第39話 女神 アルセルシア降臨!

「私の『眼』で確認した結果、断片的ではあるが奴らの潜伏先に繋がりそうな映像が見えたよ。 あの景色は……」


「エレイン君。 地図を出してくれたまえ!」


「かしこまりました」


 エレインは閻魔大王の指示に従い天界の地図を出し、それを大王の前に広げた。


 そして大王はある場所にペンでマークをつけ、それをモニターに映した。


「…… この辺りだな」


「先程乗っ取られていたと発覚した支部の一つ…… 第四九支部から北西に進んだ…… この辺りだ!」


「その辺りは確か……」


「ああ。 以前我らが使用する武装や天界の日常品の一部の製造に役立つ原材料の一つとして、貴重な鉱石等が発掘されていた元鉱山や坑道跡があるところだね。 今では中々採取できずに随分前に閉鎖した場所だね。 立ち入り禁止区域にも指定してある」


「その廃坑道に先程の怪物達や、ガラン・ズールとイリア・セイレスが出入りしている姿が確認された」


「何だって!」


「あんな場所に!」


「…… でも妙ね」


「ええ。 確かに」


 メアリーや霧島が腑に落ちないといった様子を見せるが、その理由に黒崎も察しがついた。


 仮にも天界そのものに、でかい喧嘩をふっかけてくる組織だ…… その潜伏先がただの廃坑道跡だと?


「あんな場所に! しかし潜伏先にするにはいくらなんでも手狭すぎて不向きかとかと……」


 エレインも同様の意見だった。


 潜伏先にしてはあまりにも心許ないだろう。


「その通り。 だが見えた映像は他にもあった……」


「それは……」


「それは彼らが廃坑道の中で『空間に入口を開き、そこからさらに別の場所へ移動している』映像がね」


「! 何ですって!」


「…… そういう事か……」


「どういう事です! 大王様…… まさかとは思いますが、それは……」


エレインが小声で閻魔大王に囁く。


「流石に気付いたかい? 恐らくは『そういう事』なのだろう……」


「どうやら思っていた以上に面倒な事になっているみたいだね……」


「リーズレット。 至急その場所に偵察部隊を派遣してくれ。 但し、あくまで偵察だ。 指示があるまで待機する様に。 人選は君に任せる」


「わかったよ。 兄上」


そう言うとリーズレットは袖へ移動し、通信機を使ってメールを送信。 続けて誰かと通話をし始めた。


「皆! よく聞いてくれ! 敵の中に空間を操り、自由に出入りさせる事ができる能力者がいる! 恐らくその空間内に奴らのアジトを形成しているのだろう」


「だったら我々が、今まで奴らのアジトや動きを掴み切れなかったのにも納得がいく!」


「そして……」


 閻魔大王がそう言いかけたその時!


「そして『空間を操る』 そんな事ができるのは……」


 そう言いながら、突如空間に穴があき、そこから黒髪の女性が舞い降りた。


「! なっ!」


「! ああ。 じゃあ、よろしく頼むよ。 それじゃ」


「来ましたか」


 その出来事にエレインを含め、ほとんどの死神が驚きを隠せずにいた。


 リーズレットは通信を切り、閻魔大王と共に彼女を迎え入れる。


 その場の緊張が、これ以上ない位に一気に高まる! 


 冷静でいられているのは閻魔兄妹位だった。


 何もないところから! いや、空間に入口を作ってこの部屋に?


 何者だ! この女?


 あまりの出来事に黒崎も言葉を失うが、明らかに只者ではない雰囲気を漂わせるその姿に警戒レベルを最大まで上げて、立ち上がった!


「誰だ! あんた」


「! ちょっ! 黒崎さん!」


「ももも申し訳ありません!」


 大声を上げる黒崎に霧島が、無理やり黒崎に頭を下げさせる!


 そしてさらに強引に黒崎を、会議室を四方に囲んでいるデスクの前の空白のスペースに引っ張っていって、両膝をつかせ跪かせるひざまず


 そしていつの間にか、全ての死神も同様に両膝をついて跪いている。


 閻魔兄妹とエレインは先頭で同じく膝をついている。


 何だ! どういう事だ? この女は一体?


 何が何だかわからないといった様子の黒崎だが、ここは大人しく流れに従った。


「そんな事ができるのは、天界でも上級神と呼ばれる我ら女神か天界の統治者であられる最高神様だけだろうな」


みなの者、頭を上げよ。 楽にしてよい。 というか、そんな狭い所で、ぎゅうづめになって、かしこまられても困るんでな」


「よく来てくださいました。女神殿」


「久しぶりだね。師匠せんせい


「うむ。 ユン坊…… じゃなかった。 大王にはこないだ会ったばかりだが、お前は久しぶりだな、リーズレット」


「うん♪ 五〇年振り位かな?」


「相変わらず元気そうで何よりだ」


 笑顔で挨拶を交わす女神と呼ばれた彼女と閻魔兄妹。


「エレインも、久しぶりだな。 しばらく見ない間に大人っぽくなったじゃないか。 全く、用がなくても、たまには顔を見せにこい! 薄情な奴だな!」


「も、申し訳ありません」


「ふふ。 冗談だ。 忙しいのは知っているからな。 まあ、それでもたまには遊びにこいと言いたいのが本音だがな」


 エレインにも優しい笑みを向ける女神。


 緊張しつつ、その優しさを感じ取るエレインもどこか嬉しそうだ。


「さて、積もる話もあるのだが、まずは本題に入ろうか」


「おっと! そこの彼には自己紹介が必要かな」


 そう言って黒崎の方を見る女神。


 その後すぐ正面に向き直し、全員の前に自身の顔を向ける。


「ほとんどの者が直接会うのは初めましてか」


「上級神を務める女神が一人。 アルセルシアだ」


「少しの間、よろしく頼むよ、諸君」


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