第44話 昔話 ④
「天界に
「どういう事だ?」
アルセルシアの問いにその怪物は続ける。
「どうもこうも、そのままの意味だ。 始まりは確か…… 二〇〇年位前だったか? よく覚えていないが……」
「お前らが浄化の滝と呼んでいる代物…… 死者の転生の際、悪しき心を流す為のものだったか…… その際、空間に瘴気が漂わない様に、常に特殊な結界を張っているだろ」
「浄化結界の事ですか?」
「ああ、そんな名前だったか…… 一度洗い流されて出てきたその悪意や瘴気といった類の気を空間ごと、しばらく浄化してから次の者達が滝の中へ入っていく……」
「その際の結界の装置の操作、死者の魂達の補助は死神達が行う」
「だが、ある日、その死神は日々の疲労が溜まっていたのか…… それは、ほんの僅かな気のゆるみ、装置の操作に不備を起こし、結界の強度が僅かばかりだが弱まったのだ」
「その隙を逃さなかった、その悪意は結界の外への脱出に成功…… その後、その死神に取りつく事によって、隙を見て、周りに感ずかれない様に、少しずつだが浄化の滝の作業時に加え、他の箇所で不満を持っている者達の負の感情を揺さぶり、それを糧として瘴気を喰らい続け、力を蓄えてきたのだ」
「二〇〇年もの間、ひっそりとな……」
「その二〇〇年分の悪の気に満ちた瘴気の集合体…… 残留思念や思念体とでも言うのかな?」
「それが私だ」
「その様な事が……」
最高神含め、女神達は絶句している。
よもやそのような存在が現れ、天界そのものに牙を向き、これ程までの事態を引き起こすことになるとは、正直思っていなかったからだ。
「最初は我も脆弱な存在ではあったが、長い年月をかけ、あらゆるところから、少しずつ瘴気を吸収し、力を蓄え、そして我の都合の良い様に、この宿主の身体も作りかえていった……」
「お前らをも凌ぐ力を得る程にな!」
「さすがにこんな脆弱な死神の身体と魂は、とうの昔に朽ちていて、我が直接表に出ているから、もはや宿主の原型もない状態だがな」
怪物は笑いながらそう告げる。
「下衆が!」
「なるほど。 あなたの正体はわかりました。 それで、何を望むのです?」
アルテミスが問う。
「新世界の創造だ」
「何ですって?」
「我は宿主と吸収した瘴気の記憶も知識として引き継ぐ事ができるのだ。 それをもとに天界の事情やお前達、上級神の事も調べた」
「『
「!」
「天界の特別な空間に存在する、この世界の全てを司る、聖なる気で満ちた神の大樹」
「数億年に一度、もしくは最高神が死んだ場合、聖なる神樹に満ちたエネルギーから、その時代の最高神が生まれる」
「最高神は世界を創造する力を持ち、娘である女神達を生む際、その力の一部を分け与えるという」
「! そこまで!」
「天界でも、ごく一部の者にしか知られていない話ですが!」
「時間はたっぷりあったからな。 あらゆる方向から調べさせてもらった。 まあ、随分時間はかかったがな」
「そしてこんな事も知っているぞ。 最高神は娘である女神達に力を分け与える際、世界創造の力を除くと他の力は著しく低下すると」
「そこの女神が戦いに加わらず、ずっと最高神のお守りをしているのはその為だろう」
「何とも情けない父親だな」
「!」
「貴様!」
「父上を愚弄するのは許さんぞ!」
父である最高神を愚弄され、怒りを
だが最高神は怪物の挑発には乗らず、冷静に問う。
「それで。 詰まるところ私の創造の力を得て、その世界の支配者にでもなりたいといったところか?」
「この私を乗っ取ることで」
「!」
「何だと!」
「神をも恐れぬ大罪者が! 恥を知りなさい!」
怪物は女神達の怒りをあざ笑うかのようにその問いに答える。
「その通りだ! 女神達の空間を操り創造する能力でもよいが、そのもとになっている世界創造の力を持っているお前の身体と能力を乗っ取り! 貴様の娘共を眷属にでもした後に! まずはこの天界を我が支配する!」
「そして新たな世界を創り直す!」
「いや、創造した世界を、この世界の次元に侵食させ、この世もあの世も一緒くたにして、悪意に満ちた者達が弱者を食らいつくす破壊と混乱! 恐怖と絶望が支配する理想郷を創りあげるのだ!」
「そして私は! その新世界の神となる!」
「愚かな!」
「世界創造だけではあきたらず、その上世界の浸食ですって!」
「おまけに我らを眷属にだと?」
「その様な事、あなたごとき、
「当然だ! お前らにも利用価値がありそうだからな。 まあ、眷属化は無理そうならここで死んでもらうだけだが」
「もういいでしょう……」
アルテミスが口を開く
「これを生んでしまったのも天界、そして人の
「それに先程から、とても聞き流す事ができない
「さらには我が父への侮辱……」
アルテミスは静かにその怒りを露にすると同時に神々しいまでの、その金色の闘気を凄まじい程に練り上げ、解放する!
「天界の…… いえ、世界の平和を守るため……」
「あなたは、今! ここで! 確実に滅します!」
世界を守る為、女神達は最凶の敵に、その刃を向ける!
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