第38話 敵の情報 ②

 霧島とメアリーが黒崎に説明の捕捉をする。


「アラン・カーレント。 あのマクエルさんの直弟子、そして治療士としては京子さんの兄弟子にもあたる人です」


「そうなのか!」


「ええ。 治療士としての腕は勿論、マクエルさんと同じで戦闘にも長けた、天使の中でも珍しい部類に入る方で、かなりの剣の使い手だったみたいよ」


「ただ彼の最も凄いところは、治療や剣の腕よりも……」


「科学力…… 開発、技術力の類といった力かな」


「その通り。 皆はある程度知っているとは思うが、黒崎君もいるし、少し彼の事を話しておこうか」


リーズレットと閻魔大王もアランと呼ばれる男の情報の詳細に入っていく。


「彼は今言った、前者の二つの分野の力も大変素晴らしかったが、それと一線をかくすレベルで、彼はその知識と技術力で天界に大いに貢献してきてくれた…… かつては零番隊にも治療士兼戦闘員として所属していて、それと同時に天界の開発部門の責任者も兼任していた位だ」


「多忙な身だったが、治療施設での勤務もできる範囲で務めてくれたよ」


「…… それ程の男が、今は行方不明でかつ天界にも牙を向いていると?」


「そこまで言い切る根拠は何なんです?」


 黒崎の質問に閻魔大王が順を追って説明する。


「先程の虫型の小型監視ロボ…… それと例の遠隔操作されていた爆薬…… よく調べてみないと何とも言えないが、それでも相当な技術力がないと製造不可能だ」


「そのどちらもが、『我々が捕捉できない程のかなりの遠距離から操作している』」


「カメラもあれ程小型でしっかり映像を送りつつ操作できるとなると、ちょっとやそっとの技術力では到底不可能だ」


「当然天界で登録されている機器ではない」


「正直、今の天界の技術レベルでも、全く同じものができるかどうかは、結構微妙な位な程のレベルだ」


「そこまでですか」


「ああ」


「あれ程のものを作れるとなれば、彼位しか思いつかないのだよ」


「彼は本職は技術者だったからね。 それも天界の生活で使われている日常生活に役立つものから通信システム、カメラ、死神達が使用している武装、天使達が使用している治療薬等、幅広いジャンルで成果を出してきた」


「間違いなく天才と呼ばれる部類の一人だ」


「だからこそ各方面で引っ張りだこだったし、各部門の高位責任者クラスが自身の後継者、または派閥に入れようと躍起になってた位だからね」


「マクエル君も彼の治療士と技術者としての双方の才能を磨き合わせれば、より、救われる魂が増えるといって目をかけてたからね」


「彼の方もマクエル君の事は慕っていたしね」


「そうなんですか」


「ああ。 だが、これはマクエル君に聞いた話なんだが……」


「彼はいわゆる危険思想の持主だったんだよ」


「危険思想?」


「ああ。 僕らもうすうす彼の中に危険な感情が入り混じっているのは、少なからず感じていたが、実際は我らの予想を遥かに超えていた」


「彼に限らず、大なり小なりこの天界に不満を持っている者は多くいる…… 残念な事にね」


「細かい事を上げれば色々あるのだが、どの問題も、根底の部分に共通しているものがある。それは……」


「地獄行きの魂達への慈悲…… と言えばいいのかな?」


「慈悲?」


「ああ。 皆も、そして黒崎君。 君も、もうある程度知っているとは思うが天界は地獄行きの魂達にも罪を償うチャンスを与えている」


「そして時間はかかるが、ちゃんと罪を償った者はその後、しかるべき手続きをふんで転生の儀を行い、また新たな生をやり直す事ができる」


「例え地獄行きの者でも、だからといって見捨てたりはしない……まあ、これが天界の考え方というわけだね」


「ただ現実的な事を言ってしまうと、ある程度魂を転生させないと、生と死、魂の輪廻の循環が悪くなり、この世とあの世の人…… に限らず、あらゆる生物の命と魂の、数を含めたバランスが上手くとれなくなってしまうんだ。 輪廻転生…… 世界はそうやってまわっているからね」


 なるほど。 地獄行きを言い渡された魂達にも、そこまで親身になってくれるのはそういう意図もあったわけか……


 納得がいったという感じの黒崎。


 閻魔大王はさらに続ける。


「天国行きの魂達はそのまま天国に住む等、選択権の自由が強い。 反面、地獄行きの魂達には選択肢は狭い。 罪を償って転生させて世界の命の循環に一役かってもらいたい…… それが天界の本音でもある」


