第41話 昔話 ①

「少し昔話をしようか……」


 女神アルセルシアの口から、かつて天界で起こった大事件と、姉である元女神アルテミスについて語られる……


「一二〇〇年前までは姉上は我らと共に女神として最高神様にお仕えしていた……


「だが、そんなある日、事件が起きた」


「ある『邪悪な意思の集合体』が現れ、天界を破壊と混乱の渦に巻き込んだ、天界史上最大最悪の大事件が発生したのだ!」


「邪悪な意思の集合体?」


「ああ」


 ここで閻魔兄妹も口をはさむ。


「ふむ。 その話は天界の歴史の中でも特に有名な話なので我々も、というか天界の関係者のほとんどの者は恐らく伝え聞いていますね…… といってもあまり詳しくは存じ上げませんが……」


「というより、『何か意図的に肝心な所はぼかして伝えられてきた』様な不自然さを感じるけどね。 兄上もそう感じてたんじゃない?」


「ああ。 正直ね…… 伝えられている部分は要約すると、何か常軌を逸した、凄まじい災厄が突如現れ、天界を荒らしまわった。 女神様と当時の閻魔大王である私の父、そして天界中の死神達と天使達の活躍により『それ』を何とか討伐した……」


「だが、その討伐の為には大規模な数の犠牲者が出る形となった…… その中に当時の女神様も一人お亡くなりになったと伝承されているが……」


「大昔にそんな事があったんですか!」


「ああ。 だけど僕は勿論、兄上もまだ生まれてもいない時代だったから僕らの世代が直接的に知らないのは、しょうがない事なんだけど…… ただ、それだけの大事件にも関わらず……」


「そもそも『その災厄はどこから現れたのかが、今に至るまで、全く! 伝わっていない』のだよ」


「! それっておかしくないすか?」


 天界中を震撼させた挙句、女神様まで一人亡くなっている天界史上最悪の大事件……


 それ程の事が起こりながら、その根幹になている部分が曖昧になっているのは普通に考えて絶対にあり得ない。


 それこそ、どこかで情報規制でもしない限りは……


 一同は皆、女神アルセルシアのもとへ視線を送っている。


「その通り。 真相の内容が内容だけに当時の有権者の判断で情報規制をかけた。 だが今となってはそうも言ってられないのでな」


「最高神様と妹である女神イステリアを私が説得した上で君達に説明、そして協力を仰ごうとした次第だ」


「ちょっと待ってください!」


 黒崎が声をあげる。


「既に説得済みって、その言い方だと、先程大王様が『眼』で調べるよりも前に、その元女神様が今回の事件に絡んでいるって掴んでたって事ですか?」


「あくまで、信じたくはない可能性の一つとしてだがな」


「大王様達もですか?」


「…… 確証はなかった…… が、その可能性は高いとふんでいた」


「先程も言ったが、我々の調査網をここまで逃れているとなると、もはや別空間を創って潜伏している可能性の方が高いからね」


 黒崎が席を立ち、声を荒げる!


「だったら何故!もっと早くそれを公表しなかった!」


「もし、もっと早く情報を共有して! 連中のアジトが掴めていれば! 犠牲者がここまで出なかったかもしれねえだろ!」


「黒崎さん!」


「メアリー君! いい! 彼が怒るのは当然だ」


 黒崎を止めようとしたメアリーを閻魔大王が制する。 


 そしてその問いに女神が答える。


「黒崎修二。 君の言うとおりだ。 言い訳になってしまうが『それ』をこれから説明させてもらうから、とりあえず席についてはくれないか?」


 そう言われると、黒崎は再度席に座るのだった。


「黒崎修二。 いや面倒だな、黒崎でいいか」


「黒崎よ。 お前は浄化の滝を知っているか?」


 女神の問いに首をかしげる黒崎。


 浄化の滝…… なんだ、それは?


 あれ? どこかで聞いた事がある様な……


 あれは…… そうだ! 確か俺が死んで初めて霧島に会った時に軽く説明された様な気が…… 


 確か内容は……


「え~っと…… 確か死んで地獄行きになった者が転生される際に、残っている悪い心的なものを、その滝で綺麗に洗い流して、まっさらな状態になってから転生させる。 その際に使用する滝…… でしたっけ?」


 うろ覚えだった為、自信なさげに答える黒崎。


「正解だ。 転生時は記憶を消すとはいえ、邪悪な心を残したまま転生させると、次の生でも問題を起こす可能性が高いからそれを可能な限り防ぐ為の処置だ」


「といっても、いくら洗い流しても、次の生での出会いや置かれる状況、その他諸々の状況で人は良い方向にも悪い方向にも傾くから完全に悪行を予防できるわけではないがな」


「まあ、せめてスタート地点はリセットして綺麗な状況で次の生を始めてくれって事だ」


 そうそう。 霧島がそんな感じの説明をしてくれてたな。 思い出してきた。


「正確に言うと、浄化の滝で心を綺麗にして、記憶も消してその後『輪廻の環』を潜る事で次の生を始めてもらうのだが、浄化の滝の周りには『浄化結界』と呼ばれる特殊な装置で張られている結界が存在する」


「浄化結界?」


「ああ。 浄化の滝で心を清め、洗い流した悪しき心だが、洗い流した時点で大部分のそれは消滅しているが、残り香の様なものが魂から洗い落とされてもなお、空間に残り漂っている事がある」


「その残り香も、ちゃんと滅しないと浄化の滝そのものが瘴気に汚染されたり、そこで作業している死神達、次に滝に入る魂達にも悪影響を及ぼしてしまう」


「それを防ぐ為に滝の周辺には常に空間を清める専用の結界が張られているのだよ」


「じゃないと、悪の気や瘴気が漂いまくってる場所で、心を綺麗にするも何もないだろ?」


「確かに」


 なるほど。 そういうカラクリだったのか。


 よく考えられて作られているな。


「だが、これは一二〇〇年前の大戦時に『あれ』と殺り合った際に直接本人から聞いた話だが、大戦時よりも、更に前の時代……」


「その時既に、『あれの企み』は始まっていたのだよ……」



 徐々に明かされていく天界の事情と過去…… 

 

女神アルセルシアの話は続くのであった。




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