第37話 敵の情報 ①

 対策会議が始まった……


 内容は壊滅した事務所の戦力補強、戦力配布のバランス、情報整理、今後の方針等である。


 そして、今現在判明している敵の情報、先程の閻魔大王様の『眼』の能力で得られた情報等も共有していくのだった。

 


「では、まず奴ら、『真なる選別者』と名乗っている連中だが、天界中の監視カメラやシステムで徹底的に調べ上げた結果、何人かの顔が確認された! 恐らく連中の主力、幹部クラスだろう」


「他にもいるかもしれないが、まずわかっているだけの情報を共有しておく」


「エレイン君」


「はっ!」


 閻魔大王の指示に従い、モニターに映像を映し出すエレイン。


「まずはこの男、名前はガラン ズール。 知っている者もいるかもしれないな。 彼は元死神だ」


「元死神だと?」


「そういえば聞いた事があるわね。 随分昔に謎の失踪をとげた一人の死神の話を……」


 メアリーは心当たりがある様子だ。


「当時二八支部のエース格だったが百年前に失踪。 あらゆる手を使ってもその行方を辿る事ができなかったが、半年前に事務所を壊滅させた例の男と一緒に映っている姿が数日前に確認された」


 二八支部…… 半年前に惨殺事件があったあの場所…… その実行犯と、かつてそこに在籍していた男が一緒にだと。


 一体何故? それに……


 閻魔大王に質問をする黒崎。


「失踪の理由は?」


「わからない…… が……」


「が?」


「彼が失踪する少し前に、一人の天使がある事件に巻き込まれて死亡している」


「!」


「それが関係あるかは断言できないが、彼にとって大切な女性ひとだったそうだ……」


「…… ある事件っていうのは?」


「地獄行きの魂が脱走しようとして死神に怪我を負わされてね…… その後の治療を彼女が担当したんだが、隙をついて彼女が人質にとられ、再度脱走を試みた…… 救出に向かう中、既に乱心していたその暴徒に彼女は殺されたんだよ……」


 やりきれないといった表情の閻魔大王。


「そんな事が……」


「しかし、その後百年もの間、天界が行方が掴めないなんてありえるんですか?」


「はっきり言って普通はありえない。 だが黒崎君。 それについては順を追って説明させていただきたい。 まずは引き続き、連中の情報を聞いてくれ」


「わかりました」


 エレインは次の資料を映し出した。


「次にこの女だ。 名前は、イリア セイレス。 同じく元死神で、こちらも八〇年前に失踪していて行方が掴めずにいた。 暴徒化した死者の魂達や罪をしっかり償っている魂達に過度の暴力行為が発覚、さらに……」


「自身の両親をその手で殺害、 そのまま身をくらました」


「両親を……」


「ああ。 黒崎君…… その理由は君と少し被るかな」


「!」


 黒崎は生前、それも幼少時、母親を殺した父親が自身にもその殺意を向けた時、抵抗した末自身が誤って父親を殺してしまった過去がある……


 自らの過去とダブる黒崎。


「幼少時、彼女は両親から虐待を受けていた……」


「それを聞きつけた死神事務所が彼ら両親を拘束、更生施設に入れ、カウンセリング等、心的ケア等も行い、彼女についてもしっかりと心身のケアをした、いや、したつもりだった……」


「実際その後両親はしっかりと更生、彼女と一緒には暮らせなかったが、その後は真摯に仕事にも取り組んでもいった」


「ただ彼女は両親を拒んで児童施設で育ち、その後死神になりメキメキと頭角を現していった……」


「それから数年がたったある日、両親の惨殺死体が発見された日と時を同じくして、姿をくらました……」


「犯行手口と監視カメラの映像で彼女が殺害した事が判明している」


「……」


 言葉が出ない黒崎。


「黒崎君…… 思うところはあるかもしれないが、彼女はしっかりと罪を償っている魂達をさらって怪物に仕立てた…… そして多くの魂達がいる、この天界をも脅かそうとしている」


「犠牲者も多く出ている…… その事だけは忘れないでくれ……」


「…… わかっていますよ」


「黒崎さん……」


 心配そうに黒崎の様子を窺う霧島とメアリー…… 


 閻魔大王やエレインも同様の気持ちだが、今は敵の情報を伝えるのが先なのだろう。


 話を進める閻魔大王。


「それから例の半年前に二八支部を襲った男についてだが…… 天界のデータバンクを調べに調べているが…… 全く情報が掴めない。 名前はおろか、死者なのかそうでないのか、元死神といったかつて天界に在籍していた者なのかすらわからない。 全てが謎に包まれている男だ」


「ただ当時の映像とライネル司令の話によると、奴は人を殺すのに何の躊躇いもない…… それどころか楽しんでいる節すらある」


「快楽殺人者の比じゃない様なイカれた目をしていた…… との事だ」


 例の男か……


 確かに、頭のネジが何十本と外れていねえと、あんななイカれた真似は到底できねえ。


 なめた真似しやがって…… 人の命を何だと思ってやがる!


 あの男は危険だ…… けじめをつけさせ、早く捕まえねえとな……


「事務所の惨劇を見ても、まともな奴じゃない!」


「この男の情報については継続して調べていく!」


 黒崎を含め、周りの死神達も彼らにとっては弔い合戦でもある。


 必ず捕まえる!


 その意気込みが会議室中に漂っていた。


「今報告した通り、最後の男については詳細はまだわからんが前者の二名は『かつて天界に属して何らかの理由で、その後失踪して行方不明になった』という共通点がある」


「そしてまだ姿が確認できていないが、恐らく! 状況的に考えて、もう一人、今回の事件に深くかかわっている可能性が高い『かつての行方不明者』がいる!」



「その男とは……」


 次の映像がモニターに映し出される。


「アラン カーレント。 元天使だ。 それも、マクエル君の直弟子の一人で、かつては彼の後継者候補の一人とされていた程の男だ」


「彼は!」


「まさか、ここで彼の名が出てくるとは……」


 会議室が一気にざわめき始めた。


 それと同時に黒崎の胸がざわつく……


 何だ、この感覚は?


 奴の顔を見た途端……


 一体奴は何者なんだ? 


 不思議な感覚に包まれる黒崎。


 閻魔大王は黒崎の様子に気付いていたが、その上で話を続けるのだった……


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