「こういう言い方をすると天界は悪人にもチャンスを与えていると言えば聞こえはいいが言い方を変えれば彼らの魂を再利用しているとも言えるのだよ……」


「軽蔑したかな? 黒崎君?」


「まさか…… 言ってる事はわかるし、どの世界にも表と裏、建前と本質…… 別に天界のシステムに限らず、存在しますよ、そんなものは」


「一つの結果がもたらすものが、見方によっては良くも悪くも様々な捉え方ができてしまう…… 世の中の大抵のものはそうですよ」


「それが全ていいか悪いかはそれによりけりでしょうが、少なくとも今聞いた限りじゃ、天界はそこまで卑屈になる事はないと思いますよ」


「悪行を重ねた魂達に来世でやり直すチャンスを与えているってのは事実なんでしょ?」


「そこがブレてなければ、互いにwin-winの状態だ」


「むしろ魂達に感謝されて当然だと思いますよ」


「少なくとも俺は大王様に感謝していますけどね…… 最初は強引に流されたってのもありましたが、あなたの心遣いには感謝していますよ」


「あの世で解決屋なんて稀少な経験もさせてもらってますしね」


 黒崎なりに閻魔大王に気をかける黒崎。


「黒崎君……」


 閻魔大王だけでなく、妹のリーズレットもどこか嬉しそうだ。


「ふふ。 君はやっぱり面白いなあ」


「ありがとう。 黒崎君…… 君のその言葉で私も救われるよ」


「ただ、天界にはそれを良しとしない者もある程度はいる」


「それを危険なまでに強く思っている者達は、はたしてどこまでいるのかはわからないが……」


「それは何故かというと……」


「話をもどすが、さっきの敵の主力メンバー…… 彼らの過去の様な事件もあったりするのが一因だろうね……」


「! なるほど……」


「平たく言えば『何故生前悪行を働いた者達の為に!』とか『救う価値はない!』または『自分や近しい者がひどい目にあわされたのに!』、『こんな連中に来世を与えるのか!』とかね」


「そういった不満を持っている者達もいるのだよ」


「特に真面目で実直な者程、その傾向は強いのかもしれない」


「アラン・カーレントも、またその一人だ」


「彼も元々は他者に対する思いやりが強く誠実な青年だった」


「だが一時を境に段々彼は変わっていってしまった……」


「そして…… 九〇年位前の事か。 天界で一種のテロを起こしたのだ」


「テロ?」


「ああ。 幸い鎮圧には成功したが、彼を捕らえる事はできず、今に至るというわけだ」


「何が彼をそこまで変えてしまったのかはわからないが、今回の事件に深く関わっている可能性が極めて高いのは確かだ」


「故に彼も敵のメンバーであると仮定して、今回の件についてあたろうと思う!」


「そういう事だったんですね…… わかりました」


「うむ。 敵の情報については現段階では以上だ! また新たな事が判明した時点で随時共有していく! それと……」


「さっきの男の事だね」


先程一瞬だけ、リーズレットと交戦した男の事だ。


「ああ。 間違いなくあの男も敵の主力の一人だろう。 ただ私も遠目から確認したが正直見覚えがないんだよなあ。 監視カメラの類にもあの男は映ってなかったし……」


「妹よ。 君は心当たりがあるかい?」


 その問いにリーズレットは首を横に振る。


「それが全く。 基本的に強者は全てチェックしているし、あれ程の使い手なら僕が知らない筈はないんだけどなあ……」


「ふむ…… もう一度、天界の過去のデータを調べつつ、他の線でも調べてみるか」


「だね」


「この男についても詳細がわかり次第、情報を共有していくので皆よろしく頼む!」


「はっ! 了解しました!」


 皆が一同に返事をした。


「ああ、それと僕から一点付け加えるとしたら……」


「今言った通り、あの男は相当な使い手だ。 恐らく、君達司令クラスでもまともにやったら歯が立たないだろう。 彼と遭遇したら無闇に交戦せずに、僕か兄上を呼んで。 ただし、民間人が近くにいたら、命をかけて彼らの避難誘導を優先! 彼らを守る事! それが我らの務めでもある」


「司令クラスといっても、この件が解決するまで単独では行動しない事! 皆、いいね!」


「はっ!」


「それに彼は僕の獲物だ…… 彼の相手は僕が務めるよ」


 先程の交戦時と同じく狂気に満ちた目をのぞかせるリーズレット。


 戦闘狂…… 強者と戦いたい…… そういった目をしている……


 勿論弁えてはいるのだが。


「金の甲冑の様なものを纏った巨大な斧槍を使用していた大男だ。 それっぽいのを見かけたらすぐに連絡! いいね!」


「了解しました!」


「それでは続いて、僕の『眼』で確認した奴らの潜伏場所、もしくはそこに繋がるであろう場所について話していく!」

  

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