第42話 昔話 ②

 時はさかのぼる事、今から一二〇〇年前……

 天界は歴史上類を見ない程の危機に陥っていた。

 突如現れた異形の怪物達……


 中には元々は死神であったにも関わらず、敵の瘴気に操られ、敵の駒として同胞である我々に牙を向く者も多くいた。


 助ける方法は二つ。


 一つは彼らを操っている大元の存在を滅する事。


 そしてもう一つは…… 彼らを滅するという形で魂を解放してあげる事。


 そのどちらかしかなかった……


 彼らを怪物として変異させ、使役させられている者もいれば、それらのデータや細胞を基に複製、強化型といった様に兵力を強化して『それ』は天界を侵略、そして閻魔の城付近にまで攻め入ってきていた。


 その数はおよそ一万。


 対して天界側は先頭に長けた天使を入れても二千弱。


 ただ、使役されている元死神達は身体を強化されても、自我を失っている者が多く、以前の戦闘力を発揮できない者がほとんどな上に、天界側の死神達は一騎当千の猛者達ばかり。


 数の上での圧倒的な不利な状況に何とか抗っていた。


 民間人や非戦闘員は被害が及ばぬ様に各所に大規模な結界を張って、その中に避難させていった。


 閻魔の城や、グランゼウス要塞に置かれている戦闘用車両や兵器等も、上手く併用しつつ敵の猛攻を何とか凌いでいたのだ。


 そして閻魔の城の前線……


 通常の怪物に混じって、改良強化型、一〇メートルは超えるであろう巨大な怪物が暴れまわっていた。


 その怪物は巨大な斧に変形させた右腕を大きく振りかぶって死神達に振りかざす!


 あまりの衝撃に幾人もの死神が吹き飛ばされ苦戦を強いられている。


 だがそこへ、一人の男が炎の様な赤い闘気と、闘気の周りにほとばしる黒い稲妻の様なものを纏って、もの凄いスピードで飛び込んできた!


「我が閻魔の血に眠りし裁きの力よ! その炎をもって悪しきものを喰らいつくせ!」


業火による裁きジャッジメント・インフェルノ!」


 詠唱を唱え、その男の持つ大剣から、まるで巨大な竜を彷彿とさせる、獄炎が怪物に襲い掛かりる!


その男は、あれ程苦戦を強いられていた巨大怪物を、いとも容易く、一撃のもとに粉砕してしまう。


「おお!」


「え、閻魔大王様!」


「流石は大王様!」


 颯爽さっそうと現れ、その圧倒的な力で巨大怪物を倒し、死神達の歓声を浴びているのは当時の閻魔大王であり、まだ生まれていない当代の父親でもあった。


 その姿は人間の見た目で言ったら四〇代後半、鼻の下に髭を蓄えた、金髪のダンディな感じの男性であった。


みなのもの、 大丈夫か?」


「は! 大王様のおかげです! ありがとうございます!」


「しかしここは危険です! 万が一、大王様の身に何かあれば……」


 部下である死神達が先代大王の身を案じる。


「いや、これ程までの事態。 そうも言ってはいられん」


「それに皆が死力を尽くして戦ってくれているのに、私一人だけふんぞり返っているわけにはいかないのでな」


「第一、そんな事をしたら私が妻に殺されるわ」


 冗談交じりにそう言いつつ、前線へ駆けつけてくれた先代大王。


「何、私もまだまだ若い者には負けてられんという事だ」


「大王様……」


「皆、もうひと踏ん張りだ! 力を貸してくれ!」


「大型の敵は私と零番隊が対処する! 城の霊子砲も上手く使っていけ! ただし、撃つ際には周りの状況を確認して被害が出ない様に徹しろ! 他の者達はそれ以外の敵と負傷者の救助を頼む!」


「はい!」


 先代大王の救援で一気に士気が上がる死神達!


 城に積まれている大型の霊子砲と呼ばれる大砲も上手く使いつつ、幾つかの場所で展開している大型の怪物達にも対処していった。


 敵の軍勢を押し戻していく先代大王達。


 そんな中、先代大王が閻魔の城から、更に後方に進んでいった所に位置して、そびえ立っている巨大な塔に目を向ける。


 最高神様や女神殿達は大丈夫だろうか? 


 いや、あの方達に限って、例え相手がどれ程、常軌を逸した存在であっても遅れをとることは考えづらいが……


 天界の最高権力者。 最高神と女神が住んでいる塔。


 そこの頂上で女神三姉妹は最高神を守る為、元凶である『あれ』と戦っていた……

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