して、後ろへ倒れるアルテミス!
「姉様!」
「姉者!」
「アルテミス!」
最高神がアルテミスを抱えて距離をとる様に下がる。
「しっかりしろ! アルテミス!」
すぐさま、必死に治療術をかける最高神!
だが、その傷はもう助かるものではなかった……
「レオンバルト! どうして!」
「待って! まさか……」
「…… 本当に…… 間一髪だったぞ…… やってくれたな! 女神共!」
「貴様! レオンバルトじゃない! まさか! あの怪物だというのか?」
「そんな! 一体どうして!」
「ぐっ…… はあ、はあ、残念だったな…… 我の能力を忘れたか!」
「! …… まさか、あの一瞬で?」
「信じられん! 何という速さだ!」
「くく、その通りだ…… あの一撃をくらい、消滅する間際、我はイチかバチか! 宿主の肉体を捨て、既にこと切れていた雷帝の身体に向かって
「かろうじて間に合ったのと既に奴が死に、魂が肉体から出ようとしていた間際だったから、入った瞬間にこの身体の主導権をあっさり手に入れる事はできたというわけだ」
「何て事を!」
「この外道が!」
「はあ、はあ…… だがその際に我が核も、かなりの損傷を受けてしまったな…… まあ、間に合っただけでも儲けものだが…… 忌々しいが、ここは一旦退かせてもらうぞ」
「くっ!」
「させません!」
敵はもう満身創痍。
まともに戦えるのは自分だけ!
イステリアは最高神の守りを一瞬だけ解除して攻撃に転じようとした!
その時!
レオンバルト、いや、彼の身体に乗り移っている怪物の顎を掴み、かつてない程の、怒りと闘気を露わにするアルテミス!
「姉様!」
「姉者!」
「イステリア! 隙をみせてはいけません! これは常軌を逸した存在! 手負いといえども、一瞬たりとも! 父上の守りを解いてはいけません!」
「姉様!」
「アルテミス!」
「出ていけ! 忌まわしい魂よ! その誇り高き魂と身体は、あなた如きが汚していいものではない!」
「今すぐに出ていきなさい!」
「はあああああああ!」
「ぐっ! この死にぞこないがあ!」
アルテミスはレオンバルトの身体の中にある、怪物の核に向けて、自信の闘気による攻撃を直接叩きつける!
「ぐああああああ!」
たまらず奴の核と、それを覆っている黒い霧がレオンバルトの身体から叩き出された!
「くっ! アルテミス! 貴様ぁ!」
「どうしますか? いくら私が死にぞこないでも、それはあなたも同じ…… はっきり言って、今のあなた如き、滅ぼすのは息をすることよりも簡単ですよ」
必要以上に相手を挑発するアルテミス。
「! くく! ならば今度はその身体を乗っ取ってくれるわ!」
怪物はそう言い、今度はアルテミスの身体に突っ込む!
「ふふ。 かかりましたね!」
「何!」
アルテミスの身体に怪物の核が入った!
だがそれこそが、アルテミスの狙いだったのだ!
自身の闘気を身体の中で高め、留めることで、意思と肉体の主導権を渡さず、怪物を自身の身体に閉じ込めたのだ!
「ぐっ! 貴様何を!」
「アルテミス!」
「父上。 今まで大変お世話になりました。 娘として、もっと親孝行できればよかったのですが…… 不出来な娘であった事、どうかお許し下さい」
「姉者!」
「姉様!」
「二人共…… 今までありがとう…… 後の事はお任せします」
そう言い残すとアルテミスは天高く飛び上がった!
そして少し遅れてレオンバルトの身体が光り輝く!
解放された彼の魂が肉体の外へと出て、アルテミスを追いかける!
「レオンバルト?」
「まさか! いけない! 二人共!」
猛スピードで高度を上げていくアルテミス。
「くっ もう少し皆を巻き込まない様に高く…… ですが、間に合いそうにないですか」
「こうなれば空間を創り、そこで…… でも、もう私にそんな力は……」
「よお! アルテミス!」
「! レオン!」
「俺を置いて、どこに行こうってんだい?」
「何を馬鹿な事を! 今すぐ引き返しなさい! 死んだとはいえ魂が無事ならあなたはまだ!」
「俺の居場所はいつだって、あんたの隣だ!」
「悪いがどんなに嫌がられても、そこは譲んねえぜ」
「ま、あきらめろや!」
清々しいまでの、それでいて豪快な笑顔で返すレオンバルト。
「それに力が足りねえんだろ?」
「! 全く…… あなたという人は…… 主の命令に背いてまで、こんな事に付き合うだなんて……」
「本当に…… 馬鹿な
「ったく、最期位、素直になれよな!」
「ふふ。 余計なお世話です。 仕方ないですね…… 最期まで共に逝きましょう」
「おうよ!」
二人はそうやって笑いあうと、互いに手を取り、レオンバルトはそこからアルテミスに残り僅かな気を流す事で、渡し始めた。
「やめろ! 貴様ら! こんな事をして! 貴様らとて無事では済まんぞ! やめろおおぉぉぉ!」
唯一の心残りはあの子ですね……
「姉者~~~~~~~~!」
「姉様~~~~~~~~!」
二人の妹達の絶叫が天にこだまする。
じっと天を見上げ、涙を流す父。
そして、天界の空は一瞬、力強く、金色の光に覆われた後、その光はさっと消えたのだった。
「! この光は…… まさか!」
天を見上げる先代閻魔大王。
そして閻魔の城から離れた避難所…… その窓から天を見上げる一人の少年がいた。
「? アルテミス? レオン?」
「何だろう…… この感じ…… 何か、二人の声が聞こえた様な……」
こうして天界史上、最凶最悪の事件は幕を閉じたのであった……
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